【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう

文字の大きさ
25 / 59

25. 追い出すべき時 Sideポール

しおりを挟む
【Side ポール】

 (なぜマティアがメイド服……?)

 混乱しながら、ポールはマティアに大股で近づく。突然厨房に入ってきた皇太子ポールに皆が戸惑っているが、それどころではない。

「そこでなにしているんだ!まてぃ……。」

「名前を呼ばないでください!」

 ポールの言葉を遮り、マティアが立ち上がった。マティアは手に持ったサンドイッチを慎重に包む。

 「ここでは目立ちます。私は……知られたくないのです。」

 小さい声でささやいたマティアは、ポールにカフェテリアを出るように促した。

 (可愛い‥‥‥)

 マティアは髪をひとまとめにし、眼鏡をかけている。普段の高貴な感じとはうって変わって、昔のマティアのような親しみやすさがある。

 メイドや城の従者たちが食事をとるカフェテリアから少し歩く。人通りがなくなったところで、マティアはポールに向き直った。

「なぜそんな恰好をしているんだ?」

「私、メイドを付けないことにしたの。聞いた?」

「ああ。」

「メイドなしで生活するんだもの。できる限り私がドントールの王女だということを隠したいのよ。」

 マティアは小さく微笑みを浮かべた。

(どうやってマティアを説得したらいいんだろう?)

 ポールはマティアに、今すぐにリックストン国を出て行ってほしい。だが、彼女にみすぼらしい思いもしてほしくない。

 生粋のお嬢様育ちのマティアがメイド無しで暮らしていけるはずがない。

 (だが僕は……マティアに優しさを向けるわけにはいかない。)

「君は形式上……皇太子の妻だ。メイドもつけずに、みすぼらしい姿をさらす気か?」

「だいじょうぶよ。貴方に恥をかかせるつもりはないわ。」

 マティアは胸を張る。

(なんでそんなに頑固なんだ!)

「メイドたちから職を取り上げるのか……?」

「そんなつもりはないわ。上手く、彼女たちに仕事を割り振ってあげて?ドントール王女のメイド、だなんていう最悪の職場じゃなくてね。」

 マティアは笑顔でポールを見つめた。ここに来るまでに、噂は耳に入っているだろう。

 この城は彼女の敵ばかりだと、身に染みてわかったはずだ。それなのに、マティアの雰囲気は昨日より明るい。

「彼女たちは仕事だ。君が気にすることではない。」

「敵国王女のお世話係になったら、虐められるわ。私は大丈夫。メイドがいなくてもやっていけるわ。ね?テオ」

 話を振られたテオは、ゆっくりとサンドイッチを口に頬張ってから、大きく頷く。

「まぁ、大丈夫だろ。この城は人が多い。メイド一人増えたってばれないみたいだしな。」
 
(マティアにメイド服を着せたのは、お前か!テオ)

 「勝手にしろ……その代わり、今後泣きついてきても知らないからな。」

 「わかったわ。認めてくれてありがとう。」

 帰り際、ポールはテオの耳元で囁く。

「マティア……ずいぶん元気になったんだな。」

 昨日の様子では、もう限界は近そうだった。すぐにドントール国に帰るだろうと思っていたのだが……今日はすっかり元気に戻っている。

「そうか?まだ空元気だと思うぞ。」

 とぼけた表情で、テオが答える。

(お前はいつもそうだよ……)

 テオの隣でサンドイッチをほおばるマティアは、笑顔だった。その事実に、ポールはひどく腹が立つ。

(僕がどれだけ必死で、マティアを傷つけたと思っているんだ……)

 テオに協力を頼んだのは、失敗だったかもしれない。このままでは本当に、戦いが始まるまで、マティアはリックストン国に残ってしまう。

 テオがいれば、マティアは元気になってしまう。

「また……考え事か?」

 テオが、ポールの顔を覗き込む。

「いや……。」
 
 テオは、マティアの心の防波堤。

 (テオがいる限り……マティアをリックストンから逃がせない?)

 テオをリックストンから追い出すべきなのだろうか。ポールにはまだ、その答えが出ない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します

佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。 セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。 婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...