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第七話 初クエスト、お婆さんの顔の火傷痕を消去せよ
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アザレアさんを送り届け、ギルドに戻ると再び応接室に通された。
サナとケイトさんの要談も終わっていたようだ。
「サナ、折り合いはついたのかい」
「ええ、これ見て」
「ん、リスト…」
「はい、現在ギルドが把握しているロッグダメージの被害者女性たちです」
地球で言うところのアシッドアタック、こちらではロッグダメージと呼ばれ、その被害者女性一覧か…。
「これが氷山の一角と言うことは?」
ケイトさんに訊ねた。
「いえ、ロッグの加害者は全て逮捕されて、全員死刑にされています。このリストは、その事件の記録一連を元に作成されていますから、少なくともここ、王都ブルドン内では漏れがないかと」
「それはすごい。しかし多いな…。ああ、この人は火災による火傷か」
「はい、火傷は治癒(中)でも治せますが、あくまで火傷を治すことで顔を元に戻せないので…夥しい痕は残ります。ケンジさん、火傷痕は…」
「消せますよ。顔は女の命、それに軽重はありませんから、そちらも治します」
「ありがとうございます。ロッグの被害者だけ助けると言うのは火傷や事故で顔に傷を負った人が不公平だと思われるでしょうから…。お渡しした備考欄には傷を負った経緯も記されていますので」
過去三十年の火災の記録を追って、顔面熱傷をした女性を調べ上げたので、これも漏れはないだろうとのこと。パソコンもないのにすごいな、ギルド職員の有能ぶりは。
「ふむふむ、しかしいちいち患者宅に向かうのは骨ですが…アザレアさんを見るにギルドに患者たち呼び出すと云うのは難しいでしょうね」
「当面はそうなるかと思いますが顔面溶解を元に戻し、および火傷痕も消せる術者が現れたとなれば、患者側も考えが変わり各街区の集会場に来てもらうことも叶うかと。永年依頼とお話したように、これは長期戦ですから焦らず取り組みましょう。ギルドも協力は惜しみません」
「分かりました。で、一人につき報酬は」
「五万ゴルダーよ。患者が支払えない場合はギルドが一時立て替えしてくれるわ」
と、サナ。五万円か。
「妥当な額だと思うけれど、ケイトさん。ギルドがこんなにもロッグダメージの被害者女性救済に熱心な理由を教えていただけますか?」
「昆虫系モンスターが吐き出す酸、それを瓶に詰めてギルドに売るのは冒険者たちの収入源の一つです。私たちギルドはそれを造貨局や鍛冶職人、その他正当な理由で酸を必要とする人たちに卸しています。しかし、冒険者の中にはギルドを通さずに酸の売買をする者がいます。もちろん重大なルール違反ですから厳罰をもって処分します。それでも目先の利で犯してしまう者がギルド創設以来あとを絶たず…情けない話ですが…」
「そうか…。どうであれロッグダメージで使われた酸は冒険者経由で手に入れたもの。その冒険者を監督し差配するギルドとしては被害者女性たちに何もしないわけにもいかないと」
「その通りです。せめて治癒(中)を使える術者を派遣して熱傷を治してあげることしか今まで出来なかったのです」
「あの…酸そのものは人間の手で製造できないのですか?」
「他国で成功したとは聞いていますが、こちらの大陸では未知の技術のうえ、ものとしてはモンスターが吐き出した酸の方が上質と聞いています」
そんなことがあるのか…。まあ、郷に入れば何とやら。こちらの常識を受け入れよう。
「分かりました。話していただきありがとうございます。冒険者にならないのですから冒険者ギルドには属しません。個人の治癒師として契約したいと思いますが…」
「分かりました。特別クエスト『ロッグダメージで顔が溶けてしまった女性の顔を元に戻すこと。かつ火災や事故に遭い、その女性の顔に残る火傷痕、傷痕を消すこと』をケンジ殿個人への永年依頼といたしたいと思います」
「最終判断は任せるわ」
最終的に判断してサインをするのは俺と云うことか。サナ、心得ているな。
「それにしても…地獄のような思いをしている人がこんなにいるのか…」
改めて、ギルドが提供してくれたリストに乗る人数を見て怒りがこみ上げてくる。
火災や事故で顔に傷を負った人より、ロッグダメージの被害者の方が圧倒的に多い。
俺が現場で涙を流したのは、アシッドアタックの被害者女性の自損事案だけだ。あの時、今の力があれば…。あの子の顔を元に戻せる力があったならば…。そんなことを思っていると
“……消防士さん、私のように地獄へ落とされた女の子たちを助けてあげて”
俺は思わず後ろを振り返った。サナとケイトさんも驚いていた。
確かに聞こえた。俺の願望による幻聴かもしれない。サナが
「突然どうしたの?」
「…ロッグで顔を溶かされて自ら死を選んだ子の声が聴こえた気がしたんだ」
「なんて言ったの?」
「『私のように地獄へ落とされた女の子たちを助けてあげて』と…」
あり得ない話だと思う。彼女との間柄は傷病者と救急隊員、話をしたこともない。
溶かされる前の顔は写真で見ただけ。まして地球と違う世界にいる俺、幽霊だとしても会えるわけがないではないか。
「その女の子のお願い、聴いてあげなきゃ」
サナの言葉に頷く俺。幻聴であれ、もう俺の心は決まっている。小説の世界の馬鹿勇者として転生した俺だが、ここで男子一生の仕事を見つけた。俺の人生が続く限り、アシッドアタックで顔を溶かされた女性たちを救うんだ。あの時、現場で流した悔し涙は忘れない。
俺は契約書にサイン、これで生涯ギルドより『ロッグダメージの被害者女性たちの顔を元に戻せ』という特別クエストを依頼されたことになる。
「ケンジさん、ありがとう」
「いや、礼を言うのはこっちですよ。男が一生かけても悔いがないと思える仕事に巡り合えたのですから」
「忙しくなるわね、私も全力でフォローするから!」
「ケンジさんには冒険者ギルドとの繋がり、および患者への交渉役として秘書を就けたいと考えています。その任にアザレアはどうでしょうか」
「いや、彼女は当分働ける体ではないでしょう」
「妹が回復に至るまでは代行を就けます。妹は元優秀なギルド職員だったのですよ」
「分かりました。そちらはお任せします」
「第二夫人にしてもいいの?」
「おい、サナ」
「かまいません」
「えっ、いいの?」
「ええ、むしろ、そうしてくれると姉として嬉しいです」
「ああ、よかった。大変なんですよ、一人でケンジの夜のお相手するのは」
「おいおい…。ははは」
「秘書代行はマリーが勤めます。彼女は既婚者なので、そちらの方はご遠慮くださいね」
「どんだけスケベ野郎に思われているんだか…。まあ、そちらは肝に銘じておきます」
こうして一旦話は終わり、俺とサナは宿に向かった。
王都に入った初日だと云うのに随分と慌ただしい一日だった。
夕食は夫婦水入らず、今日あった出来事を語り合い、王都名物の海鮮料理に舌鼓。目の前に可愛いお嫁さんがいるとなおさらだ。
しかし、アザレアさんを第二夫人にしていいのか…。まあ本人次第だけど美人だし、今は痩せて萎んでいる乳房だけど回復後はメロンになると見た。嫁になってくれるなら嬉しい。
夕食後、互いの体に洗浄の魔法をかけてからサナとベッドイン。
大変だ、と言っているけれど、実はサナはエッチ大好きJKだ。約束通り大サービスのご奉仕をしてくれたあと、大いに乱れてくれた。女性の性欲も強い世界と言う設定、作者さん、グッジョブ!
ああ、こんな幸せでええんかのう…。一生の仕事に巡り合えたうえ、美少女JKと結婚して毎晩堪能させてもろうとる。しかも第二夫人候補は清楚系金髪美女じゃ。
馬鹿勇者様に転生してしまったと分かった時には、どうなることかと思ったが…今は幸せそのものじゃ。
すまんな香苗…。十八の若い体では、お前に操を立てるのは無理じゃった…。
あ、年寄り言葉になっちゃった。いかん、いかん。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ただいまー」
ケイトが自宅に帰るころにはアザレアも起きていた。
「おかえり、お姉ちゃん。夕食出来ているよ」
「えっ、なにこの美味しそうなシチューは。アンタ、こんなに料理上手だった?」
「ケンジさんが温めたら食べられる料理を用意してくれていたの。置き文に『勝手に食材を使い、申し訳ない』と記されていたわ」
「美味しい…」
一口食べるや、ケイトはパンと交互にどんどんシチューを口の中に入れていった。
「本当に美味しいね…。こんな美味しいシチュー初めて食べたよ。ケンジさん、料理人になれるんじゃないの」
冷めてしまっても魔導コンロで温まれば美味しく食べられる料理をケンジは作り、それからギルドに戻ったのだ。
「美味い食事を摂れ、て言っていたけれど…嬉しいね。こういう優しさって」
「そうね。あ、アザレア、貴女ケンジさんの秘書に就かせることにしたから」
「秘書?」
「そう、ギルドとケンジさんとのパイプ役を担い、かつ患者宅に同行して、患者とその家族に正式にギルドに雇われた治癒師と云うことを証明する交渉役、そしてクエスト達成を見届ける。これが主なる仕事ね。元は私より優れたギルド職員だった貴女からすれば、そんなに難しい仕事じゃないでしょ?」
「ええ、それは大丈夫よ。いつからなの?」
「快癒後でいいわ。それまではマリーが代行するから」
「分かった。務めさせてもらうわ」
「第二夫人になってもいいからね」
「えっ、いいの?」
「第一夫人いわく、一人だけじゃ大変らしいよ。夜のお相手」
「そ、そうなんだ…。確かにアッチも強そうだものね。やだ、体が熱くなってきちゃった」
「公私ともに良きパートナーになりなさいよ。私も貴女の顔が元に戻ったことだし、待たせていた彼氏と結婚するから」
「分かった、今までありがとうね、お姉ちゃん」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝から、俺のロッグダメージ被害者女性の顔を元に戻す活動が始まった。
腰を押さえて、だるそうなサナ
「だから激しいって言ったでしょ…」
「いや、昨日はサナの方がスパークしていたぞ」
「もう、往来で恥ずかしいこと言わないでよ」
そうこう話しているうちにギルドに着いた。俺たちの姿を見てマリーさんが歩んできた。
「おはようございます。ケンジさん、サナさん、夕べはお楽しみでしたね」
「ははは…。まあ」
「冗談はさておき、お二人に見せたいものがあります。こちらへ」
ギルドを出て案内された場所、それはある一軒家だった。豪邸とは言えないが裕福な大家族が暮らしていけるくらい大きな屋敷。
「これって、もしかして…」
「はい、お二人が王都を拠点としている間、お使いください」
「なに、この高待遇…」
「あ、お家賃はいただきますよ。月七万ゴルダーになりますが」
やすっ!円とゴルダーは同じ価値、月七万円でここに住めるってか。
「それはもちろん支払わせていただきます。良かったな、サナ。ここなら君がどんなに喘ぎ声を出しても大丈夫だよ」
「馬鹿じゃないのアンタ!」
サナは俺の背中に平手を入れた。心地よい痛みでござるよ。宿では嬌声あげるの少し我慢していたからな。これなら存分にサナの嬌声を聞ける!郊外にポツンとある一軒家なので理想的な物件だよ。
「簡単な家具なら揃えてあります。それに、ここならお嫁さん、あと四人は増やしても大丈夫ですよ。うふふ」
「いやいやいや、ははは…」
一通り屋敷内を見た。寝室のベッドが少し貧相だった。
アザレアさんを嫁にした場合、サナと二人同時にってのもしてみたい。
香苗には悪いが、男ならしてみたい。
屋敷を出てマリーさんが言った。
「それでは本日の一件目の患者さんのところに案内しますね」
「あ、私いなくて平気?必要なもの買っておきたいんだけど」
「そうだな。治療そのものは俺がいればいいのだから頼めるかな」
俺はサナのギルドカードにゴルダーを転送した。すごいな、魔法技術。
魔石で出来たプレートだから何でもありだよ。
「三十万ゴルダーほど振り込んだから。ベッドはいいの買っておいて」
「分かった。それじゃクエスト初日、頑張ってね!」
「おう!」
マリーさんの案内で王都の住宅街を歩く。マリーさんには内緒だがグレンの特技『地図』を使い、王都の全景を神視点で見てみた。
王都は城壁で完全に囲まれている。王城はちょうど中心にあり、そこから東西南北へ放物線があって各街区となっている。俺のいる街区は西街区だ。今日は四人ほどの顔を元に戻す予定だ。
「最初の方ですが、七十歳のご高齢の女性です。ロッグダメージではなく、今から五年前に火災で顔面に火傷を負いました。息子さん夫婦とお住まいですので支払い能力も有しています」
「分かりました」
歩くこと十数分、店頭で魚屋を営んでいる家に着いた。
「へいっ、らっしゃい!」
「大将、申し訳ないですが私たちはお客ではありません。冒険者ギルドより派遣されたマリーと云う者です。お母様のメイ様にお会いしたいのですが」
「冒険者ギルドが何故お袋に」
「お母様は五年前の火災でお顔に火傷を負っておりますね」
「ええ、その通りです。そんなもんだからロクに外出もしないのでおりますが」
「この方はギルドが正式に依頼した治癒師です。お母様の火傷痕を消去しに参りました」
「なんだって!こ、こんな若い男が?」
実年齢八十五歳なんだけどな…。
「初めまして。私はケンジ、旅の者でしたが治癒魔法を買われて、冒険者ギルドにロッグダメージ、もしくは火傷を顔面に負った女性たちの顔を元に戻すよう、依頼を受けました」
「へえ、若いのに大したものだな…。俺の名前はタスケ、もちろん出来るってのなら是非やってほしい。で、マリーさんとやら、その治癒魔法代はいくらですか?」
「五万ゴルダーです」
「ごっ…!嘘でしょう、そんなに安いはずがないよ!」
「いえ、ギルドとケンジさん、その奥さんともよくよく協議したうえの金額です。お店を営む、こちらの家にとっては安価で支払うに問題はないでしょうが、ロッグダメージを受けた女性たちにとっては大金です。しかし快癒後に働けば払えない額ではありません」
「なるほど相手が富んでいようが貧しかろうが、一律した額面で当たるのが適切だと」
「はい、話し合いの中で富んでいる者からは取り、貧しい者からは取らない、と言う話も出ましたけれど、その線引きもまた難しいですから、一律した額となりました」
「分かりました。施術後に支払わせていただきます。俺も立ち合わせてもらっていいですかね」
「ええ、かまいません」
「ありがてえ、トビー、店をちょっと頼んだぜ」
トビーと云う人はご家族じゃなく従業員のようだ。しかし大将の名前がタスケって。魚屋だからか?
ともあれ、俺は大将とマリーさんと共に店舗の奥に。そこからは住居だ。
患者の老婦人は海の見える部屋で、いつも一人でいるとか。子や嫁、孫にもあまり会おうとはしないらしい。
顔に火傷を負って以来そうだと大将が説明してくれた。
「お袋、火傷痕を消してくれる治癒師さんがお越しだ。入れるぜ」
「ああ…」
弱弱しい返事だと思った。顔は女の命、命が火傷すれば元気も失せるよな。
そして、その治癒師とやらに期待していないことも返事から分かる。今までの治癒師が元に戻せなかったのだろう。
部屋に入った。俺とマリーさんに顔を合わせようとしない。マリーさんは構わず、さっき大将に説明した通りに話した。ようやく興味を示したか俺を睨むように見つめる。
なるほど、顔面全体、首から左肩にかけて夥しい火傷痕だ。
「こんな小僧に…。年寄りをからかうものじゃないよ」
「私はケンジ、治癒師です。施術してよろしいですか」
「勝手にしなよ。どうせ…」
「施術に成功を期すため、左肩の方も露出してもらえると」
「はいはい」
うっとうしそうに上着をまくり、左肩を露出させたメイさん。
さて、火傷痕は初めての施術だが大丈夫だろう。
『ハイヒール』
老婦人の上半身を俺の魔力が包んだ。白い輝きを放つ、俺の『ハイヒール』だ。
「嘘……」
いつの間にか立ち合っていた大将の奥さん、絶句していた。
「神様……」
大将が泣き崩れた。いやいやいや、そんな大層なものじゃないよ。美少女JKの嫁に夢中な中身が八十五歳のスケベ爺だって。
メイさんは自分の肩を見て火傷が消えていることに気付き
「ア、アーヤさん!かっ、鏡を持って来て!」
「はっ、はい!」
急ぎ鏡を持ってきた嫁のアーヤさん。
「見て下さい、お義母さん!火傷が消えています!」
「ああ…。あああああああ!ああああああっ!」
鏡を両手で握りしめ、映る自分の顔を見て大粒の涙を落とした。
いくつになろうと顔は女の命なんだな、と思う。
「お綺麗ですよ」
「ありがとう!ありがとう!」
メイさんは俺の両手をしっかと握り、何度も頭を下げている。大将は俺に手を合わせている。
「ありがてぇ、ありがてぇ…。うっ、うう」
ようやく喜びも一段落し、俺とマリーさんは帰ることに。大将は俺に最敬礼のように腰を曲げて五万ゴルダーが入っている革袋を差し出した。
「ありがたく頂戴します」
「本当にありがたくて涙が出てきますわ。お袋、あんなに嬉しそうに…。ううっ」
「メイさん、ずっと引きこもっていたのなら体力も落ちているでしょう。軽い散歩を心がけて下さい。体力が戻れば、お孫さんとも楽しく遊べますよ」
「分かりました。すみませんね…。邪険なことを言ってしまって」
「いえいえ、お大事に。これにて失礼いたします」
「はあ~、年甲斐もなく惚れ惚れするような男ぶりだね…。あと五十年も若ければ逃がしゃしないのに」
「そうですねぇ、私もこの人と会う前だったら…」
「おいおい、お袋もアーヤも勘弁してくれよ!ははははは!」
「お見事です。私も女だから分かります。火傷痕が消えたあとのメイお婆さんの顔、見ていて私も嬉しくなりました」
メイさんの家を後にすると、マリーさんが褒めてくれた。
「顔を元に戻したのは、これで二人目ですが…何と言うか、あの喜びようを見るとギルドから永年依頼を受けて良かったと思います。マリーさんもスムーズな段取り、ありがとうございました」
「お役に立てて嬉しいです。次の女性の顔を元に戻したら食事にしませんか?ギルドの経費で落ちますよ」
「いやいや、そこまで甘えられません。ちゃんと自分で出しますよ。ははは」
そして夕方…。俺は本日分の四人の治療を終えた。一日に四人か、これは長期戦だ。一か所にまとまってくれたら、もっと効率よく治療できるのにな…。まあ、しばらくは、この仕組みでやるしかないか。
帰り、冒険者ギルドに寄って、マリーさんが患者から受けた報酬をギルドに納め、改めてケイトさんから手渡された。
「お疲れ様でした」
「いえ、初日ですが、この仕事のやりがいを感じましたよ。ありがとう、ケイトさん」
「ふふっ、そう言って下されると嬉しいです。ケンジさんご自身、体調には気を付けて下さいね。貴方の御身はもう、貴方だけのものではありませんから」
「はい、肝に銘じます」
ギルドを出た。報酬が入った革袋の中を見てみる。二十万円だよ…。一日で二十万円…。
自分に言い聞かせる。驕るな、驕ったばかりにグレンは勇者として未来が約束されていたのに破滅した。慎まねばならん。左右に女を侍らせて高笑いした瞬間が俺の破滅の時だ。
そう自分を戒め、愛妻サナが待つ屋敷へと歩いて行った。夕日がきれいだぜ…。
サナとケイトさんの要談も終わっていたようだ。
「サナ、折り合いはついたのかい」
「ええ、これ見て」
「ん、リスト…」
「はい、現在ギルドが把握しているロッグダメージの被害者女性たちです」
地球で言うところのアシッドアタック、こちらではロッグダメージと呼ばれ、その被害者女性一覧か…。
「これが氷山の一角と言うことは?」
ケイトさんに訊ねた。
「いえ、ロッグの加害者は全て逮捕されて、全員死刑にされています。このリストは、その事件の記録一連を元に作成されていますから、少なくともここ、王都ブルドン内では漏れがないかと」
「それはすごい。しかし多いな…。ああ、この人は火災による火傷か」
「はい、火傷は治癒(中)でも治せますが、あくまで火傷を治すことで顔を元に戻せないので…夥しい痕は残ります。ケンジさん、火傷痕は…」
「消せますよ。顔は女の命、それに軽重はありませんから、そちらも治します」
「ありがとうございます。ロッグの被害者だけ助けると言うのは火傷や事故で顔に傷を負った人が不公平だと思われるでしょうから…。お渡しした備考欄には傷を負った経緯も記されていますので」
過去三十年の火災の記録を追って、顔面熱傷をした女性を調べ上げたので、これも漏れはないだろうとのこと。パソコンもないのにすごいな、ギルド職員の有能ぶりは。
「ふむふむ、しかしいちいち患者宅に向かうのは骨ですが…アザレアさんを見るにギルドに患者たち呼び出すと云うのは難しいでしょうね」
「当面はそうなるかと思いますが顔面溶解を元に戻し、および火傷痕も消せる術者が現れたとなれば、患者側も考えが変わり各街区の集会場に来てもらうことも叶うかと。永年依頼とお話したように、これは長期戦ですから焦らず取り組みましょう。ギルドも協力は惜しみません」
「分かりました。で、一人につき報酬は」
「五万ゴルダーよ。患者が支払えない場合はギルドが一時立て替えしてくれるわ」
と、サナ。五万円か。
「妥当な額だと思うけれど、ケイトさん。ギルドがこんなにもロッグダメージの被害者女性救済に熱心な理由を教えていただけますか?」
「昆虫系モンスターが吐き出す酸、それを瓶に詰めてギルドに売るのは冒険者たちの収入源の一つです。私たちギルドはそれを造貨局や鍛冶職人、その他正当な理由で酸を必要とする人たちに卸しています。しかし、冒険者の中にはギルドを通さずに酸の売買をする者がいます。もちろん重大なルール違反ですから厳罰をもって処分します。それでも目先の利で犯してしまう者がギルド創設以来あとを絶たず…情けない話ですが…」
「そうか…。どうであれロッグダメージで使われた酸は冒険者経由で手に入れたもの。その冒険者を監督し差配するギルドとしては被害者女性たちに何もしないわけにもいかないと」
「その通りです。せめて治癒(中)を使える術者を派遣して熱傷を治してあげることしか今まで出来なかったのです」
「あの…酸そのものは人間の手で製造できないのですか?」
「他国で成功したとは聞いていますが、こちらの大陸では未知の技術のうえ、ものとしてはモンスターが吐き出した酸の方が上質と聞いています」
そんなことがあるのか…。まあ、郷に入れば何とやら。こちらの常識を受け入れよう。
「分かりました。話していただきありがとうございます。冒険者にならないのですから冒険者ギルドには属しません。個人の治癒師として契約したいと思いますが…」
「分かりました。特別クエスト『ロッグダメージで顔が溶けてしまった女性の顔を元に戻すこと。かつ火災や事故に遭い、その女性の顔に残る火傷痕、傷痕を消すこと』をケンジ殿個人への永年依頼といたしたいと思います」
「最終判断は任せるわ」
最終的に判断してサインをするのは俺と云うことか。サナ、心得ているな。
「それにしても…地獄のような思いをしている人がこんなにいるのか…」
改めて、ギルドが提供してくれたリストに乗る人数を見て怒りがこみ上げてくる。
火災や事故で顔に傷を負った人より、ロッグダメージの被害者の方が圧倒的に多い。
俺が現場で涙を流したのは、アシッドアタックの被害者女性の自損事案だけだ。あの時、今の力があれば…。あの子の顔を元に戻せる力があったならば…。そんなことを思っていると
“……消防士さん、私のように地獄へ落とされた女の子たちを助けてあげて”
俺は思わず後ろを振り返った。サナとケイトさんも驚いていた。
確かに聞こえた。俺の願望による幻聴かもしれない。サナが
「突然どうしたの?」
「…ロッグで顔を溶かされて自ら死を選んだ子の声が聴こえた気がしたんだ」
「なんて言ったの?」
「『私のように地獄へ落とされた女の子たちを助けてあげて』と…」
あり得ない話だと思う。彼女との間柄は傷病者と救急隊員、話をしたこともない。
溶かされる前の顔は写真で見ただけ。まして地球と違う世界にいる俺、幽霊だとしても会えるわけがないではないか。
「その女の子のお願い、聴いてあげなきゃ」
サナの言葉に頷く俺。幻聴であれ、もう俺の心は決まっている。小説の世界の馬鹿勇者として転生した俺だが、ここで男子一生の仕事を見つけた。俺の人生が続く限り、アシッドアタックで顔を溶かされた女性たちを救うんだ。あの時、現場で流した悔し涙は忘れない。
俺は契約書にサイン、これで生涯ギルドより『ロッグダメージの被害者女性たちの顔を元に戻せ』という特別クエストを依頼されたことになる。
「ケンジさん、ありがとう」
「いや、礼を言うのはこっちですよ。男が一生かけても悔いがないと思える仕事に巡り合えたのですから」
「忙しくなるわね、私も全力でフォローするから!」
「ケンジさんには冒険者ギルドとの繋がり、および患者への交渉役として秘書を就けたいと考えています。その任にアザレアはどうでしょうか」
「いや、彼女は当分働ける体ではないでしょう」
「妹が回復に至るまでは代行を就けます。妹は元優秀なギルド職員だったのですよ」
「分かりました。そちらはお任せします」
「第二夫人にしてもいいの?」
「おい、サナ」
「かまいません」
「えっ、いいの?」
「ええ、むしろ、そうしてくれると姉として嬉しいです」
「ああ、よかった。大変なんですよ、一人でケンジの夜のお相手するのは」
「おいおい…。ははは」
「秘書代行はマリーが勤めます。彼女は既婚者なので、そちらの方はご遠慮くださいね」
「どんだけスケベ野郎に思われているんだか…。まあ、そちらは肝に銘じておきます」
こうして一旦話は終わり、俺とサナは宿に向かった。
王都に入った初日だと云うのに随分と慌ただしい一日だった。
夕食は夫婦水入らず、今日あった出来事を語り合い、王都名物の海鮮料理に舌鼓。目の前に可愛いお嫁さんがいるとなおさらだ。
しかし、アザレアさんを第二夫人にしていいのか…。まあ本人次第だけど美人だし、今は痩せて萎んでいる乳房だけど回復後はメロンになると見た。嫁になってくれるなら嬉しい。
夕食後、互いの体に洗浄の魔法をかけてからサナとベッドイン。
大変だ、と言っているけれど、実はサナはエッチ大好きJKだ。約束通り大サービスのご奉仕をしてくれたあと、大いに乱れてくれた。女性の性欲も強い世界と言う設定、作者さん、グッジョブ!
ああ、こんな幸せでええんかのう…。一生の仕事に巡り合えたうえ、美少女JKと結婚して毎晩堪能させてもろうとる。しかも第二夫人候補は清楚系金髪美女じゃ。
馬鹿勇者様に転生してしまったと分かった時には、どうなることかと思ったが…今は幸せそのものじゃ。
すまんな香苗…。十八の若い体では、お前に操を立てるのは無理じゃった…。
あ、年寄り言葉になっちゃった。いかん、いかん。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ただいまー」
ケイトが自宅に帰るころにはアザレアも起きていた。
「おかえり、お姉ちゃん。夕食出来ているよ」
「えっ、なにこの美味しそうなシチューは。アンタ、こんなに料理上手だった?」
「ケンジさんが温めたら食べられる料理を用意してくれていたの。置き文に『勝手に食材を使い、申し訳ない』と記されていたわ」
「美味しい…」
一口食べるや、ケイトはパンと交互にどんどんシチューを口の中に入れていった。
「本当に美味しいね…。こんな美味しいシチュー初めて食べたよ。ケンジさん、料理人になれるんじゃないの」
冷めてしまっても魔導コンロで温まれば美味しく食べられる料理をケンジは作り、それからギルドに戻ったのだ。
「美味い食事を摂れ、て言っていたけれど…嬉しいね。こういう優しさって」
「そうね。あ、アザレア、貴女ケンジさんの秘書に就かせることにしたから」
「秘書?」
「そう、ギルドとケンジさんとのパイプ役を担い、かつ患者宅に同行して、患者とその家族に正式にギルドに雇われた治癒師と云うことを証明する交渉役、そしてクエスト達成を見届ける。これが主なる仕事ね。元は私より優れたギルド職員だった貴女からすれば、そんなに難しい仕事じゃないでしょ?」
「ええ、それは大丈夫よ。いつからなの?」
「快癒後でいいわ。それまではマリーが代行するから」
「分かった。務めさせてもらうわ」
「第二夫人になってもいいからね」
「えっ、いいの?」
「第一夫人いわく、一人だけじゃ大変らしいよ。夜のお相手」
「そ、そうなんだ…。確かにアッチも強そうだものね。やだ、体が熱くなってきちゃった」
「公私ともに良きパートナーになりなさいよ。私も貴女の顔が元に戻ったことだし、待たせていた彼氏と結婚するから」
「分かった、今までありがとうね、お姉ちゃん」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝から、俺のロッグダメージ被害者女性の顔を元に戻す活動が始まった。
腰を押さえて、だるそうなサナ
「だから激しいって言ったでしょ…」
「いや、昨日はサナの方がスパークしていたぞ」
「もう、往来で恥ずかしいこと言わないでよ」
そうこう話しているうちにギルドに着いた。俺たちの姿を見てマリーさんが歩んできた。
「おはようございます。ケンジさん、サナさん、夕べはお楽しみでしたね」
「ははは…。まあ」
「冗談はさておき、お二人に見せたいものがあります。こちらへ」
ギルドを出て案内された場所、それはある一軒家だった。豪邸とは言えないが裕福な大家族が暮らしていけるくらい大きな屋敷。
「これって、もしかして…」
「はい、お二人が王都を拠点としている間、お使いください」
「なに、この高待遇…」
「あ、お家賃はいただきますよ。月七万ゴルダーになりますが」
やすっ!円とゴルダーは同じ価値、月七万円でここに住めるってか。
「それはもちろん支払わせていただきます。良かったな、サナ。ここなら君がどんなに喘ぎ声を出しても大丈夫だよ」
「馬鹿じゃないのアンタ!」
サナは俺の背中に平手を入れた。心地よい痛みでござるよ。宿では嬌声あげるの少し我慢していたからな。これなら存分にサナの嬌声を聞ける!郊外にポツンとある一軒家なので理想的な物件だよ。
「簡単な家具なら揃えてあります。それに、ここならお嫁さん、あと四人は増やしても大丈夫ですよ。うふふ」
「いやいやいや、ははは…」
一通り屋敷内を見た。寝室のベッドが少し貧相だった。
アザレアさんを嫁にした場合、サナと二人同時にってのもしてみたい。
香苗には悪いが、男ならしてみたい。
屋敷を出てマリーさんが言った。
「それでは本日の一件目の患者さんのところに案内しますね」
「あ、私いなくて平気?必要なもの買っておきたいんだけど」
「そうだな。治療そのものは俺がいればいいのだから頼めるかな」
俺はサナのギルドカードにゴルダーを転送した。すごいな、魔法技術。
魔石で出来たプレートだから何でもありだよ。
「三十万ゴルダーほど振り込んだから。ベッドはいいの買っておいて」
「分かった。それじゃクエスト初日、頑張ってね!」
「おう!」
マリーさんの案内で王都の住宅街を歩く。マリーさんには内緒だがグレンの特技『地図』を使い、王都の全景を神視点で見てみた。
王都は城壁で完全に囲まれている。王城はちょうど中心にあり、そこから東西南北へ放物線があって各街区となっている。俺のいる街区は西街区だ。今日は四人ほどの顔を元に戻す予定だ。
「最初の方ですが、七十歳のご高齢の女性です。ロッグダメージではなく、今から五年前に火災で顔面に火傷を負いました。息子さん夫婦とお住まいですので支払い能力も有しています」
「分かりました」
歩くこと十数分、店頭で魚屋を営んでいる家に着いた。
「へいっ、らっしゃい!」
「大将、申し訳ないですが私たちはお客ではありません。冒険者ギルドより派遣されたマリーと云う者です。お母様のメイ様にお会いしたいのですが」
「冒険者ギルドが何故お袋に」
「お母様は五年前の火災でお顔に火傷を負っておりますね」
「ええ、その通りです。そんなもんだからロクに外出もしないのでおりますが」
「この方はギルドが正式に依頼した治癒師です。お母様の火傷痕を消去しに参りました」
「なんだって!こ、こんな若い男が?」
実年齢八十五歳なんだけどな…。
「初めまして。私はケンジ、旅の者でしたが治癒魔法を買われて、冒険者ギルドにロッグダメージ、もしくは火傷を顔面に負った女性たちの顔を元に戻すよう、依頼を受けました」
「へえ、若いのに大したものだな…。俺の名前はタスケ、もちろん出来るってのなら是非やってほしい。で、マリーさんとやら、その治癒魔法代はいくらですか?」
「五万ゴルダーです」
「ごっ…!嘘でしょう、そんなに安いはずがないよ!」
「いえ、ギルドとケンジさん、その奥さんともよくよく協議したうえの金額です。お店を営む、こちらの家にとっては安価で支払うに問題はないでしょうが、ロッグダメージを受けた女性たちにとっては大金です。しかし快癒後に働けば払えない額ではありません」
「なるほど相手が富んでいようが貧しかろうが、一律した額面で当たるのが適切だと」
「はい、話し合いの中で富んでいる者からは取り、貧しい者からは取らない、と言う話も出ましたけれど、その線引きもまた難しいですから、一律した額となりました」
「分かりました。施術後に支払わせていただきます。俺も立ち合わせてもらっていいですかね」
「ええ、かまいません」
「ありがてえ、トビー、店をちょっと頼んだぜ」
トビーと云う人はご家族じゃなく従業員のようだ。しかし大将の名前がタスケって。魚屋だからか?
ともあれ、俺は大将とマリーさんと共に店舗の奥に。そこからは住居だ。
患者の老婦人は海の見える部屋で、いつも一人でいるとか。子や嫁、孫にもあまり会おうとはしないらしい。
顔に火傷を負って以来そうだと大将が説明してくれた。
「お袋、火傷痕を消してくれる治癒師さんがお越しだ。入れるぜ」
「ああ…」
弱弱しい返事だと思った。顔は女の命、命が火傷すれば元気も失せるよな。
そして、その治癒師とやらに期待していないことも返事から分かる。今までの治癒師が元に戻せなかったのだろう。
部屋に入った。俺とマリーさんに顔を合わせようとしない。マリーさんは構わず、さっき大将に説明した通りに話した。ようやく興味を示したか俺を睨むように見つめる。
なるほど、顔面全体、首から左肩にかけて夥しい火傷痕だ。
「こんな小僧に…。年寄りをからかうものじゃないよ」
「私はケンジ、治癒師です。施術してよろしいですか」
「勝手にしなよ。どうせ…」
「施術に成功を期すため、左肩の方も露出してもらえると」
「はいはい」
うっとうしそうに上着をまくり、左肩を露出させたメイさん。
さて、火傷痕は初めての施術だが大丈夫だろう。
『ハイヒール』
老婦人の上半身を俺の魔力が包んだ。白い輝きを放つ、俺の『ハイヒール』だ。
「嘘……」
いつの間にか立ち合っていた大将の奥さん、絶句していた。
「神様……」
大将が泣き崩れた。いやいやいや、そんな大層なものじゃないよ。美少女JKの嫁に夢中な中身が八十五歳のスケベ爺だって。
メイさんは自分の肩を見て火傷が消えていることに気付き
「ア、アーヤさん!かっ、鏡を持って来て!」
「はっ、はい!」
急ぎ鏡を持ってきた嫁のアーヤさん。
「見て下さい、お義母さん!火傷が消えています!」
「ああ…。あああああああ!ああああああっ!」
鏡を両手で握りしめ、映る自分の顔を見て大粒の涙を落とした。
いくつになろうと顔は女の命なんだな、と思う。
「お綺麗ですよ」
「ありがとう!ありがとう!」
メイさんは俺の両手をしっかと握り、何度も頭を下げている。大将は俺に手を合わせている。
「ありがてぇ、ありがてぇ…。うっ、うう」
ようやく喜びも一段落し、俺とマリーさんは帰ることに。大将は俺に最敬礼のように腰を曲げて五万ゴルダーが入っている革袋を差し出した。
「ありがたく頂戴します」
「本当にありがたくて涙が出てきますわ。お袋、あんなに嬉しそうに…。ううっ」
「メイさん、ずっと引きこもっていたのなら体力も落ちているでしょう。軽い散歩を心がけて下さい。体力が戻れば、お孫さんとも楽しく遊べますよ」
「分かりました。すみませんね…。邪険なことを言ってしまって」
「いえいえ、お大事に。これにて失礼いたします」
「はあ~、年甲斐もなく惚れ惚れするような男ぶりだね…。あと五十年も若ければ逃がしゃしないのに」
「そうですねぇ、私もこの人と会う前だったら…」
「おいおい、お袋もアーヤも勘弁してくれよ!ははははは!」
「お見事です。私も女だから分かります。火傷痕が消えたあとのメイお婆さんの顔、見ていて私も嬉しくなりました」
メイさんの家を後にすると、マリーさんが褒めてくれた。
「顔を元に戻したのは、これで二人目ですが…何と言うか、あの喜びようを見るとギルドから永年依頼を受けて良かったと思います。マリーさんもスムーズな段取り、ありがとうございました」
「お役に立てて嬉しいです。次の女性の顔を元に戻したら食事にしませんか?ギルドの経費で落ちますよ」
「いやいや、そこまで甘えられません。ちゃんと自分で出しますよ。ははは」
そして夕方…。俺は本日分の四人の治療を終えた。一日に四人か、これは長期戦だ。一か所にまとまってくれたら、もっと効率よく治療できるのにな…。まあ、しばらくは、この仕組みでやるしかないか。
帰り、冒険者ギルドに寄って、マリーさんが患者から受けた報酬をギルドに納め、改めてケイトさんから手渡された。
「お疲れ様でした」
「いえ、初日ですが、この仕事のやりがいを感じましたよ。ありがとう、ケイトさん」
「ふふっ、そう言って下されると嬉しいです。ケンジさんご自身、体調には気を付けて下さいね。貴方の御身はもう、貴方だけのものではありませんから」
「はい、肝に銘じます」
ギルドを出た。報酬が入った革袋の中を見てみる。二十万円だよ…。一日で二十万円…。
自分に言い聞かせる。驕るな、驕ったばかりにグレンは勇者として未来が約束されていたのに破滅した。慎まねばならん。左右に女を侍らせて高笑いした瞬間が俺の破滅の時だ。
そう自分を戒め、愛妻サナが待つ屋敷へと歩いて行った。夕日がきれいだぜ…。
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