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2.可哀そうな令嬢

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そうして、ミラント国第二王子ステフ・ミラントとココ・ウィーセルは婚約することになった。だがそれは、結婚が実現する可能性が極めて低い口約束に過ぎなかった。


”婚約のことは絶対に他言してはいけません”

そう言って、ステフの両親である国王夫妻はステフに釘をさした。いくら友人の子供でも、両親を失って後ろ盾のないココをステフの婚約者として認めるわけにはいかなかったのだ。だが、ステフはまだ幼いし、亡き友人の子供であるココへの同情の気持ちから、ステフの説得に応じたふりをしていたのである。

ステフとココが形式上の婚約をしたことを、国王夫妻はココの叔母たちにすら知らせなかった。
  
”役立たずは家においておけないよ!出てってくれ!”

顔に傷を負ったココを叔母は邪険に思い、彼女を孤児院に送り込もうとした。

”ココは僕の婚約者だ!僕と一緒に暮らすんだ!!”

それを止めたのはまだ幼いステフだった。

ココをステフの婚約者として、城に迎え入れることはしたくない。しかし、ステフの機嫌を損ねることを恐れた国王夫妻は、ココを使用人の養子にし、城で暮らすことを許可したのだった。

両親と貴族としての裕福な暮らしを同時に失ったココ。
彼女の顔にはひどい火傷の痕が残り、20歳になってもその痕が無くなることはなかった。

”すべてを失った可哀そうな子”
常に同情がつきまとう中でココは大人になっていく。

ほとんど誰も、ココとステフが婚約していることを知らない。
皆ココを王族の婚約者として扱わなかったが、ステフだけは10年間ココに婚約者として接してくれた。


     ◇◇◇



「そしたら、行ってくるね!」

カバンを背負って出かけるココを笑顔で見送るステフ。

「気を付けてな。」

”好きな人ができた”
二人の口から、その言葉が出ることはなく10年が過ぎた。ココとステフは今もまだ仲の良い友達である。

20歳になったココは医者を目指していた。

”両親の命を奪った流行り病を治す薬を開発する”
その夢をかなえるべくココは必死で勉強し、学費免除の特待生として医学学院に通っていた。

「今日もまたステフの婚約者でいられますように。」

医学学院に通う道中、ぽつりココはつぶやいた。ステフの婚約者であることは、ココにとって心の支え。10年間ずっと、いつか来るだろう婚約破棄の時をココは恐れている。


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