愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ

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完結

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 晴天広がる麗らかな昼下がり。春の陽気のおかげが街には穏やかな空気が漂っている。
 そんな中、連城家未子の自宅では怒号が響き渡っていた。
「おい! クソ野郎!」
「セナ、おかえり。どうしたんだ? 可愛い顔して」
「うるせえ! これは! どういうことだ!」
 帰宅早々、怒号を響かせるは連城セナ。昨年連城家未子の志貴と婚姻を結び番った者である。
 セナは華奢な肩をいからせながら、優雅にコーヒーを飲んでいた志貴に詰め寄った。その際、手にしていた本を志貴へと投げつける。
「――これはっ」
 志貴が表紙を目にし、目を見開く。その表情は驚きそのものだが、声は棒読みである。
「それは! なんなんだよ!」
「前にラノベも書かないかって誘われて書いた本だな。人気が出て今はシリーズ化している」
「そんなことは聞いてねえんだよ! 中身だよ中身!」
 セナは思った反応を寄越されなかったためか、地団駄を踏む。
 例の本は、志貴が別名で出版しているライトノベルの一巻だ。初めて書いたラノベではあったが、予想に反し人気が出て、今ではアニメ化もされている。根強いファンのおかげである。
 ちなみに内容は、男同士の恋愛もの。アルファの御曹司とオメガになってしまった天涯孤独の男たちの話である。
「誰が俺のこと書いていいって許した!?」
「お前」
「…………ぁ?」
 セナはまたも思った反応を寄越されなかったためか、素っ頓狂な声を出した。
「セナに俺たちの半生を後世に残したいって話したら良いなって。七割真実で三割はフィクションだ」
「いや、知らねえよ。そんなの聞いてねえもん」
「俺が覚えているから大丈夫だ」
「大丈夫じゃねえよ!」
 例え本当に、何かの気の迷いでゴーサインを出したとしても、自分たちの出会いから今までを本にされて平然としていられない。しかもすでに五巻まで出ている。三割はフィクションだと言うが、全て自分たちのことだと分かる内容だった。全部読んだから間違いない。本を読むことが苦手なセナなのに、面白くて一気に読み進めてしまったのだ。
「今すぐやめろよな。今出てるのも回収しろよ」
「まあ、お前が本気で嫌なら仕方ない。はい」
 志貴に手招きされ近付けば、スマホの画面を見せられる。そこにはセナ名義の口座の現在高が映っていた。
 ゼロが多いセナも知らない口座だ。
「なにこれ」
「この本による収入だ。お前との幸せを残したくて書いてるだけだし、お前がいなきゃ書けないものだからな。新しく作ったセナの口座に全部入れているんだ」
「……全部」
「お前のものだぞ。まあ俺が持つものは元々全部お前のでもあるけど」
 ゼロが多い。
 セナは口座に釘付けになった。
「セナが嫌がることはしないと決めているから。今すぐ回収するように言うよ」
 志貴に抱き寄せられ、顔中にキスをされる。口内を舐められても口座から目が離せなかった。舌を吸われ歯列をなぞられ唾液を交換しても、目が離せなかった。
「ん、……ん」
「セナ? キスに集中してく、っ痛!?」
 セナは思い切り志貴の舌を噛む。
「っなん! 噛ん……っ痛い!」
 悶絶する志貴を見下ろし、セナはやっぱり怒鳴る。
「馬鹿! 二度と俺の目に入らないようにしろ!」
 どうとでも取れるその曖昧な啖呵、志貴は正しく読み取る。
「分かった。どうせ圭人にバラされたんだろ? ちゃんと気を付けるよう言っておく」
「……そうしろ」
「何か書いて欲しいジャンルはあるか? お前のためかはどんなジャンルも書いてやれる」
「じゃあファンタジーもの。あんなのでも普通に面白かったから、ドキドキワクワクするようなの読みたい」

 アルファの御曹司とオメガになってしまった天涯孤独の男の話。お笑い要素もあり感動部分もあるそれは、読者の心を鷲掴み長く愛されることとなる。
 そして、セナが軽く答えたファンタジー小説は発売から十年、各国で爆発的な大ヒットととなり、実写映画化、大手遊園地とのコラボをすることとなる。
 
「番が喜ばないとヒット作が書けなくなるなんて、あんなのと番になった弊害ですね」
 そんな関係者の呆れは、ファンにも当事者にも知られることはなかった。
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