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11.手放したら・・・後悔する?

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理事長室を出ても、ステフは理事長の言葉が頭から離れなかった。

”素直に思いを伝えることも大切だと思うがね”

―――このまま気持ちを伝えずにココを手放せば、後悔するんじゃないか。

そんな思いがステフの胸によぎっていた。ぼんやりと学院を歩き回り、ココの姿を探す。

「ココ・・・。」

教室の一室で、ステフはココを見つけた。彼女はルカと二人で楽しそうに話をしていた。

―――なぜ・・・

ステフの心に嫉妬心と悲しみが襲ってきた。手放したのは自分だ。わかっている。だがそれを目の当たりにするとひどく心が痛んだ。

ココに声をかけずにその場を後にしようとすると、
    
「ステフ!」

ステフに気が付いたらしい、ココが部屋から出てきた。部屋の奥にいるルカが険しい顔でステフを睨みつけている。

「どうしてここに?」

嬉しそうに笑って、ココは尋ねた。

「少し理事長と話をしてきたんだ。」

「話・・・?」

「ああ。君がどんな進路を選んだとしても困ることがないようにね・・・。婚約破棄したとしても、何も心配することはないよ。」

ココは顔を伏せた。ステフが資金的援助をしていることをココはうすうす気づいている。

「ずっと・・・ステフに助けられてばかりね。」

「当然だよ。ココがいなければ、僕は今生きているかもわからないんだから。」

ステフの言葉にココは首をふった。

「もう、10年以上前の話よ。もう過去にとらわれなくていいのよ。」

ステフを見つめるココのまなざしは強い。

―――過去にとらわれたふりをしてココから離れられないのは僕自身だ。

「いいや。僕はずっとココに・・・感謝し続けるし、君に危機が訪れたら、絶対に助けに行くよ。」

ココはステフの命の恩人。全身にやけどの痕が残っても、ココは一度もステフを責めなかった。その心の清らかさにステフは惹かれてやまない。

「私も…何度だってあなたを助けたいわ。」

ステフを見つめるココの目が揺れる。ココが今何を考えているのかステフにはわからない。

「ありがとう・・・。」

ステフは思わず、ココの右額に残る火傷の痕に触れた。そのあとを見るたびにステフはココをより愛しく感じるのだ。

「ねぇ、ステフ。もしもあの時婚約していなかったら・・・私たち今頃どんな関係だったかしら。」

”好きな人ができたら婚約破棄”だなんて馬鹿げた約束。

―――あんな契約をしていなければ僕はココに好きと言えたのだろうか。

「・・・どうだろうな。」

「ねぇ、ステフーー。」

ココが何か言いかけたとき

「ココ。」

遠くでステフとココを見守っていたルカが、ココの名前を呼んだ。

「もうそろそろ授業の時間じゃないか?」

「あ・・・そうね。」

ココははっとした顔でルカを見上げた。

「じゃあ・・・私もう行くね。」

「ココ・・・何を言いかけたんだ?」

何か大切なものを聞き逃してしまった気がして、ステフはココの腕をつかんだ。

―――まだ、間に合うのか?

だがココはステフの腕を優しく外して、笑った。

「幸せになってね・・・ステフ。貴方の婚約者でいるのはとっても幸せだったけれど・・・少し苦しかったわ。」

ルカと共にその場を立ち去るココをステフは呆然と見つめていた。



    ◇◇◇

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