没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan

文字の大きさ
29 / 54

第29話 飽和する港と、液状の石(ローマン・コンクリート)

しおりを挟む


 東方貿易の開始から一ヶ月。
 ベルナ港は、嬉しい悲鳴を通り越して、断末魔のような悲鳴を上げていた。
「若様! もう限界だ! 船を止める場所がねえ!」
 港湾組合長のゲンが、執務室に駆け込んできた。
 窓から見下ろすと、港は「船の渋滞」で埋め尽くされていた。
 銀鱗商会の輸送船、海軍の補給艦、そして東方からの交易船。さらに、新聞で噂を聞きつけた近隣の漁船まで押し寄せ、沖合には入港待ちの船が長蛇の列を作っている。
「桟橋(さんばし)を増やす計画はどうなってる?」
「やってるさ! だが追いつかねえんだよ!」
 建設棟梁のゴンゾも、図面を叩きつけて嘆いた。
「海の中に杭を打って、石を積むんだぞ? 一本の桟橋を作るのに、熟練の石工を集めても三ヶ月はかかる。今のペースじゃ、拡張が終わる頃には船が腐っちまう!」
 石積み建築の限界だ。
 石を切り出し、運び、海中で積み上げる。それは途方もない労力と時間を要する。
 木造の桟橋では、大型船の重量に耐えられないし、フナクイムシ(木を食べる貝)に食われてすぐに腐る。
「……石を積むのが遅いなら、作ればいい」
「あぁ? 石を作るだぁ?」
 ゴンゾが呆れた顔をする。
 私は地図を広げた。ベルナ領の北にある火山地帯。そこから流れてくる川の土砂。
「ゴンゾ。お前の部下たちに、北の山から『灰色の砂(火山灰)』を大量に運ばせてくれ。それと、石灰岩を焼いた『消石灰』だ」
「なんだそりゃ。漆喰(しっくい)でも作るのか? 壁を塗っても桟橋にはならねえぞ」
「壁じゃない。……『液状の石』を作るんだ」
          ◇
 翌日、港の一角で実験が行われた。
 用意したのは、火山灰、消石灰、そして砂利。
 これらを一定の比率で混ぜ合わせ、そこに海水を加える。
「……ただの泥遊びに見えるがな」
 ゴンゾが腕を組んで見ている前で、私はドロドロになった灰色の液体(スラリー)を、木枠の中に流し込んだ。
「これが『ローマン・コンクリート』だ」
 私は説明した。
 古代の帝国が、二千年経っても崩れない水道橋や港を作った魔法の素材。
 火山灰に含まれる成分(ポゾラン)が、石灰と化学反応を起こし、水の中で硬化する性質を持つ。
 現代のポルトランドセメントよりも硬化は遅いが、海水に対する耐久性は最強クラスだ。
「これを木枠に流し込めば、どんな形の石でも作れる。……三日待ってくれ」
          ◇
 三日後。
 木枠を外したそこには、カチカチに固まった灰色のブロックが鎮座していた。
「おいおい……本当に石になっちまったぞ」
 ゴンゾが恐る恐る触れる。冷たく、硬い。
 彼は大ハンマーを持ち出し、フルスイングで叩いた。
 ガァァァン!!
 火花が散り、ハンマーが跳ね返された。
 ブロックには傷一つついていない。
「……嘘だろ!? 花崗岩より硬えじゃねえか!」
「これがコンクリートだ。しかも、海水に浸かれば浸かるほど、化学反応が進んでさらに硬くなる」
 私は海を指差した。
「これなら、石工が石を削る必要はない。木枠(型枠)を海に沈め、その中にこのドロドロを流し込むだけだ。一日で桟橋の土台ができる」
「一日で……!?」
「それに、これを見てくれ」
 私はもう一つの木枠――四本の脚が突き出した、奇妙な形のブロックを指した。
 『消波ブロック(テトラポッド)』だ。
「この形のブロックを沖合に沈めれば、波のエネルギーを分散させて打ち消すことができる。これで港を守る『防波堤』を作る」
 ゴンゾの目が、職人の熱を帯びた。
 彼は震える手で、私の肩をガシッと掴んだ。
「若様……あんた、天才か悪魔かどっちだ? こんな魔法を使われたら、俺たち石工の常識がひっくり返っちまう!」
「技術屋だよ。……さあ、忙しくなるぞ。港を今の三倍に拡張する。海を埋め立てて、新しい『人工島』を作るんだ」
          ◇
 それからのベルナ港は、建設ラッシュに沸いた。
 蒸気機関で駆動するミキサー車(巨大な樽を回す荷車)が走り回り、次々とコンクリートが海へ流し込まれる。
 あっという間に新しい桟橋が伸び、防波堤が築かれていく。
 一ヶ月かかるはずの工事が、三日で終わる。
 その光景を見て、ゲンが涙を流して喜んだ。
「すげえ……! どんどん地面が増えていく! これなら千隻来ても大丈夫だ!」
 だが、私の計画はこれだけでは終わらない。
 埋め立てて作った広大な土地。
 そこに建てるのは、平屋の小屋ではない。
 人口増加に対応するための、高層建築だ。
「コンクリートだけじゃ、引っ張る力に弱い。……ゴーディ、出番だ」
 私は工廠長を呼んだ。
「鉄の棒を作ってくれ。表面にデコボコをつけた『異形鉄筋(リバー)』だ」
 コンクリートの中に鉄筋を通すことで、圧縮にも引張にも強い最強の建材『鉄筋コンクリート(RC)』が完成する。
 これで、ベルナ領に「摩天楼」が生まれる準備が整った。
 しかし、急激な都市化は、新たな問題を引き起こす。
 人々が密集すれば、ストレスが溜まり、衛生環境も悪化する。
 仕事終わりに汗を流し、裸で語り合える場所が必要だ。
 建設と並行して進める「癒やし」の計画。
 
 ローマと言えば風呂。
 テルマエ・ベルナの建設です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~

ぱすた屋さん
ファンタジー
ギルドの受付嬢アイラは、冒険者たちから「鉄の女」と呼ばれ、畏怖されている。 絶世の美貌を持ちながら、常に無表情。そして何より、彼女は窓口から一歩も動かない。 彼女の前世は、某大手企業のコールセンター勤務。 営業成績トップを走り抜け、最後には「地獄のクレーム処理専門部署」で数多の暴言を鎮めてきた、対話術の怪物。 「次の方、どうぞ。……ご相談ですか?(クローズド・クエスチョン)」 転生した彼女に備わったのは、声の「真偽」が色で見える地味な能力。 だが、彼女の真の武器は能力ではなく、前世で培った「声のトーン操作」と「心理誘導」だった。 ある日、窓口に現れたのは「相棒が死んだ」と弔慰金をせしめようとする嘘つきな冒険者。 周囲が同情し、ギルドマスターさえ騙されかける中、アイラは座ったまま、静かにペンを走らせる。 「……五秒だけ、沈黙を差し上げます。その間に、嘘を塗り直すおつもりですか?」 戦略的沈黙、オウム返し、そして逃げ場を塞ぐイエス・セット。 現代のコールセンター術を叩きつけられた犯人は、自らその罪を吐き散らし、崩れ落ちる。 「あー、疲れた。一五分も残業しちゃった。……マスター、残業代三倍でお願いしますね」 これは、一歩も動きたくない受付嬢が、口先だけで悪を断罪し、定時退勤を目指す物語。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...