鬼嫁と呼ばれ婚約破棄された私は魔王と強制結婚させられました。腹が立つので人間界滅ぼそうと思います。

景華

文字の大きさ
11 / 20

街の事情

しおりを挟む

 久しぶりに見た暗闇以外の空はすぐに暮れ、見慣れた闇夜に変わり、私たちはタクト君のお宅で夕食をごちそうになった。

「お姉ちゃん、こっちも食べて!! 美味しいよ!!」
「あ、ずるい!! お姉ちゃん、私の方が美味しいよ!!」
「これだって美味しいよ!! ほら、食べて!!」

「は、はは……。ありがとう。どれもすっごく美味しいよ」

 タクト君は3兄弟の末っ子で、上のお兄ちゃんとお姉ちゃんともすっかり打ち解けてしまった私は、ただいま絶賛餌付けされ中である。

「ずいぶん気に入られたな」
「ふふ。私にも弟たちがいたので、にぎやかで嬉しいです」
「そう、だったな……」

 そう言うとゼノンは少しだけ黙り込んで、神妙な表情で私を見つめた。

「帰りたいか? 元の世界へ」
「へ? あぁ……そりゃまぁ……弟たちには会いたいです。でも……ゼノン達とも一緒にいたいですから、私」

 未練がないわけじゃない。
 ゼノン達との生活も大切なのだと思い始めている今、その問いにははっきりとは答えられなかった。

「そうか……」
 ゼノンはそれだけ言うと、また難しい顔をして黙ってしまった。
 どうしたんだろう?

「お話を伺うに、国王陛下は国費を使って恋人に貢いでいるということでしたが……それは事実で……?」
 タクト君のお父さんの問いかけに、私は深くうなずいた。

「あの人は私を異世界から強制的に攫って婚約させておきながら、恋人に国費から貢いで毎日プレゼント三昧です。公務もさぼってますし、ほとんどを宰相が担っています。アレ要ります? 正直、私要らないと思うんですけど。あのポンコツ陛下」

「落ち着け鬼嫁。あんなでも一応国王だ」

 そうだった。
 もしここに間者でもいれば不敬罪になるところだった。
 だけど要らないと思うんだ、あいつ。マジで。

「そうですか……。それで納得がいきました」
「え?」
「実はこの町はずいぶん前から領主の視察すらなく、町の干ばつが酷く税を納めるのが厳しくなって助けを求めても、領主からは何もしていただけないままで……。国に嘆願書を送っても、一向に返事が来ないという現状で……。そうですか……。国王陛下が職務を怠慢されているのならば、それも納得がいきます」

 あのクズ……。

「ゼノン。やっぱり滅ぼしましょ、人間」
「落ち着け。少しは穏便に済ませようとすることを覚えろ」

 多分、一般的な魔王のイメージって私みたいなのを言うんだろうと思う。
 ゼノンはあまりに、優しすぎる。

「干ばつ……か……確かにここのところ門の外では雨が降っていないということは聞いていたが……」
 門の中ではこの間大雨だったけれど、外と中では気候も違うようだ。

「要は干ばつで作物が育たないということだな? それならば私が何とかできるだろう」
「へ?」
「本当ですか!?」

 何とかできる?
 雨乞いでもするっていうの?
 いや、そもそも雨乞いって効果あるのだろうか?

「え、ちょ、ゼノン? 本当になんとかできるの?」
「あぁ。造作もない」

 あまりに自信たっぷりに言うのだから何か考えがあるんだろうけれど……大丈夫なのかしら?
 不安な私をよそに、ゼノンはタクトの両親に言った。

「明日、またここに来ても良いだろうか? その際に、干ばつの件は解消させよう」
「本当ですか!? ありがとうございます!! もちろんです!! いつでもいらしてください!! 町の皆にも伝えておきますので!!」

 一体どんな策があるのだろうか。
 私はまだわからないまま、その日は和やかに久しぶりの人間界での夕食を終えた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!

灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ? 天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~

ぽんた
恋愛
「七日の後に離縁の上、実質上追放を言い渡す。そのあとは、おまえは王都から連れだされることになる。人質であるおまえを断罪したがる連中がいるのでな。信用のおける者に生活できるだけの金貨を渡し、託している。七日間だ。おまえの国を攻略し、おまえを人質に差し出した父王と母后を処分したわが軍が戻ってくる。そのあと、おまえは命以外のすべてを失うことになる」 その日、わたしは内密に告げられた。小国から人質として嫁いだ親子ほど年齢の離れた国王である夫に。 わたしは決意した。ぜったいに願いをかなえよう。たったひとつの望みを陛下にかなえてもらおう。 そう。わたしには陛下から授かりたいものがある。 陛下から与えてほしいたったひとつのものがある。 この物語は、その五年後のこと。 ※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

処理中です...