テイルウィンド

双子烏丸

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最終章 レースの決着

―真相

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 ――――

 モニタリングルームでは、部隊員が機械の調査をしていた。
「後は、左下部のスイッチを押せば……電源を切ることが出来ます」
 彼らは今、機械の電源を落とすべく、行動していた。
 ヘンリックはその報告を聞いて、頷く。
「ああ。では、電源を切ってくれ」
「はっ!」


 部隊員はスイッチを押した。
 途端、表示される映像が消えて行き、稼働音も小さくなって行く。
 次第に回路が停止して行き、そして、最後の一画面が消え、機械は完全に停止した。



 ――――
 モニタリングルームの機械停止により、ブラッククラッカーの自動操縦のシステムも、また止まった。
 サファイア上空を飛行していた機体も、糸が切れたかのようにグラリと姿勢を崩し、バーニアも停止した。
 ふらりと先端が下がったかと思うと、そのまま海に向かって、落ちて行く。
 ……大海原で、下に下へと――そして海に、飛沫を上げて不時着した、ブラッククラッカーだった。



 ――ジンジャーブレッド、さん!?――
 その様子は、後方を飛行するテイルウィンドのモニターでも、見えていた。
 いきなり落下し、不磁着した様子を見て、わけがわからなかった。
 ――今度は、一体どうしたのさ――


 そう困惑していた時、何を思ったのかすぐ後ろのホワイトムーンが、高度を下げてブラッククラッカーのもとへと向かう。
「……シロノ? 一体、どうするつもり?」
 フウマの質問に、こう答えるシロノ。
〈決まっています。ジンジャーブレッドさんの、様子を見に、です。
 突然ああなって、心配になりますから〉
 確かに、あの状態なら心配になるのも、無理はない。
 だが、フウマはこれに……動揺を見せた。
「シロノ……それは……」
〈どうかしましたか、フウマ?〉
 フウマは何かを気がかりにしているらしいが、シロノには、それがどうしてなのか、理解する余地がない。


〈何を考えているか分かりませんが、とにかく今は、必要なら助けに行きたい、ですから。
 フウマだって、気持ちは同じでしょう?〉
「それは、そうだけど……」
 困惑し、煮え切らない様子のフウマ。
 だがシロノがそう決めた以上、仕方ない。フウマは覚悟を決めたように……
「……分かった。なら、僕も一緒に行くよ」
 そう言うと、彼もまたテイルウィンドを降下させ、ブラッククラッカー付近の海面へと着水しようとする。


 
 ――――
 
 着水した、ホワイトムーンとテイルウィンド。
 二機は沈黙するブラッククラッカーの横につけ、外へのハッチを開く。
「……よっと!」
 フウマはテイルウィンドから、ホワイトムーンへと飛び移る。そしてシロノもまた、ブラッククラッカーのハッチの前に立っており……。
「ようやくつきましたね。では、これから中に入って様子も……」
 シロノがそう言うのに対し、フウマは未だ困惑を見せる。
「――やっぱりさ、僕一人で見に行くのって、駄目かな。シロノは外で、待っていてもらってさ」
「何を言っていますか。ここまで来た以上、私だって」
「でも、このハッチはどうやって、開けるわけ? 他人が開けられるような、ものだってないだろ?」
 確かに普通なら、人が勝手に開けられるものではない。が――。
 

「心配しなくても、同じくレーサー機であるなら、大丈夫なはずですよ。
 確か、この辺り……でしたっけ」
 シロノはブラッククラッカーのハッチ付近のパネルに手を伸ばすと、そのハッチを開いた。
 内部には0から9までのスイッチのついた入力装置と、そして赤いレバーが一つある。
「この非常開閉装置は、普段は各自でパスワードが設定されているのですが、不時着などの事故が起こった時には、こうして0を七回入力した後にレバーを引けば――」
 そう彼は、入力装置を操作した後、レバーを引いた。
 すると横のハッチが、横に開いた。
「よし、開いたね。じゃあ中に……」
「それでは早速、入りましょうか」
 が、フウマよりも先に、シロノがブラッククラッカーの中へと入って行った。
「あっ、ちょっ! 待ってよシロノ!」
 これに慌てたフウマも、彼の後に続く。


 ――――
 
 入り口から外の光が差し込むものの、中はやはり薄暗い。
 シロノは見慣れないコックピットの様相に、目を丸くする。
「……コックピットは、こうなっているのですね。中央の大機械、あそこにジンジャーブレッドが」
 部屋の中央には、人と機械を繋ぐ大機械が操縦席を覆うかのように、取り囲んでいる。
 操縦の最中は、パイロットの全体を包むのだろうが、今は解除されており、展開が解除された隙間からジンジャーブレッドの姿が見える。
「ジンジャーブレッドさん! 大丈夫ですか!?」
 目を閉じ、意識のない様子でぐったりと倒れていた、ジンジャーブレッド。
「待った、今は近づかないで、様子を確認するだけで……」
「何を行っているのですか! ああも倒れていて、見ているだけはないでしょう。せめてちゃんと、直接調べなければ」


 シロノはフウマの言葉を聞かず、ジンジャーブレッドに近づき、抱き起こそうとした。
「無事ですか! 意識があるなら、どうか返事を――」
 左手で背中を、そして右手で首元を支えて起こそうとするシロノ、だったが――――


 ベリッ!!


 途端、何かが裂け、破れる音がした。
「なっ! ……これは!?」
 首元を起こそうとした、シロノの右手にあったのは…………『ジンジャーブレッドの顔の皮』、であった。
 いや、正しくは彼の顔を模した、作り物の外皮。シロノはそれを目の前に、唖然と驚愕の混じった表情を見せる。
 ――こんなの、どう言うことですか!? ジンジャーブレッドは――
 

 再び、シロノはコックピットに目を向ける。
 ジンジャーブレッドと思っていた何者か、その正体は――自分と同い年くらいの、茶髪の青年だった。
 年齢は離れ、別人であるとしか考えられない。だが、その顔つきには、ジンジャーブレッドの面影が、強くあった。
 ――どうして、これは一体――
 シロノは呆然として、こう呟いた。
「彼は一体……誰なのです」 



「本当は、黙っているように言われたんだけど、こうなったら仕方ない、か」
 すると背後から、返事が返って来た。
 それが誰の返事かは、考えるまでもない。
「もしかして、この事を最初から知っていたのですか――フウマ」
「僕だって、知ったのは後半戦が始まる直前だよ。でも驚くのは当然だよね」
 半ば混乱するシロノに、フウマはこう話す。
「彼は、もう一人のジンジャーブレッド。つまり……ゲルベルトがブラッククラッカーのパイロットとして生み出した、彼のクローンさ」
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