魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

文字の大きさ
31 / 56
序章 伝説のはじまりは出会いから

第29話 二人の覚悟

しおりを挟む
「では、こちらからで悪いのだが、至高の御方とはどういう意味なのだ?」

 アレックスからそう問われ、ハッとしたシルファは、つい緩めてしまった意識から舞い戻った。

(そ、そうでした。つい、気安く接してくださるから気が緩んでしまいましたわ。ああ、わたくしはなんて愚かなんでしょう。しっかりしなさい、シルファ!)

 心の中で自分を叱咤激励し、シルファがゆっくりと語り出す。

「――と、言う訳でございます。それだけを信じ、わたくしとラヴィーナは二人でこの地を目指し、こうして貴方様に出会うことが叶いました」

 最後までシルファの話を遮ることなく聞いてから、アレックスがポツリと呟いた。

「つまりは、力を貸してほしいと?」

 アレックスの言葉にシルファがびくりと肩を震わせる。

「そ、それは……」

 力を貸してほしいです――そう言いたかった。それでも、シルファは言い淀む。

 伝承では、『力を証明し、身を捧げることで神の力を得る』とされていた。それ故に、シルファは力を証明しようと全力で挑んだ。シルファが行使した、『インペリアルフレイム』は、猛炎の魔皇帝の異名を誇るイフィゲニア家が代々受け継いできた必殺魔法。

 伝説を信じ、いつかイフィゲニア王国が再び帝国と呼ばれる日を夢見ていたシルファは、それを体得するために厳しい訓練を自分へと課し、やっとの思いで自分のものにした。その必殺魔法で挑んだにも拘らず、アレックスに傷一つ付けられず、呼び出しが掛かったことで期待をすれども、思い違いだった。

(わたくしは……本当にダメですね……)

 シルファは、すっかり自信を喪失していた。

 すると、頭上にやさしい感触を感じてシルファが顔を上げると、アレックスがシルファの頭を優しく撫で微笑んでいた。

「何を悩んでいるのかは知らんが、取り合えず言ってみろよ。もしかしたらもしかするかもしれんぞ。お前は、どうしたいんだ」

 アレックスの大きく温かい手の感触をその頭上に感じ、アレックスの優しい声音が耳に心地よく響く。それでも、シルファは混乱していた。

(なぜ……なぜ、そのようなことを仰るのですか!
 わたくしには資格などないのに……なぜ、なぜなんですか!
 そんな言葉を聞いたら期待してしまうではないですか!
 どうせなら、お前では足りないと、その器ではないと、はっきり仰ってくださればいいものを!)

 シルファの心は、崩壊寸前だった。

 身内に裏切られ、幼き頃から信じて来たことを最後まで信じ抜いて聖域へと至った。そして、念願の、「至高の御方」に出会えたというのに、隔絶した力を持ったその伝説にどうすることもできずに敗れてしまった。シルファは、意識を失う間際に己の愚かさを悔やみ、そして、全てを諦めていた。

 それなのに、アレックスの言葉を聞いては、諦めて捨てたはずの希望が蘇る。


――――――


 シルファは言い淀んだが、アレックスとしては、どのみちヴェルダ王国から攻撃を受けるのなら、その相手に対して容赦するつもりはない。それがシルファの敵であるならば、結果的に彼女を助けることにもなるだろう。それでも、この流れのまま助けるのではなく、シルファの口から直接聞きたい。

 助けてください! 一緒に戦ってください! と、それを聞きたいのだ。

 そうすれば、一方的な押し付けではなく、相互協力という関係を築ける、と。

 この異界の地でも最強を目指すなら、その足掛かりとしてヴェルダ王国から支配するのも悪くないだろうと考えるようになっていた。

 ただそれも、アレックスたちだけでは簡単なことではない。この世界のことをほとんど知らないのだから。

 どうせ目指すなら最強――そのような考えの元にリバフロをプレイしてきたアレックスは、未だ二日目にして異世界だろうとやることは変わらないと、決心していた。

 理由は簡単だった。かつては人格のない単なるNPCにすぎなかった彼らは、既に人格を宿している。大切な彼らを守るために必要ならばと、この地でも最強を目指す。ただ、それだけだった。 

 そこで、共通の敵を持つシルファの存在は、今後の計画に於いて無視できない。なんせ、彼女は王族なのだ。そんな彼女と懇意にすることで、ヴェルダ王国を撃退した暁には、彼女の国をよきパートナーとして取り込めるかもしれない。

 そもそも、力で無理やり支配するつもりは毛頭ない。敵対せず、協力し合える存在は大いに大歓迎である。

 独裁は支配にあらず! 恐怖による圧政は脆く儚い――
 なれど、協和を伴う支配は強固なり!

 そんな思想を持っているのが、アレックスという男だ。

 そんなことを考えながら、シルファの返事を辛抱強く待っていると。

 どうすべきなのか、どうしたいのか、わからないとでも言うように、シルファの表情が一途に悲しげとなり、その双眸そうぼうに涙が滲みはじめた。

 その表情を見たアレックスは、悲しい響きが心に伝わり、どう声を掛けるのが正解か必死に模索する。そして、アレックスが出した答えは――

「お前は何を望む、シルファよ! もう、我慢するのはよせ!」

 けしかけるように、単純に今考えていることをさらけ出せと、言い放った。

 シンプルイズベスト! それが、アレックスが出した答え。 

 アレックスのその言葉が功を奏したのか、今にも泣き出してしまいそうな表情から一転、シルファは悲壮な決意で顔を上げ、口を開いた。
 
「助けてください! 至高の御方の力をわたくしにお貸しください!」

 そう言い切ったシルファが、唇を真一文字に引き結んでじいっとアレックスを見つめた。

 その期待に応えるべくアレックスが言い放つ。

「いいだろう。そのシルファの願い。このアレックス・シュテルクスト・ベヘアシャーが全力で支援することをここに誓おう!」

 伝説の魔神らしさを演出するために、仰々しくフルネームを言い、アレックスがシルファの願いを聞き入れることを約束した。

 それを聞いたシルファは、嬉しさというよりも、緊張の糸が切れたように脱力し、アレックスの胸にそのまま倒れこむように前のめりになった。

 それをアレックスが受け止め、まるで子供をあやすようにシルファを労った。

「偉いぞ、よく頑張ったな。もう安心していいんだ。俺がいるから」

 先の約束も然り、ヴェルダ王国の戦力も知らぬままにそう断言するのは、大言壮語も甚だしい。それでも、アレックスは、自分を頼ってきた目の前の幼気な少女の願いを無下に断ることなどできなかった。

 それが例え、勘違いから生じたことであったとしても。

 アレックスの胸に顔を埋めたシルファは、その言葉を聞き、堰を切るように泣き出してしまう。アレックスの静まり返った私室に、すすり上げ泣き伏す痛ましい彼女の声だけが響く。

 それから程なくして、泣き疲れたのか、アレックスに抱かれた体勢のままシルファが眠りに落ちた。

「ふうー、ああは言ったもののどうするかね」

 後悔とはまた違う悩みのように呟いてから、アレックスがシルファの寝顔を見下ろす。

「これで魔王っていうんだからな。人は見掛けに依らないというか……」

 その魔王は、俗に言う魔を統べる王という訳ではないが、その秘めたる力は本物だった。それに、シルファの年齢を聞く限りでは、まだまだ子供だ。本人は成人していると言ったものの、アレックスからしたら全然子供だ。

 それでアノ攻撃魔法を扱えるのだから、大したものだと感心した。ただそれは、新たな問題ともなる。

 この世界の魔人族たちの社会は、国にもよるらしいが、基本的には力がものを言うようだ。八天魔王が治める大国は、特にその傾向が強いらしい。絶対的な力を持った魔王を頂点として、長年繁栄しているという。
 シルファはその八天魔王の一人の娘であり、それよりも確実に強いハズのその父である魔王は呆気なく戦死した。

 とどのつまり、最低でも彼女と同等、或いはそれ以上の魔人族が少なくとも七人は存在することになる。ほとんど間違いなく、さらに多くの魔人族がシルファよりも強いだろう。

 一度に全てを相手するほど無計画に戦争をするつもりは微塵もないが、アレックスと七人の従者が居れば何とかできそうな気もしていた。それでも、国対国という戦争で考えると、レベル固定がなくなった兵士たちの戦力強化を図る必要がある。

「まあ、シルファの国がどんな状況かわからんし、正式に魔王と言っていいのかわからんな」

 その実、シルファやラヴィーナからは、魔王であるとは聞いていない。イフィゲニア王国で第一位継承権を有していると、イザベルの報告で知っただけだ。

「となると、兵士たちのレベル上げを優先しつつ、先ずはヴェルダ王国の戦力評価を早急に済ませないとだな。シルファの国の現状調査は、ヴェルダ王国を調べていればおのずとわかることだろうし。明日にでもアニエスに相談することにしよう」

 従者たちの意見を聞かずにアレックスの独断でシルファのことを助けると約束をしてしまったが、どのみちついでだしな、とアレックスは割り切ることにした。

「うーん、しかし困ったな」

 アレックスの腕の中には、気持ちよさそうに寝息を立ててすやすやと眠っているシルファがいる。そんな彼女を見てどうしようかとアレックスが唸る。

「さすがに俺もベッドで寝たいし……覚悟してるとか言ってたからべつに構わんよな」

 ふつうならベッドにシルファを寝かせ、アレックスがソファーで寝ればいいだけなのだが、彼はそんな無駄なことはしない。それに、一旦シルファを下ろそうとすると、ギュッとアレックスの服を掴んで離さないのである。

 他の誰かが居ることもないのに、アレックスは独り言つ。

「ほら、こうなっては仕方ない。これは仕方なくだ、仕方なく……」

 その言い訳だけが、真夜中のしんと静まり返った部屋に虚しく響くのだった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...