バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan

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第31話 捏造された危機と、真実の号外

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「……おかしいですね」
学園祭の午後。
マイルズたちの「魔法劇場」は、午前中の爆発的な盛況が嘘のように、客足が途絶え始めていた。
代わりに、廊下を行き交う生徒たちのヒソヒソ話が耳に入ってくる。
「おい、聞いたか? あのポップコーン、魔物の油で揚げてるらしいぞ」
「映写機から出る光を浴びると、寿命が縮むって噂だ」
「保健室に、腹痛を訴える生徒が運ばれたって……」
悪質なデマ。
根拠のない噂が、伝染病のように学園中に広がっていた。
「……古典的だが、効果的な手だ」
マイルズは、誰もいない客席で呟いた。
「恐怖と健康被害を煽れば、人は簡単に離れる。……オスカー副会長の仕業だな」
「悔しいです! せっかくみんな楽しんでくれていたのに!」
シャルロットが涙目で叫ぶ。
「私の映写機は安全だよ! ポップコーンだって、最高の油を使ってるのに!」
「分かっているよ、シャルロット」
マイルズは彼女を宥め、部屋の隅に控えていた一人の女子生徒に声をかけた。
眼鏡をかけた、小柄だが目つきの鋭い少女。
新聞部部長、マリーだ。
「……マリー部長。準備は?」
「バッチリよ、マイルズ君」
マリーはニヤリと笑い、インクで汚れた指を立てた。
「あんたの予言通り、副会長の手下が校内でビラを撒いてる現場、ウチの部員が押さえたわ。……『証拠写真』も撮れた」
マリーが取り出したのは、シャルロットが開発した試作段階の「魔導写真機」で撮影された、不鮮明ながらも決定的な一枚。
オスカーの取り巻きが、「腹痛を訴える演技」の打ち合わせをしている場面だ。
「よし。……反撃開始だ」
マイルズは号令を出した。
「噂には事実をぶつける。……新聞(メディア)の力を、彼らに教えてやろう」

その頃。
講堂の裏手で、オスカーはほくそ笑んでいた。
「ククク……。ざまあみろ、バーンズ。客がいなくなれば、売上勝負はお前の負けだ」
彼は懐から、さらに追い打ちをかけるための魔道具を取り出した。
『暴走の札』。
これを映写機に貼り付ければ、魔力回路がショートし、小爆発を起こす。
そうすれば、「事故」としてマイルズたちを退学に追い込める。
「仕上げだ。……私が直々に引導を渡してやる」
オスカーが動き出そうとした、その時。
カラン、カラン、カラン!!
校舎中に、激しい鐘の音が響き渡った。
「なんだ!?」
直後、廊下の向こうから、新聞部の腕章をつけた生徒たちが、大量の紙束を抱えて走り出してきた。
「号外ーっ! 号外だよーっ!」
「学園祭を狙う卑劣な罠! その真実をスクープ!」
「生徒会副会長、デマ工作に関与か!?」
「……は?」
オスカーが呆気に取られている間に、新聞は生徒たちの手に渡っていく。
マイルズが銀翼商会から導入した「ガリ版印刷機」によって、短時間で大量に刷られた速報紙だ。
そこには、デカデカとした見出しと共に、あの「証拠写真」が掲載されていた。
記事には、デマの内容が科学的に否定されているだけでなく、オスカーの指示で動く生徒たちの証言まで載っている。
「おい見ろよこれ、サクラだったのかよ!」
「腹痛なんて嘘じゃん! 騙された!」
「卑怯だぞ生徒会!」
一瞬にして、風向きが変わった。
不安は怒りへ。疑念は確信へ。
生徒たちの視線が、廊下に立っていたオスカーに突き刺さる。
「ち、違う! これは捏造だ! バーンズの陰謀だ!」
オスカーが叫ぶが、誰も聞く耳を持たない。
「証拠なら、まだありますよ」
背後から声がした。
マイルズだ。
彼の手には、もう一つの「号外」が握られていた。
「先輩。……その懐に入れている『暴走の札』。校則で禁止されている違法魔具ですよね?」
「なっ……!?」
オスカーが慌てて懐を押さえる。それが、何よりの自白だった。
「この記事も刷りましょうか? 『副会長、テロ未遂』という見出しで」
マイルズは冷酷に微笑んだ。
「それとも、大人しく負けを認めますか?」
「お、おのれぇぇぇ!」
オスカーは理性を失った。
「黙れ黙れ黙れ! こうなれば、本当に爆発させてやる!」
彼は札を取り出し、マイルズに向かって特攻しようとした。
「やめなさい!」
氷のような一喝が、廊下を凍らせた。
生徒会長、エレオノーラ・ローズベルクだ。
彼女の後ろには、新聞を読んだ風紀委員たちが控えている。
「か、会長……! これは違うんです、こいつが……!」
「見苦しいですわよ、オスカー」
エレオノーラは、軽蔑しきった目で副会長を見下ろした。
「貴方のやったことは、全てこの新聞に書かれています。……裏取りもしましたわ」
彼女はマリー部長から提供された証拠資料(録音魔具など)を持っていた。
「神聖な学園祭を汚し、あまつさえ生徒を危険に晒そうとするなど……。生徒会の恥です。連れて行きなさい」
「は、離せ! 俺は公爵家の息子だぞ! 父上が黙っていないぞ!」
オスカーは風紀委員に引きずられ、情けない悲鳴を上げながら退場していった。
廊下には静寂が戻り、やがて生徒たちから拍手が巻き起こった。
「やったぞ! 正義は勝った!」
「映画を見に行こうぜ!」
マイルズは、エレオノーラに向き直った。
「……公正なご処断、感謝します。会長」
「勘違いしないでください」
エレオノーラは顔を背けた。
「私は不正を正しただけ。……それに、貴方のやり方も気に入りませんわ。新聞を使って大衆を扇動するなど」
「事実は事実として伝えたまでです」
「……フン」
エレオノーラは、マイルズの方を見ずに、小さな声で言った。
「……今回の勝負、貴方の勝ちでいいわ」
「え?」
「売上でも、情報の速さでも、完敗ですもの。……約束通り、予算の管理権限の一部について、貴方の意見を聞いてあげてもよくてよ」
それは、彼女なりの精一杯のデレ……いや、譲歩だった。
彼女の耳が、髪の隙間から赤く染まっているのを、マイルズは見逃さなかった。
「ありがとうございます。……では、早速ですが相談が」
「な、何よ? 今すぐ?」
「ええ。ローズベルク家の『財政再建』についてです」
マイルズの言葉に、エレオノーラの肩がビクリと跳ねた。
「な、なぜそれを……!」
「新聞部は優秀ですから」
マイルズはマリーにウィンクした。
学園祭は、マイルズの完全勝利で幕を閉じた。
そして、物語は「学園」から「公爵家」の問題へと、深く切り込んでいくことになる。
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