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第三章
第15話 愛する恋人
しおりを挟む「……いって」
全力ビンタをくらったキルさんが、反射的に頬をさする。ジンジンと痛むであろう頬は、既に赤くなっていた。
俺は拳を握りしめると、キルさんに向けて、とうとう怒りをぶつけることにする。
「ふ……ふざけんな!! 俺はノーキが大好きだから、あいつの告白を受け入れたんだ。周りに流されたんじゃない。一時の感情に流されてなんかない。俺が好きなのは、これからもこの先もノーキだけだ……!
悪口や不満があるなら俺に言ってください。ノーキを……俺の大切な恋人をこれ以上悪く言うなら、俺はあなたを許しません。今日はもう帰ります。写真、絶対に消去しておいて下さい」
言ってやった。言いたかったこと、全部言ってやった……! キルさんが驚いているのをいいことに、俺はその場から立ち上がる。
感情的になってつい口が悪くなってしまったが、この際もうどうだっていい。
やっぱりノーキに会いに行こう──今すぐ行って、ちゃんと謝るんだ。どれだけ嫌われていたとしても、逃げちゃいけない。
心にそう強く決心した俺は、そのままキルさんの家を後にしようとした……はずだった。
「だから、逃がさねェって言っただろ」
出口に向かって歩いていた俺の身体が、再び後方へ引き寄せられる。今度こそ抵抗しようと力を込めるが──キルさんは容赦なく俺の身体を引きずり回すと、流れる速さでベッドの上に押し戻した。
殴ってやろうと拳を握るも、キルさんに腕をがっちり掴まれているせいで身動きひとつ取れない。
「そっか……まだ分かってないんだな、累。大丈夫だ安心しろ、おれがすぐに目を覚まさせてやる。今からおれとイイことして、アイツのこと全部忘れよう。
ああそうだ……次のオルの配信で『キルとオルは付き合ってる』って公言すればいい。そうすればずっと一緒に居られる」
「……は?! や、やめろ! やだ!!」
「大丈夫だ、ノーキのことなんて綺麗さっぱり忘れさせてやるから」
「や、やめろ……! 助けてノーキ!」
「おいおい、これから忘れる男の名前なんて呼ぶなよ。ほら、集中して」
そう言ってキルさんは俺の手を掴み、じわじわと距離を詰めてくる。
俺は恐怖のあまり、涙目で体を震わせた。ノーキじゃない人に自分の身体を触られていると思うと……気持ち悪い、嫌だ。
そんな俺を気にすることなく、キルさんは幸せそうな表情を浮かべている。
いや……まてよ。今ならまだ逃げられるかもしれない!!
俺を捕まえたと確信したからか、心做しか気が緩んだように見えるキルさんを前に、俺は一筋の希望を見出す。
精一杯の力を振り絞って彼に殴りかかれば、勝算はあるかもしれない。俺は拳を再び握りしめる、今度はグーでキルさんの顔面を狙った。
しかしどうだろう──キルさんを狙ったはずの俺のパンチは、見事に受け止められてしまった。咄嗟に腕を引こうと試みたが、俺の拳は、固定されたままビクリともしない。
キルさんは俺の思わぬ反撃に、慌てることなく笑みをこぼした。
「あー、オルは意外と悪い子なんだ。いいよ、可愛いね。ちゃんと躾てあげる」
瞬間。俺の首筋にジュッと熱が走った。
「ゔっ……あ、」
あまりの痛みに耐えきれず、俺は思わず声を漏らす。これは、まさか──
「タバコ。痛い? 嫌だったら暴れるなよ」
「あ、……あ、」
首筋が痛い、怖い、身体が動かない。
俺はもう──この人が敵わない相手であると悟ってしまった。そう感じてしまったせいか、怖くてまともに声が出せない。
「震えてる、可愛い。あー……天使だ。ずっと大切にする、一生離さない」
キルさんが俺に近付いてくる。
「愛してるよ、オル」
やばいやばいやばい、逃げられない……!
俺は震える身体を何とか抑えると、最後の力を振り絞って叫んだ。
「嫌だっ! 助けてノーキ! ……嫌だ、さわるな、やm──」
「あーまた他の男の名前呼んだ。ダメって言ったのに……躾二回目だ、累。次は何をしようk──」
その時。ドンッと奥から鈍い音が響いた。俺とキルさんは一斉に音のする方を見る。
ドンドンッ、ドンドンッと。その音は、段々大きくなっていく。
そして、次の瞬間──
物凄い音と共に、勢いよく扉が開いた。
その人物は、俺とキルさんが居る部屋に、息を切らしながら現れた。こちらを見つめる視線は、見るからに怒りを含んでいた。
俺はその人物を見てすぐ、安心のあまり涙を零した。そして、精一杯の声で叫んだ。
「……光輝!」
そう。そこに現れたのは、俺の大切な恋人──宇野光輝だった。
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