レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆

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「父様、私は……「レイルーク、お前は喋らなくて良い」

 言葉をレオナルドに遮られる。

「コイツらと言葉を交わすと碌なことにはならない。そのままで良い」
「ですが」
「レオナルド、折角の祝賀パーティーで挨拶もせず、帰らせるつもりでは無いよな? 皆、レイルーク君に興味があって集まったんだぞ? 少し位付き合ってくれても良いじゃないか」

 アトラスは、ノーザインに肩入れする言葉を投げかける。

「レイルークさんの噂は聞いているわ。とても聡明でいらっしゃるのでしょう? 是非、お話ししてみたいわ」

 ビクトリアも畳み掛けてくる。

 このままでは従者を動かし兼ねない。レイルークはもう一度、レオナルドに話しかけた。

「皆様のおっしゃる通り、挨拶もしないなど礼儀に反します。……私にご挨拶をさせて頂けませんか?」
「レイルーク、駄目だ。後で面倒な事になる」

「レオナルド。レイルーク殿が挨拶すると言っているではないか。いい加減諦めろ。公爵の間で、一人の意固地な屁理屈など通じん。さあ、レイルーク殿。挨拶を」

(……やってやるよ。僕だって、いつまでも守られてばかりじゃ、いられないんだ)

「レイルーク止めるんだ」

 レオナルドは静止の声を上げたが、レイルークは意を決して一歩前に歩みを進める。

 アトランス宮殿に来てから気配を消して付き従っていたシシルが、レイルークの背後に近づいた。

「……レイルーク様。挨拶を交わすと言うことは、この国では『親交を深める』と意思表明する意味となります。それは、レオナルド様の意に反する事になります。宜しいのですか」

 レイルークにだけ聞こえる小さい声で、シンリーの様な物言いで尋ねる。

 レイルークは目を閉じて小さく頷いた。

「わかっているよ。……だからこそ、だよ」

 小声でそう返すとレイルークはゆっくりと瞳を開き、公爵当主達に顔を向けた。


「……皆様方に、次期後継者としてご挨拶申し上げます。私の名はレイルーク・アームストロング。……この度は、このような素晴らしい祝儀を開いていただき、有り難く思います。……これから、どうぞよろしく、お願いします」

 
(はあ、言っちゃった……)


 挨拶し終えると、レオナルドは額に手をやり溜息を吐き、ユリアも寂しそうにレイルークを見てきた。

(二人とも。そんな顔、しないでよ……)

 予想通りの反応に苦笑してしまう。取り敢えず、ニコッと愛想笑いを浮かべた。

「丁寧なご挨拶、痛み要るわ」

 ビクトリアは興奮した様に立ち上がった。

「ではレイルークさん! 是非、娘のキャサリンと婚約してはどうかしら? とてもお似合いだと思うわ!!」

(へ)

「いやいや! 私の娘、ルミナスがお似合いだ! どうだろうレイルーク君!」

(あ、あの)

「確かに、噂に違わず聡明そうだ。グレイスの婚約者にこそ相応しい」

(ちょっと待って!!)

「だから、止めろと言ったんだ」

 レオナルドは『それ見た事か』と言いたげにレイルークを見た。ユリアも『その通り』と言いたげに頷いている。

(た、確かにレイルークの姿は天使だけれど! 挨拶をだけで婚約話になる普通!? それに、公国に関わる条約で、公爵同士での結婚は出来ないんじゃなかったっけ?!)

 そう。公国に定められた条約には、『公爵の力の均衡を図る為、公爵同士の婚姻は認められない』と明記されていた筈。だからこそ、挨拶をしてみせたのだ。

「何をおっしゃっているのか分かりません。婚約とはどういうことですか?」
「おや。レオナルドは何も伝えて無いのか? レイルーク殿は確かに、次期後継者だ。
しかし、ルシータ夫人は第二子を出産間近。ならばその子に後継者の地位を譲れば良いだけだ。そうすれば公爵同士の婚姻など、何の問題無い」

(なっなんだって?!)

 当たり前の様に言い退けるノーザインの言葉に、レイルークは衝撃を受けた。

 まさか、まだ生まれてない子を利用するなんて、思っても見なかった。


 ここは異世界。それも上流階級の世界。考えや価値観、道徳感が違い過ぎる。

 やはり前世の庶民意識が抜け切れてなかったとレイルークは悔やんだ。


「何故、貴様らに次期後継者を決める権利がある。それに、レイルークの婚約者はこちらが決める事だ。レイルークを婿にやる気も無ければ、公爵を統合する気も無い。
……挨拶は済んだ。我々は帰らせてもらう」

 レオナルドは当然の様に言い放つと踵を返したが、またしてもノーザインが口を開いた。

「まあ、待て。今回は別に婚約者を決めさせる為に呼んだのでは無い。あくまで娘との交友関係を深めて欲しいと思っただけだ。なに、つい言葉が過ぎただけの事。困惑させてしまったのなら、謝ろう」

 急に態度を変えてきた。

 レオナルドは歩みを止め、ノーザインを睨む。

「私も先程の言葉は撤回しよう。取り敢えず、今日は娘達とレイルーク君と話をしてはどうだろう? 折角の機会だ。公爵同士、交流を深めるべきだと思うぞ」

 アトラスも謝罪を述べた上で、ノーザインの言葉に便乗してくる。

「私も興奮し過ぎたわ。レイルークさん、驚かす様な事言ってしまってごめんなさいね? でも、キャサリンと仲良しになって欲しいのは本当よ? どうかしら、今から二人っきりでお話ししてみたら」
「断る」
「レオナルド! 貴方には聞いていないわ!!」

 ビクトリアがまたキレた。握りしめている扇子が今にも壊れそうだ。

 レイルークは話くらいしても良い気がしたが、さっきやらかしたので黙っておく。

 それにしても、親達のレイルークへのアプローチは一向に止まらない。

「君だって、歳の近い友人がいても良いのではないかな?」
「そうよ! レオナルドのせいで、お茶会も開いていないのでしょう?」
「友好関係はあるべきだと思うが、君はどうなんだ? レイルーク殿?」

 レイルークに投げ掛けられる言葉は、全てレオナルドとユリアによって揉み消され、レイルークが返答する事はなかった。

 帰らせる気は全く無いようだ。

 レイルークは気付かれ無い様に、こっそり溜息を吐いた。

(凄い、執念だな。……仕方ない。娘さん達と少し話だけでもしてみようかな。同年代の友達が欲しいのは確かだし)

「皆様。私の為を思っての言葉の数々、大変痛み入ります。では、お言葉に甘えまして。少しだけご令嬢達とお話をさせて頂ければと思います」
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