魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

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序章 伝説のはじまりは出会いから

第25話 いざ、城下町へ

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 平服に着替えて戻って来たジャンの姿を認め、アレックスは口元が緩むのを感じた。

「うむ、似合っているじゃないか」

「あ、ありがとうございます」

 アレックスの笑顔に釣られるようにジャンも照れているようだ。その笑みが広がった頬に朱がさしていた。

 アレックスへの挨拶を終えたジャンが、ソフィアとクロードにもしっかりと敬礼をして挨拶する。それに対してクロードは面倒臭そうにしながらも返礼をした。それでも、ソフィアはじいっとジャンを見つめるばかりで反応がない。

「……あの、何か?」

「あ、いやっ、なんでもない」

「そうですか、失礼しました」

 ハッとなって返礼をしたソフィアのその様子は、明らかにジャンの格好に気を取られていた感じだった。

(ふーん、ソフィアもああいうのに興味があるのか)

 アレックスがそのことを頭に置きつつそのまま城外へと歩を向けて声を掛ける。

「ほらっ、行くぞ!」

 アレックスを先頭に正門から延びる傾斜道を歩き始めたのだが、例の如くソフィアがアレックスに肩を並べるように右側に寄って来た。

「陛下、この者は何故?」

 ソフィアの問いにアレックスが彼女を見ると、不思議そうな表情をしていた。

「ん、ジャンのことか? それなら、暫く側仕えとして行動を共にさせることにしたのだ」

 それを聞いたソフィアが、破顔したジャンとは対照的な反応を見せる。

「え!」

 何故? という疑問よりも驚きが大きく、自然と口を衝いて出たのだろう。クールな印象のソフィアらしからぬ反応だった。

「なんだよ。そんなに驚くことか?」

「それなら私が!」

 アレックスに顔を寄せるように、ずいっとソフィアが近付くものだから、危なく二人はぶつかるところだった。アレックスが少し左に移動して避けてから、その意図を説明する。

「何を言っているのだ。お前もその中の一人ではないか、秘書なんだから」

「えっ……」

 アレックスの言葉を、「既にお前も側仕えだ」という意味に受け取ってくれたのだろう。ソフィアが間の抜けたような声を漏らし、まぶたを数度まばたかせた。そして、その褐色の肌がほんのりと赤らんだ気がした。

 その様子に、全くと呟いてから、アレックスが振り返ってクロードにも言ってやる。

「クーロド、お前もだぞ。執事なんだからこれからキリキリ働いてもらうからな」

「もとよりそのつもりでございます」

 にべもない返事であったが、今回ばかりはアレックスも怒る気にはなれなかった。むしろ、ニヤリと口角を上げてアレックスは笑みをこぼした。

「ああ、お前はそういう奴だったな」

「はい」

 相も変わらず眉一つ動かさず、心情が読めない表情をしているクロード。

 カッカッカッと笑ってから、アレックスは前に向き直るのだった。




 その様子をジャンは後ろから眺めていた。

 アレックスが前を歩いていたため気付かなかっただろうが、アレックスの言葉にクロードが後ろで組んでいた右手でギュッと拳を作ったのだ。

「なんだか、このお二人とは仲良くできそうです」

 と前を行く三人に聞こえないように呟いてから、ジャンは微笑むのだった。

 ジャンは、アレックスから側仕えを命じられたことに嬉しくなったものの、常にアレックスにはべっているソフィアと感情が読み辛いクロードとも関わり合いを持つことに緊張していた。

 それでも、二人の本質はアレックスのことを慕っており、その共通点を目の前で見て感じ、ジャンはその不安が少し和らぐのを感じるのだった。


――――――


 傾斜道を下り、囲っている石積みの塀とは不相応な金のようなもので装飾を施された漆黒の鉄扉の場所までやって来た。むしろ、主城へと続く場所であるため、その塀が簡易的すぎるのかもしれないが、今そんなことを言っても仕方がない。

 それよりも、アレックスは別のことが気になった。

「今更だが、このまま出て行っても大丈夫か?」

 ラフな服装のアレックスが、比翼仕立てのローブの前立てを掴んで広げて確認する。

「さすがは陛下ですね。幻想級の服装であっても、やはり心配になりますか……」

 感嘆というより、唖然とした風に答えたのは、ソフィアだった。だが、それはアレックスが求めた回答ではない。

「いや、そうじゃない。俺が素顔を晒して大丈夫かの確認だ。それより、見ただけで幻想級ってわかるものなのか。それはそれで不味いか……」

「確認ですが、陛下はお忍びのつもりでいらっしゃるのですか?」

「うむ、そうだが?」

 何、俺って変なこと言ったか? という表情を浮かべてアレックスが、ソフィアに頷いてみせた。

「それであれば、大丈夫だと思いますよ。陛下のご尊顔を拝見したことがある一般住民はいないはずです。神使様プレイヤーたち以外の貴族とですら、陛下はお会いになっておりませんから当然です」

(え、マジで!)

 今度は、アレックスが唖然とする番だった。

「あー、まあ確かにそう言われればそうか……町のNPCと話す事なんて必要なくなってたもんな……移動はもっぱら転移門だから、城下町を抜けたことがないかも。てか、NPCで貴族っていたんだっけ? 貴族の席はギルドメンバーで埋めていたはずなんだが……」

 などと、皇帝の演技も忘れてアレックスが記憶を探るようにぶつくさ呟いていると、クロードが何か黒いものを差し出してきた。

「ん、これは?」

「アニエス様より陛下が城下町の調査におもむくとお伺いしました故、宝物庫から拝借させていただきました」

 拝借って……お前は何勝手なことをしてるんだよ、とアレックスは思いながらも、クロードから手渡されたものを確認し、それは言わないことにした。

 質素な見た目にも拘わらず、彼が羽織っているシルクのローブと同じで幻想級のローブであり、隠密効果が付与されたマジックアイテムでもあった。

「ほう、考えたな」

 効果を確認したアレックスがクロードの肩に手をやり頷いた。

「フードを被らずとも視認障害の効果が見込めます。それであれば、言葉を交わすことも可能でございます」

「何だよ。今日はやけに喋るじゃないか。今後もそうしろ、な!」

 そう言ってバシバシとアレックスがクロードの肩を叩いてやると、何故か口を真一文字に引き結び、彼は押し黙ってしまった。

 扱い辛い奴だなーと思いながらもアレックスは、そのローブを羽織り、近衛兵が開けてくれた漆黒の門を通って城下町へと繰り出すのだった。


――――――


 門を出た場所はそれほどでもなかった。それでも、一〇分程歩くと段々と賑わいを見せ始めた。どの道も五、六メートルほどの幅があり、馬車がすれ違うことも可能だった。

 一面が石畳であるため歩くには疲れるが、雨の後の泥濘ぬかるみに馬車の車輪が嵌らないように考慮しているため、土が顔を出している場所は殆どないとジャンが皆に説明した。

 その道を挟むように、石や木材を組み合わせ建てられたような二階建て程度の建物が整然と建ち並び、壁面は綺麗に塗装が施され、わりと色調豊な町並みが広がっていた。

 アレックスたちが進むその道は、大通りではないが、飲食店の前に立ち客引きをする者、それを気にせずパンのようなものにかぶりつきながら仕事に向かう者、キャッキャ言いながら駆けずり回る子供たちの姿がそこにはあった。

 それはまさに、NPCではない生きた人々の人生を映し出していた。

 その様子を眺めてアレックスは、確かな変化を感じながらも、一先ずは安心した。

「ほーう、思いの外パニックにはなっていないんだな」

「帝都の住民にとっては、城門が閉じられていたとしても、ふつうに生活する分には支障がないのでございます。ほとんどすべてのことが、この帝都で事足りるとも言い換えられますね。それでも、中郭より内側への通行権がない国外や地方都市から来た人たちは、その城門付近に集まっておりまして、結構荒れているやもしれません」

 このとき既に、得意顔のジャンがアレックスたち三人に説明するという構図が当たり前のようになっていた。それも当然で、シュテルクスト城内に何年もこもりっぱなしだったソフィアとクロードが城下町の細部まで知っているハズがない。

「なるほどな。それにしてもこんなに居たのか」

「はい。ただ、あと三〇分ほど歩くと目抜き通りに出ます。そこは桁違いで陛下もきっと驚かれることかと――」

 途端、アレックスが驚きで声を上げる。

「三〇分! そんなに歩くのか?」

「え、はい。何と言っても一〇万人が住む帝都でございますよ。外郭の城門までは、二時間以上掛かりますが……って、陛下?」

 事もなげに説明するジャンの言葉を聞いたアレックスは、思わず立ち止まってしまった。高台から見渡したときにはそこまでの距離を感じなかったアレックスであったが、ジャンの話に因ると、内郭の正門から外郭の南門までは直線距離で一三キロメートルほどあるらしかった。

 それを聞いたアレックスは、ふつうに歩いて散策しながら進むのを別の機会にすることにした。そして、疑問が一つ湧く。

「なあ、ジャンよ。昨日、俺のところまで伝令に来たときはどうしたんだ? 明らかに二時間掛かってないよな? 精々一〇分、二〇分だっただろうが!」

「あ、それは速度上昇の魔法の効果で、屋根の上を駆けた訳でございます」

 思い出すように眉を上げ、適当に建物の屋根の方をジャンが指さした。

「はっ? ジャンは身体強化魔法使えないだろう! だから、俺が抱えて……あっ」

 そこまで言ってアレックスは思い違いを理解した。

「付与魔法か!」

 その問いに申し訳なさそうに頷くジャンを見たアレックスは、両手で顔を覆って項垂れるのだった。
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