【完結】好きな人ができたら婚約破棄しよう。それは王子様と公爵令嬢が結んだ約束でした。一人ぼっちの公爵令嬢は今日も王子様を待っています

五月ふう

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1 好きな人ができたら婚約破棄

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「お互いに好きな人ができたら婚約破棄。
 この約束で僕と婚約しないか?」

第二王子ステフ・ミラントは公爵令嬢ココ・ウィーセルに真剣な表情でそう告げた。
ステフとココはまだ10歳。二人の両親は仲が良く、ココとステフは昔からよく一緒に遊んでいた。

「こん・・やく?お互いに好きな人ができるまで?」

ココは戸惑いの表情を浮かべ、ステフを見つめる。ベットの上に横たわるココの全身は包帯で覆われている。昨日、起こった火事で、彼女は大やけどを負ったのだ。

「ああ。僕の婚約者になれば・・・好きなだけ城でゆっくりしていられるし・・・顔の傷だってミラント国一のお医者さんに直してもらえるよ。」

透き通る青い瞳にサラサラの黒髪のココ。誰もが振り返る美少女であった彼女の顔には痛々しい火傷の痕が見える。誰もが彼女を見て可哀そうだといった。

”ただでさえ不幸な少女はなぜこれ以上不幸にならなくてはいけないのか”と。

娘が大けがを負っていても、ココの両親は彼女を迎えにくることはできない。彼女の両親はつい一ヶ月前に流行り病にかかって亡くなっている。                                                                                        

「火傷の痕・・・そんなに酷いの・・・?
 お嫁さんになれないくらい?」

ココは泣きそうな顔で顔を押さえた。彼女はまだ事故に遭ってから鏡を見ていない。自分がどれほど傷ついているかを知らなかった。

”さっさとココをどこかの貴族にお嫁に出してしまいましょ。後ろ盾がなくても顔だけはいいんだから、すぐに見つかるでしょう”
ココの叔母はいつも夫に言っていた。ココが近くにいてもお構いなしに。

「いいや・・・。そんなことない。傷はひどくないし、全部なくなるよ。ココの傷は僕のせいだから、できるだけココの力になりたくて・・・。」

ステフはココに嘘をつく。彼女の顔の火傷痕はこれからもなくなることはないだろうと、ステフは医者から聞いていた。ココの顔に傷が残ると聞いて、彼女の叔母がひどく怒っていたことも。

”あーあ!面倒なことになってしまったわ!どこかに売ってしまおうかしら!”

ココの叔母の言葉を聞いて、ステフは焦っていた。このままだと大切な友達であるココが、どこかに売られてしまう、と。

昨日火事が起こった時、ココとステフは一緒にいた。逃げる際中、ココはステフをかばい、柱に押し倒されてしまった。自分のせいでココが・・・。そう思うと、ステフの心は引きちぎれそうなほど痛むのだ。

「ステフのせいじゃないよ。ステフを助けられてよかったわ。」

ココはステフをまっすぐに見つめて言う。

両親が亡くなってしまってから、ココには居場所がなかった。公爵家を受け継いだ父の妹とその夫はココを厄介者扱いして冷たく当たった。そんなココを気遣い、優しくしてくれたのはステフだけ。

「僕だってココを守りたい。だから・・・僕と約束しようよ。」

ココは心の底から、ステフの婚約者になりたかった。
でもそれは決して、同情によるものではなくて、お互いの好意の元に成り立つものであって欲しかった。
”好きな人ができたら婚約破棄”だなんて、悲しい条件付きではなく。

「好きな人ができるまで・・・わたしはステフの婚約者になるの・・・?」

震える声で尋ねるとステフは大きく頷いた。この選択がココを守るものになると、ステフは疑っていない。

「そうだよ。ココに好きな人ができたら、僕に教えて。」

ステフはココの手にそっと触れる。
自分のせいで、大けがを負ったココ。彼女にとって、自分は憎むべき人間に違いないとステフは思い込んでいた。

”好きな人ができたら婚約破棄” 
それは昨日の夜ステフが寝ずに考えた、ココを守るための方法だった。

「ステフに好きな人ができたときも・・・教えてくれるの?」

ココは弱弱しい笑顔を浮かべて、ステフに尋ねた。両親が生きているときであれば、ステフとココの結婚は十分にあり得たことだっただろう。だが、今のココは後ろ盾を失い、第二王子ステフと婚約するだけの力がない。

「・・・うん。」

少し間をおいて、ステフは頷く。ステフにはまだ、人を好きになるのがどういうことが分からない。ただ、両親を失い、全身に傷を負った大切な友達を助けたいだけだった。

「好きな人ができたら、おしまい?」

一方のココはステフへの恋心をはっきりと自覚していたし・・・ステフを好きな他の女の子たちからもうすでにいじめを受けていた。ココとステフは仲良しでよくパーティでも一緒にいたから。もちろん、ステフはそのことを知らない。

「自由ってことだよ。ココ。
 僕は君を守るために婚約するだけ。僕に縛られることはないんだってこと。」

ステフはココの手にそっと触れる。

「ステフは・・・優しいんだね。」

ココの目には少し涙がたまっている。ココとステフは幼馴染。彼女には、ステフが心からの優しさでこの提案をしたことがよくわかっていた。それが、どれだけ的外れであろうとも。

「ココを助けたいだけだよ。」

涙をぬぐい、ココは微笑んだ。

なぜ大好きな人と婚約破棄前提で、婚約をするのだろう。
だけど、ココには居場所がない。この約束がどんなに悲しくても、ステフを突き放すことはできなかった。

「わかったわ。
 ”好きな人ができたら婚約破棄”の約束で婚約しましょう。」

この約束を忠実に守るなら、今すぐに婚約破棄だ、とココは思った。
ココはもうすでにステフのことが好きなのだから。

「約束だよ。」
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