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第九章 錬金術師とパラサイト
目覚めた巨獣と薬の雨
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オルニアル、北西部、湖水地方。
周辺の住人に寄生し己が手足とした寄生生物アウルは、飛竜を操り寄生した者の一人、最古老の男の記憶を頼りにベヒモスの鼻へと辿り着く。
寄生するには体内に侵入し脊髄から脳に根を伸ばす必要がある。
アウルは、飛竜を崖に開いた洞窟にしか見えない鼻の穴の前に下りる様命じた。
穴からは生暖かい風がゆっくりと吹き出し、やがて吸い込まれるというサイクルを繰り返している。
“ここまで巨大であれば、あの薄気味悪いゴーレムも手出し出来まい”
そう一人ごち、アウルは満足気にシリンダー内で体をうねらせる。
その後、アウルは呼び寄せていた手足にした住民達に自分の入ったシリンダーを洞窟内部へと運ばせた。
“シリンダーを開けろ”
意識を伸ばし住民に命じる。
彼の肉体は寄生という性質を得た事で、シリンダー内にある培養液から酸素と栄養を得ないと、体内の酸素や栄養を使い果たしすぐに壊死してしまう。
宿主が死ぬと程なく寄生体が黒ずみ干乾びてしまうのはそれが原因だった。
故に、これまでアウルが培養液から離れた事は無く、シリンダーは彼にとってゆりかごであり、牢獄だった。
だが、これからはこの巨大な無敵の体が自分の肉体となるのだ。
そのために少しぐらいの冒険は冒さねばならない。
“シリンダーを倒せ”
アウルの命令を受けてシリンダー上部の蓋を外した住民達は、今度は総出でシリンダーを傾けた。
横倒しになったシリンダーから培養液と共にアウルの体が流れ出る。
緑色の液体が地面にしみ込み、アウルの体を倦怠感が襲う。
“クッ……私を壁に押し付けろッ!!”
壁はベヒモスの鼻腔だ。それは粘膜で覆われている。どこでもいい、内部に侵入出来さえすれば酸素と栄養を血から得る事が出来る。
アウルは気だるい体を叱咤して巨大な獣の体内への浸食を開始した。
■◇■◇■◇■
何時間、いや何日過ぎただろうか。
アウルはベヒモスの体内で必死にもがき、巨獣の脊椎へと手を伸ばす、骨の隙間から軟骨を食い破り体の各部へ命令を送る神経へそっと触れる。
その瞬間、丘として景色の一部となっていた巨獣の体がビクリと震えた。
“いいぞ、このまま脊椎を遡り脳を支配すれば、この巨体が私の新しい体となるッ!”
それからさらに数日後、ベヒモスが蓄えていた魔力と栄養を吸収し、アウルは巨獣の肉体の支配に成功した。
“クククッ、クハハハハッ!! ふむ、この場面で笑うのは正しいだろう。ともかく肉体は得た。あとは我が同胞たちを完全に掌握し私による私の為の私だけの世界を作るのみ”
ベヒモスを操るため巨獣の体内で肥大化したアウルは、その能力も飛躍的に向上していた。
それまで所長一人を操る事で手一杯だったが、いまならこの国にいる同胞達ぐらいは簡単に操れそうだ。
“どれ…………どういう事だ?”
アウルは今まで飛竜や住民達を操っていた様に、自らの意識を分体へと伸ばそうとした。
しかし、オルニアル国内に散らばっていた筈の分体を掴む事が出来ない。
“何故だ……ベヒモス掌握に全力を向けている間に何が……”
分体の意識はアウルには光の様に感じられていた。
以前は西側を中心に満天の星空の様にそれは感じられた。しかし今は近々で同胞にした湖水地方の者達と極僅かに点在し残る者しか感じられない。
誰かが私を阻んでいる。
存在意義である増殖と拡散、それを邪魔された事でアウルは常に無い激しい怒りを覚え、我が身となった巨獣の体を持ち上げた。
その身に繁茂した草木が雪崩を起こし、美しい湖水地方に似つかわしくない土埃を巻き上げる。
「ヴァアアアアアア!!!!」
半世紀ぶりに動き出した世界で一番大きな獣はこの国で一番人の多い場所、首都カラッサを目指し歩き始めた。
■◇■◇■◇■
アウルがベヒモスの体を掌握する数日前、首都カラッサに記録的な豪雨が降った日の午後。
研究所へ戻った健太郎達をロビーでアキラと魔物研究者のコーエンが出迎えた。
「聞いたぞ、また妙な物に姿を変えたそうじゃないか?」
「なんでも雲を生み出したとか?」
「耳が早いね」
「あれだけ派手にやればな」
確かに道のど真ん中でモクモクと白い煙が立ち上っていれば嫌でも目立つだろう。
「ふぅ、そうかい……あんときゃ、どんどん空が暗くなって雨脚は強くなる一方だし、あたしゃ街が沈むんじゃないかって心配しちまったよ」
「コホー……」
すまんミラルダ、勝手に体が暴走しちゃって……。
そう言ってロミナ姿の健太郎がペコリと頭を下げると、ギャガンが鼻を鳴らした。
「全くだ。おかげで鎧も鎧下も水浸しだぜ」
健太郎を止めようとして豪雨の中に出たギャガンは鎧から水を滴らせながら顔を顰めている。
そんなギャガンにパムが相槌を打つ。
「ほんと凄かったねぇ……あの雲ってば見渡す限り空の全部を覆ってたもんねぇ」
「確かにずぶ濡れだな……当直用のシャワーがある。着替えもあるから使うといい、こっちだ」
「すまねぇな」
濡れネズミになったギャガンを見かねて、コーエンが彼を連れて研究所の奥へと消えた。
「それで、ミシマが変形したのは人工降雨装置ってとこか?」
「のようだ……あの機能で薬を雨として降らす事が出来れば……」
「なるほど、それなら広範囲に寄生体の排除薬をばら撒けるな」
「コホー……」
雨の代わりに薬を降らせるかぁ……えっと、確かあの時は雨が漏斗に入ってそれで……。
「あれかい、じゃあ、そこに薬を入れれば?」
「コホー」
うん、たぶん薬の雨を降らせる事が出来るんじゃないかなぁ。
「よし、じゃあ早速試してみようじゃないか。アキラ、薬は出来てるのかい?」
「試作品だがな。お前達が持ち帰ったサンプルには良く効いたぜ」
「そういえば、その薬は具体的にはどんな作用があるんだ?」
「特定の遺伝子を持つ粘菌。この場合はマン・パラピュレーターの系譜だが、その菌糸結合に作用し融解させる」
「融解……人に影響は出ないのか?」
「元々、あの薬は粘菌が意図せず外部に流出した場合の対処策として作ったんだ。人体に影響はない」
アキラの答えに、質問したグリゼルダはそういえばと言葉を続けた。
「お前はオルニアルを追い出された腹いせに魔王になろうとしたんだったな……何故、オルニアルにいる間に人を操る様な物を作った?」
「周囲の錬金術師共が煩わしかったからだ。アレを奴らにけしかけて自由に操れたら、さぞ気分がいいだろうと思ってな。まぁ、結果は失敗だったし、作っただけで使うつもりは無かったが」
「コホーッ」
アキラはそもそもの考え方が物騒だよ。
「確かに……さて、それじゃあアキラ、その薬を貰えるかい? 研究所の庭で試してみるからさ」
健太郎の言葉を聞いて苦笑を浮かべたミラルダは、アキラに向き直り笑みを浮かべた。
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アウルは、飛竜を崖に開いた洞窟にしか見えない鼻の穴の前に下りる様命じた。
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“ここまで巨大であれば、あの薄気味悪いゴーレムも手出し出来まい”
そう一人ごち、アウルは満足気にシリンダー内で体をうねらせる。
その後、アウルは呼び寄せていた手足にした住民達に自分の入ったシリンダーを洞窟内部へと運ばせた。
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彼の肉体は寄生という性質を得た事で、シリンダー内にある培養液から酸素と栄養を得ないと、体内の酸素や栄養を使い果たしすぐに壊死してしまう。
宿主が死ぬと程なく寄生体が黒ずみ干乾びてしまうのはそれが原因だった。
故に、これまでアウルが培養液から離れた事は無く、シリンダーは彼にとってゆりかごであり、牢獄だった。
だが、これからはこの巨大な無敵の体が自分の肉体となるのだ。
そのために少しぐらいの冒険は冒さねばならない。
“シリンダーを倒せ”
アウルの命令を受けてシリンダー上部の蓋を外した住民達は、今度は総出でシリンダーを傾けた。
横倒しになったシリンダーから培養液と共にアウルの体が流れ出る。
緑色の液体が地面にしみ込み、アウルの体を倦怠感が襲う。
“クッ……私を壁に押し付けろッ!!”
壁はベヒモスの鼻腔だ。それは粘膜で覆われている。どこでもいい、内部に侵入出来さえすれば酸素と栄養を血から得る事が出来る。
アウルは気だるい体を叱咤して巨大な獣の体内への浸食を開始した。
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何時間、いや何日過ぎただろうか。
アウルはベヒモスの体内で必死にもがき、巨獣の脊椎へと手を伸ばす、骨の隙間から軟骨を食い破り体の各部へ命令を送る神経へそっと触れる。
その瞬間、丘として景色の一部となっていた巨獣の体がビクリと震えた。
“いいぞ、このまま脊椎を遡り脳を支配すれば、この巨体が私の新しい体となるッ!”
それからさらに数日後、ベヒモスが蓄えていた魔力と栄養を吸収し、アウルは巨獣の肉体の支配に成功した。
“クククッ、クハハハハッ!! ふむ、この場面で笑うのは正しいだろう。ともかく肉体は得た。あとは我が同胞たちを完全に掌握し私による私の為の私だけの世界を作るのみ”
ベヒモスを操るため巨獣の体内で肥大化したアウルは、その能力も飛躍的に向上していた。
それまで所長一人を操る事で手一杯だったが、いまならこの国にいる同胞達ぐらいは簡単に操れそうだ。
“どれ…………どういう事だ?”
アウルは今まで飛竜や住民達を操っていた様に、自らの意識を分体へと伸ばそうとした。
しかし、オルニアル国内に散らばっていた筈の分体を掴む事が出来ない。
“何故だ……ベヒモス掌握に全力を向けている間に何が……”
分体の意識はアウルには光の様に感じられていた。
以前は西側を中心に満天の星空の様にそれは感じられた。しかし今は近々で同胞にした湖水地方の者達と極僅かに点在し残る者しか感じられない。
誰かが私を阻んでいる。
存在意義である増殖と拡散、それを邪魔された事でアウルは常に無い激しい怒りを覚え、我が身となった巨獣の体を持ち上げた。
その身に繁茂した草木が雪崩を起こし、美しい湖水地方に似つかわしくない土埃を巻き上げる。
「ヴァアアアアアア!!!!」
半世紀ぶりに動き出した世界で一番大きな獣はこの国で一番人の多い場所、首都カラッサを目指し歩き始めた。
■◇■◇■◇■
アウルがベヒモスの体を掌握する数日前、首都カラッサに記録的な豪雨が降った日の午後。
研究所へ戻った健太郎達をロビーでアキラと魔物研究者のコーエンが出迎えた。
「聞いたぞ、また妙な物に姿を変えたそうじゃないか?」
「なんでも雲を生み出したとか?」
「耳が早いね」
「あれだけ派手にやればな」
確かに道のど真ん中でモクモクと白い煙が立ち上っていれば嫌でも目立つだろう。
「ふぅ、そうかい……あんときゃ、どんどん空が暗くなって雨脚は強くなる一方だし、あたしゃ街が沈むんじゃないかって心配しちまったよ」
「コホー……」
すまんミラルダ、勝手に体が暴走しちゃって……。
そう言ってロミナ姿の健太郎がペコリと頭を下げると、ギャガンが鼻を鳴らした。
「全くだ。おかげで鎧も鎧下も水浸しだぜ」
健太郎を止めようとして豪雨の中に出たギャガンは鎧から水を滴らせながら顔を顰めている。
そんなギャガンにパムが相槌を打つ。
「ほんと凄かったねぇ……あの雲ってば見渡す限り空の全部を覆ってたもんねぇ」
「確かにずぶ濡れだな……当直用のシャワーがある。着替えもあるから使うといい、こっちだ」
「すまねぇな」
濡れネズミになったギャガンを見かねて、コーエンが彼を連れて研究所の奥へと消えた。
「それで、ミシマが変形したのは人工降雨装置ってとこか?」
「のようだ……あの機能で薬を雨として降らす事が出来れば……」
「なるほど、それなら広範囲に寄生体の排除薬をばら撒けるな」
「コホー……」
雨の代わりに薬を降らせるかぁ……えっと、確かあの時は雨が漏斗に入ってそれで……。
「あれかい、じゃあ、そこに薬を入れれば?」
「コホー」
うん、たぶん薬の雨を降らせる事が出来るんじゃないかなぁ。
「よし、じゃあ早速試してみようじゃないか。アキラ、薬は出来てるのかい?」
「試作品だがな。お前達が持ち帰ったサンプルには良く効いたぜ」
「そういえば、その薬は具体的にはどんな作用があるんだ?」
「特定の遺伝子を持つ粘菌。この場合はマン・パラピュレーターの系譜だが、その菌糸結合に作用し融解させる」
「融解……人に影響は出ないのか?」
「元々、あの薬は粘菌が意図せず外部に流出した場合の対処策として作ったんだ。人体に影響はない」
アキラの答えに、質問したグリゼルダはそういえばと言葉を続けた。
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「周囲の錬金術師共が煩わしかったからだ。アレを奴らにけしかけて自由に操れたら、さぞ気分がいいだろうと思ってな。まぁ、結果は失敗だったし、作っただけで使うつもりは無かったが」
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アキラはそもそもの考え方が物騒だよ。
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