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序章 伝説のはじまりは出会いから
第31話 シルファの告白
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「勝手に決めて悪いと思うが、シルファを助けることにした」
開口一番、これは決定事項だと言わんばかりにアレックスが言い放った。
玉座の間の壇上から、睥睨するように配下の者たちを見渡すアレックスの隣には、従者旅団統括に任命したアニエスだけではなく、彼が座す玉座を挟むようにして、その当事者であるシルファがしめやかに佇んでいた。
それは、二時間前。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆
寝室へのソフィア乱入イベントを終えたアレックスは、シルファと二人、マイルームで朝食をしながら、細かい打ち合わせをすることにした。
ちぎったパンにマーガリンをつけながらアレックスが、なぁと言った調子で軽く声を掛ける。
ただそれだけ。
「何でしょうか、アレックス」
何がそんなに楽しいのか、頬を染めながらシルファはニコニコしっぱなしだった。
「ん、いやあ、なんだ……少し、近すぎやしないか?」
ゲーム中、腰を下ろして食事をするという概念がなかった。それ故に、ダイニングテーブルがアレックスのマイルームにはなく、執務机、バーカウンターとソファー前に置いたコーヒーテーブルしか朝食を並べられるスペースがない。
昨日は、一人で食事をしたため執務机で問題なかった訳だが、今朝はシルファもいるためソファーに腰掛けている。その隣に座っているシルファとの距離がもの凄く近い。と言うよりも、アレックスの右腕にシルファがもたれるように引っ付いており、アレックスは非常に食べ辛い。
「あらっ、ごめんなさい。わたくしとしたことが」
シルファが、全く気付きませんでしたわ、とでも言いたそうに目を見開いて驚く様子を見せたが、一向に離れようとしない。
昨日までの怯え様は何だったのだろうか? とアレックスが疑問符を浮かべる。
「まあいいや。それで、非常に言い辛いんだが、シルファが女王で間違いないんだよな?」
「え、わたくしがですか?」
キョトン顔でコテンと小首を傾げるものだから、アレックスは焦る。
もしかしたら、早とちりしたかもしれない、と。
「え、だって継承権第一位と聞いたぞ。それに……」
王であるお前の親父は討ち死にしたと言っていたではないか、とまで口には出せなかった。それでも、微妙に表情に出ていたのかもしれない。
「ああ、そのことであれば、べつにアレックスが気にすることではないですのに。お優しいのですね」
気にするなと言い、シルファが勝手に勘違いをする。
「あ、いや、まあ……」
シルファが目を伏せ、その碧眼に影が映った気がしたアレックスが慰めようとした。それでも、適当な言葉が思いつかず、二の句を継げないでいるとシルファが微笑んだ。
父が死んだのは、ただ弱かっただけですから、と。
アレックスを見上げたシルファのその笑顔は強がりではなく、自然な笑みだった。父の死を悲しむよりも、今こうしてアレックスと朝食を共にしていることの方が、楽しいとでも言うような満面の笑みだった。
「おまっ!」
アレックスは絶句した。
完全に見た目に騙されていた。その妖精のような美少女の見た目に。
シルファは、アレックスが知る紛うことなき魔人族だった。
力が物言う血で血を洗うような弱肉強食の世界に生きる種族――魔人族。
リバティ・オブ・フロンティアの第三弾アップデートで、その謳い文句と共に実装された魔人族は、ユニーク種族をも超える可能性を秘めた超種族。
アレックスには、その設定と目の前のシルファが重なって見えた。
「やはり、魔大陸は、力が全てなのか?」
アレックスは、そう聞かずにはいられなかった。気安く支援をすると約束したものの、下手に深入りしすぎて抜け出せなくなる可能性をアレックスは恐れたのだった。
最強を目指すと決めていたが、殺戮劇を繰り広げる気は毛頭ない。のほほんとした朝食から一転、緊張から心臓の鼓動が聞こえてきそうだった。
カチャリ――シルファが飲んでいたコーヒーのカップが置かれただけの音に、アレックスがビクッと過剰に反応する。
ただそれも、カップを置くために前屈みになっていたシルファには気付かれずに済んだ。
「うーん、どうでしょうか? 他の種族のことは言い伝え程度でしか知りませんが、人族と獣人族の中間くらいだと思います」
姿勢を戻してアレックスを見つめるシルファの声音は、至って穏やかだった。
「中間?」
「はい、階級社会ではありますが、基準はやはり強さです。それでも、強いからと言って好き放題できる訳ではありません。あくまでイフィゲニア王国の話に限定すると、決闘以外での殺人は罪に問われます」
つまりは、足して二で割った感じだろうか。
「ただ、他の国で共通して言えるのは、弱い王室は滅亡する運命にあります。それは、わたくしの一族、イフィゲニア王家もその例に漏れないでしょう」
父が亡くなったのは当然悲しいですが、わたくしは疎遠でしたので、自分でもよくわからないのです、と自嘲気味に笑っていた。
アレックスは、それを聞いてようやく止めていた呼吸を再開させた。肉親の死に鈍感なのではなく、反応するほど感情を通わせていなかっただけなのだ、と。
となると、シルファが言った共通事項とやらが気になった。
「つまりは、お前の国はもうないのか?」
そう言われた訳ではなかったが、シルファの言い方からそう受け取った。国がないなら何を望むのか、と。ヴェルダ王国に復讐するだけなら、それに協力するのはやぶさかではない。むしろ、状況的にヴェルダ王国を打倒するつもりでいる。それでも、シルファと協力することで魔大陸進出の足掛かりと考えていたアレックスにとって、シルファがどの立ち位置にいるかによって対応の方法を変えなければならない。
「いえ、そんなことはないですよ? あくまで、わたくし個人の考えではありますが、わたくしを主と認め、慕ってついて来てくれる者がいる限り、王家としてその者を守るつもりでおります。守るべき民がいるのならば、わたくしはイフィゲニア王家としてその使命を果たします」
シルファは堂々とした態度でそう言い切った。
「ほーう、それはラヴィーナのことを言っているのか?」
「はいっ!」
その嬉しそうに笑うシルファの無邪気な笑顔を見てしまうと、アレックスとしてもどうにかしてやりたくなる。シルファの冷徹さに触れ、怖気づいたアレックスであったが、それは誤解だった。
「彼女は、わたくしが唯一信頼できる親友なんです」
ラヴィーナのことがよっぽど好きなのか、聞いてもいないのに嬉々として親友のことを楽しそうに話す、年相応の少女がそこにはいた。
シルファが五歳になったとき、専属従者が与えられた。それが、ラヴィーナだったと。
それ以来何をするにも一緒で、両親よりも、兄弟よりも多くの時間を共有してきたと。
魔神伝説の話は、あまりにも有名でむしろ空想に近く、イフィゲニア王国もその魔神を崇めて聖域を守ってきたが、あくまで形式的だった。それでも、シルファはそれを信じた。そして、ラヴィーナと共に魔神に会えるだけの力を得ようと必死に訓練を行ったらしい。
どんな訓練を行ったのかまでの説明はなかったが、結局のところ、シルファは厳しい訓練を経て、幻想級魔法――インペリアルフレイムを体得するまでに至ったようだ。
「ただそれが、わたくしたちの運命を変えてしまいました」
先ほどまでの楽しそうな笑顔から一転、シルファの表情が曇った。
シルファは、五人兄弟で、兄が三人、姉が一人。その中でも一番魔力量が少なく、一番能力が低かったシルファは、王家の恥として小さいころから疎まれていたと、アレックスに告白した。
シルファ曰く、その幻想級魔法は、イフィゲニア王家の秘奥義魔法。代々王となるものが継承してき魔法であり、それを行使できなければ継承権が発生しない。八天魔王であり続けるだけの国力を保つためには、強者の血を残すことが優先され、王位継承の方法がそれに落ち着いたらしい。
それを聞いたアレックスは、力が物言う世界に生きる種族と言う点では、リバフロの魔人族の設定と似ていると感じた。
その当時、シルファは一二歳。魔人族の寿命は、平和に暮らせば、余裕で数百年を生きるらしいのだ。そう考えると、シルファは幼すぎた。我こそが次代の王となるのだと考えていた他のどの兄弟よりも、シルファが一番早くその秘奥義魔法を習得した。それも、誰しもが無能だと思っていた一番末のシルファに先を越されれば、他の兄弟が機嫌を損ねるのは当然のことだろう。
「食事に毒を盛られたり、刺客を送り込まれたりと、それは日常茶飯事でした。ただ、それさえも今思えば、良い思い出でかもしれませんね」
そんな風に楽しそうに話すシルファの姿に、アレックスはさっき誤解だと思ったことを撤回したいと思った。
(兄弟同士で殺し合いしてんじゃんか! 毒? 刺客? なんでそんな平気で笑ってんだよ!)
アレックスは、頬が痙攣しそうなほどドン引きしていた。
「よ、よくそれでお前は生き残れたな……」
「わたしくしたち魔人族は、毒くらいで簡単に死にませんから。ほんの嫌がらせなんですよ。それに、刺客は丁度良い訓練相手を務めてくれました」
うふふと笑うシルファに対し、アレックスは苦笑いするしかなかった。
「継承権は確かにわたくしが一位ですが、戴冠の儀を執り行われなければ即位はできないのです。つまりは、正式に王とは名乗れません」
いつの間にか、シルファがアレックスの問いに答えるようなことを語り出す。
「わたくしは、継承権を持っていることから逃げ出す外なかったのです」
「それはなぜだ? ふつうなら、お前を女王にして、敵対勢力に攻勢を掛けるために担ぎ上げそうな気もするがな。象徴がいないのでは、兵士の士気が上がる訳もないし」
アレックスが言ったことは、あくまでふつうのことだった。
「わたくしもそう思います、ふつうなら……どうやら、わたくしはふつうではないようです……」
シルファがそう吐露し、意味ありげに目を伏せた。その様子から、疎遠な両親や不仲な兄弟関係がどうやら関係しているのだろう。
「済まないな。変なことを聞いて」
「いえ、そんなことないです。アレックスにはちゃんと説明します。実は……」
シルファの告白を聞いたアレックスは、心に強く決めた。
そんなことでシルファは忌み嫌われていたのかと憤りを感じた。
ラヴィーナがシルファに付き従っていること然り、彼女のことをシルファが大切にしている理由もよく理解できた。
が、アレックスは、たったそれだけのことで命を狙われなければならない魔大陸の常識に反吐が出た。
だから、決めた。
――シルファを助けてやる、と。
開口一番、これは決定事項だと言わんばかりにアレックスが言い放った。
玉座の間の壇上から、睥睨するように配下の者たちを見渡すアレックスの隣には、従者旅団統括に任命したアニエスだけではなく、彼が座す玉座を挟むようにして、その当事者であるシルファがしめやかに佇んでいた。
それは、二時間前。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆
寝室へのソフィア乱入イベントを終えたアレックスは、シルファと二人、マイルームで朝食をしながら、細かい打ち合わせをすることにした。
ちぎったパンにマーガリンをつけながらアレックスが、なぁと言った調子で軽く声を掛ける。
ただそれだけ。
「何でしょうか、アレックス」
何がそんなに楽しいのか、頬を染めながらシルファはニコニコしっぱなしだった。
「ん、いやあ、なんだ……少し、近すぎやしないか?」
ゲーム中、腰を下ろして食事をするという概念がなかった。それ故に、ダイニングテーブルがアレックスのマイルームにはなく、執務机、バーカウンターとソファー前に置いたコーヒーテーブルしか朝食を並べられるスペースがない。
昨日は、一人で食事をしたため執務机で問題なかった訳だが、今朝はシルファもいるためソファーに腰掛けている。その隣に座っているシルファとの距離がもの凄く近い。と言うよりも、アレックスの右腕にシルファがもたれるように引っ付いており、アレックスは非常に食べ辛い。
「あらっ、ごめんなさい。わたくしとしたことが」
シルファが、全く気付きませんでしたわ、とでも言いたそうに目を見開いて驚く様子を見せたが、一向に離れようとしない。
昨日までの怯え様は何だったのだろうか? とアレックスが疑問符を浮かべる。
「まあいいや。それで、非常に言い辛いんだが、シルファが女王で間違いないんだよな?」
「え、わたくしがですか?」
キョトン顔でコテンと小首を傾げるものだから、アレックスは焦る。
もしかしたら、早とちりしたかもしれない、と。
「え、だって継承権第一位と聞いたぞ。それに……」
王であるお前の親父は討ち死にしたと言っていたではないか、とまで口には出せなかった。それでも、微妙に表情に出ていたのかもしれない。
「ああ、そのことであれば、べつにアレックスが気にすることではないですのに。お優しいのですね」
気にするなと言い、シルファが勝手に勘違いをする。
「あ、いや、まあ……」
シルファが目を伏せ、その碧眼に影が映った気がしたアレックスが慰めようとした。それでも、適当な言葉が思いつかず、二の句を継げないでいるとシルファが微笑んだ。
父が死んだのは、ただ弱かっただけですから、と。
アレックスを見上げたシルファのその笑顔は強がりではなく、自然な笑みだった。父の死を悲しむよりも、今こうしてアレックスと朝食を共にしていることの方が、楽しいとでも言うような満面の笑みだった。
「おまっ!」
アレックスは絶句した。
完全に見た目に騙されていた。その妖精のような美少女の見た目に。
シルファは、アレックスが知る紛うことなき魔人族だった。
力が物言う血で血を洗うような弱肉強食の世界に生きる種族――魔人族。
リバティ・オブ・フロンティアの第三弾アップデートで、その謳い文句と共に実装された魔人族は、ユニーク種族をも超える可能性を秘めた超種族。
アレックスには、その設定と目の前のシルファが重なって見えた。
「やはり、魔大陸は、力が全てなのか?」
アレックスは、そう聞かずにはいられなかった。気安く支援をすると約束したものの、下手に深入りしすぎて抜け出せなくなる可能性をアレックスは恐れたのだった。
最強を目指すと決めていたが、殺戮劇を繰り広げる気は毛頭ない。のほほんとした朝食から一転、緊張から心臓の鼓動が聞こえてきそうだった。
カチャリ――シルファが飲んでいたコーヒーのカップが置かれただけの音に、アレックスがビクッと過剰に反応する。
ただそれも、カップを置くために前屈みになっていたシルファには気付かれずに済んだ。
「うーん、どうでしょうか? 他の種族のことは言い伝え程度でしか知りませんが、人族と獣人族の中間くらいだと思います」
姿勢を戻してアレックスを見つめるシルファの声音は、至って穏やかだった。
「中間?」
「はい、階級社会ではありますが、基準はやはり強さです。それでも、強いからと言って好き放題できる訳ではありません。あくまでイフィゲニア王国の話に限定すると、決闘以外での殺人は罪に問われます」
つまりは、足して二で割った感じだろうか。
「ただ、他の国で共通して言えるのは、弱い王室は滅亡する運命にあります。それは、わたくしの一族、イフィゲニア王家もその例に漏れないでしょう」
父が亡くなったのは当然悲しいですが、わたくしは疎遠でしたので、自分でもよくわからないのです、と自嘲気味に笑っていた。
アレックスは、それを聞いてようやく止めていた呼吸を再開させた。肉親の死に鈍感なのではなく、反応するほど感情を通わせていなかっただけなのだ、と。
となると、シルファが言った共通事項とやらが気になった。
「つまりは、お前の国はもうないのか?」
そう言われた訳ではなかったが、シルファの言い方からそう受け取った。国がないなら何を望むのか、と。ヴェルダ王国に復讐するだけなら、それに協力するのはやぶさかではない。むしろ、状況的にヴェルダ王国を打倒するつもりでいる。それでも、シルファと協力することで魔大陸進出の足掛かりと考えていたアレックスにとって、シルファがどの立ち位置にいるかによって対応の方法を変えなければならない。
「いえ、そんなことはないですよ? あくまで、わたくし個人の考えではありますが、わたくしを主と認め、慕ってついて来てくれる者がいる限り、王家としてその者を守るつもりでおります。守るべき民がいるのならば、わたくしはイフィゲニア王家としてその使命を果たします」
シルファは堂々とした態度でそう言い切った。
「ほーう、それはラヴィーナのことを言っているのか?」
「はいっ!」
その嬉しそうに笑うシルファの無邪気な笑顔を見てしまうと、アレックスとしてもどうにかしてやりたくなる。シルファの冷徹さに触れ、怖気づいたアレックスであったが、それは誤解だった。
「彼女は、わたくしが唯一信頼できる親友なんです」
ラヴィーナのことがよっぽど好きなのか、聞いてもいないのに嬉々として親友のことを楽しそうに話す、年相応の少女がそこにはいた。
シルファが五歳になったとき、専属従者が与えられた。それが、ラヴィーナだったと。
それ以来何をするにも一緒で、両親よりも、兄弟よりも多くの時間を共有してきたと。
魔神伝説の話は、あまりにも有名でむしろ空想に近く、イフィゲニア王国もその魔神を崇めて聖域を守ってきたが、あくまで形式的だった。それでも、シルファはそれを信じた。そして、ラヴィーナと共に魔神に会えるだけの力を得ようと必死に訓練を行ったらしい。
どんな訓練を行ったのかまでの説明はなかったが、結局のところ、シルファは厳しい訓練を経て、幻想級魔法――インペリアルフレイムを体得するまでに至ったようだ。
「ただそれが、わたくしたちの運命を変えてしまいました」
先ほどまでの楽しそうな笑顔から一転、シルファの表情が曇った。
シルファは、五人兄弟で、兄が三人、姉が一人。その中でも一番魔力量が少なく、一番能力が低かったシルファは、王家の恥として小さいころから疎まれていたと、アレックスに告白した。
シルファ曰く、その幻想級魔法は、イフィゲニア王家の秘奥義魔法。代々王となるものが継承してき魔法であり、それを行使できなければ継承権が発生しない。八天魔王であり続けるだけの国力を保つためには、強者の血を残すことが優先され、王位継承の方法がそれに落ち着いたらしい。
それを聞いたアレックスは、力が物言う世界に生きる種族と言う点では、リバフロの魔人族の設定と似ていると感じた。
その当時、シルファは一二歳。魔人族の寿命は、平和に暮らせば、余裕で数百年を生きるらしいのだ。そう考えると、シルファは幼すぎた。我こそが次代の王となるのだと考えていた他のどの兄弟よりも、シルファが一番早くその秘奥義魔法を習得した。それも、誰しもが無能だと思っていた一番末のシルファに先を越されれば、他の兄弟が機嫌を損ねるのは当然のことだろう。
「食事に毒を盛られたり、刺客を送り込まれたりと、それは日常茶飯事でした。ただ、それさえも今思えば、良い思い出でかもしれませんね」
そんな風に楽しそうに話すシルファの姿に、アレックスはさっき誤解だと思ったことを撤回したいと思った。
(兄弟同士で殺し合いしてんじゃんか! 毒? 刺客? なんでそんな平気で笑ってんだよ!)
アレックスは、頬が痙攣しそうなほどドン引きしていた。
「よ、よくそれでお前は生き残れたな……」
「わたしくしたち魔人族は、毒くらいで簡単に死にませんから。ほんの嫌がらせなんですよ。それに、刺客は丁度良い訓練相手を務めてくれました」
うふふと笑うシルファに対し、アレックスは苦笑いするしかなかった。
「継承権は確かにわたくしが一位ですが、戴冠の儀を執り行われなければ即位はできないのです。つまりは、正式に王とは名乗れません」
いつの間にか、シルファがアレックスの問いに答えるようなことを語り出す。
「わたくしは、継承権を持っていることから逃げ出す外なかったのです」
「それはなぜだ? ふつうなら、お前を女王にして、敵対勢力に攻勢を掛けるために担ぎ上げそうな気もするがな。象徴がいないのでは、兵士の士気が上がる訳もないし」
アレックスが言ったことは、あくまでふつうのことだった。
「わたくしもそう思います、ふつうなら……どうやら、わたくしはふつうではないようです……」
シルファがそう吐露し、意味ありげに目を伏せた。その様子から、疎遠な両親や不仲な兄弟関係がどうやら関係しているのだろう。
「済まないな。変なことを聞いて」
「いえ、そんなことないです。アレックスにはちゃんと説明します。実は……」
シルファの告白を聞いたアレックスは、心に強く決めた。
そんなことでシルファは忌み嫌われていたのかと憤りを感じた。
ラヴィーナがシルファに付き従っていること然り、彼女のことをシルファが大切にしている理由もよく理解できた。
が、アレックスは、たったそれだけのことで命を狙われなければならない魔大陸の常識に反吐が出た。
だから、決めた。
――シルファを助けてやる、と。
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