魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

文字の大きさ
14 / 56
序章 伝説のはじまりは出会いから

第12話 異世界PVP?

しおりを挟む
 シルファとラヴィーナの姿を改めて眺めたアレックスが、その痛々しい姿に唸る。

 ようやく二人の事情を知ることが出来た訳だが、逃亡者となると変に関わるのは得策ではないだろう。自分たちの状況を理解できていないこの状況で、新たな問題を抱える余裕はない。

 一先ず彼女たちの仲間を殺した訳ではないことが判明し、アレックスがホッと胸を撫でおろした。それでも、問題解決には至っていない。

「や、やはり、求心力のないわたくしではダメなのでしょうか?」

 シルファが唐突にそんなことを言って額の部分を抑えた。

「角がない……」

 何気なくポツリと呟いたアレックスの言葉に、シルファだけではなく、ラヴィーナまでもが顔を歪めた。

「も、申し訳ございません! わ、わたくしなんかが……わたくしなんかが魔人族と名乗るだなんて……」

 地面に額を擦りつけた見事なシルファのザ・土下座にアレックスは戸惑う。

(は? 何を言っているんだ? しかし、彼女たちも魔人族だったのか)

 アレックスとしては、ラヴィーナの魔人族を指さしての発言とガサラムの説明で敵対にならなかったことから、魔人族に追われている人族と考えていた。裏切られたと言われて、確信していたほどだ。

 アレックスの知っている異世界知識では、魔人族と人族は相容れないものであったが、この世界は上手く共存しているのだろうと軽く考えていたのだ。

 だがしかし、シルファたちも魔人族となると話が変わってくる。

 やはり、魔族領に転移してきてしまったと予想したのは正しかったようだと、アレックスは思考をシフトさせた。

 ただそれも、そうは問屋が卸さない。

「ええいっ、もう止めるのだ! そんなにしたら綺麗な顔に傷が付いてしまう。角がないからどうしたというのだ。魔人族ならそれらしく誇り高くあれ。堂々とするのだ!」

 ふっ、なんか俺ってかっこいいかもと、赤髪を掻き揚げたアレックスだったが、どうやらその発言がより一層混乱を極めることになった。

「な、なんと! やはり、素晴らしいですわ」

 ガバっと顔を上げたシルファの瞳がキラキラと輝いていた。何とも変わり身の早いことだろうか。

「さらに、至高の御方がわたくしの名を存じていたことには、恐悦至極でございます」

「え、あー、それは……」

 ただ単にアイコンを見ただけなんだけどなー、とアレックスが今でもはっきりと見えるシルファの頭上を見ながら、頬をぽりぽりとかく。

しかながら、その名が失われようとしているのでございます。そのためにご降臨なさったことも承知しております。いにしえの誓いを守るべく、このわたくし、シルファ・イフィゲニアは、身命を賭してお仕えしとう存じます」

 話についていけていないアレックスを置き去りにしたまま、尚もシルファが話を進める。

「それに見合うかどうかは、例によって試練でお確かめになっていただければ、と!」

 その表情には先ほどの儚げな少女の姿はなかった。全てを言い切り満足でもしたのか、今では口を引き結び、凛とした眼差しをアレックスへと向けている。

 だから、さっきからこの子は何を言ってんだよ!
 至高の御方! 降臨! 古の誓い!
 はぁー! そんなもんは知らん!

 などと、アレックスの心中は荒れに荒れていた。

「仕えるだと? しかも、身命を賭して………その言葉に二言はないのだな?」

「はい、魔皇帝マグナ・イフィゲニアの直系たるシルファ・イフィゲニアに二言はございません!」

 どこの時代の武士だよ! いや、騎士か? と突っ込みを入れたい気持ちを堪えながらも、それは適当に煽った結果だった。

 結果、アレックスの考えとは全く違う方向へと話が進み、引くに引けないところまできてしまった。それでも、皇帝を演じ切るしかないかと諦めるアレックス。

「うむ、その心意気や良し! それを証明してみせよ!」

 アレックスは、満足そうな表情を作ってからそう言い放った。

 試練がなんのことかさっぱりわからんが、こう言っておけば何かわかるだろう。

 適当に言って促せば、その試練の正体がわかると思ったアレックスのその考えは、成功した。

 が、

 失敗でもあった。

「それでは、恐れながらもこの機会に感謝し、宜しくお願いいたしますわ……」

 すくっと立ち上がったシルファが、アレックスから視線を切ることなく腰をかがめた姿勢のままスリ足で下がっていく。それに合わせてラヴィーナもアレックスたちから距離を取った。

「至高の御方の配下の皆様方! そのままでは危険ですので距離を取っていただけないでしょうかぁー!」

 注意喚起するように声を張ったラヴィーナの言葉を聞き、事態の重さをようやく理解したアレックスは、どっと油汗をかいた。

「え……そういうことなの?」

 今更気付いたところで後の祭りである。これからアレックスとシルファのPVPならぬ一騎打ちが始まろうとしているのは、明らかだった。

 慌てたアレックスがイザベルの肩を掴む。

「おい、イザベル!」

 こうなったらイザベルに頼んで仲裁してもらう外ない。

「我が君よ、大丈夫だと思うが、無理せんようにな」

 肩を掴んでいるアレックスの手の上に自分のそれを合せたイザベルが、満足げに頷いてからその手を外してサッと身を翻し、その場を離れていく。

「え? あっ、おい! 戦闘なら任せて良いんだろ! なぁ!」

「勝ったら褒美は今夜な」

 イザベルは、仲裁するどころかこの対戦に賛成のようだ。しかも、ご褒美と言って微笑んでいる。その内容は言い方から大体予想がつくが、アレックスもまさかとは思う。

「こ……今夜? って、な、何が、今夜な、っだ! そうじゃねーよっ!」

 アレックスは、禁止行為とされていたことをイザベルと過ごす場面を一瞬妄想したが、直ぐに我に返って怒鳴った。

 が、もう遅い。

 イザベルだけではなく、NPC傭兵たちも大分離れた位置にまで避難していた。あんなにアレックスを心配をしていたソフィアも小さく拳を作ってアレックスにウィンクを贈った。その隣に姿勢よく佇んでいるクロードは、相変わらず興味なさそうな冷たい視線をアレックスに向けて、小さく、ほんの小さく頷いただけだった。

「あんにゃろう。覚えていろよー」

 アレックスの憎しみがこもった呟きは、当然クロードに対するものだ。

 ひとしきり呪詛を唱えてからアレックスが視線をシルファへと戻すと、準備万端のようだった。

 シルファの周辺に幾多の魔法陣が出現しており、赤、青、黄、紫や白といった様々な魔法陣がそれぞれの色に輝いていた。それはアレックスにも見慣れた魔法陣であり、身体強化や魔力強化を施したことが嫌でもわかる。

「お、おいっ、まじかよ! そんだけの数の多重掛けは、そのレベルでは無理だろうが!」

 レベル一三二では実行不可能なハズの数の魔法陣を目にしたアレックスが、リバフロの常識が通用しないことに歯噛みした。

 一方、そのアレックスの表情を見たシルファが口角を上げる。

 さっきまでの怯えた幼気な少女は何処へやら。やる気満々の表情を浮かべ、アレックスとの一騎打ちに対するシルファの決意が嫌というほど伝わってきた。
 
「そ、それでは、参ります!」

「って、お前も人の話を聞け―!」

 悲痛な叫びに近いアレックスの言葉がシルファに届くことは無かった。

「インペリアルフレイム!」

「おいっ、それって、幻想級魔法じゃねーかぁぁぁー!」

 またもやシルファのレベルでは使えるはずのない魔法名を聞き、アレックスが驚愕の叫び声を上げた。

 視界を覆うほどの巨大な炎が迫り、肌を焼くような熱量を感じたアレックスは、「落ち着け、俺!」と、最善の選択をするべく心を静めるために目を瞑った。

 一番簡単なのは反射系の魔法だが、それではシルファを傷つけてしまう。
 敵ならそれで構わないが、これはアレックスが言葉の意味を理解せず、無責任にシルファを促した結果であり、彼女のせいではない。

 ただそれは、建前であり、実際の人を傷つける覚悟ができていないのが本音だったりする。

 となると……

 おもむろに上げた右手をシルファが放った暴力的な炎へとかざし、瞑っていた瞳をカッと見開き、ポツリとひとつ。

「喰らえ!」

 すると、シルファから放たれたドラゴンブレスを思わせる巨大な炎の塊が、排水口に吸い込まれる水のように渦を巻き、するりとアレックスの手の中に吸い込まれて消えた。

「なっ! 何が……」

 その結果を見たシルファの表情が驚愕に染まっていた。

 体調が万全ではないにしても、少しはダメージを与えられると考えていたのだろう。さっきまでの発言の内容から自信があるように見えた。実際、アレックスは幻想級魔法が放たれるなど想像もしておらず、正直感心していた。

 しかし、シルファから漏れ聞こえた声は、真逆であった。

「わ、わたくしは……なんて、愚かな、こと、を……」

 ダメージどころか、汚れ一つすらつけられなかったことに悔いている様子だった。そのまま、プツリと糸が切れた操り人形のように崩れ落ちたシルファが、立ち上がることはなかった。意識を失ったようだ。

 一方、アレックスはその試みが成功したことに胸を撫でおろし、盛大に息を吐きだすのだった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...