9 / 33
9.嘘つきの求婚
しおりを挟む
次の日、学院でルカはココに声をかけた。
まっすぐに伸びた髪に、すらりとした立ち姿。彼女に声をかける時、ルカはいつも罪悪感を感じる。
「ココ。話したいことがあるんだけど・・・。」
ココを騙して、隣国セブンリに連れていくことがルカの役目。セブンリに売られた彼女はきっと不幸になるとわかっている。
「何でも聞くわ。」
ルカの思惑に気が付くことなく、ココは美しい笑みを浮かべた。昨日、長年の婚約者と婚約破棄したとは思えない、穏やかな笑顔。悲しみを胸の内に閉じ込めて、ココはいつも明るく笑う。
「相談だなんて、珍しいわね。何かあったの?」
ルカがぼんやりとココを見つめていると、ココは首を傾げた。
「学院を卒業した後・・・どうしようか迷っているんだ。ココはどうするつもりだい?」
二人はもうすでに必要なクラスを取り終えて、あとは卒業するだけだ。だがルカは医者になることはできない。ボストール家の悪事に一度加担してしまったら、もう抜けだすことはできないだろう。
「う・・・ん。本当は学院に残って研究を続けようと思っていたんだけど・・・
少し状況が変わってしまってね。どこかの病院に雇ってもらおうかと考えているわ。」
頬杖をついて、どこか遠くを見つめるココ。はやり病に関する研究を続け、新しい薬を開発することが彼女の夢であったはず。
―――城を出なくてはいけなくなったから、進路を変えたのか・・・
ルカはココを自分に重ねていた。お互いにはやり病で両親を失い、医師を志した。ココは悪の道に進まなかった場合のルカなのだ。
「何でも・・・聞くよ。昨日からずっと元気なかったろ。」
その原因が自分にあるとわかっていながら、ルカはココを励ました。
「そんなことない。」
明るく首を振るココを元気づけてあげたかった。心と行動が矛盾している。彼女を傷つけたくないのに、頭の中ではどうやってココに信頼してもらい、隣国セブンリに連れていくか考えている。
「ステフ王子との婚約破棄が堪えているのか・・・?」
ルカの言葉にココは目を見開いた。誰も知らないはずのステフとココの婚約。驚愕の表情を浮かべ、ココがルカに尋ねる。
「なぜ・・・そのことを・・・?」
ルカはまっすぐにココの目を見つめ、彼女の肩にそっと触れた。
「城に・・・知り合いがいてな。言うつもりはなかったんだが、落ち込むココを見ていたら放っておけなかった。」
―――これは賭けだ
ココはルカを友人と思っているが、心の底から信頼しているわけではない。過去の経験から、彼女は他人との間に明確な壁を作っている。その壁を崩すために、ルカは一歩踏み込んだ。
「そう・・・なのね。そう。ステフ王子と、婚約破棄することになって・・・。」
ルカが張り付けていた笑顔の仮面がぼろぼろと崩れる。
「ずっと辛かったな。」
ルカの言葉にココの目には涙が浮かんだ。いままでココは一度も、ステフとの婚約について他人に話たことはなかった。その喜びも痛みも、すべて胸の内に抱えて隠してきた。
「ルカ・・・。」
「よく頑張ったよ。」
ルカは言葉を重ねる。傷心のココの目を自分に向けさせるために。
「ずっとあの王子が好きだったんだろ?俺もずっとココだけを見ていたから・・・わかるよ。」
アリアはルカにココを監視し、そしてココを惚れさせるようにと命令していた。ルカは何度も彼女の心を奪おうと試みていたのだが・・・ココは決してステフ以外の人間に心動かされることはなかった。
―――でも今なら・・・ココを振り向かせられる
命令されているからではなく本心から、ルカはココに振り向いてほしかった。
「見ていた・・・?」
人の気持ちに疎いのは、ステフだけではなくココも同じ。傍にいるルカの気持ちにココは全く気が付いていなかった。
「俺はあいつの代わりにはなれないけれど、ココの傍にずっといられる。俺はココが好きだ。」
ルカはココの手に触れる。
「・・・!」
その手を振り払うことができず、ココは目を見開いた。
「俺と一緒に、隣国セブンリに行かないか・・・?俺の知り合いにはやり病を研究している先生がいるんだ。」
「はやり病の研究・・・。」
「その先生が、数人の助手を募集している。ココのことを言ったら、ぜひ君も助手に欲しいと言っていたんだ。」
「まぁ。」
ルカの言葉は全て口から出まかせ。ココを騙してセブンリ国に連れていくための嘘。
だがルカは、ココから目を離さずに真剣な表情でココに言う。
「セブンリ国でなら、ココの夢を一緒に追いかけられると思うんだ。」
◇◇◇
まっすぐに伸びた髪に、すらりとした立ち姿。彼女に声をかける時、ルカはいつも罪悪感を感じる。
「ココ。話したいことがあるんだけど・・・。」
ココを騙して、隣国セブンリに連れていくことがルカの役目。セブンリに売られた彼女はきっと不幸になるとわかっている。
「何でも聞くわ。」
ルカの思惑に気が付くことなく、ココは美しい笑みを浮かべた。昨日、長年の婚約者と婚約破棄したとは思えない、穏やかな笑顔。悲しみを胸の内に閉じ込めて、ココはいつも明るく笑う。
「相談だなんて、珍しいわね。何かあったの?」
ルカがぼんやりとココを見つめていると、ココは首を傾げた。
「学院を卒業した後・・・どうしようか迷っているんだ。ココはどうするつもりだい?」
二人はもうすでに必要なクラスを取り終えて、あとは卒業するだけだ。だがルカは医者になることはできない。ボストール家の悪事に一度加担してしまったら、もう抜けだすことはできないだろう。
「う・・・ん。本当は学院に残って研究を続けようと思っていたんだけど・・・
少し状況が変わってしまってね。どこかの病院に雇ってもらおうかと考えているわ。」
頬杖をついて、どこか遠くを見つめるココ。はやり病に関する研究を続け、新しい薬を開発することが彼女の夢であったはず。
―――城を出なくてはいけなくなったから、進路を変えたのか・・・
ルカはココを自分に重ねていた。お互いにはやり病で両親を失い、医師を志した。ココは悪の道に進まなかった場合のルカなのだ。
「何でも・・・聞くよ。昨日からずっと元気なかったろ。」
その原因が自分にあるとわかっていながら、ルカはココを励ました。
「そんなことない。」
明るく首を振るココを元気づけてあげたかった。心と行動が矛盾している。彼女を傷つけたくないのに、頭の中ではどうやってココに信頼してもらい、隣国セブンリに連れていくか考えている。
「ステフ王子との婚約破棄が堪えているのか・・・?」
ルカの言葉にココは目を見開いた。誰も知らないはずのステフとココの婚約。驚愕の表情を浮かべ、ココがルカに尋ねる。
「なぜ・・・そのことを・・・?」
ルカはまっすぐにココの目を見つめ、彼女の肩にそっと触れた。
「城に・・・知り合いがいてな。言うつもりはなかったんだが、落ち込むココを見ていたら放っておけなかった。」
―――これは賭けだ
ココはルカを友人と思っているが、心の底から信頼しているわけではない。過去の経験から、彼女は他人との間に明確な壁を作っている。その壁を崩すために、ルカは一歩踏み込んだ。
「そう・・・なのね。そう。ステフ王子と、婚約破棄することになって・・・。」
ルカが張り付けていた笑顔の仮面がぼろぼろと崩れる。
「ずっと辛かったな。」
ルカの言葉にココの目には涙が浮かんだ。いままでココは一度も、ステフとの婚約について他人に話たことはなかった。その喜びも痛みも、すべて胸の内に抱えて隠してきた。
「ルカ・・・。」
「よく頑張ったよ。」
ルカは言葉を重ねる。傷心のココの目を自分に向けさせるために。
「ずっとあの王子が好きだったんだろ?俺もずっとココだけを見ていたから・・・わかるよ。」
アリアはルカにココを監視し、そしてココを惚れさせるようにと命令していた。ルカは何度も彼女の心を奪おうと試みていたのだが・・・ココは決してステフ以外の人間に心動かされることはなかった。
―――でも今なら・・・ココを振り向かせられる
命令されているからではなく本心から、ルカはココに振り向いてほしかった。
「見ていた・・・?」
人の気持ちに疎いのは、ステフだけではなくココも同じ。傍にいるルカの気持ちにココは全く気が付いていなかった。
「俺はあいつの代わりにはなれないけれど、ココの傍にずっといられる。俺はココが好きだ。」
ルカはココの手に触れる。
「・・・!」
その手を振り払うことができず、ココは目を見開いた。
「俺と一緒に、隣国セブンリに行かないか・・・?俺の知り合いにはやり病を研究している先生がいるんだ。」
「はやり病の研究・・・。」
「その先生が、数人の助手を募集している。ココのことを言ったら、ぜひ君も助手に欲しいと言っていたんだ。」
「まぁ。」
ルカの言葉は全て口から出まかせ。ココを騙してセブンリ国に連れていくための嘘。
だがルカは、ココから目を離さずに真剣な表情でココに言う。
「セブンリ国でなら、ココの夢を一緒に追いかけられると思うんだ。」
◇◇◇
86
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された公爵令嬢ですが、王太子を破滅させたあと静かに幸せになります
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エレナは、
誕生日の舞踏会で突然、婚約破棄を宣言される。
「地味で役に立たない」と嘲笑され、
平民の少女を新たな婚約者に選ぶ王太子。
家族にも見放され、エレナは王都を追われることに――。
しかし彼女は、ただの“癒しの令嬢”ではなかった。
静かに力を蓄え、事実と証拠だけで王太子の虚飾を暴き、
自らの手で破滅へと導いていく。
復讐の果てに選んだのは、
誰かに与えられる地位でも、名誉でもない。
自分で選び取る、穏やかな幸せ。
これは、
婚約破棄された公爵令嬢が
王太子を終わらせたあと、
本当の人生を歩き出す物語。
-
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
悪役令嬢は殿下の素顔がお好き
香澄京耶
恋愛
王太子の婚約者アメリアは、 公衆の場で婚約破棄される夢を見たことをきっかけに、自ら婚約解消を申し出る。
だが追い詰められた王太子、ギルバートは弱さと本心を曝け出してしまい――。
悪役令嬢と、素直になれない王太子の“逆転”ラブコメディ。
王太子殿下のおっしゃる意味がよくわかりません~知能指数が離れすぎていると、会話が成立しない件
碧井 汐桜香
恋愛
天才マリアーシャは、お馬鹿な王子の婚約者となった。マリアーシャが王妃となることを条件に王子は王太子となることができた。
王子の代わりに勉学に励み、国を発展させるために尽力する。
ある日、王太子はマリアーシャに婚約破棄を突きつける。
知能レベルの違う二人の会話は成り立つのか?
あなたの思い通りにはならない
木蓮
恋愛
自分を憎む婚約者との婚約解消を望んでいるシンシアは、婚約者が彼が理想とする女性像を形にしたような男爵令嬢と惹かれあっていることを知り2人の仲を応援する。
しかし、男爵令嬢を愛しながらもシンシアに執着する身勝手な婚約者に我慢の限界をむかえ、彼を切り捨てることにした。
*後半のざまあ部分に匂わせ程度に薬物を使って人を陥れる描写があります。苦手な方はご注意ください。
天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く
りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。
私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。
それなのに裏切りやがって絶対許さない!
「シェリーは容姿がアレだから」
は?よく見てごらん、令息達の視線の先を
「シェリーは鈍臭いんだから」
は?最年少騎士団員ですが?
「どうせ、僕なんて見下してたくせに」
ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる