紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した

エリート職員

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 屋敷の庭、VTOLモードの健太郎けんたろうの前でミラルダ達が家族と使用人に見送りを受けている。
 それぞれに言葉を交わし、最後にミラルダが年長のトーマスに声を掛けた。 

「みんなの事頼んだよ。トーマス」
「うん、任せて」
「ロミナ、あんたもよろしくね」
「ああ、子供達とキューの食事の事は任せてくれ」
「ミラルダ様、ご家族の事はご心配なく。我々が責任を持ってお世話致しますので。それとこれを」

 グラスはそう言うと『ラーグ貴族の作法 基礎編』と書かれた冊子を差し出した。
 ミラルダ達は、引きつった笑みを浮かべながらそれを受け取った。
 手書きらしい冊子はちゃんと人数分用意されており、笑みを浮かべたグラスはギャガン達には一冊ずつ、ミラルダには健太郎の分も合わせ都合二冊手渡す。

「必要最低限の項目に絞りましたので、基本これだけ覚えて頂ければ問題無いかと」
「そっ、そうかい。ありがとね……」
「基本でもこれかよ……」
「細かいな……ラーグの貴族は面倒だ……」
「グラスさん、もっと絞ってよッ!」

 そう言って受け取った本を差し出したパムに、グラスは静かに首を振った。

「これ以上絞るのは無理です。大丈夫、パム様なら出来ますよ」

 そう言って本を差し出したパムの手に自らの手を重ね、グラスは優しく微笑んだ。

「……簡単に言うよね」
「パム様なら出来ると信じていますから」
「グラスさんって表面上は柔らかいけど、圧が凄いんだよね……はぁ、なんとか頑張るよ」
「はい、頑張って下さい。ではお気を付けて」

 ハンカチを振るグラスに苦笑を返し、ミラルダ達は健太郎に乗り込んだ。
 機内にはミラルダ、ギャガン、グリゼルダ、パムの他、ギルドの調査員、イレーネ・ランデルマンも乗り込んでいる。

「フフッ、平民や外国の人が貴族社会に入るのも大変みたいねぇ」



 イレーネは銀縁の眼鏡をクイッと持ち上げ、タイトなミニスカートから覗く足を組み微笑む。

「全くだ。所でフェンデアは常夏の島国で、島内は鬱蒼とした木々に覆われていると聞いている。そんな装備で大丈夫か?」

 グリゼルダはイレーネが組んだ足の先、赤いのピンヒールを指差し眉を寄せる。

「大丈夫、問題無いわ。どこに行こうがスタイルを崩さないのが私のポリシーなの」
「ポリシーねぇ……足手まといだけにはなるなよ」
「ええ、勿論」

 後部座席で交わされる会話を聞いていたパムが、操縦席に座ったミラルダをチョンチョンと突く。

「ねぇ、あの人、ホントに大丈夫なの?」
「うーん、ギルドのクニエダさんは、調査で世界中を飛び回るエリート職員だって言ってたけどねぇ」
「エリート……何だか不安だなぁ」
「ババババババッ」

 まぁ、問題が起きたらその都度、対処すればいいさ。

「ふぅ……ミシマは相変わらずだねぇ……さて、それじゃあ行こうか」
「うんうんッ! 出発進行ッ!!」


■◇■◇■◇■


 数時間後、機内では青い顔をしたイレーネが苦しそうに荒い息を吐いていた。

「大丈夫か、姉ちゃん?」
「クッ……この振動と揺れさえ無ければ……」

 この世界には一部の例外を除き、空を飛ぶ機械は存在しない。
 当然、イレーネも普段の移動は馬か馬車、特別急ぐ場合に飛竜に乗る事があるくらいだ。

 結論から言えばずっと続くエンジン音、そして時たま起きる乱気流による浮遊感によって彼女は乗り物酔いを起こしていた。

「どうする? 辛いなら眠りの雲で眠らせてやるぞ」
「い、いえ、大丈夫よッ、航路の確認もしたいし……それにこれしきの事で予定を遅らせる訳には……うぷっ……」
「無理しねぇ方がいいぜ」

 グリゼルダとギャガンは最初の勢いを失ったイレーネを気の毒そうに眺めている。

「そっ、そんな目で……くふッ……見ないで頂戴ッ!」
「だってよぉ……」
「仕方ない、ミシマ、何処かに着陸してくれ。イレーネを休ませたい」
「ババババババッ!!」

 了解ッ!!

 現在、健太郎が飛んでいるのはドワーフの国、ロックローズの上空だ。
 ロックローズは丘と谷で構成された鉱山が多く存在する国だ。
 谷の壁面にはいくつも穴が穿たれ、その穴同士を繋げるトロッコのレールが縦横無尽に張り巡らされているのが遠目に見えた。

 丘の上は牧草地らしく山羊を連れた牧童がVTOLモードの健太郎を見上げている。

 さて、何処に降りたものか……。

 丘の上に降りてもいいが、その下はドワーフが開けたトンネルだらけの筈、補強はしているだろうが崩落が心配だ。
 そう考えた健太郎は谷底を流れる川の側に着陸する事にした。

 冷たい川の水で顔でも洗えば、イレーネも少しは気分が良くなるだろう。

 そんな事を思いながら、翼の端のローターを垂直に立て、ゆっくりと川の傍へと着地した。
 砂利で出来た河原は広く、VTOLモードの健太郎が降りてもまだ十分な広さがあった。
 機体横から伸びたタラップを、ギャガンに支えられた裸足のイレーネがふらつきながら降りる。

「ああ……地面……地面だわ……」

 河原は水に削られた丸い石と砂が敷き詰めらている。
 その石の大地に手を突いてイレーネはほんのり涙ぐんでいた。

「ふぅ……この様子じゃ鉄の鳥で飛んでくのは無理だな」
「そっ、そんな事ないわッ! さっきは経験が無いから酔ってしまっただけよッ!」
「でもフェンデアに行くには海の上を飛ぶんだよ。途中で休む場所があるか分からないし……」
「じゃあどうしろって言うのよッ!?」
「だから眠りの雲で……」
「さっきも言ったけど眠ってちゃ調査にならないじゃないッ!!」

 醜態を見せた事で少々ヒステリックになっているイレーネに一行はやれやれと肩を竦めた。

「ねぇ、ミシマ。例えばだけど、もっと大きくて揺れない奴になれない?」

 そんなイレーネの様子を見かね、パムはVTOLモードの健太郎に尋ねる。
 彼女に深い考えがあった訳では無く、大きければ風の影響にも耐え揺れないんじゃないかと思っただけだった。

「ヴヴヴヴヴヴッ」

 大きくて揺れない奴か……そういえばアニメで見た宇宙戦艦的な船は何だか快適そうだったなぁ……。
 健太郎の脳裏に銀河で戦う英雄達が乗った宇宙戦艦群が思い浮かぶ。

「わっ、また大きくなってるッ!?」
「パム、不用意にミシマにアイデアを与えるなッ!」
「ごっ、ごめんッ!!」
「なっ、なんなのッ!? 報告は受けてたけど、こっ、今度は何になるのッ!?」

 イレーネは巨大化していく健太郎を見て河原に尻もちを突き、大きくなっていく青黒い金属の塊を呆然と見上げている。

「いいから今は逃げるぞッ! グリゼルダッ、ミラルダッ、お前達は空へッ!」
「えっ、キャッ!?」

 目を見開き言葉無く健太郎を見上げるイレーネを担ぎ上げ、ギャガンはグリゼルダ達に指示を飛ばす。

「「分かった(よ)ッ」」

 ギャガンの指示で二人の魔法使いは飛翔を使い空へと逃れた。

「パム、俺たちゃ走るぞッ!!」
「りょッ、了解ッ!!」

 それを横目にギャガンはイレーネを担いだまま、河原を川上へと走り出す。

「ふえええ、もっ、もう、ミシマに適当な事は言わないよぉッ!!」

 ギャガンと並走しているパムは少し涙ぐみ叫んだ。

「その方が懸命だなッ!!」
「なんなのッ!? もっとスマートに決める筈だったのに、なんでこうなるのよッ!!」

 エリートギルド職員として、それまでスタイリッシュに仕事をこなしてきたイレーネの悲痛な叫びが谷に響く中、健太郎によって星の歴史がまた一ページ刻まれたのだった。
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