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第20話 終わった後に①
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◇
夫がいなくなったあと、私はこの家を出ていくために、片付けを始めた。
来週には、お母様とお父様のもとに戻る予定だ。
基本、女性から離婚の申し出はできないが、例外がある。
それは、夫側が罪人となったとき。
ルイス様は、今度判決が下されるが、証拠もあるし罪を犯していることは明白なので、離婚できるというわけだ。
あのあと、リアムに対する侮辱罪まで追加されたらしいけど。
「アイリス様……寂しくなります」
「私もよ…。みんな、2年間ありがとう」
ルイス様や、ティアナには沢山傷つけられてきたし、彼らのせいで心を捨てることにもなった。だけど、使用人のみんなは優しくしてくれたし、私はそのおかげで救われてきた。
「レナも。ちゃんとやるのよっ!」
「もちろんじゃない!!」
同僚から背中を叩かれているのは、専属侍女のレナ。
私は今回の件で、彼女が大いに役立っていたことを知り、お礼として連れていくことにしたのだ。
おそらく、この家は降爵となる。
分家の方が跡を継ぐという予定になっているが、伯爵以下は免れないだろう。
そして。
「ごめんなさい、アイリスちゃん。本当に、本当にごめんなさい」
お義母さまとお義父様は、何度も何度も頭を下げて謝ってくださった。
「うちの愚息が失礼を……本当に申し訳ございませんでした」
「大丈夫です。それに、この家の方たちは、沢山優しさを与えてくださいましたし」
よく、「家は主人の色に染まる」というが、この家の人たちは、ルイス様とは違った。
むしろ、前侯爵であったお義父様の方に、染まっているのかもしれない。
「この家も寂しくなるな」
お義父様は、どこか遠くを見つめてそう呟いた。
◇
この家を出ていく二日前。
ルイス様の判決は、速やかに下された。
ルイス様は、「爵位没収、及び無期懲役の刑。態度によっては、再考」。
これからきっとルイス様は苦しんでいく。反省してくれれば、それが一番だ。
「アリー。ないとは思うけれど、会わなくて大丈夫?」
お母様は、心配して言ってくださった。
「最後に、言っておきたいことはないか」。だけど、私にはもう、必要ないと思う。
「ええ。私にはもう、関係のないことです」
そう言って、離婚届にサインをした。
◇
1日前。
ルイス様の跡を継ぐ方が、ご挨拶に来られた。
「初めまして。今日からラグリー家に入らせていただく、レノンと申します。以後お見知りおきを」
「こんにちは。アイリスですわ」
私は、新しく来られたレノン様に、屋敷を案内した。
明日、私は離婚届を役所に提出して、実家に戻る。だから、これは侯爵夫人としての、最後の務めだ。
「綺麗ですね……だけど」
「ええ。寂しいでしょう??」
元からあまり華のある家ではなかった。
全てがティアナとルイス様の色に染められていたから。
「…私は無責任ながら、全てをあなたに託します。そして、この家を、また明るくしてくださいね」
「はい、もちろんです」
頼もしいレノン様に、笑みが溢れる。
「…どうか、よろしくお願いします」
私が、捨てていくこの場所を、拾ってくれるあなたに。
私は精一杯、手助けしたい。
◇
「今日でお別れかと思うと……うう」
皆が泣いている。
「…ふふ、泣いてくれるのはすごく嬉しいわ。だけど、今はレノン様がいらっしゃるの。だからもう心配ないわ」
そこで、私は、ある姿を見つける。
そうだ、まだ話していないーー。
「ティアナさん」
「は、はい、アイリス様」
そっと頭を撫でる。
彼女も、いろいろな思いでここに残っているに違いない。
「あなたのことを、許すことはないと思うの」
思ったよりも低い声が出た。
ティアナは、ぎゅっと目を瞑る。
「だけどね」
ほわ、と優しく投げかける。
「私は、あなたに助けられたこともあるのよ」
「え、?」
「今回の件なんかはそう。あなたが勇気を持って伝えてくれた秘密が、大きな役割を果たしたの」
まだ、詳しく詳細は知らない。
もしかすると、ルイスが彼女の名前を出して、ティアナは危機に陥るかもしれない。
だけど。
「今までありがとう、ティアナさん」
その時、涙を目いっぱいに溜めた彼女の顔は、今でも忘れられない。
◇
「ふぅ……」
みんなとお別れして、ひと段落。
そして先ほど、役所に離婚届を出して、私は馬車で落ち着いている。
ここから1日夜を過ごし、実家にたどり着くのだけど。
「…リアム。どうしてお迎えに来てくれたの…?」
「ん?だって、心配だから」
「ありがとう。だけど、あの件で手助けをしてくれただけで、もう十分なのに……」
ふふ、とリアムが笑う。
「僕の勝手だから気にしないで」
そういえば、リアムは、一体誰なんだろう。
長年こうやって付き合っているけれど、私は彼のことを何も知らないし、彼自身も徹底的に隠している。
「ねえ、リアム」
「ん?」
「あなたの家は、どこにあるの?私、行ってみたいわ」
すると、リアムは顔をくしゃ、と歪めた。
「…あまり、断るのは快いものではないね」
そう呟いて。
夫がいなくなったあと、私はこの家を出ていくために、片付けを始めた。
来週には、お母様とお父様のもとに戻る予定だ。
基本、女性から離婚の申し出はできないが、例外がある。
それは、夫側が罪人となったとき。
ルイス様は、今度判決が下されるが、証拠もあるし罪を犯していることは明白なので、離婚できるというわけだ。
あのあと、リアムに対する侮辱罪まで追加されたらしいけど。
「アイリス様……寂しくなります」
「私もよ…。みんな、2年間ありがとう」
ルイス様や、ティアナには沢山傷つけられてきたし、彼らのせいで心を捨てることにもなった。だけど、使用人のみんなは優しくしてくれたし、私はそのおかげで救われてきた。
「レナも。ちゃんとやるのよっ!」
「もちろんじゃない!!」
同僚から背中を叩かれているのは、専属侍女のレナ。
私は今回の件で、彼女が大いに役立っていたことを知り、お礼として連れていくことにしたのだ。
おそらく、この家は降爵となる。
分家の方が跡を継ぐという予定になっているが、伯爵以下は免れないだろう。
そして。
「ごめんなさい、アイリスちゃん。本当に、本当にごめんなさい」
お義母さまとお義父様は、何度も何度も頭を下げて謝ってくださった。
「うちの愚息が失礼を……本当に申し訳ございませんでした」
「大丈夫です。それに、この家の方たちは、沢山優しさを与えてくださいましたし」
よく、「家は主人の色に染まる」というが、この家の人たちは、ルイス様とは違った。
むしろ、前侯爵であったお義父様の方に、染まっているのかもしれない。
「この家も寂しくなるな」
お義父様は、どこか遠くを見つめてそう呟いた。
◇
この家を出ていく二日前。
ルイス様の判決は、速やかに下された。
ルイス様は、「爵位没収、及び無期懲役の刑。態度によっては、再考」。
これからきっとルイス様は苦しんでいく。反省してくれれば、それが一番だ。
「アリー。ないとは思うけれど、会わなくて大丈夫?」
お母様は、心配して言ってくださった。
「最後に、言っておきたいことはないか」。だけど、私にはもう、必要ないと思う。
「ええ。私にはもう、関係のないことです」
そう言って、離婚届にサインをした。
◇
1日前。
ルイス様の跡を継ぐ方が、ご挨拶に来られた。
「初めまして。今日からラグリー家に入らせていただく、レノンと申します。以後お見知りおきを」
「こんにちは。アイリスですわ」
私は、新しく来られたレノン様に、屋敷を案内した。
明日、私は離婚届を役所に提出して、実家に戻る。だから、これは侯爵夫人としての、最後の務めだ。
「綺麗ですね……だけど」
「ええ。寂しいでしょう??」
元からあまり華のある家ではなかった。
全てがティアナとルイス様の色に染められていたから。
「…私は無責任ながら、全てをあなたに託します。そして、この家を、また明るくしてくださいね」
「はい、もちろんです」
頼もしいレノン様に、笑みが溢れる。
「…どうか、よろしくお願いします」
私が、捨てていくこの場所を、拾ってくれるあなたに。
私は精一杯、手助けしたい。
◇
「今日でお別れかと思うと……うう」
皆が泣いている。
「…ふふ、泣いてくれるのはすごく嬉しいわ。だけど、今はレノン様がいらっしゃるの。だからもう心配ないわ」
そこで、私は、ある姿を見つける。
そうだ、まだ話していないーー。
「ティアナさん」
「は、はい、アイリス様」
そっと頭を撫でる。
彼女も、いろいろな思いでここに残っているに違いない。
「あなたのことを、許すことはないと思うの」
思ったよりも低い声が出た。
ティアナは、ぎゅっと目を瞑る。
「だけどね」
ほわ、と優しく投げかける。
「私は、あなたに助けられたこともあるのよ」
「え、?」
「今回の件なんかはそう。あなたが勇気を持って伝えてくれた秘密が、大きな役割を果たしたの」
まだ、詳しく詳細は知らない。
もしかすると、ルイスが彼女の名前を出して、ティアナは危機に陥るかもしれない。
だけど。
「今までありがとう、ティアナさん」
その時、涙を目いっぱいに溜めた彼女の顔は、今でも忘れられない。
◇
「ふぅ……」
みんなとお別れして、ひと段落。
そして先ほど、役所に離婚届を出して、私は馬車で落ち着いている。
ここから1日夜を過ごし、実家にたどり着くのだけど。
「…リアム。どうしてお迎えに来てくれたの…?」
「ん?だって、心配だから」
「ありがとう。だけど、あの件で手助けをしてくれただけで、もう十分なのに……」
ふふ、とリアムが笑う。
「僕の勝手だから気にしないで」
そういえば、リアムは、一体誰なんだろう。
長年こうやって付き合っているけれど、私は彼のことを何も知らないし、彼自身も徹底的に隠している。
「ねえ、リアム」
「ん?」
「あなたの家は、どこにあるの?私、行ってみたいわ」
すると、リアムは顔をくしゃ、と歪めた。
「…あまり、断るのは快いものではないね」
そう呟いて。
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