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第1章 沢田くんと恋の予感
沢田くんと購買
しおりを挟む「さ……佐藤【さん】」
チャイムが鳴り、数学の小テストが終わったので耳栓を外した時だった。
右隣から聞こえてきた声に驚いて、私は振り向いた。
それは、沢田くんの声だった。
まさか沢田くんの方から声をかけて来るなんて思いもよらず、私はちょっぴりドキドキした。
【あっ、あっ、どうしよ、やっとこっち向いてくれた。佐藤さん、全然気がついてくれないからどうしようかと思ったよ! やっぱ俺の声小さすぎ? 発声練習した方がいいかな? あーあーあー。アメンボ赤いなアイウエオ!! って、バカ。頭の中でやったって意味ない】
うん。意味ないね。
私はにっこり笑いながら「どうしたの?」と言った。
沢田くんは眉間に皺を寄せ、低い声でつぶやく。
「…………消しゴム」
【消しゴム、半分にしちゃってごめん(>人<;)】
「うん」
「…………購買」
【購買で、買い直すよ! 倍返しにするから許して~~!!(>人<;)】
そして沢田くんは唐突に立ち上がり、教室を出て行こうとする。名詞を二つも言えて満足したらしい。私以外だったら伝わらなかった可能性があるけど。
沢田くんは律儀な人だ。ちゃんと買って返してくれようとしているのが嬉しい。
でも、沢田くん、購買でどんなふうにお買い物するんだろう。
品物見ながらめっちゃ頭の中でいろいろ考えそう。
想像していたら、覗き見したくなってきた。
「待って、沢田くん!」
ガタン、と椅子を鳴らして私も立ち上がり、沢田くんの後を追いかけた。
先に廊下を歩いていた沢田くんの背中は、スラッとしていてカッコいい。
そこにいるだけで絵になる人だ。沢田くんとすれ違った女子が赤い顔をして彼を二度見する。本来なら私なんて簡単に声をかけられないくらいのイケメンだし、高嶺の花なんだろうと思う。
それでも私が彼に対して親しみを感じてしまうのは、やっぱりこの声が聞こえるからだ。
「沢田くん、私も一緒に行ってもいい?」
「えっ……【あっ、佐藤さん⁉︎ 追いかけてきたの、なんで、なんで? もしかして、佐藤さん、俺と一緒に買い物したくて……? いやまさか。俺なんかと一緒に買い物したって絶対楽しくないって。やめた方がいいよ、佐藤さん! そんなに気を遣わないで、佐藤さん! あっ! それとも、俺がとんでもなくダサい消しゴム買うんじゃないかと心配になったとか⁉︎ そういえば昔、ゾウのうんこみたいな色の消しゴム買ってきてバカにされたことある。こんな俺のセンスに任せるのはやっぱり不安だよな⁉︎ たかが消しゴム、されど消しゴムだよ。佐藤さんが全面的に正しい】……うん」
ゾウのうんこってどんな消しゴムよ。
たしかに、ちょっと不安だわ。
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