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最終章 レースの決着
黒幕の失墜と、謎の正体
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――――
瞬間、扉が呆気なく開く。
「……えっ!?」
そして扉の先には、人の姿があった。ミオは驚くも、急に動きを止めることは、できなかった。
「うわっ!」
するとその誰かは、とっさにそのスパナを、慌てて避けた。
「あっ! ごめんなさい! まさか扉が開いて、人がいるなんて……」
「いや、僕がいきなり現れたのも、悪かったよ。でも――ビックリしたなぁ、もう」
目の前にいるのは、青い髪の少年の姿。まさか……。
「……ジョン、さん」
そこにいたのは、レースの前半戦でも活躍していた、ジョン・コバルトの姿だった。後半戦直前に行方をくらまして、それ以降レースで見かけないかと思ったら、こんな場所に現れたわけだ。
このジョンの正体は、宇宙海賊フォード・パイレーツの首領、カイル・フォード。……ではあるのだが、ミオ達四人はその事を知る由もない。
「やぁ、ミオちゃん。それにみなさんも……無事で何より」
ジョンは親しげに、彼女たちに声をかける。
「でも、どうしてジョンさんがこんな所に?」
これには少し、ジョンはこう答えた。
「実はね、僕はある人の手伝いを、レース中手伝ってたんだ。ゲルベルト重工の内部事情を暴くという、手伝いをね」
するとリオンドも、口を挟む。
「君は……そんな事をやっていたのか。だが、そんな真似を行っているものなど、このレースに……」
「――だって、それがオジサンの、探偵としての依頼――だったからさ」
するとそんな軽い口調とともに、新たな人物がジョンの横に現れた。
その姿に、ティナは思わず……。
「なっ! 結局、お前なのかよ、ジョセフさん!」
現れたのは、ゲルベルトについたはずの、ジョセフ・クレッセンだ。
「よう! 君たちにも、ずいぶんと迷惑をかけさせてしまったな」
「何だよ、てっきりゲルベルトについたのかと思ったぜ」
これにジョセフは、ちらとアインを見て。ニヤッと笑う。
「実はオジサン、以前からライバル企業であるゲルベルト重工の不正を暴いてくれと、複数の企業から依頼を受けていたのさ。
そこの坊やが勤めるスリースター・インダストリーもその一つさ」
彼は続ける。
「……だが、向こうもそれを察してか、なかなか不正の証拠を見せていなかった。
そんな時――俺は捜査を進める中、このG3レースで、裏社会の犯罪組織や武器商人に対し、超加速機構を備えた最新鋭の戦闘機を大規模にプレゼンテーションをすると知った。……そう、それこそジンジャーブレッドのブラッククラッカーさ。」
「だから、ああして優勝、させたかったんだ」
アインはようやく、納得したような様子を見せる。
「そりゃ、最新鋭戦闘機がレース機に負けるなんて、印象はよくないからな。更には銀河捜査局やどこかの海賊まで、それを嗅ぎ付ける始末でさ、せいぜいそれを上手く利用してやった。
二者の動きから色々情報も得たし、それに海賊に狙われている事につけこみ、ゲルベルト本人に対しても、内部から調べるために取り入らせてもらった。
言うなれば、スパイってやつだ。おかげで色々と知ることが出来たとも、今回の事はもちろん、これまでの不正、違法行為に繋がる知識も……な。
ちなみに監視も心配しないでいいぜ。監視員には飲み口に睡眠薬を塗り込んだビールを飲んで、グッスリさ!」
どうやら、ゲルベルトについていたのも、演技だったようだ。
「まぁ、そう言うこと。さすが……ジョセフさん、なのかな
」
カイルもといジョンは、苦笑いしながら言った。
海賊としてブラッククラッカーの技術を盗もうとしたが、それをジョセフによって妨害された。
――ま、同時に助けてもらったのも、事実だけどさ――
……最も、途中で彼の狙いを察し、後は協力関係にある。
あの時逃げたのも、演技だった。実際はまだカイルはレース会場にひそかに残り、こうして今クイーン・ギャラクシーへの潜入の手助けもしてもらっていた。
彼の仲間も、今頃はクイーン・ギャラクシーの情報室に潜入し、ブラッククラッカーの情報を手にし、情報室に残った情報を削除しているだろう。
それに……
――バックアップは惑星エクスポリスの本社に用意しているみたいだけど、そっちも既に、本物のラグナシアによる別動隊に向かわせているしね。
これで、僕の目的もちゃんと、果たせたわけだ――
カイルの目的は、新型戦闘機のデータの奪取、そして抹消であった。
――量子化次元加速ドライブ……あんな技術が兵器として使用されるのは、世のためにならないしね。
こっちの仕事もやりにくくなるし、さ――
ジョセフ、そして銀河捜査局はゲルベルトの不正を暴くことを目的にしていた。
捜査局はともかく、近い目的を持っていたジョセフとは、十二分に協力する余地があった。
ジョセフもまた、言葉を付け足した。
「このカイ……げふんげふん、ジョンとは、ある利害が一致していたからね。くくっ、おかげでこっちの仕事も、楽になったしな」
そして、彼はある事を思い出したかのような、表情を見せる。
「それに、銀河捜査局の連中にも、色々と情報をリークさせてもらったぜ。ゲルベルトの奴も、今頃は……」
――――
モニタリングルームでは、裏組織の重鎮や武器商人などと言ったオーディエンス達が、ゲルベルト重工の誇る最新鋭戦闘機――のプロトタイプとも言える、ブラッククラッカーのプレゼン映像を眺めていた。
「ほう? 基本的な各種性能も……実に素晴らしい」
オーディエンスの一人がそう、この新商品を大層気に入ったかのように、称賛する。
「ははは。ブラッククラッカーには武装はないものの、専用の大出力レーザーに、光子ミサイルなどなど。各種装備も充実していますとも。そして――」
ゲルベルトは、自信満々にこう続けた。
「何より……本機には他にはない新機構、量子化次元加速ドライブの存在もある。
ワープ航法は亜空間へと出入りする、時空の隔たりが薄い限られた場所でしか使用出来ない。が……この加速機構はワープのような制限もない、超加速による自由自在な強襲には――いかなる戦力も太刀打出来ないだろう」
ブラッククラッカーに搭載された、量子化次元加速ドライブ――それもまた、兵器としての一機構であったのだ。
ディスプレイの映像には、戦闘機のイメージ映像が映る。
ブラッククラッカーと似た機体の編隊が、宇宙空間を飛来する。
機体には各種の重武装が施され、彼方には中規模な……宇宙艦隊の姿。
……すると戦闘機による編隊全てが、銀色に発光し、次の瞬間には一気に艦隊の懐に突撃する。
一瞬に近い速度で、次々に奇襲をかける機体の数々。向こうには突然の出来事らしく、成すすべもなく撃破されていく――そんな映像だ。
オーディエンスは再び、驚嘆の声をあげる。
「これは……素晴らしい。不意の奇襲で、一方的に蹂躙する様は、まさに最高の兵器だ」
そう言ったのは、立派なスーツを着た、武器商人であった。
他のオーディエンスも、同意を示す。
これにはゲルベルトは……満足そうな笑みを、隠せずにいた。
――くくく……。全て私の思い通りだ。この戦闘機の売り上げで、わが社はより一層の発展を遂げるだろう――
彼は得意げに、更に解説を続けようとした。
「そして機体の制御も、万全である。何しろこの機体は――」
だが――。
「全員、そこを動くな!」
突如扉が開き、そこから武装した突入部隊が雪崩れ込み、部屋にいる人間に銃を向ける。
「何だこれはっ!?」
「ゲルベルトどの! これは一体……?」
オーディエンスは混乱し、どよめきを隠せないでいる。
「ぐっ! ――貴様ら、何のつもりだ! 我がクイーン・ギャラクシー勝手な真似など」
そんな中、突入部隊の間から、一人の男が現れた。
「これはこれは。エイブル武器商会の幹部に、ノワール・ギャングの首領とは、都合がいい。
お前達と、そしてゲルベルト――、諸君らの裏取引、現場を押さえさせてもらったぞ」
それは銀河捜査局の、ヘンリックであった。
「貴様は、ヘンリックか!」
忌々しげに、呻く。
「お邪魔だったかな? ……だが、こちらも仕事でな。無礼は許してもらいたい」
だがゲルベルトの、苛立ちは収まらない。
「人の正当な取引を、裏取引と称しおって――何を言うか。
こんな真似して、我々を逮捕するつもりか? だが、証拠は何もないだろう。いいか? この私にこんな真似して、貴様は銀河捜査局に、いられなくしてやるとも!」
彼は強く脅しをかける。
……が、ヘンリックは平然とした様子で、部隊員に命じる。
すると彼らはその場にいたオーディエンスを取り押さえ、、ゲルベルトも二人の部隊員に左右から取り押さえた。
「なっ! 何をするっ! 貴様らっ! ヘンリック! ただではすまさんぞ!」
「今の取引の様子は、一部始終記録させてもらった。こうして、裏組織の人間も揃っていることだ。……彼らとの繋がりがあると言うだけでも十分に、証拠だとも。
証拠が無いとは……何を今更」
そう、取引現場を押さえられ、もはや現行犯に近いゲルベルトだ。
これでも十分、身柄を拘束するに足りる。更に――
「加えて、匿名で過去の違法、犯罪行為のログなど、別件の証拠も入手してある。
ゲルベルト、ずいぶんと手間をかけさせたが、これでようやく、お前とも片が付きそうだ。
――さぁ、他の奴らとともに、案内して差し上げろ」
「……ぐうっ、私が、そんな」
もはや手の打ちようのない、状態。
ゲルベルトは沈んだ様子で項垂れ、部隊員に連れて行かれた。
「これで終わり、か。――ん?」
するとヘンリックの通信機に、連絡が入る。
相手を確認すると、クイーン・ギャラクシー号の情報室へと向かわせた、別働隊からであった。
「ああ、私だ。……何、ふむ…………」
別働隊の報告を聞き、ヘンリックは複雑な様子を見せる。
「……分かった、とにかく、ご苦労だったな。続きはまた後ほどに、よろしく頼むよ」
そう伝え、通信を終えると、ヘンリックは苦い様子を見せる。
――情報室のデータは、一部何者かに削除されたと、言うことか。恐らく、フォード・パイレーツの狙いは、それであったのか――
あの時逃げ出したと見せかけ、カイルを含めた海賊は、ひっそりと忍んでいたのだろう。
そう、ヘンリックも察したが、後の祭りだ。
――あの新型戦闘機に関する情報は、殆ど消されているそうだ。仮にブラッククラッカーそのものを抑えたとしても、解析は不可能……かもしれないな――
そして相手の、一番の目的は戦闘機のデータ、らしかった。
してやられたと言った表情で、彼は部屋中央にある、今尚稼働中の大型機械に目を移す。
――この機械も、ブラッククラッカーに関係があるのか? まぁ今は、稼働させたままも、色々と都合が悪い――
ヘンリックは部下に、こう命じた。
「後は、あの機械を止めておくように。この後調査するにしろ、動いたままでは都合が悪いからな」
部隊員は機械へと近づき、まずは電源を落とすべく調べ始める。
――――
「……と、言う事で、悪徳企業のボス、ゲルベルトは今までの悪事が明らかになり、逮捕されましたとさ。
めでたしめでたし、ってわけだね」
ジョセフは得意げに、そう説明した。
……まぁ、たしかに彼の功績は実際、大きいものである。そこは大目に見ても、バチは当たらないはずだ。
「まぁ、今までの悪事の、ツケが回ったんだろうさ。トップがああなった今、これでゲルベルト重工も終わりだな」
これにはジョンも、頷きながら言う。
「一時はどうなるかと思ったが、これで一安心だな。
だが……俺たちが無事であることを、レース中のみんなに伝えないと。でないと言いつけ通り、あのまま負けちまうしさ」
だが、ティナの言う通り、未だにレーサー達は脅迫に従い、ジンジャーブレッドに負けようとしていた。
何とかして、無事なことを伝えなければ……。
「それなら問題ないさ。向こうとの通信も可能だとも。まだレースは続いているみたいだし、今から無事を伝えれば、すぐにでも元通り再会出来るさ」
これには、ミオも安堵の表情を浮かべる。
「良かった! これならフウマもまた……。
――でも」
彼女には気がかりが、一つあった。
「ジンジャーブレッドさんは、一体どうなるのかな?
だって、あの人はゲルベルトの……」
確かに、ジンジャーブレッドはゲルベルト重工の下で、レーサーとして出場していた。
ゲルベルトがああなった今、彼もまたどうなるか……。
そう考えていた時だった。
「……それについては、私が……説明しよう」
どこからか聞こえた、かすかなしわがれた声。
声とともに姿を現したのは、車椅子に乗った、やせ衰えた老人であった。
「あなたは……」
ミオは誰か分からない様子を見せる一方、ジョセフは困惑しているようだ。
「おいおい、確かに希望通り連れ出しはしましたが、身体が弱っているのですから、あまり無理はしないで下さいよ」
「……ああ。分かって……いるとも」
老人は蚊の鳴くような声で、一声一声、発するのも精一杯の有様。彼が心配するのも無理はないが……。
「心配せずとも、こうなったのも……私の責任でもある、だから、話させてくれ」
そして老人は、ミオ達に視線を移し――こう言った。
「私の名前は、ジンデ・ブレンディー。……かつて、『ジンジャーブレッド』と、呼ばれていたレーサーだ」
瞬間、扉が呆気なく開く。
「……えっ!?」
そして扉の先には、人の姿があった。ミオは驚くも、急に動きを止めることは、できなかった。
「うわっ!」
するとその誰かは、とっさにそのスパナを、慌てて避けた。
「あっ! ごめんなさい! まさか扉が開いて、人がいるなんて……」
「いや、僕がいきなり現れたのも、悪かったよ。でも――ビックリしたなぁ、もう」
目の前にいるのは、青い髪の少年の姿。まさか……。
「……ジョン、さん」
そこにいたのは、レースの前半戦でも活躍していた、ジョン・コバルトの姿だった。後半戦直前に行方をくらまして、それ以降レースで見かけないかと思ったら、こんな場所に現れたわけだ。
このジョンの正体は、宇宙海賊フォード・パイレーツの首領、カイル・フォード。……ではあるのだが、ミオ達四人はその事を知る由もない。
「やぁ、ミオちゃん。それにみなさんも……無事で何より」
ジョンは親しげに、彼女たちに声をかける。
「でも、どうしてジョンさんがこんな所に?」
これには少し、ジョンはこう答えた。
「実はね、僕はある人の手伝いを、レース中手伝ってたんだ。ゲルベルト重工の内部事情を暴くという、手伝いをね」
するとリオンドも、口を挟む。
「君は……そんな事をやっていたのか。だが、そんな真似を行っているものなど、このレースに……」
「――だって、それがオジサンの、探偵としての依頼――だったからさ」
するとそんな軽い口調とともに、新たな人物がジョンの横に現れた。
その姿に、ティナは思わず……。
「なっ! 結局、お前なのかよ、ジョセフさん!」
現れたのは、ゲルベルトについたはずの、ジョセフ・クレッセンだ。
「よう! 君たちにも、ずいぶんと迷惑をかけさせてしまったな」
「何だよ、てっきりゲルベルトについたのかと思ったぜ」
これにジョセフは、ちらとアインを見て。ニヤッと笑う。
「実はオジサン、以前からライバル企業であるゲルベルト重工の不正を暴いてくれと、複数の企業から依頼を受けていたのさ。
そこの坊やが勤めるスリースター・インダストリーもその一つさ」
彼は続ける。
「……だが、向こうもそれを察してか、なかなか不正の証拠を見せていなかった。
そんな時――俺は捜査を進める中、このG3レースで、裏社会の犯罪組織や武器商人に対し、超加速機構を備えた最新鋭の戦闘機を大規模にプレゼンテーションをすると知った。……そう、それこそジンジャーブレッドのブラッククラッカーさ。」
「だから、ああして優勝、させたかったんだ」
アインはようやく、納得したような様子を見せる。
「そりゃ、最新鋭戦闘機がレース機に負けるなんて、印象はよくないからな。更には銀河捜査局やどこかの海賊まで、それを嗅ぎ付ける始末でさ、せいぜいそれを上手く利用してやった。
二者の動きから色々情報も得たし、それに海賊に狙われている事につけこみ、ゲルベルト本人に対しても、内部から調べるために取り入らせてもらった。
言うなれば、スパイってやつだ。おかげで色々と知ることが出来たとも、今回の事はもちろん、これまでの不正、違法行為に繋がる知識も……な。
ちなみに監視も心配しないでいいぜ。監視員には飲み口に睡眠薬を塗り込んだビールを飲んで、グッスリさ!」
どうやら、ゲルベルトについていたのも、演技だったようだ。
「まぁ、そう言うこと。さすが……ジョセフさん、なのかな
」
カイルもといジョンは、苦笑いしながら言った。
海賊としてブラッククラッカーの技術を盗もうとしたが、それをジョセフによって妨害された。
――ま、同時に助けてもらったのも、事実だけどさ――
……最も、途中で彼の狙いを察し、後は協力関係にある。
あの時逃げたのも、演技だった。実際はまだカイルはレース会場にひそかに残り、こうして今クイーン・ギャラクシーへの潜入の手助けもしてもらっていた。
彼の仲間も、今頃はクイーン・ギャラクシーの情報室に潜入し、ブラッククラッカーの情報を手にし、情報室に残った情報を削除しているだろう。
それに……
――バックアップは惑星エクスポリスの本社に用意しているみたいだけど、そっちも既に、本物のラグナシアによる別動隊に向かわせているしね。
これで、僕の目的もちゃんと、果たせたわけだ――
カイルの目的は、新型戦闘機のデータの奪取、そして抹消であった。
――量子化次元加速ドライブ……あんな技術が兵器として使用されるのは、世のためにならないしね。
こっちの仕事もやりにくくなるし、さ――
ジョセフ、そして銀河捜査局はゲルベルトの不正を暴くことを目的にしていた。
捜査局はともかく、近い目的を持っていたジョセフとは、十二分に協力する余地があった。
ジョセフもまた、言葉を付け足した。
「このカイ……げふんげふん、ジョンとは、ある利害が一致していたからね。くくっ、おかげでこっちの仕事も、楽になったしな」
そして、彼はある事を思い出したかのような、表情を見せる。
「それに、銀河捜査局の連中にも、色々と情報をリークさせてもらったぜ。ゲルベルトの奴も、今頃は……」
――――
モニタリングルームでは、裏組織の重鎮や武器商人などと言ったオーディエンス達が、ゲルベルト重工の誇る最新鋭戦闘機――のプロトタイプとも言える、ブラッククラッカーのプレゼン映像を眺めていた。
「ほう? 基本的な各種性能も……実に素晴らしい」
オーディエンスの一人がそう、この新商品を大層気に入ったかのように、称賛する。
「ははは。ブラッククラッカーには武装はないものの、専用の大出力レーザーに、光子ミサイルなどなど。各種装備も充実していますとも。そして――」
ゲルベルトは、自信満々にこう続けた。
「何より……本機には他にはない新機構、量子化次元加速ドライブの存在もある。
ワープ航法は亜空間へと出入りする、時空の隔たりが薄い限られた場所でしか使用出来ない。が……この加速機構はワープのような制限もない、超加速による自由自在な強襲には――いかなる戦力も太刀打出来ないだろう」
ブラッククラッカーに搭載された、量子化次元加速ドライブ――それもまた、兵器としての一機構であったのだ。
ディスプレイの映像には、戦闘機のイメージ映像が映る。
ブラッククラッカーと似た機体の編隊が、宇宙空間を飛来する。
機体には各種の重武装が施され、彼方には中規模な……宇宙艦隊の姿。
……すると戦闘機による編隊全てが、銀色に発光し、次の瞬間には一気に艦隊の懐に突撃する。
一瞬に近い速度で、次々に奇襲をかける機体の数々。向こうには突然の出来事らしく、成すすべもなく撃破されていく――そんな映像だ。
オーディエンスは再び、驚嘆の声をあげる。
「これは……素晴らしい。不意の奇襲で、一方的に蹂躙する様は、まさに最高の兵器だ」
そう言ったのは、立派なスーツを着た、武器商人であった。
他のオーディエンスも、同意を示す。
これにはゲルベルトは……満足そうな笑みを、隠せずにいた。
――くくく……。全て私の思い通りだ。この戦闘機の売り上げで、わが社はより一層の発展を遂げるだろう――
彼は得意げに、更に解説を続けようとした。
「そして機体の制御も、万全である。何しろこの機体は――」
だが――。
「全員、そこを動くな!」
突如扉が開き、そこから武装した突入部隊が雪崩れ込み、部屋にいる人間に銃を向ける。
「何だこれはっ!?」
「ゲルベルトどの! これは一体……?」
オーディエンスは混乱し、どよめきを隠せないでいる。
「ぐっ! ――貴様ら、何のつもりだ! 我がクイーン・ギャラクシー勝手な真似など」
そんな中、突入部隊の間から、一人の男が現れた。
「これはこれは。エイブル武器商会の幹部に、ノワール・ギャングの首領とは、都合がいい。
お前達と、そしてゲルベルト――、諸君らの裏取引、現場を押さえさせてもらったぞ」
それは銀河捜査局の、ヘンリックであった。
「貴様は、ヘンリックか!」
忌々しげに、呻く。
「お邪魔だったかな? ……だが、こちらも仕事でな。無礼は許してもらいたい」
だがゲルベルトの、苛立ちは収まらない。
「人の正当な取引を、裏取引と称しおって――何を言うか。
こんな真似して、我々を逮捕するつもりか? だが、証拠は何もないだろう。いいか? この私にこんな真似して、貴様は銀河捜査局に、いられなくしてやるとも!」
彼は強く脅しをかける。
……が、ヘンリックは平然とした様子で、部隊員に命じる。
すると彼らはその場にいたオーディエンスを取り押さえ、、ゲルベルトも二人の部隊員に左右から取り押さえた。
「なっ! 何をするっ! 貴様らっ! ヘンリック! ただではすまさんぞ!」
「今の取引の様子は、一部始終記録させてもらった。こうして、裏組織の人間も揃っていることだ。……彼らとの繋がりがあると言うだけでも十分に、証拠だとも。
証拠が無いとは……何を今更」
そう、取引現場を押さえられ、もはや現行犯に近いゲルベルトだ。
これでも十分、身柄を拘束するに足りる。更に――
「加えて、匿名で過去の違法、犯罪行為のログなど、別件の証拠も入手してある。
ゲルベルト、ずいぶんと手間をかけさせたが、これでようやく、お前とも片が付きそうだ。
――さぁ、他の奴らとともに、案内して差し上げろ」
「……ぐうっ、私が、そんな」
もはや手の打ちようのない、状態。
ゲルベルトは沈んだ様子で項垂れ、部隊員に連れて行かれた。
「これで終わり、か。――ん?」
するとヘンリックの通信機に、連絡が入る。
相手を確認すると、クイーン・ギャラクシー号の情報室へと向かわせた、別働隊からであった。
「ああ、私だ。……何、ふむ…………」
別働隊の報告を聞き、ヘンリックは複雑な様子を見せる。
「……分かった、とにかく、ご苦労だったな。続きはまた後ほどに、よろしく頼むよ」
そう伝え、通信を終えると、ヘンリックは苦い様子を見せる。
――情報室のデータは、一部何者かに削除されたと、言うことか。恐らく、フォード・パイレーツの狙いは、それであったのか――
あの時逃げ出したと見せかけ、カイルを含めた海賊は、ひっそりと忍んでいたのだろう。
そう、ヘンリックも察したが、後の祭りだ。
――あの新型戦闘機に関する情報は、殆ど消されているそうだ。仮にブラッククラッカーそのものを抑えたとしても、解析は不可能……かもしれないな――
そして相手の、一番の目的は戦闘機のデータ、らしかった。
してやられたと言った表情で、彼は部屋中央にある、今尚稼働中の大型機械に目を移す。
――この機械も、ブラッククラッカーに関係があるのか? まぁ今は、稼働させたままも、色々と都合が悪い――
ヘンリックは部下に、こう命じた。
「後は、あの機械を止めておくように。この後調査するにしろ、動いたままでは都合が悪いからな」
部隊員は機械へと近づき、まずは電源を落とすべく調べ始める。
――――
「……と、言う事で、悪徳企業のボス、ゲルベルトは今までの悪事が明らかになり、逮捕されましたとさ。
めでたしめでたし、ってわけだね」
ジョセフは得意げに、そう説明した。
……まぁ、たしかに彼の功績は実際、大きいものである。そこは大目に見ても、バチは当たらないはずだ。
「まぁ、今までの悪事の、ツケが回ったんだろうさ。トップがああなった今、これでゲルベルト重工も終わりだな」
これにはジョンも、頷きながら言う。
「一時はどうなるかと思ったが、これで一安心だな。
だが……俺たちが無事であることを、レース中のみんなに伝えないと。でないと言いつけ通り、あのまま負けちまうしさ」
だが、ティナの言う通り、未だにレーサー達は脅迫に従い、ジンジャーブレッドに負けようとしていた。
何とかして、無事なことを伝えなければ……。
「それなら問題ないさ。向こうとの通信も可能だとも。まだレースは続いているみたいだし、今から無事を伝えれば、すぐにでも元通り再会出来るさ」
これには、ミオも安堵の表情を浮かべる。
「良かった! これならフウマもまた……。
――でも」
彼女には気がかりが、一つあった。
「ジンジャーブレッドさんは、一体どうなるのかな?
だって、あの人はゲルベルトの……」
確かに、ジンジャーブレッドはゲルベルト重工の下で、レーサーとして出場していた。
ゲルベルトがああなった今、彼もまたどうなるか……。
そう考えていた時だった。
「……それについては、私が……説明しよう」
どこからか聞こえた、かすかなしわがれた声。
声とともに姿を現したのは、車椅子に乗った、やせ衰えた老人であった。
「あなたは……」
ミオは誰か分からない様子を見せる一方、ジョセフは困惑しているようだ。
「おいおい、確かに希望通り連れ出しはしましたが、身体が弱っているのですから、あまり無理はしないで下さいよ」
「……ああ。分かって……いるとも」
老人は蚊の鳴くような声で、一声一声、発するのも精一杯の有様。彼が心配するのも無理はないが……。
「心配せずとも、こうなったのも……私の責任でもある、だから、話させてくれ」
そして老人は、ミオ達に視線を移し――こう言った。
「私の名前は、ジンデ・ブレンディー。……かつて、『ジンジャーブレッド』と、呼ばれていたレーサーだ」
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