魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

文字の大きさ
32 / 56
序章 伝説のはじまりは出会いから

第30話 食い違う約束

しおりを挟む
 この世界に転移し、二日目にようやく眠ることが叶ったアレックスは、まぶたの裏で光を感じて目を覚ます。瞼を開くと、東の低い位置から差し込む陽の光が窓で屈折しているのか、ピンポイントで寝室のベッドで寝ていたアレックスの瞳を容赦なく襲った。

「……ふぁー、もう朝か………………うぅーんっ」

 その自然の目覚ましに抵抗するように瞼を閉じたが、何とか伸びをしてから、ムクリと起き上る。

「うーん、やはり夢じゃないよな……」

 起き上ったことで掛布団が捲れ上がり、バスローブ姿のまま未だ眠っているシルファの姿が現れた。しかも、裸にバスローブだけなのか、乱れた各部から色々と見えそうだった。

 アレックスの忠告に、シルファが言った、『元より覚悟の前です』は、どうやら嘘ではなかったようだ。

「テンプレならここでアニエスあたりが……」

 よほどテンプレが好きなのか、寝室の扉を凝視するアレックス。

「だよな。来る訳ないか」

 頬をかいてからアレックスが再び隣ですやすやと眠るシルファを眺める。

 陽の光できらめく金髪に、目鼻立ちが整って頬がすっきりとした小顔。さらに視線を下の方へと巡らせると、少し乱れたバスローブの隙間から覗く透明感のある白い肌が美しく、まるで妖精のような美少女。

「いやぁー、しっかし本当に可愛いよな、こいつ」

 眠っている少女をまじまじと見つめ、アレックスはあほみたいなセリフを吐く。他にもっと適当な表現の仕方があるだろうに。ただそれも、本当に可愛いものを目にすると、「可愛い」としか言えなくなるのも致し方ないだろう。

 すると、アレックスの視線に危険を察知したのか、「ううーん」と可愛らしい吐息を漏らし、シルファが目を覚ました。そして、互いの碧眼がまるで吸い寄せられるようにして視線を結んだ。シルファが何度かまばたきを繰り返した後、ガバっと跳ね起きた。

 今の状況が理解できずに困惑顔をしたものの、

「お、おお、おはようございましゅ……」

 と、咄嗟にした挨拶は失敗してしまい、俯いたシルファの頬は紅潮していた。

「おはよう、シルファ。それよりも……見えてるぞ」

 アレックスが冷静に挨拶を返してから、控えめだが非常に形の良いツンとした双丘があらわになっていることを、顎をしゃくって教える。起き上がった勢いでバスローブが完全にはだけてしまっていたのだ。

「こ、これは、その……つまりは、そういうことですよね……我が、君……」

 叫ぶのかと思いきや、当のシルファは先ほどよりも赤面しつつもそんなことはせず、勝手な勘違いをしはじめる。しかも、「わーきゃー」言って両手で顔を覆ってしまった。

 どうやら、かなり興奮している様子で前を隠す気は無いようだ。

 アレックスが、眼福眼福と男にとって嬉しいハプニングに口元を緩めた。それから、間違いが起きていないことを教えるために口を開こうとしたが、それよりも気になることがあった。

「我が君? 何をイザベルみたいな言い方をしているんだ。俺はシルファの我が君ではないだろうに」

 はて? と不思議に思ってアレックスが問うと、シルファが顔を悲しそうにクシャっとさせ、

「え? で、でもわたくしの願いを聞き入れてくれたのではないのですか?」

 その今にも泣きだしてしまいそうな表情にアレックスが動揺する。

「ちょっと泣くのは待て! シルファの支援を全力でするのは間違いない。昨夜、誓った通りだ」

「で、では、なぜなのですか? も、もしかして、わたくしはそれほど良くなかったのでしょうか……」

 上目遣いをするシルファを見てアレックスは、ここで女の武器を使うのは反則だろ! と、関係ないことを思いつつ、何もしていないと反論することはなかった。行為に及んではいないことは事実だった。それでも、同じベッドで一夜を共にした事実は消えない。

「違う、そうじゃない。てか、シルファの願いと呼び方に何の関係があるんだよ。取り合えずその変な呼び方はよせ。アレックスでいい、アレックスで」

 援助をすると約束をしたものの、シルファはアレックスの部下ではない。しかも、魔人族の王族どころか、魔王かもしれないシルファから我が君と呼ばせるのは、今後の計画に於いて変な誤解を生み出しかねない。それ故に、アレックスとしては、明らかに力関係の差は大きいものの、パートナーとしての関係を築いていきたいため、名前呼びで良いことを伝えたのだった。

 一方、シルファが一瞬だけ目を見開き固まったが、すぐに目をパチクリさせてからアレックスに確認を求めた。

「そ、それは、アレックス様とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」

「ん? 違う違う。様もいらない。そのままアレックスでいい」

 まだシルファは勘違いしているな、と思ったアレックスが正確に呼び捨てで呼んでいいことを念押しした。

「そ、それは……つまり……」

 シルファが言い淀み、何やら期待に瞳を輝かせるようにアレックスを見つめた。

「ああ、その通りだ。アレックスと呼んでくれ。俺もお前のことをシルファと呼ばせてもらうが、いいか? まあ、今までも呼び捨てだったが、お互い同意と言うことで、な」

 そんな風にカラカラと笑いながら言ったアレックスに対し、シルファが喉を鳴らしてから答える。

「は、はい、全く構いません。わたくしもアレックスとお呼びします。至らない点も多々ありますが、わたくしもアレックスのために血肉を食らう覚悟です」

「おいおい、何だよ、その挨拶は。シルファたちの世界ではふつうの表現かもしれないが、血肉を食らう覚悟はいらんぞ。俺を裏切らない限り、お前の未来は明るい」

 シルファの将来を気安く保障して快活に笑ったアレックスに対し、シルファは、「はい」とだけ答えて花を咲かせた。

「それよりも……すまないが、そろそろその恰好は俺の我慢も難しい、と言うより耐えられなくなりそうだから――」

 ここまでの間、ほとんど全裸状態のシルファを相手に、よくここまで耐えたことを称賛してほしい。それでも、さすがにアレックスもムラムラしてきた。その元凶を隠すためにずり落ちていたバスローブにアレックスが手を掛けたとき。

 寝室の扉が開いた。

「失礼します、アレックス様」

 ノックもなしに扉を開けたのは、いつものダークスーツに赤縁眼鏡を掛けたソフィアだった。

「ちょ……朝食の準備が整いました……が、もう一名分追加で手配します。ではっ」

 そして、そのまま扉を閉めて出て行ってしまった。

 その閉められた扉を呆然と眺めながらアレックスが間抜けな声を出す。

「あ、あれ?」

 ベッドの上でアレックスがシルファのバスローブに手を掛けている場面を、ソフィアは確実に見ていた。場合によっては、それを脱がしてこれからことに及ぶ瞬間にも見えたかもしれない。

 アレックスとしては、遅れて発生したテンプレに、一瞬期待をした。

 しかし、何の反応もなく、と言うよりもその状況をソフィアが受け入れているようにも見えた。秘書らしいと言えば尤もなことだが、アレックスとしては、叫び声くらい上げてほしかったというのが本音だった。

 が、そんな気まずい場面に出くわしたソフィアの心境をアレックスも何となくは理解できた。彼女の中でアレックスは、神の中の神らしいのだ。神と崇める存在のその場面に遭遇してしまったのだから、できる限り波風を立てず対応したソフィアを秘書中の秘書と言って褒めてもいいかもしれない。

 考えてもソフィアの考えまでは読めないアレックスは、テンプレ失敗にため息を漏らすのだった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

処理中です...