10 / 20
うちの旦那様馬鹿にすんなよ?
しおりを挟む「タクトー!!」
「タクトどこー!?」
空を飛んで町の上まで行くと、町からたくさんの声が響いていた。
タクト。
おそらくそれがこの男の子の名前なのだろう。
皆がこの子を探してるんだ。
「父さん!! 母さん!!」
男の子がそう叫ぶと、ゼノンはその先にいる男女の元へと下降し始めた。
ゆっくりと地面が近くなってきて、男女が私たちに気づき顔を青くさせる。
「タクト!!」
「父さん、母さん!!」
地上に降り立つと同時に男女の元へと駆けだす男の子──タクト君。
「あぁ……!! タクト……!! 無事でよかった……!!」
目に涙をにじませながら女性が言う。
男性も、涙を流しながらそれに何度も頷いて、強くタクト君を抱きしめた。
お父さんとお母さん、心配してたのよね。
その光景が、少しだけうらやましくなる。
私にはもうありえない光景だから。
「タクト―大丈夫か!!」
「魔族だ!! 魔族がいるぞ!!」
騒ぎを聞きつけた町の人たちが次々と集まってきて、持っていた鎌や鍬などの農具やや長棒をこちらに向ける。
わぁ……やっぱり誤解されてる……。
「あ、あの、私は人間で、この人は魔王だけど悪い人じゃ──」
「魔王だって!?」
私の良い分も虚しく途中で遮られ、魔王の部分だけが彼らの中に浸透してしまったようだ。
不安げにこちらを見ながらも、戦闘態勢を変えない町の人達。
「おいあの子は人間だと!!」
「お嬢さん、危ないから早くこっちへ!!」
「そんな魔族なんかのそばにいたら、食われちまう!!」
「汚らわしい悪魔が……!!」
ブチッ……。
何かが自分の中でちぎれる。
そんな音がした。
「どいつもこいつも勝手に……。外見と種族だけで判断して……汚らわしいのはどっちよ!? 魔王は人間界から支給される保証金もほとんど手を付けることなく自給自足で生活してるし、魔物たちに何かあればすぐに駆け付けるわ!! 必要なところでお金を使って、魔物たちの生活を助けてる!!」
言葉が滝のように零れ落ち、止めることができない。
止める必要もないけれど。
「大して人間界の国王はどう? 国費を使って恋人に貢いで、毎日イチャイチャするだけの日々よ!? 国の運営は宰相にほぼ丸投げして!! 魔王の方がよっぽど立派じゃない!! ──うちの旦那様を虐げる奴は、私が許さないから!!」
「千奈……」
私の演説にも似た言葉の滝に、唖然とした表情で町の人々が私を見ていた。
言ってやったわ。
どうだ人間ども。
ざまぁ国王。
お前の悪行バラしてやったぞ。
我ながら性格が悪いとは思うけれど仕方がない。
それだけのことを奴らがしているのだから。
「そ、そうだよ!! その人たちは悪くないよ!!」
戸惑う町の人々にとどめを刺すように、タクト君が声を上げた。
「僕、かくれんぼをしてて、ロープの外ならだれも来ないだろうって出ちゃったんだ……。それで崖から落ちて……。怪我をしてるのを、魔族の人が助けてくれたんだ!! ゼノンとお姉ちゃんは、僕をここまで送り届けてくれただけだよ!! 魔界の人は皆良い人ばっかりだよ!!」
「タクト……お前……」
そこで初めて、彼らはタクト君の姿に気が付いたようだった。
あちこち血の跡がついているが、塞がったたくさんの傷跡に。
「勝手に決めつけて悪者にする皆の方が悪い人みたいだよ!!」
そんなとどめの言葉が効いたのか、町の人々が構えていた武器がゆっくりと降ろされていった。
「そうか……。そう、だな。……申し訳なかった。子どもを助けてくださって、ありがとうございました」
そう頭を下げる父母に、ゼノンは「大したことはしていない」と首を横に振った。
「あの、よろしければわが家へ」
「結構だ。王家に見つかるとまずいだろう」
魔族が門の外に出て町の人と一緒にいるというのは外聞がよろしくない。
そう彼らを慮っての言葉に、彼らは首を横に振った。
「ここには領主からの偵察すら来ません。だから大丈夫です。それよりも、子どもを助けてくれたあなた方に、ぜひお礼がしたいのです。それに、先程のお嬢さんの話についてもお聞きしたいことが……」
私の話?
何か、訳あり、っていうことだろうか?
私とゼノンは顔を見合わせると、ゼノンはうなずき、「わかった。邪魔をする」と短く了承した。
43
あなたにおすすめの小説
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王宮改革は、英雄の一声では成し遂げられない。
王太子に招かれ、王宮顧問として改革に携わることになった
ルビー・エルヴェール。
彼女が選んだ道は、力で押し切る改革でも、敵を断罪する粛清でもなかった。
評価制度の刷新、情報公開、説明責任、緊急時の判断、責任の分配――
一つひとつの制度は正しくても、人の恐れや保身が、改革を歪めていく。
噂に揺れ、信頼が試され、
「正しさ」と「速さ」、
「個人の覚悟」と「組織の持続性」が、幾度も衝突する。
それでもルビーは、問い続ける。
――制度は、誰のためにあるのか。
――信頼とは、守るものか、耐えるものか。
――改革者は、いつ去るべきなのか。
やがて彼女は、自らが築いた制度が
自分なしでも動き始めたことを確かめ、静かに王宮を去る。
残されたのは、名前の残らない改革。
英雄のいない成功。
だが確かに「生き続ける仕組み」。
これは、
誰かが称えられるための物語ではない。
考えることを許し、責任を分かち合う――
その文化を残すための、40話の改革譚。
静かで、重く、そして誠実な
“大人のための王宮改革ファンタジー”。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!
灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ?
天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる