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拝啓、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。
慧司とのこれまで
しおりを挟む慧司とは、保育園からずっと一緒で、家族のように育ってきた。
まあ、漫画やアニメであるような、隣の家に住んでいて窓からお互いの部屋に行き来できる、みたいなことはなかったけれど。
それでもたった数分のところにある家に住んでいた彼のことを、窓から行き来できる人たちと同じくらい、俺は近くに感じていた。
公園の砂場遊びから始まり、サッカーやドッジボールもした。
年齢が上がると外で遊ばなくなり、どちらかの部屋で漫画を読んだり、流行りのゲームをして過ごしていた。
室内でふたりで遊ぶことが増えた中学あたりから、慧司への特別な気持ちが芽生えたように思う。
初めは、人との交流の幅が広がる中で、慧司を一番知っているのは俺だ、仲が良いのは俺だと、ただ友達を独占したいだけの気持ちかと思っていたけれど、慧司に彼女ができたときの自分の異常な落ち込み方で、彼への好意の実際を知った。
「彼女ができても、お前と過ごす時間は減らないよ。お前との時間が必要だからさ」
そう言って笑っていた彼は、その言葉通り、彼女と下校したり、休日にどこかへ出掛けていても、必ず俺との時間を作り、一緒に過ごしてくれていた。
そんな慧司の配慮のおかげで、ふたりで過ごす時間が大きく変わることはなかった。
それでも、慧司が親しみを込めて彼女の名前を呼ぶことも、ごつごつとした男らしいその手で彼女の手を握ることも、広い背中に触れることを彼女に許していることも、全てが嫌で嫌でたまらなかった。
慧司が最初の彼女と別れたとき、俺はガッツポーズをしたのを覚えている。
彼女のほうから振ったらしいが、慧司が落ち込んでいる様子はなく、むしろ彼女が振られたように見えた。
慧司も彼なりに彼女のことを大切にしていたはずなのに、直後もカラッとしていて、しばらく「本当に別れたんだよな?」と何度か確認するほどだった。
相手に対して、それくらいの気持ちだったのか?
それならどうして、わざわざ付き合ったりなんかしたんだよ。
そんな疑問を抱きながら日々を過ごしていたら、すぐにまた、別の女の子と付き合い始めた。
「お前、また彼女ができたらしいな?」
「もうヤッたのか?」
下品な話題で友人らが盛り上がる中、「ははっ、どうだろうな」と笑う慧司が大嫌いだった。
「そんな話をするなよ」と愚痴れば、周りの奴らに「童貞の僻みが」と揶揄われた。
慧司はそれには何も言わず、何を考えているのか分からない表情で俺を見ていた。
高校生になっても、慧司は常にモテていた。顔が整っているだけではなく、さらに身長が伸び、体格が良くなった。
所属しているバスケ部にまで女子が押し寄せ、黄色い声援を浴びていた。
別れては付き合うことを繰り返し、慧司の隣にはいつも彼女がいた。
それでも俺との時間を作り続ける慧司に、俺はイライラが抑えられなくなっていった。
あるとき、「もう俺らは一緒じゃなくていいだろ。お前も取っ替え引っ替えしていないで、真剣にひとりと付き合え!」と怒鳴ってしまったことがあった。
そんなに誰でも良いのなら、俺でも構わないじゃないかと、そんな気持ちがわくようになったから。
頼むから、慧司にはこの人しかいないと、そう思えるような人と付き合ってくれと願っていたのに、そうしない慧司に腹が立った。
「そんな人を作って良いのか」と俺を睨んだ慧司に、「好きにしろ! このヤリチンが!」と叫ぶと、慧司は「あはは!」と腹を抱えて笑い、それがさらに俺を苛立たせた。
でも、そのあたりから、慧司は誰とも付き合わなくなった。
告白されなくなったわけでも、慧司の悪い噂が立ったわけでもないのに。
変わらず定期的に告白はされ続けていたし、クラスメイトにも囲まれて過ごしていた。輪の中心に居続けながら、隣に並ぶ女子だけがいなくなった。
俺と慧司の関係性も何も変わらず、お互いの家に集まっては、ダラダラと勉強したり、くだらない話もした。
ゲームの攻略法を一緒に調べたこともあれば、夕飯をうちで食べたり、そのまま泊まっていくこともあった。
俺の言葉の何が慧司に刺さったのか、そもそも俺のせいなのか、何も分からないままだったけれど、慧司と肩を並べて歩くのが俺の特権のように思えて優越感があった。
そうして今、高校3年生になり、いよいよ進路の話を本格的にしないといけない時期に差し掛かってきた。
慧司と離れることが現実になりつつある中で、その前にやれることはやったんだと、そう思いたくなったから手紙を書いた。
気持ちを伝えて、受験を控える今後の慧司に何か悪い影響を与えることはしたくなかったし、俺も傷つくことになると分かっていて、あえて飛び込むことはできなかった。
だから、俺たちの関係を壊さないままで、それでも俺の気持ちを伝えるには、こうして匿名でそっと渡すしかなかったんだ。
全て、俺のエゴだけれど。
拝啓、愛しのキミへ。匿名だから許してください。
こんなことをしても、俺もすっきりするわけではないが、それでもひとつ、自分の気持ちに区切りをつけられて良かったとは思う。
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