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序章 伝説のはじまりは出会いから
第13話 厨二病スキル
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一騎打ちと言えば聞こえはいいが、互いの勘違いから発展したPVPは、アレックスの圧勝に終わった。というよりも、魔力切れによってシルファが意識を失い、戦闘継続が不可能になってしまった。
その戦闘から既に数時間が経過しており、辺りはすっかり夜の帳が下りていた。城壁通路には、篝火が焚かれ、それが歩哨に立つ者たちの影を大小様々な形へと変えていた。
そのとき、アレックスは、シュテルクス卜城のマイルームにいた。執務机と対になった椅子に浅く腰を下ろし、力なく背もたれに身体を預けている。
カランッ――と、ロックグラスから心地よい音がアレックスの耳に届く。グラス半分にしか注がれていなかった酒が、氷が溶けて分離したように嵩が増していた。
気だるそうに身を起こしたアレックスが右手を伸ばす。溶けた氷で薄まり、今となっては酒と呼べないもので満たされたグラスをゆっくりと傾けつつ、バーカウンターの前に待機しているムッツリ顔のクロードへ細めた目を向ける。
「何故……どうして、あのときは止めなかったんだよ」
「それは……」
クロードが何かを口にしようとしたが、結局言葉を飲み下した。
「……おい、どうしたんだ、クロード。お前らしくもない……」
転移してから会話したクロードの性格は、頑固で真面目腐ったいけ好かない奴。それが彼に抱いたアレックスの印象だった。それ故に、そんな彼が口ごもるとは思わなかった。アレックスの言うことよりも、何かしらクロードなりの基準があり、それが何であるかはアレックスにはわかり得ない。それでも、それを徹底しようとする揺るぎない芯の強さを感じていた。
「ふっ、お前らしくない、って何だよって感じだよな……」
アレックスは、自分でそう言っておきながらも、クロードのことを何も知らないことに気付き、自嘲気味に笑った。
リバフロで過ごした現実の二年間は、ゲームの中では一二年に相当していた。
クロード、ソフィア、そしてガサラムの三人は、Sランク傭兵であるため比較的中盤になってからアレックスの傘下に加わった訳だが、彼らの感覚では八年以上時を共にしていることになっている。
つまり、アレックスが感じている以上に、彼らはアレックスに長い間仕えていることになっている。それぞれがアレックスに対して何かしらの感情を抱いていてもおかしな話でもないだろう。
「それならば――」
「何でもない。忘れてくれ……」
意を決してクロードが口を開いたが、アレックスが遮った。今更そのことを挙げても意味がないだろう。手に持ったグラスの中身を一気に飲み干し、机に打ち付ける。
グラスが空いたのを確認したクロードがウィスキーボトルを持って近寄って来た。
「いや、もう結構だ。もう、お前は下がれ」
アレックスが左手でグラスに蓋をし、出口の方へ向けて右手をヒラヒラと振った。
「これだけ経てば部屋も割り当てられているだろう。適当に第二旅団の団員を見つけて聞いてくれ」
「はっ」
ボトルを机に置き、敬礼するや否や身を翻したクロードが、颯爽と部屋から出て行く。その背中は妙に小さく、寂しそうだった。
扉が閉まるなり、アレックスが空になったグラスを両手でつかみながら重く深いため息を漏らす。
「アイツなりに、俺のことを気にかけてくれていたんだろうな……」
理由は今のところ解明できていないが、好感度パラメーターが無かったはずのNPC傭兵にもその項目が表示されていた。
問題のクロードの好感度は、ソフィア、ガサラムとジャンも揃って、「一〇〇%+五%」となっており、リバフロでは起こり得なかった上限を超えていた。
今回、数時間ではあるものの、一緒に行動していたことがパーティー扱いになっていたのかもしれない。それで好感度が上昇したと考えるならば納得できる。それでも、アレックスが覚えている限りでは、雇用当時に数度パーティー戦闘をした程度で、それ以来放置していた。
詰まる所、一〇〇%を維持していることが腑に落ちなかった。
「これも、転移によるイレギュラーというやつなのか?」
イレギュラーと言えばもう一つ――
シルファ曰く、彼女たちはこの世界の魔人族らしい。
「やはり、リバフロ基準で考えたらダメだな」
威圧スキルの効果然り、魔法やスキルの習得に必要なレベルの基準が違った。
そもそも、魔人族であるハズのあの二人は、リバフロ基準でステータスだけを考えたら、レベル二〇〇のアレックスを凌駕していた可能性があった。それでも、その考えをすぐに捨てられたのは、イザベルの威圧スキルに屈していたこともある。
「正直言って危なかったよな、あれは……」
シルファとの戦闘を思い出したアレックスが、改めて自分のステータスを確認する。
【名前】アレックス・シュテルクスト・ベヘアシャー
【種族】ハイヒューマン
【レベル】200
【体力】10,910/7,650(Z-)
【魔力】80/6,620(SSS+)
【能力】総合 Z-
体力と魔力には、リバフロの仕様で上限値が設定されており、装備品や魔法の効果で上限を増やすことは出来たが、上限を超えて回復をすることは不可能だった。
さらに、数値を大雑把に評価するランクもあり、その最高はSSS+だった。
一応、レベル上限が二五〇へ引き上げられるに伴い、Zランクが新しく実装されると聞いてはいたが、アレックスの記憶の限りではまだのはずだった。それを楽しみにして寝ようとしてログアウトできず、この世界に迷い込んでしまったのだから。
シルファ相手に使ったあの魔法は、アレックスの奥義と言っても良いほどのとっておきだった。その効果は、対象の二倍の魔力を必要とするが、あらゆる魔法を吸収してその魔力を体力に換算して回復させる。
起動ヴォイスコマンドは、「喰らえ」と、少々厨二病地味ているが、魔法士泣かせのチート合成魔法。何百通りの組み合わせを行って作成したアレックスだけのオリジナル魔法。そのレシピは、ギルドメンバーであっても教えていなかった。
「うーん、変化、無しか……」
体力と魔力の数値を確認したアレックスが、ひとしきり唸ってから天井を仰いだ。
その魔法によって上限を超えて回復した体力は、時間が経過しても減ることはなかった。そればかりか、自動回復するはずの魔力でさえも変化が無かったのだった。
その戦闘から既に数時間が経過しており、辺りはすっかり夜の帳が下りていた。城壁通路には、篝火が焚かれ、それが歩哨に立つ者たちの影を大小様々な形へと変えていた。
そのとき、アレックスは、シュテルクス卜城のマイルームにいた。執務机と対になった椅子に浅く腰を下ろし、力なく背もたれに身体を預けている。
カランッ――と、ロックグラスから心地よい音がアレックスの耳に届く。グラス半分にしか注がれていなかった酒が、氷が溶けて分離したように嵩が増していた。
気だるそうに身を起こしたアレックスが右手を伸ばす。溶けた氷で薄まり、今となっては酒と呼べないもので満たされたグラスをゆっくりと傾けつつ、バーカウンターの前に待機しているムッツリ顔のクロードへ細めた目を向ける。
「何故……どうして、あのときは止めなかったんだよ」
「それは……」
クロードが何かを口にしようとしたが、結局言葉を飲み下した。
「……おい、どうしたんだ、クロード。お前らしくもない……」
転移してから会話したクロードの性格は、頑固で真面目腐ったいけ好かない奴。それが彼に抱いたアレックスの印象だった。それ故に、そんな彼が口ごもるとは思わなかった。アレックスの言うことよりも、何かしらクロードなりの基準があり、それが何であるかはアレックスにはわかり得ない。それでも、それを徹底しようとする揺るぎない芯の強さを感じていた。
「ふっ、お前らしくない、って何だよって感じだよな……」
アレックスは、自分でそう言っておきながらも、クロードのことを何も知らないことに気付き、自嘲気味に笑った。
リバフロで過ごした現実の二年間は、ゲームの中では一二年に相当していた。
クロード、ソフィア、そしてガサラムの三人は、Sランク傭兵であるため比較的中盤になってからアレックスの傘下に加わった訳だが、彼らの感覚では八年以上時を共にしていることになっている。
つまり、アレックスが感じている以上に、彼らはアレックスに長い間仕えていることになっている。それぞれがアレックスに対して何かしらの感情を抱いていてもおかしな話でもないだろう。
「それならば――」
「何でもない。忘れてくれ……」
意を決してクロードが口を開いたが、アレックスが遮った。今更そのことを挙げても意味がないだろう。手に持ったグラスの中身を一気に飲み干し、机に打ち付ける。
グラスが空いたのを確認したクロードがウィスキーボトルを持って近寄って来た。
「いや、もう結構だ。もう、お前は下がれ」
アレックスが左手でグラスに蓋をし、出口の方へ向けて右手をヒラヒラと振った。
「これだけ経てば部屋も割り当てられているだろう。適当に第二旅団の団員を見つけて聞いてくれ」
「はっ」
ボトルを机に置き、敬礼するや否や身を翻したクロードが、颯爽と部屋から出て行く。その背中は妙に小さく、寂しそうだった。
扉が閉まるなり、アレックスが空になったグラスを両手でつかみながら重く深いため息を漏らす。
「アイツなりに、俺のことを気にかけてくれていたんだろうな……」
理由は今のところ解明できていないが、好感度パラメーターが無かったはずのNPC傭兵にもその項目が表示されていた。
問題のクロードの好感度は、ソフィア、ガサラムとジャンも揃って、「一〇〇%+五%」となっており、リバフロでは起こり得なかった上限を超えていた。
今回、数時間ではあるものの、一緒に行動していたことがパーティー扱いになっていたのかもしれない。それで好感度が上昇したと考えるならば納得できる。それでも、アレックスが覚えている限りでは、雇用当時に数度パーティー戦闘をした程度で、それ以来放置していた。
詰まる所、一〇〇%を維持していることが腑に落ちなかった。
「これも、転移によるイレギュラーというやつなのか?」
イレギュラーと言えばもう一つ――
シルファ曰く、彼女たちはこの世界の魔人族らしい。
「やはり、リバフロ基準で考えたらダメだな」
威圧スキルの効果然り、魔法やスキルの習得に必要なレベルの基準が違った。
そもそも、魔人族であるハズのあの二人は、リバフロ基準でステータスだけを考えたら、レベル二〇〇のアレックスを凌駕していた可能性があった。それでも、その考えをすぐに捨てられたのは、イザベルの威圧スキルに屈していたこともある。
「正直言って危なかったよな、あれは……」
シルファとの戦闘を思い出したアレックスが、改めて自分のステータスを確認する。
【名前】アレックス・シュテルクスト・ベヘアシャー
【種族】ハイヒューマン
【レベル】200
【体力】10,910/7,650(Z-)
【魔力】80/6,620(SSS+)
【能力】総合 Z-
体力と魔力には、リバフロの仕様で上限値が設定されており、装備品や魔法の効果で上限を増やすことは出来たが、上限を超えて回復をすることは不可能だった。
さらに、数値を大雑把に評価するランクもあり、その最高はSSS+だった。
一応、レベル上限が二五〇へ引き上げられるに伴い、Zランクが新しく実装されると聞いてはいたが、アレックスの記憶の限りではまだのはずだった。それを楽しみにして寝ようとしてログアウトできず、この世界に迷い込んでしまったのだから。
シルファ相手に使ったあの魔法は、アレックスの奥義と言っても良いほどのとっておきだった。その効果は、対象の二倍の魔力を必要とするが、あらゆる魔法を吸収してその魔力を体力に換算して回復させる。
起動ヴォイスコマンドは、「喰らえ」と、少々厨二病地味ているが、魔法士泣かせのチート合成魔法。何百通りの組み合わせを行って作成したアレックスだけのオリジナル魔法。そのレシピは、ギルドメンバーであっても教えていなかった。
「うーん、変化、無しか……」
体力と魔力の数値を確認したアレックスが、ひとしきり唸ってから天井を仰いだ。
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