【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう

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1.君を一生愛さない Sideマティア

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 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。

「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」

 今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。

「そう……。」

 マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。一瞬目を閉じてから、ポールを見つめる。

 (笑うの。悲しい顔をしてはだめよ。)
 
 明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。

 彼女はリッカルド国とドントール国の和平のために、この国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。

「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」

 ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。

 美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。ポールは彼女を"傷つける"為の言葉を吐く。

「貴方が私を認められないのはわかるわ……でも……。」

 マティアは言葉を詰まらせ、俯いた。

「なんだ……?」

 ポール・リックストンはリックストン国の皇太子で、マティアより一歳年上の22歳。

 ポールは皇太子であるが、リックストン国騎士団の団長も務めている。優れた知性と統率力で兵士を率いるポール。彼はドントール国の侵略から何度もリックストン国を救っており、英雄として国民に慕われている。

「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」

 生まれは違うけれど、マティアとポールは幼馴染。外交会議や国際パーティに両親が参加している間、彼らは一緒に遊んでいた。マティアはポールの本当に親しい友人であった……はずだ。

「ちっ……」

 ポールは顔をしかめて舌打ちをした。

 リックストン国とドントール国はこの数年間、激しい戦を繰り広げてきた。リックストン国はドントール国によって、甚大な被害を受けている。その事実はポールがマティアを愛することを許さない。
 
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」

 ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。

(あの頃と何も変わらないのに……)

 心の中を悲しみが覆う。彼がマティアを受け入れないと”わかっていた”。それでもやはり彼がマティアを愛してくれるのではないかと……心のどこかで期待していたのだ。

 結婚式前夜の静かな部屋に、緊張が漂う。

「私が……ドントール国の王女だから……?」

「ああ。」

 領土を拡大するためにリックストン国を侵略したのは、他でもないマティアの父、ドントール国王。

 それまで、友好を保ってきたドントール国とリックストン国の関係をマティアの父は変えてしまった。

 (リックストンの人間はドントールを恨んでる……当然よね。)

 この婚姻は両国の平和を再び取り戻すために結ばれるものである。だけど……騎士団長であるポールにとって、ドントール国は未だ憎い相手だった。

 「僕がドントール国の王女を信じるなんて……できるはずないだろう?」

 ポールは最後まで、ドントール国王女との結婚に反対していた。その相手が幼い頃の友人マティアと知っても、彼は受け入れることができない。

「ポール。それでも私は"死ぬまで"、貴方を愛する”ふり”をするつもりよ。」
  
  "死ぬまで"
 マティアはその言葉に力をこめた。

(危険だって知ってるわ。)

 それでも……リックストン国の皇太子を ”愛するふり”をするために、マティアはこの国に来た。

「なぜ……?」

 ポールは深い溜息をつく。彼は古い友人であるマティアがどうしょうもなく頑固だと知っている。

 彼がなんとかしてマティアを国に帰したいと望んでも……彼女は意志を貫くのだろう。

「貴方を守るためよ。わからない?」

 マティアはポールをまっすぐに見つめた。

 たとえポールに憎まれたとしても、この婚姻関係を継続できれば……リックストン国とドントール国の間の平和を、保つことができるはず。

 見せかけの夫婦になるとしても、十分に価値があるとマティアは信じていた。

「……君はリックストン国に来るべきではなかった。」

 ポールは乱暴にマティアの肩を掴んで言った。彼の顔は苦しそうに歪んでいる。その綺麗な赤い瞳は昔と変わらない。

「私はそう思わないわ。」

 マティアは微笑みを浮かべる。

 貴族の令嬢たちは誰も、リックストン国に行きたがらなかった。もしも再び、両国の間で戦いが起きたら、ドントールの人間がどんなひどい目に合うかわからないから。

 だから、マティアが花嫁になると決めた。

「君は僕の敵だ……。」

 ポールの声には憎しみと苦悩が滲み出ている。彼はマティアを妻にしたくないのだ。

「知ってる。でも、明日、私はポールの妻になるのよ。」

 "大好きな人のお嫁さんになりたい。"
 マティアの小さいころの夢がかなう。ひどく悲しい形で。

「……考えたくもない。憎しみの気持ちが……こみあげてくるから。」

 短い沈黙が部屋に広がる。

「私は、愛しさが込み上げてくるわ。」

 (強がり……よ。)

 初恋とは厄介なもので、たとえ頭で全てを理解していても、傷ついてしまうらしい。
    
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