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10.ずっと昔から好きだった
しおりを挟むその頃、第二王子ステフはミラント医学学院の理事長室にいた。
ココは知らないが、ステフはココが医学学園に通うお金を長い事補助している。ココが得ている成績優秀者への奨学金はステフが作り出したものだった。もちろん、それを勝ち得ているのは、彼女の努力のおかげなのだが。
「そうか。ついに婚約破棄することにしたのか。」
学院の理事長は天を仰いでステフに言った。ココに支援をするために、ステフは理事長にはココとステフが婚約者だということを伝えていた。
「はい。理事長には本当にお世話になりました。ココとの婚約破棄は彼女が学園を卒業したときに・・・するつもりです。」
そう言って頭を下げるステフ。
「そうか・・・。なあ、ステフ。なぜ好きな人がいるだなんて嘘をついたんだ?」
理事長はステフの母親である国王夫人と、今は亡きココの母親と友人だった。理事長はココとステフが両思いだとわかっていて、彼らの恋が実を結ぶことを祈っていたのだった。
「ココは好きな男と来春から同じ病院で働き始めると聞きました。そんなときに僕がいては邪魔でしょうから。」
これももちろん、アリアがステフについた嘘である。ココはもうステフがいなくても生きていけるのだから、手放してあげるべきだというアリアの言葉を聞いて、ステフはココと婚約破棄すると決意していた。
「本当にそれでいいのかい。ステフ。」
理事長はもう一度ステフに尋ねた。
「・・・はい。」
理事長はココとステフがすれ違っていると気づいていた。彼らが思いを伝えあわずに別れることは何とかして避けたかった。
「老婆心で言わせてもらうけど、本当に失ってからでは後悔するぞ。素直に思いを伝えることも、大切なことだと思うがね。」
ステフは視線を彷徨わせた。
「想い・・・。」
「好きなんだろ?」
理事長がいたずらっぽく笑ってステフに尋ねる。
「ええ。ずっと昔から。」
寂しそうな笑顔を浮かべ、ポツリとつぶやくステフ。
お互いに思いを伝えあえば、婚約破棄なんてしなくていいはずだった。
◇◇◇
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