魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

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序章 伝説のはじまりは出会いから

第24話 英雄の処遇

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 ジャンの着替えを待っている間、何気なく辺りを見渡していたアレックスはあることに気が付いた。

 自由行動と言ったにも拘らず、四千もの兵士たちがチラッチラッと盗み見るような視線をアレックスに向けていた。どうやら、アレックスのことが気になって仕方がないようだ。

 ああ、それもそうか、と思ったアレックスが、彼らの視界に入らないように内郭の正門を二〇メートルほど歩いて抜ける。そして、跳ね橋の鎖を掴んで水堀に落ちないように門の外側に身を隠した。

 予想は的中した。アレックスが身を隠して暫くすると、次第に雑談めいた話し声がアレックスの耳に届いた。アレックスは、ただそこに存在するだけで彼らを緊張させていたようだ。

「全く……俺はそんな大層な人間じゃないんだがな……」

 アレックスが嘆息し、眼下に広がる城下町を眺めながら独り言つ。

 内郭の正門から数百メートル手前は、急な勾配になっている。建物を設置するには適していない。代わりにあるのは、段々とした細長い魔法や弓の訓練場は少数派だ。ほとんどすべては、斜面でも設置可能な畑やリンゴなどの果実園だった。陽の光を反射するほどテカった真赤な果実。いい加減に収穫してくれと叫ぶように枝がしなっている。そこには、行軍時のみに消費する糧食生産地が広がっていた。

 ただそれも、現実となった世界では、戦争がなくても消費されてしまう。今の数だけでは十分な量を確保できないのは明らかだった。

「ふむ、森を切り開いたら。そこを開拓して畑とか耕さないとだよな」

 三〇〇メートルほどの斜面が行き着いた先は、高さが四メートルほどの壁が通せんぼしている。壁と言っても、木柵の次に設置コストが低い簡易的な石積みで、防衛には適さない。ただ単に、中郭の内側にある居住区域と区別するためだけの塀だった。

 簡易的な壁の向こう側には、中郭の南門へと続くあみだくじの網目状の道が入り組んでいる。真っすぐに伸びていないのは、防衛の観点からである。そうしなかった場合、中郭の城門を突破でもされたら、城まで敵が一直線――利便性よりも主城を守ることを優先した都市計画の名残だ。

 帝都計画の最後の方に作られた外郭から中郭までの商業施設がメインの区画は、人々の往来を想定して真っ直ぐな道が延びている。

 それはさておき、いくら城下町を一望できる高台にいるアレックスでも、裸眼で道を行くNPCもとい人々の様子を見ることは叶わなかった。

 それならと視覚強化の魔法でも使おうかと思ったアレックスだったが、思い直す。

(これから見に行くんだから、そんな無粋なことをするもんじゃないな)

 現場主義者のアレックスらしいといえばらしいが、異世界転移という異常事態に巻き込まれながらも、今を楽しむ余裕があり、アレックスの精神状態は至って安定していた。

 そんなことを考えていると、つい先程までガヤガヤと騒がしいと言えるほど雑談に興じていた兵士たちの声が、ピタリと止まった。

「ん、どうしたんだ?」

 突然の静寂をいぶかしんだアレックスが、門のところから内側を覗き込んだ。

「ああ、なるほどな……てか、どうしたんだ?」

 アレックスの視線の先には、巨体を揺らしながら歩くガサラムを先頭に、クロードとソフィアが歩いて来ていた。

 部隊は違えど、上将軍と将軍の登場に全員がその三人に対して敬礼をし、通り過ぎるのを待っているのであった。先程召喚された者の中の最高位は、大隊長止まり。千人隊長と三〇〇人隊長とでは雲泥の差がある。
 詰まる所、その他はそれより下の階級となるのだ。

 ガサラムに至っては、城壁東方旅団長だけではなく、城壁南方旅団と城壁西方旅団をもまとめた帝都防衛師団長なのだ。先にならい言い換えるならば、九千人隊長。緊張しない方が不自然だろう。

 門から歩いてきたアレックスの存在に気付いたガサラムが第一声を放つ。

「大将! どうしたんでさぁ!」

 アレックスの姿を認めるや否や、山賊顔を綻ばせてガサラムがしゃがれ声を轟かせた。

「ああ、これから城下町の様子を見に行くんでな。待っていたんだ」

 相変わらずひでー顔だな、と苦笑いしながらアレックスが答える。

 アレックスの言葉を聞くなり、何を勘違いしたのかガサラムが後ろを振り向き、

「ほらな、言ったじゃねえか」

 と、クロードとソフィアに言って、ガハハッと下品に笑い出した。

 何が、ほらな、なのかわからないアレックスが、眉根を寄せる。

「陛下、お待たせしました」

 立ち止まったガサラムを追い抜いたソフィアが跪いた。ソフィアにならうようにクロードとガサラムも膝を折る。

 どういうことだ? と首を傾げそうになったところでアレックスは気が付いた。これまでの一連の遣り取りを思い返し、ソフィアたちも城下町視察に同行するつもりであることを悟ったのだ。

(どこで聞きつけて来たのやら……いや、もう指示を出し終えたのか?)

 NPCたちの会議が終わったのだろう。そんな予想を立てながら、アレックスが提案する。

「楽にしろ。ガサラムも一緒に参るか?」

 立ち上がったガサラムが、アレックスの誘いに何やら申し訳なさそうな表情をしてから、ガシガシと頭をかいた。

「あーそうしたいのは山々なんですがね。アニエス統括と話して接収せっしゅうの手伝いをすることになったんでさ。あと、あれです。着るもんの調達もですかね」

 ガサラムのその話を聞いたアレックスが、ほーうと唸る。

 ジャンが昔に設定したタスクに縛られていたにも拘らず、ガサラムはアニエスと話したことを実行しようとしていた。

 つまり、アニエスを従者旅団統括に据えた試みは、大正解だった。

 まさか、俺の分身と言っただけで俺のタスク設定と同じ効果を生むのか、とガサラムのタスク欄を確認し、先程彼が説明した内容に近いことが記載されていたことで感心した。

「なるほど、お前たちもよくアニエスの言うことを聞くのだぞ。まあ、大丈夫だと思うが、ガサラムは同じ上将軍として、気になることがあればいつでも申してみよ」

「へえ、それはわかってますよ。他に無ければ俺は先に行きますよ。何でも部隊をちょっくら分けないといけねえんでさ」

「うむ、行って良いぞ」

 ガサラムの話に因ると、従者たちの打合せはまだ続いているようで、先程アレックスがアニエスに新しく指示した衣服を全員に支給するには、宝物庫の中身だけでは足りないことが判明したようだった。足りない分はブラックの部隊から一部を割いて新たに作成したり、ガサラムの接収部隊が衣料店などを当たることになったらしい。

 事情を知ったアレックスがシステムメニューのチャットメッセージ欄を確認すると、アニエスからのメッセージで埋め尽くされていた。

 頻繁に遣り取りするチャットメッセージは、システムメッセージと違って知設定をするとうるさい。ゲーム時代の通知設定のままで、「切り」になっていた。

 ゲームのときは、プレイヤーと遣り取りがあるためチャットウィンドウを常時表示していた。それでも、今ではそのプレイヤーが存在しておらず、非表示にしていたことで気付くのが遅れてしまった。

 アニエスからのメッセージを眺めていると、ガサラムに手伝ってもらうことになった報告と、催促をして申し訳なかった旨の文の後に、捨て置けない文言を見つけた。

『ヴァルード帝国の英雄がアレックス様に面会を求めてるみてえです』

 それを見たアレックスが、尽きることのない悩みの種に嘆息してから、

『折を見て引見いんけんすることだけを伝えろ。捕虜の尖塔からは出せないが、最上階の部屋に移動させとけ。これは最優先で済ませるように。決して気を抜くなよ』

 と、ことの重要性を伝える内容を送った。

『わっちとシーザーで行くことにしました』

『それでよい、以上』

 了解の旨の返信を確認するなり、取り合えず画面を閉じ、重いため息を吐く。

 先程まで城下町の様子を見に行くのを楽しみにしていたのが嘘であるかのように、アレックスの気分は暗くなった。

「陛下、どうなさいましたか?」

 ソフィアがアレックスの変化を心配するように覗き込んだ。

「ん? うむ、ヴァルード帝国の英雄関連だ。謁見したいと申すから、最後の仕上げで最上階に移すことにした」

「それは!」

 リバフロでは、捕虜にしたNPC勢力のNPCユニットを自駒に転換することが可能だった。ただ、それにも制限があり、時間経過だったり、金銭が必要だったりと、それぞれのユニットごとに設定がされている。

 NPCユニットの中でも一級品と言われるのがである。時々によって能力にバラツキがあるが、平均してレベル一五〇前後の能力を有している。それ故に、転換するために時間経過だけではなく、使用するのにリアルマネーが掛かる、『捕虜の尖塔の最上階』で幽閉する必要があった。

 謁見を求めてきた英雄は、アレックスがこの異世界に転移した日の戦争イベントで捕獲したばかり。睡魔に襲われていたアレックスは、戦後処理を後回しにし、取り合えず課金が必要ない区画に幽閉しただけだった。

 そして、「謁見を求める」というのは、捕獲されたユニットが寝返るか、解放を求めてくるかのターニングポイントである。先ず、捕虜にして一日しか経っておらず、相手が英雄であることから寝返ることはなく、解放要望の一択だろう。しかも、解放を却下した場合は、その場で自害してしまうという運営ねと叫びたくなる設定だった。

 が、アレックスは英雄を自駒に転換するつもりであったため、苦肉の策で最上階へ移動させることを決断したのだ。ゲームのときと同じ効果があるかは不明だが、試さないよりはましだろう。

 その、「最上階」という言葉を聞けば、ソフィアもアレックスが言わんとしていることに気付いて驚いたようだ。

「ああ、折角だし仲間は多い方が良いだろう。それに、あの英雄はお前らより

「……そ、そうですか」

 ぼそりと呟いて俯いたソフィアが気になり、アレックスが声を掛けようとしたとき。

「おっ、やっと来たな」

 着替えを済ませたジャンの姿が視界に入り、アレックスは気を取られてしまったのだった。
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