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9.嘘つきの求婚
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次の日、学院でルカはココに声をかけた。
まっすぐに伸びた髪に、すらりとした立ち姿。彼女に声をかける時、ルカはいつも罪悪感を感じる。
「ココ。話したいことがあるんだけど・・・。」
ココを騙して、隣国セブンリに連れていくことがルカの役目。セブンリに売られた彼女はきっと不幸になるとわかっている。
「何でも聞くわ。」
ルカの思惑に気が付くことなく、ココは美しい笑みを浮かべた。昨日、長年の婚約者と婚約破棄したとは思えない、穏やかな笑顔。悲しみを胸の内に閉じ込めて、ココはいつも明るく笑う。
「相談だなんて、珍しいわね。何かあったの?」
ルカがぼんやりとココを見つめていると、ココは首を傾げた。
「学院を卒業した後・・・どうしようか迷っているんだ。ココはどうするつもりだい?」
二人はもうすでに必要なクラスを取り終えて、あとは卒業するだけだ。だがルカは医者になることはできない。ボストール家の悪事に一度加担してしまったら、もう抜けだすことはできないだろう。
「う・・・ん。本当は学院に残って研究を続けようと思っていたんだけど・・・
少し状況が変わってしまってね。どこかの病院に雇ってもらおうかと考えているわ。」
頬杖をついて、どこか遠くを見つめるココ。はやり病に関する研究を続け、新しい薬を開発することが彼女の夢であったはず。
―――城を出なくてはいけなくなったから、進路を変えたのか・・・
ルカはココを自分に重ねていた。お互いにはやり病で両親を失い、医師を志した。ココは悪の道に進まなかった場合のルカなのだ。
「何でも・・・聞くよ。昨日からずっと元気なかったろ。」
その原因が自分にあるとわかっていながら、ルカはココを励ました。
「そんなことない。」
明るく首を振るココを元気づけてあげたかった。心と行動が矛盾している。彼女を傷つけたくないのに、頭の中ではどうやってココに信頼してもらい、隣国セブンリに連れていくか考えている。
「ステフ王子との婚約破棄が堪えているのか・・・?」
ルカの言葉にココは目を見開いた。誰も知らないはずのステフとココの婚約。驚愕の表情を浮かべ、ココがルカに尋ねる。
「なぜ・・・そのことを・・・?」
ルカはまっすぐにココの目を見つめ、彼女の肩にそっと触れた。
「城に・・・知り合いがいてな。言うつもりはなかったんだが、落ち込むココを見ていたら放っておけなかった。」
―――これは賭けだ
ココはルカを友人と思っているが、心の底から信頼しているわけではない。過去の経験から、彼女は他人との間に明確な壁を作っている。その壁を崩すために、ルカは一歩踏み込んだ。
「そう・・・なのね。そう。ステフ王子と、婚約破棄することになって・・・。」
ルカが張り付けていた笑顔の仮面がぼろぼろと崩れる。
「ずっと辛かったな。」
ルカの言葉にココの目には涙が浮かんだ。いままでココは一度も、ステフとの婚約について他人に話たことはなかった。その喜びも痛みも、すべて胸の内に抱えて隠してきた。
「ルカ・・・。」
「よく頑張ったよ。」
ルカは言葉を重ねる。傷心のココの目を自分に向けさせるために。
「ずっとあの王子が好きだったんだろ?俺もずっとココだけを見ていたから・・・わかるよ。」
アリアはルカにココを監視し、そしてココを惚れさせるようにと命令していた。ルカは何度も彼女の心を奪おうと試みていたのだが・・・ココは決してステフ以外の人間に心動かされることはなかった。
―――でも今なら・・・ココを振り向かせられる
命令されているからではなく本心から、ルカはココに振り向いてほしかった。
「見ていた・・・?」
人の気持ちに疎いのは、ステフだけではなくココも同じ。傍にいるルカの気持ちにココは全く気が付いていなかった。
「俺はあいつの代わりにはなれないけれど、ココの傍にずっといられる。俺はココが好きだ。」
ルカはココの手に触れる。
「・・・!」
その手を振り払うことができず、ココは目を見開いた。
「俺と一緒に、隣国セブンリに行かないか・・・?俺の知り合いにはやり病を研究している先生がいるんだ。」
「はやり病の研究・・・。」
「その先生が、数人の助手を募集している。ココのことを言ったら、ぜひ君も助手に欲しいと言っていたんだ。」
「まぁ。」
ルカの言葉は全て口から出まかせ。ココを騙してセブンリ国に連れていくための嘘。
だがルカは、ココから目を離さずに真剣な表情でココに言う。
「セブンリ国でなら、ココの夢を一緒に追いかけられると思うんだ。」
◇◇◇
まっすぐに伸びた髪に、すらりとした立ち姿。彼女に声をかける時、ルカはいつも罪悪感を感じる。
「ココ。話したいことがあるんだけど・・・。」
ココを騙して、隣国セブンリに連れていくことがルカの役目。セブンリに売られた彼女はきっと不幸になるとわかっている。
「何でも聞くわ。」
ルカの思惑に気が付くことなく、ココは美しい笑みを浮かべた。昨日、長年の婚約者と婚約破棄したとは思えない、穏やかな笑顔。悲しみを胸の内に閉じ込めて、ココはいつも明るく笑う。
「相談だなんて、珍しいわね。何かあったの?」
ルカがぼんやりとココを見つめていると、ココは首を傾げた。
「学院を卒業した後・・・どうしようか迷っているんだ。ココはどうするつもりだい?」
二人はもうすでに必要なクラスを取り終えて、あとは卒業するだけだ。だがルカは医者になることはできない。ボストール家の悪事に一度加担してしまったら、もう抜けだすことはできないだろう。
「う・・・ん。本当は学院に残って研究を続けようと思っていたんだけど・・・
少し状況が変わってしまってね。どこかの病院に雇ってもらおうかと考えているわ。」
頬杖をついて、どこか遠くを見つめるココ。はやり病に関する研究を続け、新しい薬を開発することが彼女の夢であったはず。
―――城を出なくてはいけなくなったから、進路を変えたのか・・・
ルカはココを自分に重ねていた。お互いにはやり病で両親を失い、医師を志した。ココは悪の道に進まなかった場合のルカなのだ。
「何でも・・・聞くよ。昨日からずっと元気なかったろ。」
その原因が自分にあるとわかっていながら、ルカはココを励ました。
「そんなことない。」
明るく首を振るココを元気づけてあげたかった。心と行動が矛盾している。彼女を傷つけたくないのに、頭の中ではどうやってココに信頼してもらい、隣国セブンリに連れていくか考えている。
「ステフ王子との婚約破棄が堪えているのか・・・?」
ルカの言葉にココは目を見開いた。誰も知らないはずのステフとココの婚約。驚愕の表情を浮かべ、ココがルカに尋ねる。
「なぜ・・・そのことを・・・?」
ルカはまっすぐにココの目を見つめ、彼女の肩にそっと触れた。
「城に・・・知り合いがいてな。言うつもりはなかったんだが、落ち込むココを見ていたら放っておけなかった。」
―――これは賭けだ
ココはルカを友人と思っているが、心の底から信頼しているわけではない。過去の経験から、彼女は他人との間に明確な壁を作っている。その壁を崩すために、ルカは一歩踏み込んだ。
「そう・・・なのね。そう。ステフ王子と、婚約破棄することになって・・・。」
ルカが張り付けていた笑顔の仮面がぼろぼろと崩れる。
「ずっと辛かったな。」
ルカの言葉にココの目には涙が浮かんだ。いままでココは一度も、ステフとの婚約について他人に話たことはなかった。その喜びも痛みも、すべて胸の内に抱えて隠してきた。
「ルカ・・・。」
「よく頑張ったよ。」
ルカは言葉を重ねる。傷心のココの目を自分に向けさせるために。
「ずっとあの王子が好きだったんだろ?俺もずっとココだけを見ていたから・・・わかるよ。」
アリアはルカにココを監視し、そしてココを惚れさせるようにと命令していた。ルカは何度も彼女の心を奪おうと試みていたのだが・・・ココは決してステフ以外の人間に心動かされることはなかった。
―――でも今なら・・・ココを振り向かせられる
命令されているからではなく本心から、ルカはココに振り向いてほしかった。
「見ていた・・・?」
人の気持ちに疎いのは、ステフだけではなくココも同じ。傍にいるルカの気持ちにココは全く気が付いていなかった。
「俺はあいつの代わりにはなれないけれど、ココの傍にずっといられる。俺はココが好きだ。」
ルカはココの手に触れる。
「・・・!」
その手を振り払うことができず、ココは目を見開いた。
「俺と一緒に、隣国セブンリに行かないか・・・?俺の知り合いにはやり病を研究している先生がいるんだ。」
「はやり病の研究・・・。」
「その先生が、数人の助手を募集している。ココのことを言ったら、ぜひ君も助手に欲しいと言っていたんだ。」
「まぁ。」
ルカの言葉は全て口から出まかせ。ココを騙してセブンリ国に連れていくための嘘。
だがルカは、ココから目を離さずに真剣な表情でココに言う。
「セブンリ国でなら、ココの夢を一緒に追いかけられると思うんだ。」
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