紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第九章 錬金術師とパラサイト

仕事の終わり

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「ラーグに帰るのか?」

 オルニアルの首都、カラッサにある研究所のロビー。
 挨拶に寄った健太郎けんたろう達に、アキラはいつもの様に少し皮肉げな笑みを浮かべていた。

「ああ、あたし等の仕事は終わったみたいだしね。二人はどうするんだい?」

 ミラルダはそう言うとアキラとコーエンを順繰りに眺めた。



「我々は公爵様の指示で、ラーグから送られる復興部隊に協力する予定だよ。君らの活躍でその大半が駆逐されたとはいえ、まだ寄生された人々は残っているからね」
「これが上手くいきゃあ、薬の制作者は元一級錬金術師ニム・バランガって事で大々的に発表される予定だ。へへッ、俺を追い出した錬金術師共……国政議員だった奴らはその殆どが職を退いた、いや、退かされたみたいだが……ともかく奴らの鼻を明かしてやれるぜッ!」

 ニヤッと笑ったアキラにグリゼルダは嘆息交じりの言葉を返す。

「いい加減、お前も執念深いな」
「うるさいッ! 俺はこの世界に来た時は与えられた力で人を助けようとしてたんだッ! それをあいつ等は自分の矜持を守る為に踏みにじったッ! 俺の記憶を覗いたお前なら分かるだろうッ!?」
「……分からなくはないがな」

 グリゼルダはアキラの記憶を見た事で、彼の気持ちも分からないでは無かったが、それでもそこまで執拗に人を憎む感覚は理解出来なかった。
 確かに策謀により地位と居場所を失った怒りと憎しみは分かる。しかし自分であればそのエネルギーを持ち続けられないだろう……それは本当に大事な物を自分がまだ無くした事が無いからかもしれない。

 そう思い、グリゼルダはギャガンにチラリと視線を送った。
 グリゼルダの視線の先でギャガンは苦笑を浮かべている。

「俺はそんな奴らは放っておいて、先に進む方がいいと思うがなぁ」
「だねだね。嫌な奴らの事を考えてるより、楽しいこと考えた方がわたしもいいと思うよッ!!」
「だから、俺は奴らの悔しがる顔を想像すんのが楽しいんだよッ!! あいにくローザムは行方不明らしいがなッ!!」
「……コホーッ」

 ……徹底してるなぁ。

「だねぇ……まぁいいや。コーエンさん、それじゃあアキラの事、よろしくお願いします」
「分かっている……しかし、こんな結末になるとはね……」
「ミシマがいたからだろう。私の推測ではこいつのスキルは幸運なんだ」
「幸運……確かにそうかもしれないな」

 コーエンはそう言うと眼鏡の奥の目を細めた。


■◇■◇■◇■


 その太った禿頭で髯を生やした男は暗い森の中を流れる川の中で唐突に目を覚ました。
 ゲホゲホと咽ながら、何とか岸辺に辿り着き這い上がる。

 荒い息を吐きながら男は何が起きたのか思い返す。

 確か馬車で南へ向かい、兵士に強引に封鎖を解かせて危険地帯だという封鎖地区に馬車を乗り入れたのだった。
 馬車には新兵器の大砲や銃も積んでいたし、それを扱う用心棒も引き連れていた。強行しても問題ない筈だった。

 だが寄生された者達の数の暴力はどうにも出来ず、用心棒は馬車を置いて逃げ、共にロックローズへ向かう予定だった愛人も金の入った鞄を持って彼らと共に去ってしまった。

「クソッ、裏切り者共が……見つけたら必ず八つ裂きにしてやる……」

 そんな事を呟きながら、這い上がった岸辺の周囲に視線を送る。

「しかし、ここは何処なのだ? 何故、私はこんな森に……?」

 寄生された者達に襲われた後、集団から逃げ出し彼は必死で走った。
 一度噛まれたからなのか、彼らは男を追う事は無かった。
 それでも虚ろな瞳の人間の姿をした、人間では無い者に怯えていた男は逃げ続け……。

「そうだッ! 私は崖から落ちて川に……それで……」

 視線を上に向けたが、鬱蒼とした木々から伸びた葉の所為で崖の存在は確認出来ない。
 それに例え崖が見えたとしても、川に落ちて流されたのなら違う場所の筈だ……。

「うぅ……」

 唐突に自分の置かれた状況に不安と恐怖を覚えた男は周囲を見回す。

「グルルルルッ」
「ヒッ!?」

 ガサガサと茂みが揺れ、一頭の狼が姿を見せた。



 その狼の頭部からは緑色の鬣の様な物が揺らめいていた。

「くっ、来るなッ!!」

 男は足元に落ちていた木の枝を片手に奇妙な狼を威嚇する。
 狼は男のへっぴり腰の威嚇に鼻を鳴らすと、一気に駆け寄りその喉笛に噛みついた。

「グガッ!?」

 突進の勢いのまま、狼は男を押し倒し喉笛に食らいついた自身の顎をひねる。
 ボキッと何がが折れる音が響き、男の意識はそこで途切れた。


■◇■◇■◇■


 ラーグの南部、クルベストの街の上を赤い鱗の竜が飛んでいる。
 その背には買い物袋を持った金髪の耳の長い女が、風にその髪を揺らせていた。

「キュー。今日は何が食べたい?」
「キュエーッ(最近、耳長の人の料理は急激に美味しくなったから、キューは何でもいいの)」



 キューは何やらハンドサインの様な物を鳴きながらロミナに示して見せた。

「何でもいいというのが一番困るのだが」
「キュエーッ!(じゃあお肉が食べたいのッ!)」
「肉か……昨日も肉料理だっただろう? よし、決めた。今日はマスのムニエルだッ! 魚市場へ向かってくれ」
「キュエーッ!?(キューはお肉が良いって言ったのにッ!?)」
「さっき何でもいいと言っていたではないか?」
「キュエー……(だったら聞かないで欲しいの……)」

 そんなやり取りを行っていたキューとロミナの上から、ババババババッという聞き覚えのある音が響く。

「帰ったか……キュー、予定変更だッ!! 今日は分厚いステーキにするぞッ!! 肉市場へ向かってくれッ!!」
「キュエーッ!!(ステーキッ!! 硬い人は毎日どっか行って、帰って来て欲しいのッ!!)」

 テンションの上がったキューを見て、ロミナはクスクスと楽し気に笑った。
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