レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆

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「レイルーク!」

 突然承諾したことに驚いたのか、レイルークに優しいレオナルドが声を荒げた。

(……ごめん父様。上手く立ち回ってみせるから! 僕を信じて、父様!)

 念を込めてレオナルドに微笑みかけた。ユリアも心配そうに見つめているので、レイルークは笑いかけた。

「姉様、私は大丈夫です。席を外す間、姉様も領主様方とお話をされてはいかがでしょう? とても有意義な時間となると思います」

(押し付けてごめんだけど、面倒な大人の相手をしといて! お願い!)

 束の間見つめ合う。思いが通じたのか、ユリアは諦めた様に微笑み返した。

「……そうね。折角の機会だもの。私も色々勉強させて頂くのも良い事ね。レイルークがご令嬢方とお話をしている間、そうさせて頂こうかしら」

「ユリア、お前まで何を……」
「良いとも良いとも! 確かに君も公爵の一員である事は確か。我々が、助言の一つでも語ろうではないか! それにだ、レオナルド。お前と会うのは久しぶりなんだ。思う存分語り合おうではないか? なあ?」

 アトラスは立ち上がると、レオナルドとユリアにソファーに座る様に促して来た。
 近づいて来たアトラスは、レイルークに向かって微笑んだ。

「では、まずはルミナスと話をしてくると良い。ルミナス、レイルーク君と庭でも散策して来なさい」
「待て、外に出るだと? そのまま連れ去るつもりではないだろうな」

「ご安心ください。アームストロング公爵レオナルド閣下」

 ルミナスは立ち上がると、こちらに向かって微笑んだ。

「我がディスティニー家は、何人たりとも無理矢理連れ去るなど、そのような暴挙に走る様な愚かな真似は致しません。ディスティニー家初代カイリ・ディスティニーの名に誓って、お約束致します」


 初代の名に誓う。


 それは公爵にとって、その名に誓うと言う事は絶対的な意味となる。
 流石のレオナルドも押し黙るしかない。

「庭も結界の管轄内。何も問題ないだろう。この際、私も初代の名に誓おうではないか。
ライト公爵初代アシング・ライトの名に誓い、この祝儀の場においてレイルーク殿に手荒な真似はしない。……これで、レオナルドの憂いは晴れただろう?」
「そうね、私も誓いましょう。ロゴス公爵初代アウド・ロゴスの名に誓って、レイルークさんが今日一日有意義に過ごして貰えるよう、努める事を誓うわ」
「勿論私もだ。初代の名に誓って交友を深めている間はレイルーク君に手出しはしない。……さあ二人共、行って来なさい」


(……よし。もう一踏ん張り、頑張るか)


 レイルークはルミナスに近づいて笑いかけると、恭しく右手を差し出した。

「では、案内をお願い出来ますか? ルミナス嬢?」
「はい。ご案内いたしますわ。レイルーク様」

(はあ……仲良く、なれると良いんだけど)

 気を引き締め直すと、差し出された手を優しく握った。

「……五分だ。五分で戻って来い」
「……ルミナス様、レイルークを宜しく頼みますわね」

 機嫌が悪い事この上ない声でレオナルドは告げる。ユリアも温和な声だが、瞳は敵意剥き出しだ。

 ルミナスは笑顔で応答すると、レイルークを誘導して歩み出した。


 ディスティニー公爵の領域であろう扉に近づいたので、レイルークが扉を開く。

「どうぞ、ルミナス嬢」
「恐れ入ります」

(これから庭の散策か……。今のうちに何話すか話題を考えておかないと……。そう言えば同年代の女の子と話するの、今世初めてだ!! やばい、変に緊張してきた……)

 内心の焦りが顔に出ないように気を付けながら、ディスティニー公爵の区域に足を踏み入れた。




 部屋の中に入ると、そこはレイルーク達が通って来たアームストロングのステンドグラスの部屋と同じ造りだった。
 ただ中央に立つ銅像だけが違っていた。

 ルミナスに誘導され、銅像の正面に回る。

 ルイス像と比べてジャンル違いの美青年が、剣ではなく槍を掲げていた。


「こちらの方が、ディスティニー公爵初代カイリ・ディスティニー閣下であらせられるのですね」
「うん、そうだよ」

 突然口調が変わったルミナスにレイルークはやや驚きの表情を見せると、ルミナスは先程見せていた畏まった顔ではなく、年相応の子供っぽい笑顔を見せた。

「ごめんなさい、この喋り方が楽なの。ねえ、初めて公爵の大人達に絡まれて緊張したでしょう? 今は私と二人きりだから、楽にしてもらって良いよ? 改めて、初めまして。ルミナスです。宜しくね? レイルーク様」

 飾り気のないルミナスに、レイルークは自然な笑顔を浮かべた。

「こちらこそ、よろしく。……ありがとう、ルミナス嬢。砕けた態度を取ってくれて。お陰で、肩の力がもの凄く抜けたよ」
「ふふ、それは良かった。……あ、そうだ。庭に見事な薔薇園があるの。一緒に見に行かない?」
「うん。喜んで」

(……なんだ、もの凄く良い子じゃないか。そんなに警戒しなくても、大丈夫なのでは?)


 再びルミナスをエスコートしながら、庭へ繋がる扉に向かって歩き出す。

 
 共に歩くルミナスとの距離がほんの少しだけ、縮まった。
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