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15.ストーリーの始まり
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一通の手紙を受け取る。真っ黒な封筒に金のインクで『同志様』と書かれているだけのそれ。中身は外側と違い安物の紙が使われている。
簡潔な内容を読み終わってから、俺は小さく笑う。
舞台は全て整い、登場人物たちは心構えを決めた。
あとは、ストーリー通りに進むだけだ。
本日は月のない夜。人工的な灯りがない場所は暗闇に襲われ、人の目を無意味にさせる。市街地の外れともなればより顕著だ。
だが、悪事を働くにはもってこいの日でもある。
旧市街地のとある古びた劇場。そこは劇団員やオペラ歌手が練習のため借用する以外で使われることは少ない。
今日も劇場は真っ暗だ。ただ、その中では顔を隠した多くの客が席を埋めている。中央のホール、メインライトのみがステージを照らしていた。
「お集まりの皆様、長らくお待たせいたしました。ただいたより、オークションを開始いたします」
ふくよかな壮年の支配人が客席に向かって深々と頭を下げる。大きな声量ではなかったが、静まり返ったここでは十分だった。自分の声の通りやすさをよく分かっているのだろう。無駄に聞き心地が良い。
俺は舞台袖からその様子を眺めながら、売られていく商品に感心する。
『王女の涙』は剣の形に加工されたサファイアだ。夫の浮気に激怒した元王女がそれを使い殺害した曰く付きである。半世紀前の出来事だが、紛失されたと聞いていた。
『魔物の心臓』はその名の通り魔物の心臓だ。魔物の全ては毒や薬になるため原物は一般人の手に渡ることを禁止している。許可を得た者しか扱ってはいけない。
『元令嬢』は最近没落した田舎貴族の娘だ。借金のために売られたのだろう。
次々と売られていく商品は、どれもどのように手に入れたか気になるものばかり。俺も欲しいと思うくらいだった。
さすがは禁止されている物しか売り買いしない商団である。一夜でこれだけ盛況となると純利益が気になるところだ。盗難品から人まで商品の種類も幅広く、客はその価値を分かっているのかいないのか、湯水の如く金を注ぎ込んでいった。
「さあ、それでは次が最後の商品となります。私一推しでございます」
ついに、本日の目玉商品がステージに用意される。メインライトを真上から浴び、全客の視線に注目されるのは、『俺』だ。
「こちらは神に使える神官様でございますが、ただの神官ではございません。かの猊下に目を掛けていただいているのです」
『俺』の説明が始まると、客は静かに興奮し出す。かの猊下――パトリスは帝国民から絶大な人気を誇っている。お近つきになりたい人間は多いが、全てを神に捧げているため奴の特別になることは叶わない。だが、そのパトリスが目を掛けている人間を手元に置くことは、間接的にパトリスと繋がる感覚を持てる。
「こちらがその証明であります」
支配人が、俺の首に掛けられたネックレスを見せつける。それはパトリスが持つものと対になるものだ。パトリスの信者であれば必ず分かるだろう。
「この少年の真価はそれだけではございません」
頭から顔を覆っていたベールを取られると、静寂を保っていた客席から僅かな興奮が伝わってきた。
「輝くような銀髪、鮮やかな青いアーモンドアイ、生まれたての赤子のような絹肌、熟れた果実のような唇。神の最高傑作と言っても過言ではない美しさを持つのです。ちなみに、彼の全体像は落札者のみの特権とさせていただきました。この口元を覆うレースの内側は、ぜひお一人でお楽しみくださいませ」
ベールがなくなったおかげでクリアな世界が広がる。だが、客はアイマスクやベールで顔の半分以上を隠しており、暗いローブを羽織っているため誰が誰かは分からない。
俺は舞台袖から探していた目当ての人間に改めて視線を向ける。客席の後方、一番端に座る人間だ。ローブをすっぽりと被っているが、その目はしっかりと俺を見ていた。驚愕に固まっていることが窺える。
「この少年は全てが美しいのです」
支配人に目配せをされる。俺はレースで出来たワンピース型の衣服を纏っているだけだ。その裾を上げれば、下は裸となる。
俺は躊躇いなく腹の上まで裾を上げた。何にも覆われていないそこが大勢の客に晒される。
「ここの使用は?」
支配人は持っていた杖で俺の陰茎を弄る。杖の先で軽く持ち上げられた。
「……前も後ろも、未使用で、ございます」
指示通りの言葉を吐く。
俺も良い大人だ。前の使用経験はあるがどうせ誰も証明は出来ない。
裾を戻したところで支配人は説明に戻る。
「彼の体は落札者の方のみが知ることが出来ます。そして、彼の首輪には聖遺物の一部を使用しております。こちらは指輪と連動しており、指輪の持ち主の意のままに操ることが可能です。なので、落札すればご主人様が飽きるまでお好きに出来ますよ」
厳密に言えば、首輪は指輪の持ち主の意のままに形を変えられるだけだ。今は緩く首にあるだけだが、指輪を持っていれば締めることが出来る。首輪が掛かった人間の命を握っていると言える。しかも、首輪には繋ぎ目がないため指輪の持ち主以外に外せる方法はない。
「さあ、では一千から始めましょう」
客が札を上げてどんどん金額を吊り上げていく。パトリス信者と俺を好きにしたい層で分かれているようだ。
今までの商品と同じく盛り上がる会場だったが、一人の人間が発した一言に一瞬で静寂に戻った。皆が呼吸を忘れたと言われても納得出来る静けさだった。
支配人でさえ、瞠目している。
「聞こえなかったのか?」
支配人が落札の合図をしなかったため、その者は言葉を繰り返すしかなかった。
「最高金額を提示した者の倍額を払うと言ったんだ」
正直、俺も聞き間違いかと思った。だが、先程の言葉と一言も違っていない。客が最終的に提示した金額は一億だった。……その倍とは。
支配人はハッと意識を取り戻し、すぐに部下をその者へと派遣した。
「申し訳ございません。ただいまお客様の支払い能力の確認を致します。確認が取れるまで今しばらくお待ちくださいませ」
二億もの大金を支払えるか、確認出来ないことには支配人も簡単に落札の合図は出来ない。基本的にその場で確認をすることはないが、億を超えた場合は厳正なる審査が行われる。その前に、まずは人物像を知るための確認を行うらしい。
果たして支払い能力があると示せるだろうか。
部下が慌てて戻って来たと思えば、支配人に耳打ちをする。何を聞かされたのか、支配人は俺を勢いよく振り返った。
「……落札です!!」
響き渡る支配人の合図に、俺は満足気な表情を浮かべていた。
簡潔な内容を読み終わってから、俺は小さく笑う。
舞台は全て整い、登場人物たちは心構えを決めた。
あとは、ストーリー通りに進むだけだ。
本日は月のない夜。人工的な灯りがない場所は暗闇に襲われ、人の目を無意味にさせる。市街地の外れともなればより顕著だ。
だが、悪事を働くにはもってこいの日でもある。
旧市街地のとある古びた劇場。そこは劇団員やオペラ歌手が練習のため借用する以外で使われることは少ない。
今日も劇場は真っ暗だ。ただ、その中では顔を隠した多くの客が席を埋めている。中央のホール、メインライトのみがステージを照らしていた。
「お集まりの皆様、長らくお待たせいたしました。ただいたより、オークションを開始いたします」
ふくよかな壮年の支配人が客席に向かって深々と頭を下げる。大きな声量ではなかったが、静まり返ったここでは十分だった。自分の声の通りやすさをよく分かっているのだろう。無駄に聞き心地が良い。
俺は舞台袖からその様子を眺めながら、売られていく商品に感心する。
『王女の涙』は剣の形に加工されたサファイアだ。夫の浮気に激怒した元王女がそれを使い殺害した曰く付きである。半世紀前の出来事だが、紛失されたと聞いていた。
『魔物の心臓』はその名の通り魔物の心臓だ。魔物の全ては毒や薬になるため原物は一般人の手に渡ることを禁止している。許可を得た者しか扱ってはいけない。
『元令嬢』は最近没落した田舎貴族の娘だ。借金のために売られたのだろう。
次々と売られていく商品は、どれもどのように手に入れたか気になるものばかり。俺も欲しいと思うくらいだった。
さすがは禁止されている物しか売り買いしない商団である。一夜でこれだけ盛況となると純利益が気になるところだ。盗難品から人まで商品の種類も幅広く、客はその価値を分かっているのかいないのか、湯水の如く金を注ぎ込んでいった。
「さあ、それでは次が最後の商品となります。私一推しでございます」
ついに、本日の目玉商品がステージに用意される。メインライトを真上から浴び、全客の視線に注目されるのは、『俺』だ。
「こちらは神に使える神官様でございますが、ただの神官ではございません。かの猊下に目を掛けていただいているのです」
『俺』の説明が始まると、客は静かに興奮し出す。かの猊下――パトリスは帝国民から絶大な人気を誇っている。お近つきになりたい人間は多いが、全てを神に捧げているため奴の特別になることは叶わない。だが、そのパトリスが目を掛けている人間を手元に置くことは、間接的にパトリスと繋がる感覚を持てる。
「こちらがその証明であります」
支配人が、俺の首に掛けられたネックレスを見せつける。それはパトリスが持つものと対になるものだ。パトリスの信者であれば必ず分かるだろう。
「この少年の真価はそれだけではございません」
頭から顔を覆っていたベールを取られると、静寂を保っていた客席から僅かな興奮が伝わってきた。
「輝くような銀髪、鮮やかな青いアーモンドアイ、生まれたての赤子のような絹肌、熟れた果実のような唇。神の最高傑作と言っても過言ではない美しさを持つのです。ちなみに、彼の全体像は落札者のみの特権とさせていただきました。この口元を覆うレースの内側は、ぜひお一人でお楽しみくださいませ」
ベールがなくなったおかげでクリアな世界が広がる。だが、客はアイマスクやベールで顔の半分以上を隠しており、暗いローブを羽織っているため誰が誰かは分からない。
俺は舞台袖から探していた目当ての人間に改めて視線を向ける。客席の後方、一番端に座る人間だ。ローブをすっぽりと被っているが、その目はしっかりと俺を見ていた。驚愕に固まっていることが窺える。
「この少年は全てが美しいのです」
支配人に目配せをされる。俺はレースで出来たワンピース型の衣服を纏っているだけだ。その裾を上げれば、下は裸となる。
俺は躊躇いなく腹の上まで裾を上げた。何にも覆われていないそこが大勢の客に晒される。
「ここの使用は?」
支配人は持っていた杖で俺の陰茎を弄る。杖の先で軽く持ち上げられた。
「……前も後ろも、未使用で、ございます」
指示通りの言葉を吐く。
俺も良い大人だ。前の使用経験はあるがどうせ誰も証明は出来ない。
裾を戻したところで支配人は説明に戻る。
「彼の体は落札者の方のみが知ることが出来ます。そして、彼の首輪には聖遺物の一部を使用しております。こちらは指輪と連動しており、指輪の持ち主の意のままに操ることが可能です。なので、落札すればご主人様が飽きるまでお好きに出来ますよ」
厳密に言えば、首輪は指輪の持ち主の意のままに形を変えられるだけだ。今は緩く首にあるだけだが、指輪を持っていれば締めることが出来る。首輪が掛かった人間の命を握っていると言える。しかも、首輪には繋ぎ目がないため指輪の持ち主以外に外せる方法はない。
「さあ、では一千から始めましょう」
客が札を上げてどんどん金額を吊り上げていく。パトリス信者と俺を好きにしたい層で分かれているようだ。
今までの商品と同じく盛り上がる会場だったが、一人の人間が発した一言に一瞬で静寂に戻った。皆が呼吸を忘れたと言われても納得出来る静けさだった。
支配人でさえ、瞠目している。
「聞こえなかったのか?」
支配人が落札の合図をしなかったため、その者は言葉を繰り返すしかなかった。
「最高金額を提示した者の倍額を払うと言ったんだ」
正直、俺も聞き間違いかと思った。だが、先程の言葉と一言も違っていない。客が最終的に提示した金額は一億だった。……その倍とは。
支配人はハッと意識を取り戻し、すぐに部下をその者へと派遣した。
「申し訳ございません。ただいまお客様の支払い能力の確認を致します。確認が取れるまで今しばらくお待ちくださいませ」
二億もの大金を支払えるか、確認出来ないことには支配人も簡単に落札の合図は出来ない。基本的にその場で確認をすることはないが、億を超えた場合は厳正なる審査が行われる。その前に、まずは人物像を知るための確認を行うらしい。
果たして支払い能力があると示せるだろうか。
部下が慌てて戻って来たと思えば、支配人に耳打ちをする。何を聞かされたのか、支配人は俺を勢いよく振り返った。
「……落札です!!」
響き渡る支配人の合図に、俺は満足気な表情を浮かべていた。
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