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17.画策と思惑
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「はっ」
ミラヴェルが読み終わったと同時に笑いが出た。
「なるほど。そんなに僕を種馬にしたいのか。犯人はミラヴェルとの婚姻を最後まで反対していた奴らだろう」
「メリル待て、まだ何の証拠もない」
今すぐにでも捕らえてやろうというメリルに、皇帝から制止が掛かる。周囲もそれに同意する。
「証拠など作ればいい」
「メリル」
一触即発だったが、鏡からまた違う音が響きそれは霧散する。
ミラヴェルの入ったガラス内に、水が入り込んでいたのだ。すぐに仕組みを理解し、メリルからは舌打ちが出た。
皇帝も察したらしく、説明するように口にした。
「メリルが女を抱かなければ、水を止められないということか。ミラヴェルは足枷がつけられている。ガラス内が満水になれば息が出来ず死ぬ」
「なんと!」
「惨すぎる……、なぜ、妃殿下が」
「だが、犯人はどうやって殿下が女性を抱いたと判断出来るんでしょう。この近くに、犯人がいるということでしょうか。それとも人前で抱かせようと?」
一人が考え込むように呟いた。それに答えたのは、女性の得意気な声だった。
「私から説明いたします」
淡い金髪に青い瞳を持った女が入室してきた。誰もが彼女の登場に困惑や胡乱な視線を向ける。
「殿下が私を求めていると聞きました。偉大なる殿下の、胎の役目を立派に務めてみせます」
女はペラペラと話し出した。この場に誰がいるのか分かっているのかいないのか、あまりにも堂々とした振る舞いに感心しそうになる。
「私の胎には式が込められています。中に種を受けた瞬間、妃殿下へと流れる水が止まるようになっています。水は一時間で妃殿下の鼻まで溜まります。妃殿下を救うには、一時間以内に、殿下は私を抱き、種を注ぐ必要があるのです」
周囲が驚愕に息を詰まらせた。
聞いただけで多くの高度魔法が使われている。魔石に式を込められるのは魔法使いだけ。だが、魔法使いが帝国を敵に回すようなことはしない。きっと上手く使われただけだろう。
犯人がどれほど自分に後継を望んでいるかよく分かる。最悪、死刑になることも頭に入れているだろう。例え自分が死んだとしても皇太子に後継を作らせたい。その狂気な願望に吐き気がする。
「お前が知らされたことはそれだけか?」
「はい。殿下に悩んでいる時間はないのでは? 私は殿下が相手であれば、ベッドの上でなくても良いですが」
「はは、気色悪いなぁ」
「……私は自分の美しさを理解しております。妃殿下よりも」
女は笑顔を浮かべてはいるが、その眉根は若干寄せられている。怒りを堪えているようだ。
「妃殿下に似ているでしょう? よく周りからも言われるんですよ。輝く白金の髪と青い瞳が、あの方に似て美しいと」
どこが似ているのか。髪色も瞳の色も何もかもが違う。ミラヴェルの美しさは外見と中身が合わさってより輝く。好奇心旺盛で前向きで、とにかく頑張ろうと惜しみなく努力が出来て、当たり前のように人を気遣えて頼れる。出来ないことより出来ることから考え出す。自分のことよりも相手の幸せを心から願える人だ。間違っても人を陥れることに加担することはない。
内面の折れない真っ直ぐな美しさが、容貌にも出ているのだ。
目の前の醜い人間と一緒にするとは、ミラヴェルへの侮辱に等しい。
「それ以上口を開くな。不愉快だ」
「ふふ。だからきっと、私たちの子どもは妃殿下に似るでしょう。ご自分が産んだと勘違い出来ると思いますよ」
「……」
女が首を傾げながら微笑んだところで、鏡の中から自分の名前を呼ぶ声がした。
ミラヴェルが読み終わったと同時に笑いが出た。
「なるほど。そんなに僕を種馬にしたいのか。犯人はミラヴェルとの婚姻を最後まで反対していた奴らだろう」
「メリル待て、まだ何の証拠もない」
今すぐにでも捕らえてやろうというメリルに、皇帝から制止が掛かる。周囲もそれに同意する。
「証拠など作ればいい」
「メリル」
一触即発だったが、鏡からまた違う音が響きそれは霧散する。
ミラヴェルの入ったガラス内に、水が入り込んでいたのだ。すぐに仕組みを理解し、メリルからは舌打ちが出た。
皇帝も察したらしく、説明するように口にした。
「メリルが女を抱かなければ、水を止められないということか。ミラヴェルは足枷がつけられている。ガラス内が満水になれば息が出来ず死ぬ」
「なんと!」
「惨すぎる……、なぜ、妃殿下が」
「だが、犯人はどうやって殿下が女性を抱いたと判断出来るんでしょう。この近くに、犯人がいるということでしょうか。それとも人前で抱かせようと?」
一人が考え込むように呟いた。それに答えたのは、女性の得意気な声だった。
「私から説明いたします」
淡い金髪に青い瞳を持った女が入室してきた。誰もが彼女の登場に困惑や胡乱な視線を向ける。
「殿下が私を求めていると聞きました。偉大なる殿下の、胎の役目を立派に務めてみせます」
女はペラペラと話し出した。この場に誰がいるのか分かっているのかいないのか、あまりにも堂々とした振る舞いに感心しそうになる。
「私の胎には式が込められています。中に種を受けた瞬間、妃殿下へと流れる水が止まるようになっています。水は一時間で妃殿下の鼻まで溜まります。妃殿下を救うには、一時間以内に、殿下は私を抱き、種を注ぐ必要があるのです」
周囲が驚愕に息を詰まらせた。
聞いただけで多くの高度魔法が使われている。魔石に式を込められるのは魔法使いだけ。だが、魔法使いが帝国を敵に回すようなことはしない。きっと上手く使われただけだろう。
犯人がどれほど自分に後継を望んでいるかよく分かる。最悪、死刑になることも頭に入れているだろう。例え自分が死んだとしても皇太子に後継を作らせたい。その狂気な願望に吐き気がする。
「お前が知らされたことはそれだけか?」
「はい。殿下に悩んでいる時間はないのでは? 私は殿下が相手であれば、ベッドの上でなくても良いですが」
「はは、気色悪いなぁ」
「……私は自分の美しさを理解しております。妃殿下よりも」
女は笑顔を浮かべてはいるが、その眉根は若干寄せられている。怒りを堪えているようだ。
「妃殿下に似ているでしょう? よく周りからも言われるんですよ。輝く白金の髪と青い瞳が、あの方に似て美しいと」
どこが似ているのか。髪色も瞳の色も何もかもが違う。ミラヴェルの美しさは外見と中身が合わさってより輝く。好奇心旺盛で前向きで、とにかく頑張ろうと惜しみなく努力が出来て、当たり前のように人を気遣えて頼れる。出来ないことより出来ることから考え出す。自分のことよりも相手の幸せを心から願える人だ。間違っても人を陥れることに加担することはない。
内面の折れない真っ直ぐな美しさが、容貌にも出ているのだ。
目の前の醜い人間と一緒にするとは、ミラヴェルへの侮辱に等しい。
「それ以上口を開くな。不愉快だ」
「ふふ。だからきっと、私たちの子どもは妃殿下に似るでしょう。ご自分が産んだと勘違い出来ると思いますよ」
「……」
女が首を傾げながら微笑んだところで、鏡の中から自分の名前を呼ぶ声がした。
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