綴った言葉の先で、キミとのこれからを。

小湊ゆうも

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大好きなあなたへ。どうしたらこの気持ちを受け取ってくれますか。

俺に甘い先生

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「おい、授業中の手紙交換はダメだぞ」

 数学の授業、女子数名が手紙のやりとりをしていたようで、数学の黒崎篤志くろさきあつし先生が低めの声で注意した。
 滅多に聞けない怒った声に、一部の女子が騒ぐ。
 20代後半のイケメン先生だから、優しくしても怒っても、女子の人気が高い。

 俺はそんな先生を、一番後ろの窓側の席から眺めていた。

「授業中じゃなかったらいいんですかー?」
「授業外なら良いだろ。勝手にしろ。ただし、人の悪口は書くなよ」
「はーい」

 怒られちゃった~と騒ぐ女子たちは心の底からどうでもいいけれど、そのおかげで色んな先生が見られるのはありがたい。
 今日はみんなの前でのレアな怒りモードも見られたし、開始早々満足したと、そんなことを思いながら板書を書き写す。

 他の授業は興味ないけれど、この授業は絶対に真剣に聞くと決めている。
 だって、黒崎先生は俺の幼馴染で、大好きな先生だから。

「はい、じゃあ集中し直して。この問題を解いてみろ」

 黒板に数式を書く先生の、綺麗に刈り上げられたうなじを眺めていると、その少し上に可愛い寝癖を見つけた。
 この距離でも寝癖に気づける俺ってすごすぎないか? と思いながら、ついつい板書の手が止まる。
 
 ぴょこぴょこと動くそれを見ていると、いつの間にか解答時間が過ぎており、前に出て来て問題を解いてもらう流れになっていた。

 いつもならしっかり聞いて、先生の前で恥をかかないようにしているのにと焦っていると、誰にしようか決めている先生と目が合った。

 胸元でバツを作り、頼むから当てないでくれと願うと、先生は俺を見て笑い、隣の席の大真はるまを当てた。
 俺を当てないでいてくれたことを特別に思いながら喜んでいると、隣の大真は「げ、俺かよ……。終わった……分からん……」とブツブツ言いながら立ち上がった。



 大真が肩を落としながら黒板に向かう中、それを見ていた慧司けいしが手を挙げ、「先生、それ俺が解いてもいい?」と、やる気のないだるそうな声でそう言った。
 やる気がなさそうなのに、やる気ある発言をする慧司に対して、大真は期待を込めた様子で頷き、先生に手を合わせ頭を下げる。

 俺のことを見逃したのだから、大真の代わりに慧司に答えさせることも許可しないといけないだろうし、先生は「いいぞ」とあっさり許した。

 嬉しそうに大真が先に戻り、俺に向かって「ラッキー」と笑う。
 良かったなと返したけれど、元は俺のせいで大真が犠牲になるところだったから、本当は謝らないといけないんだけど。

 慧司があっという間に解き終え、先生が採点した後に解説をする。それからすぐにチャイムが鳴り、あまりにも一瞬で授業が終わってしまった。



「あっちゃん!」
「……っ、ひびき! ばっか、お前なあ」

 教室を出て数歩分あたりで、ひとりになった先生に声をかけた。
 学校の外でこの呼び方をしたせいで、先生はさっき女子に怒ったのとは比にならない表情をしてこちらを見る。

 これはこれで貴重なお怒りモードだと、それだけのことで嬉しくなった。
 自分だって俺のこと、ついつい下の名前で呼び捨てしているくせにね。

「さっきはマジで助かった~」
「お前ちゃんと授業受けろよ。次はないからな」
「違うんだよ。あっちゃんの寝癖があまりにも可愛くてさあ。それ見てたら時間経ってた」
「そういう嘘で誤魔化せると思うなよ」
「はあ? 本当にあるんだって。さすがにこんなくだらない嘘はつかないわ」

 ほらここ、と指さすと、先生は後頭部に手を当て寝癖を確認した。
 思ったよりも跳ねているそれに気づき、一気に恥ずかしさが込み上げたようで焦り出す。

「あっちゃん、もう5限目だよ。今日ずっとぴょこぴょこさせてたんだ」
「……最悪だ」
「俺が気づいて良かったねえ」
「もう遅いわ」

いつの間にか先生を越した身長で隣に立ちながら、よしよしと頭を撫でると、先生なりの怖い顔で俺を睨んでいた。

「あっちゃん、可愛い~! てか、今日の授業も分かりやすかったよ」
「……はいはいどうも。だけどな、ここでその呼び方はダメだって言ってるだろ」

 撫でていた手を払いのけられ、先生は持っていた教科書で俺の肩を叩いた。

「でもあっちゃんだって、俺のこと響って呼んだじゃん」
「俺はいいの」
「じゃあ俺もいいの」
「お前なあ」

 自分でもくだらないやりとりをしていると自覚はありつつも、先生の反応が可愛いせいで楽しくなってくる。
 先生の頬を指先でつつくと、「馬鹿にするなよ」と足を蹴られた。

「ねえ、今日あっちゃんの家に行きたい」
「俺ん家? 来る分には構わないけど、俺もう実家にはいないんだぞ? 隣の家じゃないんだぞ? わざわざあっちに来んのか? 電車に乗って?」

 先生が一人暮らしを始めるまでは家が隣だったから、俺の親の帰宅が遅いときは先生の実家でお世話になっていたこともあったくらいだった。
 けれど、今年の春から一人暮らしを始めたから、もう先生と気軽に会えることはできなくて、授業前後の休み時間しか過ごすことができなくなっている。

「あっちゃんと一緒に帰る。部活終わってからも仕事終わるまで待っとくからさ。車で一緒にあっちゃん家行こう」

 これまでずっと一緒だったのに、いなくなってしまったからけっこう寂しい。
 だから、たまの我が儘くらい許してよ。

 その場にしゃがんで先生より身長を低くし上目遣いをして可愛こぶってみせると、呆れたような、でも拒否はない、そんな表情をされた。

「お前なあ、明日も学校なのにわざわざ来るのか? 帰りも送るってなったら面倒なんだが」

 来るなよ、とは言わず、来たとしても帰りも送ってくれようとするなんて、先生はなんだかんだ俺に甘い。

「あっちゃん家に泊まるから大丈夫。下着は買えば良いし、置き勉してるから教科書もある。明日の弁当はあっちゃんに作ってもらえばいいし」
「はあ~? お前勝手すぎだろ」

 先生は目を見開き、信じられないという顔をした。
 さっきの上目遣いお願いモードは通用しないかもしれないから、とびきり可愛い声を出してみる。

「ダメなのお?」

 うえ……と吐く振りをされ、「そういうのいらんから」とため息をつかれた。

「お前キモすぎだろ。……ったく、仕方ねえな。下着は新品のがあるし、それをやるわ。置き勉は許されないから次からはするな。弁当はお前の分も用意してやる。ただ、家では俺の言うことを聞けよ」
「うんうん、何でも聞く」
「おばさんには自分で連絡しとけ」
「いえーい! あっちゃんの下着!」
「だから新品だって」
 
 時間を見れば次の授業まで残り数分で、「最悪だ!」と叫んだ先生は、最後に俺のお尻を蹴った。

「やーん、体罰う!」
「お前まじいい加減にしろ。置いて帰るぞ」
「ごめんってば」
「ちゃんと授業受けて、部活も頑張れよクソガキ」

 ひらひらと手を振っているのか、シッシと追い払われているのか分からない手の動きをしながら、先生は廊下を走らないのギリギリの範囲内の速さで次の教室へと向かって行った。

 蹴られたお尻の痛みが残っているけれど、今日泊まれる事実に現実味が増してそれも最高。

「あっちゃん家のベッド大きめだし、今日こそ一緒に寝られるかな~」

 先生には次の授業も一生懸命受けろと言われたけれど、俺は約束を破り、ずっと家で何をするかの妄想ばかりをしていた。


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