紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第九章 錬金術師とパラサイト

英雄譚とベヒモスの話

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 健太郎けんたろう達は取り敢えずベヒモスには待ってもらう事にして、グリゼルダ及びギャガンの指示に従い負傷者の搬送を手伝った。
 体をトラックモードに変え、後方部隊の物資輸送用の馬車までピストン輸送する。

 兵士達はアウラが完全な掌握では無く、健太郎を排除するため肉体の支配を優先した事で脳に損傷を負った物は無く、薬の雨によってそのほとんどが寄生生物の支配から抜け出ていた。
 ただ、砲弾の暴発によって吹き飛ばされた者は重症もしくは死亡していた者も多くいた。

 グリゼルダは重傷者を餞別し治癒魔法を使い、軽症者は健太郎に乗せ後方へ運ばせた。
 魔法に長けた魔人族であってもその魔力は有限だ。魔力回復薬の飲める量にも限界がある。
 グリゼルダは元軍人だけあって、その辺の判断を的確に素早く行っていた。

「ミシマ、取り敢えずこれで最後だ。彼らを送り届けたらベヒモスの所に行こう」

 トラックモードの後部座席には傷を癒された重傷者が乗り込んでいる。
 現在の健太郎は呼吸の必要が無い為か臭いを感じる事は無かったが、彼らの血で汚れた服や鎧は否が応にも健太郎に鉄サビの臭いを思い起こさせた。

「ブルブルブルッ」

 分かった。それじゃあ行くよ。



 運転席に座ったグリゼルダはいつの間にか眠っていた。
 百名以上の負傷者に治癒魔法を掛けたのだ。その疲れが出たのだろう。

「ブルルルルッ……」

 今回は魔法組は大変だったな……。

 ミラルダは囮となりアウラを引き付け、グリゼルダは戦場を駆け巡った。
 勿論、ギャガンやパムも大変だったろうが、精神力を使い切った二人の方が疲労は大きい筈だ。

 少しの間だけど眠るといい。

 そんな事を思いながら健太郎は負傷者を後方部隊の下へと運んだ。


■◇■◇■◇■


「これで兵士の怪我人は最後だ。後はベヒモスが引き連れてきた者達から生存者を探さないと……」
「それはこちらで引き受ける。送ってくれた負傷兵からおおよその事は聞いた……ラーグの冒険者か……トラスの時と同様、またあの国に借りが出来たな」

 後方部隊の部隊長は戦場から五キロ程離れたその場所からでも覗えるベヒモスの姿を眺めながら、苦笑に似た笑みを浮かべた。

「やはりあのベヒモスはトラスの英雄譚の……」
「ああ、湖水地方で眠りについたベヒモス……他の国じゃ、トラスパーティの魔法使いがベヒモスを殺したって伝わってる所もあるそうだが、オルニアルじゃ首都壊滅の危機を救った恩人だ……そういやあんた等もそうだったな。こりゃ新しい英雄譚が生まれそうだ」
「あの話に憧れはしたが……私は英雄って柄じゃないさ……さて、ミシマ、ベヒモスの所へ行こうか」

 部隊長の言葉に肩を竦めると、負傷者を下ろしたトラックモードの健太郎にグリゼルダは声を掛けた。

「ブルブル……」

 了解……他の皆も拾っていくか。

 そう考えた健太郎はその身をトラックモードからVTOLモードへと変えた。

「空を飛ぶ巨人に鉄の車、それに鉄の鳥か……説明は受けたが便利なもんだ」
「今回もミシマがいなければベヒモスは止められなかった……英雄譚にするならコイツの事にしてくれ」
「ハハッ、確かにそのゴーレムは立役者だが、戦場じゃああんたも含めて、戦った皆が英雄だよ……」

 部隊長はそう言って荷馬車で南部の街に運ばれる兵達に目をやった。

 そんな部隊長の姿を見て健太郎は思う。
 自分がもっと上手くやれれば救えた命はあったのではないだろうかと……。

 せっかく転生して強靭で色々出来る体を手に入れたのだ。
 これまではこの機械の体に振り回されながら、場当たり的に事に当たって来たが、今後はもっとこの体の能力を調べてみてもいいかもしれない。そうすればもっと……。

「ミシマ、どうした? ベヒモスの所に行くんじゃないのか?」

 気が付けばグリゼルダは部隊長への挨拶を終え、VTOLの操縦席に座っていた。

「ヴヴヴヴッ」

 ああ、悪い。考え事をしてたんだ。

「……やはり意思疎通が出来ないと不便だな……レベッカとも直接話してみたいしやはり念話系の魔法を……」

 顎に手をやりブツブツと呟き始めたグリゼルダを乗せ、健太郎はミラルダ達のいる草原へとVTOLを向かわせた。


■◇■◇■◇■


 ホバリングする青黒い垂直離着陸機の前、巨大な瞳がこちらに視線を向けている。



「それで話とはなんだ?」

 魔力が乗ったグリゼルダの声が巨大な獣に語りかける。

「ヴァアア? (オラを無理矢理叩き起こしたあの緑の奴、アレを頭ン中から追い出してくれたのはおめさん達だべ?)」
「そうだ。実際にやったのは今、鉄の鳥になっているミシマ、それにこの半獣人の魔法使いミラルダだ」
「ちょいとグリゼルダ、あたしゃミシマの中でボタンを二回押しただけだよ」

 ミラルダの囁きに笑みを浮かべつつ、グリゼルダはベヒモスの言葉を待つ。

「ヴァアアアア(やっぱりそうだったんだな、あんがとなぁ、オラ、龍脈の力さ吸い取って眠ってたとこを、いきなり体が動き出したもんで、面食らっちまって……)」
「ベヒモスは何て言ってんだ?」
「ベヒモスはどうも龍脈、大地の、この星の持つ気の流れを吸い取る為に眠っていたらしい。そこをアウラに寄生されて体を操られ、随分と驚いたようだ」
「操られたのが分かったんなら、意識はあったって事?」

 パムの問いにどうやらそうらしいなと答えながら、グリゼルダはベヒモスに視線を戻した。

「それで、話というのはアウラから解放された事への礼か?」
「ヴァアアア(んだ。実はオラ、世界各地の龍脈を巡って力を吸って調整するって仕事を言い遣ってるだ)」
「言い遣る? 一体誰に?」
「ヴァアアア(それはその……まぁ、その話は置いといて……んでな。その仕事さするために結構なんでも出来るだよ。だから助けてくれた礼になんでも一つ願いを聞くだよ)」
「なんでも願いを……みんな、ベヒモスは助けた礼になんでも願いを聞くと言ってる……どうする?」

 グリゼルダがミラルダ達を振り返りパーティーの仲間に視線を送る。

「なんでもってホントになんでもかい?」
「らしい」
「んじゃ、今回の事で死んだ奴らを蘇らせてもらおうぜ」
「そりゃ流石に無理なんじゃないかい? 蘇生は神様の領域だろ」
「ババババババッ……」

 ミラルダ、聞くだけ聞いてみよう。蘇生が無理でも脳をやられた人達だけでも復活出来れば……。

「そうだねぇ……」
「ねぇ、ミラルダ、ミシマはなんて言ってるの?」
「聞くだけ聞いてみようって……蘇生が無理でも寄生体にやられた人の回復が出来ればって」
「回復……うんうん、聞いてみようッ!! みんな泣いてたし、それがいいよッ!」
「だな……女やガキの涙は見たくねぇしよぉ」
「……蘇生、それが無理なら生存者の回復だな……ベヒモス、我々の願いはこの一件での被害者の復活と治癒だ」

 グリゼルダはベヒモスの巨大な瞳に向かって魔力を乗せた言葉を紡いだ。

「ヴァアアアアアア(今回の死者の復活と治癒だか……やってもええだが、一つオラのお願いも聞いてくれるだか?)」
「お願い……なんだ?」

「ヴァアアア(復活には今のオラに残ってる力さ殆ど使う事になるだ。そうなると次の行く予定の龍脈への到着がおくれちまう。遅れた分だけ龍脈にゃあ力が溜まる。そんで力が溜まりすぎると龍脈は爆発しちまうんよ。だから代わりに龍脈さ行って力を吸い上げて欲しいだ)」

「力を吸い上げる……そんな事が人に可能なのか?」
「ヴァアアアアア(人族じゃ無理だぁ、けんどもその青いゴーレムさんなら出来る筈だぁ……そんお人はオラと同じ匂いがするだで……)」

 同じ匂い……グリゼルダはベヒモスの言葉に様々な憶測を考えつつ、巨獣の言葉をミラルダ達に伝えた。

「龍脈か……次の目的地が決まったな」
「いいのかいギャガン?」
「お前はどうなんだよ? このまま死んだ奴や動けねぇ奴を見捨てて平気なのか?」
「平気じゃないけど、龍脈みたいな大きな力をミシマがどうにか出来るのか……」
「龍脈ってメルディスの迷宮の転移に使ってた奴だよね?」
「そうだ、だがあの迷宮のモノは支流の一つだ。本流の力となれば……」
「ババババッ!!」

 俺、やるよッ!!

「……いいのかいミシマ? 相手は星の力だよ、吸い上げる事が出来ても受け止め切れずに爆発とか……」
「バババババッ!!」

 ベヒモスが出来るって言ってるんだ、きっと大丈夫さッ!!

「うーん、相変わらず楽天的だねぇ……まぁ、そこがあんたのいい所だしね……グリゼルダ、ベヒモスに依頼を受けるって伝えておくれ」
「……了解だ。ベヒモス、お前の願いを我々は冒険者として受けよう」
「ヴァアアアアア!! (感謝するだ!! やっぱり冒険者は頼りになるだなッ!!)

 ベヒモスはそう鳴き声を上げると嬉しそうに瞳を細めた。
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