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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した
噂は一人歩きする
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健太郎とミラルダがクニエダからフェンデアの事、そしてギルドの国外進出の件の詳細を聞き終え屋敷へ戻ると、そこには妙に疲れた様子のギャガン、グリゼルダ、パムにケントの四人が二人を出迎えた。
コロがピポピポと飛び回り、いつかミラルダを隷属から解放した光をギャガン達に浴びせているが、疲れが肉体では無く精神的な物の為かあまり効果は無い様だ。
「どうしたんだい皆、えらくお疲れじゃないか? 他の皆は?」
「グッ……疲れたって、部屋に引っ込んだぜ……俺たちゃ部屋まで行く気力も無くてな……それでミラルダ、いつフェンデアに行くんだ?」
屋敷の中央リビングでぐったりとした様子でソファーに座っていたギャガンが、億劫そうに体を背もたれから持ち上げ、ミラルダに問い掛ける。
「ああ、その事でみんなに意見を聞こうと思ってね。どうもギルドで国外に支部を作る計画があるみたいで、フェンデアもその計画に含まれてるみたいなんだ。それでギルドの職員が調査とテストを兼ねて同行したいって言ってるんだけど」
「コホーッ」
ミラルダ、聖地の事も。
「そうそう、それでね。フェンデアでは龍穴は聖地みたいで、部外者は入れないらしいんだよ。それでギルドのテストに協力して現地の人の問題を解決すれば、入れてくれるんじゃないかって話になってねぇ」
「うぅ……なるほど、恩を売って龍穴に近づこうという事だな……ギルド職員の同行か……私は別に構わんぞ」
「俺もだ。とにかくこの屋敷から離れられるなら何でもいい」
「わたしもだよぉ……もうお勉強は沢山だよ……」
ミラルダはお勉強と首を捻り、そういえばとグラスが貴族の礼儀作法をレクチャーすると言っていた事を思い出した。
ギャガン達の様子を見るに、かなり厳しく指導はなされたようだ。
「そんなにきつかったのかい?」
「きつかったよ……お辞儀の確度とか、言葉使いとか、とにかく決り事が多くてさぁ……なぁ、ミラ姉、名誉騎士の話、断れないのかよぉ……?」
ギャガン達と同様、疲れた様子のケントがソファーに寝そべったまま、顔だけこちらに向けぼやく。
いつも元気なケントのぐったりした様子に、ミラルダは少し驚き、目を丸くした。
「うーん、伯爵様の話じゃ、名誉騎士になれば貴族がお抱えにしようとちょっかいを出して来る事も無くなるって言うんだけど……」
「コホー……コホーッ?」
うーん……ねぇミラルダ、グラス君にもう少し優しく指導してくれるよう言ってみない?
「そうだねぇ……」
ミラルダが困り顔で健太郎に向き直ると、ドアがノックされ話題の人物、美人執事のグラスが姿を見せた。
「ミラルダ様、ミシマ様、お戻りになられたとお聞きしまして……早速ですが、お二人にもラーグにおける貴族の作法についてお教えしたいのですが?」
「その事なんだけど……なんかみんな見た事無いぐらい疲れているみたいなんだ。もう少しお手柔らかに頼めないかねぇ?」
「そうしたいのはやまやまなのですが、騎士叙勲の際には王と謁見する事になるでしょうし、貴族の方ともお会いする筈です……叙勲まであまり時間がありませんので……」
「コホーッ?」
もう礼儀とかいいんじゃないの? 俺達、冒険者なんだし。
「そうだねぇ……ねぇ、グラスさん、あたし等、冒険者だし、元平民と外国人の集まりだからそこまで厳しくしなくても……」
「いえ、だからこそ皆様にはキッチリ作法を学んでいただきたい」
「コホーッ?」
なんでそこまでこだわるのさ?
グラスはそう言った健太郎のジェスチャーを、眉間に皺を寄せてじっと見つめた。
「あー……なんで……そこまで……こだわり……いえ、こだわる? でしょうか?」
「コホーッ!?」
凄いッ!? 俺のジャスチャーを読み取ったッ!!
驚きに声を上げた健太郎にグラスはフフッと笑いを洩らす。
「まだまだ完璧ではありませんがミシマ様のジェスチャーを勉強しておりますので……それに寡黙なお客様の要望を察するのも我々使用人の仕事で御座います。ミシマ様は身振り手振りがあるので無口な方よりは読みやすうございます。それでこだわる理由ですが……貴族社会というのは民と同様、いえそれ以上に噂が独り歩きする所でございます。そこで礼を欠いた振る舞いをなされば悪評は一瞬で伝播するでしょう」
グラスの言葉は自身の経験から出ていた。
アドルフに連れられフィッシュバーン家の執事になったが、両親が言い触らしたのかグラスが肉体的に女性でありながら、精神は男だという話は貴族の中で広く知れ渡っていた。
フィッシュバーン家の傘の下にいる事で悪しざまに言う者は少ないが、それでも彼に興味を持ち接触してくる者は後を絶たない。
「コホー……」
面倒だなぁ……べつに貴族達にどう思われようが構わないんだが……。
「かまわない、でしょうか? うーん、主の要望には従いたいとは思うのですが……」
「じゃあ、基本の基本、それだけ教えてくれりゃいいから……慣れない事を無理にやろうとする方が失敗するってもんさ」
「……確かにそれはそうかもしれませんね」
「だろう? それにあたし等、また暫く留守にする事になるし」
「留守に……お仕事ですか?」
「ああ、南洋のフェンデアって島国に」
ミラルダの言葉を聞いてグラスは左手で肘を抱え、右手を顎に当てた。
「フェンデア……たしか蜥蜴人の国ですね……それで向かわれるのは?」
「あたしにミシマ、グリゼルダにギャガン、パムはどうする?」
「行くッ! ディランのパーティーは欠員出そうに無いし、新田達も新しいパーティー組んだみたいだから……」
「んじゃ、この五人だね」
「承知しました。ではミラルダ様達には作法の基本を書き記した物をご用意いたします」
「うぇ……冒険に出てもお勉強しないとなの?」
「ミラルダ様の言われる様に、私も少し張り切り過ぎた様です……基本的な物を纏めますのでどうか……」
顔を顰めたパムの前で跪き、グラスは彼女の手を握った。
「うっ……分かったよう……」
ケントが聞いた事でグラスが体が女性で精神は男性だと言う事は分かった。
ただ、男女がどうこう以前に客観的に見てグラスは美人だ。
そんな美人に目をウルウルさせながら手を握られ懇願されれば、老若男女関係無く、嫌とは言えないのでは無いだろうか。
パムもその例に漏れず、彼の願いを突っぱねる事は出来なかった。
「ありがとうございます。基本に止めますので、よろしくお願いします」
「……グラスさん、それ自分で破壊力を分かってやってるよね?」
「フフッ、伯爵様にお仕えして私もほんの少しですが図太くなりましたので……」
そう言って笑ったグラスの笑みもまた、とても魅力的な物だった。
コロがピポピポと飛び回り、いつかミラルダを隷属から解放した光をギャガン達に浴びせているが、疲れが肉体では無く精神的な物の為かあまり効果は無い様だ。
「どうしたんだい皆、えらくお疲れじゃないか? 他の皆は?」
「グッ……疲れたって、部屋に引っ込んだぜ……俺たちゃ部屋まで行く気力も無くてな……それでミラルダ、いつフェンデアに行くんだ?」
屋敷の中央リビングでぐったりとした様子でソファーに座っていたギャガンが、億劫そうに体を背もたれから持ち上げ、ミラルダに問い掛ける。
「ああ、その事でみんなに意見を聞こうと思ってね。どうもギルドで国外に支部を作る計画があるみたいで、フェンデアもその計画に含まれてるみたいなんだ。それでギルドの職員が調査とテストを兼ねて同行したいって言ってるんだけど」
「コホーッ」
ミラルダ、聖地の事も。
「そうそう、それでね。フェンデアでは龍穴は聖地みたいで、部外者は入れないらしいんだよ。それでギルドのテストに協力して現地の人の問題を解決すれば、入れてくれるんじゃないかって話になってねぇ」
「うぅ……なるほど、恩を売って龍穴に近づこうという事だな……ギルド職員の同行か……私は別に構わんぞ」
「俺もだ。とにかくこの屋敷から離れられるなら何でもいい」
「わたしもだよぉ……もうお勉強は沢山だよ……」
ミラルダはお勉強と首を捻り、そういえばとグラスが貴族の礼儀作法をレクチャーすると言っていた事を思い出した。
ギャガン達の様子を見るに、かなり厳しく指導はなされたようだ。
「そんなにきつかったのかい?」
「きつかったよ……お辞儀の確度とか、言葉使いとか、とにかく決り事が多くてさぁ……なぁ、ミラ姉、名誉騎士の話、断れないのかよぉ……?」
ギャガン達と同様、疲れた様子のケントがソファーに寝そべったまま、顔だけこちらに向けぼやく。
いつも元気なケントのぐったりした様子に、ミラルダは少し驚き、目を丸くした。
「うーん、伯爵様の話じゃ、名誉騎士になれば貴族がお抱えにしようとちょっかいを出して来る事も無くなるって言うんだけど……」
「コホー……コホーッ?」
うーん……ねぇミラルダ、グラス君にもう少し優しく指導してくれるよう言ってみない?
「そうだねぇ……」
ミラルダが困り顔で健太郎に向き直ると、ドアがノックされ話題の人物、美人執事のグラスが姿を見せた。
「ミラルダ様、ミシマ様、お戻りになられたとお聞きしまして……早速ですが、お二人にもラーグにおける貴族の作法についてお教えしたいのですが?」
「その事なんだけど……なんかみんな見た事無いぐらい疲れているみたいなんだ。もう少しお手柔らかに頼めないかねぇ?」
「そうしたいのはやまやまなのですが、騎士叙勲の際には王と謁見する事になるでしょうし、貴族の方ともお会いする筈です……叙勲まであまり時間がありませんので……」
「コホーッ?」
もう礼儀とかいいんじゃないの? 俺達、冒険者なんだし。
「そうだねぇ……ねぇ、グラスさん、あたし等、冒険者だし、元平民と外国人の集まりだからそこまで厳しくしなくても……」
「いえ、だからこそ皆様にはキッチリ作法を学んでいただきたい」
「コホーッ?」
なんでそこまでこだわるのさ?
グラスはそう言った健太郎のジェスチャーを、眉間に皺を寄せてじっと見つめた。
「あー……なんで……そこまで……こだわり……いえ、こだわる? でしょうか?」
「コホーッ!?」
凄いッ!? 俺のジャスチャーを読み取ったッ!!
驚きに声を上げた健太郎にグラスはフフッと笑いを洩らす。
「まだまだ完璧ではありませんがミシマ様のジェスチャーを勉強しておりますので……それに寡黙なお客様の要望を察するのも我々使用人の仕事で御座います。ミシマ様は身振り手振りがあるので無口な方よりは読みやすうございます。それでこだわる理由ですが……貴族社会というのは民と同様、いえそれ以上に噂が独り歩きする所でございます。そこで礼を欠いた振る舞いをなされば悪評は一瞬で伝播するでしょう」
グラスの言葉は自身の経験から出ていた。
アドルフに連れられフィッシュバーン家の執事になったが、両親が言い触らしたのかグラスが肉体的に女性でありながら、精神は男だという話は貴族の中で広く知れ渡っていた。
フィッシュバーン家の傘の下にいる事で悪しざまに言う者は少ないが、それでも彼に興味を持ち接触してくる者は後を絶たない。
「コホー……」
面倒だなぁ……べつに貴族達にどう思われようが構わないんだが……。
「かまわない、でしょうか? うーん、主の要望には従いたいとは思うのですが……」
「じゃあ、基本の基本、それだけ教えてくれりゃいいから……慣れない事を無理にやろうとする方が失敗するってもんさ」
「……確かにそれはそうかもしれませんね」
「だろう? それにあたし等、また暫く留守にする事になるし」
「留守に……お仕事ですか?」
「ああ、南洋のフェンデアって島国に」
ミラルダの言葉を聞いてグラスは左手で肘を抱え、右手を顎に当てた。
「フェンデア……たしか蜥蜴人の国ですね……それで向かわれるのは?」
「あたしにミシマ、グリゼルダにギャガン、パムはどうする?」
「行くッ! ディランのパーティーは欠員出そうに無いし、新田達も新しいパーティー組んだみたいだから……」
「んじゃ、この五人だね」
「承知しました。ではミラルダ様達には作法の基本を書き記した物をご用意いたします」
「うぇ……冒険に出てもお勉強しないとなの?」
「ミラルダ様の言われる様に、私も少し張り切り過ぎた様です……基本的な物を纏めますのでどうか……」
顔を顰めたパムの前で跪き、グラスは彼女の手を握った。
「うっ……分かったよう……」
ケントが聞いた事でグラスが体が女性で精神は男性だと言う事は分かった。
ただ、男女がどうこう以前に客観的に見てグラスは美人だ。
そんな美人に目をウルウルさせながら手を握られ懇願されれば、老若男女関係無く、嫌とは言えないのでは無いだろうか。
パムもその例に漏れず、彼の願いを突っぱねる事は出来なかった。
「ありがとうございます。基本に止めますので、よろしくお願いします」
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