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3.パーティーに潜入した先で
しおりを挟む叫びそうになった口元を覆われて体に力が入る。だが、「静かにしろ」と耳元で囁かれた声に覚えがあり緊張が解ける。
「……王弟殿下、何の用ですか」
予想通り、相手はルカ・ランベール。前回の私服姿とは違い、今は騎士団の制服を着ている。完全に職務中だろう。俺に気付くこともそうだが、見付けるたびに人を引っ張る意味が分からない。
「それは俺のセリフだ。また変装して、もしかしてパーティーに参加していたのか?」
信じられない、と言いたげな表情をされる。何となく次に続けられる反応が予想出来たので、否定するように口を開く。……が、ルカの方が早かった。
「お前は見た目年齢こそ今日の出席者と変わらないが、実年齢はもう三十七だ。招待状まで用意して、そんなに若い者に混じりたかったのか?」
最悪な勘違いをされて最悪な気分だ。
嘆かわしいと目で言われる。
「違う。若い奴らに混じりたくて来たわけじゃない」
「なら何の用で?」
これがルカの本題だろう。俺が若い奴らに混じりたいが為に来たと思っていないくせに、嫌味を言いたかったらしい。
「俺の勝手だろう。お前には関係ないから気にするな」
「気にするに決まっている。お前は俺が知る中で一番、狡猾で簡単に他者を踏み躙る人間だ。目的のためならどんな手段も取れる。そんな奴が皇都にいるんだから、警戒して当然だ」
「団長のくせに人の評価は苦手なんだな? 部下が可哀想だ。俺は優しいとよく言われる。俺を女神と言う人間だっているくらいだ」
それを言うのは家族とオリヴィア、そして目を掛けている従者たちだけだが。ちなみに俺を「月の女神様」と言ったのは学生時代のオリヴィアだ。
「学生時代から知っている。この前だって、皇太子から逃げ出すためだけに俺とキスをしたくせに」
「残念だがあれはお前が悪い。本当は頬にキスをするつもりだった」
「そうか。で? この前から何をするために皇都に?」
「そんなに俺の行動が気になるか?」
俺は呆れる。
ルカは学生時代から俺を嫌っていた。大した関係もないのに、だ。同じクラスではあったが、必要以上に話すことはなかった。
俺は確かに幼少期から狡賢く、評判を落とさない程度に悪事を働いてきた。学生時代だってそうだ。俺が首謀者だとバレるようなことはしていないのに、野生的な勘が冴えているのかルカは俺の本質を見抜き、嫌悪していた。証拠がないため目立って俺を非難することはなかったが、よく冷めた瞳を向けられたものだ。しかもいつからか学園で何か起こる度に、自分なりに状況を分析し俺を何とか首謀者に繋げては「お前は何がしたいんだ?」と聞いてきた。卒業し裏方に回るようになっても、顔を合わせる度に突っ掛かってこられた。
「気になるから聞いている。変装している理由は?」
「答える義務はない」
「これは不審者に対する尋問だ。お前は怪しい。招待客の中にお前みたいな容貌はいない。お前が持って来た招待状と照合しても良い。正体を明かさないならこのまま留置所に連行する」
「そんなに俺と一緒にいたいのか?」
正体を隠している以上、正論を覆すことは難しい。俺は煽り方を変えて切り抜け方を思案する。
「はっ。そうだな。あの日、皇太子には特別な相手だと伝えるしかなかった。俺は嫉妬深いから名前も教えたくないと。そんな相手が今目の前にいるんだ。離れたくないに決まっているだろう?」
あの日、予想通りルカは俺の正体を明かさずに対処したらしい。安堵すると共に、王弟殿下に熱烈な相手が出来たことに笑いそうになる。皇室に無駄な争いを招かないために貴族とは距離を置き、特定の相手を作らずにいると聞いていたのに、俺のせいでルカの今までの努力は無駄になったのだ。
「皇帝陛下からは相手を紹介するよう言われて散々だった。結婚式を盛大に挙げてくれるそうだ」
「ははは、そうか。相手を知りもせずに我らの皇帝陛下は結婚を認めて下さっているのか」
「あぁ。俺が独りでなくなるなら、性別は気にしないらしい」
「兄弟想いだな。式の日取りが決まったら教えてくれ。俺はそろそろお家に帰るよ。騎士団長を独占しているのも申し訳ないからな」
俺の腕を掴む手を離そうと手を添える。力では敵わないためルカが自ら離すのを待つしかない。
「結局理由は言いたくないんだな?」
「元々の身分だとお前に近付くことも出来ないから」
自分なりに無邪気な笑顔を作って見せれば、ルカは大袈裟なほどの溜め息をした。ようやく拘束が解ける。
「今度は皇都にある俺の別邸に来い」
突然甘ったるく聞こえる声音になった。一瞬訝しむが、こちらの会話が聞こえる距離に誰かが来たのだろう。
「分かりました。仕事の邪魔してすみません」
「今は交代時間だから気にするな。部屋の中なら、好きなだけ俺を堪能して良い」
わざとリップ音を立ててまた唇にキスをされる。
俺は周囲にバレたくないからこの演技に乗るが、ルカは何の理由があるのか分からない。
「そうします。待ってますね」
「あぁ、気を付けて、愛しい人」
人の気配がないところを選び、城から離れる。
きっと愛しい人がいると見せ掛けたい理由があるのだろう。ルカの事情まで気にしている暇はないため、俺はすぐにルカのことは頭から追い出した。
一度ホテルに戻って、翌日から公爵邸に戻るつもりである。
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