紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した

一番大事なモノは

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 洞窟に作られた蜥蜴人リザードマン達のキャンプ場は、質素な作りではあったが中々に快適な様で、持ち込んだ食材で夕食を終えたミラルダ達は、洞窟内の木の寝台でスヤスヤと眠りについている。
 健太郎けんたろうには感じないが、ラデメヒがキャンプの周囲に撒いた森竜の尿も、彼女の言葉通り悪臭はしないようだ。

 そんな訳で特に眠る必要の無い健太郎だけが、洞窟の入り口近くに設置された焚火に薪をくべながら、ぼんやりと揺れる炎を見つめていた。

「あなたは寝なくていいの?」

 声の方向に目をやれば、髪を下ろしたイレーネが毛布を羽織り健太郎を見つめている。

「コホーッ」

 ラデメヒは大丈夫だって言ったけど、ヒドラの事もあるからね。

 健太郎はそう話しながら地面に細めの薪をつかってヒドラ、心配と書き綴る。

「確かもう一つの小龍穴にまだ一匹いるんだったわね……ねぇ、となりいいかしら?」
「コホーッ」

 どうぞ。

 頷きを返した健太郎を見て、イレーネは少し間を開けて健太郎の隣に腰を下ろす。
 彼女はしばらく焚火から立ち昇る炎をボンヤリと見つめていたが、やがておもむろに口を開いた。

「報告書で読んだのだけど、あなたの中身は異界人なんですってね……ねぇ、異界は魔物なんていなくて便利な物で溢れているって本当?」
「コホーッ」

 ああ、本当だよ。

 頷いた健太郎にイレーネは言葉を続ける。

「ラデメヒさんにね、何故、そんなに富や名誉を求めるのかって聞かれたのよ……その時は思わず反発しちゃったけど、考えていたら本当に何でなんだろうって分からなくなって……豊かな世界で生きてたあなたならその答えを知ってるんじゃない?」

 健太郎はイレーネの問い掛けに腕を組んで暫く唸った。

 富や名誉、それは人生における成功の一つだろう。
 なぜそれを求めるのか……それはやはり幸せを掴みたいからではないだろうか。
 だが、金や名声が必ずしも幸せを与えてくれるとは限らない。

 色々考えた末、健太郎は地面に安心と書いた。

「安心……そうね、確かにお金があれば生活に困る事は無いし、名誉が得られれば、自分は周囲に認められる役に立つ人間だと思う事が出来るわね……でもあなたも含めてミラルダさん達はお金も名誉もそれ程、求めていないじゃない」
「コホー……」

 そうだな……俺のいた世界でも多くの人はそれを求め、目指してた。
 でもこの世界でミラルダに出会って、彼女の家族と暮らす様になってから富も名誉も一番じゃ無いって改めて分かった気がする。

 地面に書かれた単語で構成された健太郎の言葉を見て、イレーネは「じゃあ何が一番なの?」と問い掛ける。
 健太郎は頭に浮かぶ言葉の中から一つ選び地面に書き記した。

「……命?」
「コホーッ」

 うん。ミラルダやトーマス達、ギャガン、グリゼルダ、パム……それに街の人たち、知り合った人……ラデメヒ達、蜥蜴人も皆、生きているから出会えた。

「家族、仲間、人々、生きている、出会い……」
「コホーッ」

 生きているから君にも出会えたし、こうして話せる。

「生きている、君、出会い、話せる…………だからあなた達は報酬よりも先に助ける事を選ぶの?」
「コホーッ」

 そうかもしれない。だって死んじゃったら報酬もなにも無いじゃん。

「人、死、報酬、無……フフッ、フフフッ……確かに死人から報酬は貰えそうにないわね」
「コホーッ」

 そうだろう。

「……あなた、変な人ね。色々考えてた自分が馬鹿に思えて来たわ」
「コホーッ!!」

 シンプルイズベストだぜッ!!



 単純、最強、地面にそう書いてギュッと親指を立てた左手を突き出した健太郎を見て、イレーネはこの旅で初めて皮肉の無い笑みを浮かべクスクスと笑った。


■◇■◇■◇■


 イレーネと話した翌日、健太郎達は昼前には族長がいるという、ンネグラ族の支配地域である島の北部、その中心にある集落へと辿り着いた。
 集落はラデメヒ達が暮らしていた漁村よりも規模が大きく、周囲を木で作られた塀で丸く囲まれており、入り口だろう門の前には警備の蜥蜴人が二人、槍を持って立っていた。

「プシュ、シャアアアア、プシプシ、シャアアッ!?」

 その門番たちは健太郎達の姿を確認すると、手にした槍を構え鼻と喉を鳴らした。
 それを見たラデメヒが健太郎達を庇う様に前に飛び出し、門番たちに話しかける。

「シャア、プシュ、シャアアア、プシュプシ、シャアアアアッ」
「プシュプシュ、シャアア、シャア、プシ?」
「シャシャ、プシューッ、シャアアア、プシ」
「シャアアア? プシ―ッ」

 ラデメヒと何やら話した蜥蜴人達は、胡散臭げな視線を健太郎達に向けながらラデメヒに何か伝える。

「プシュ……ミラルダさん、ヒドラの頭を出してもらえますか?」
「ヒドラの頭?」
「はい、皆さんの事を大陸から来た戦士で、ヒドラを倒した腕利きだと伝えたのですが、信じてもらえなくて……」

 これまで自分達が手に負えなかった怪物を見知らぬ外国人が倒したと伝えられれば、信じられないのも無理は無いだろう。
 そう考えたミラルダは笑顔で頷き、健太郎に声を掛ける。

「分かったよ。ミシマ、ちょっと手伝っておくれ」
「コホーッ?」

 鞄から頭を出せばいいんだな?

「ああ、あたしじゃ重くて持てないからねぇ」

 ミラルダはそう言うと肩から下げていた鞄を腰の前に移動させ、鞄の口を開けた。
 健太郎はその開いた口に手を突っ込みヒドラの頭を想像しながら中を探る。

 やがて目的の物に触れた健太郎は両手でヒドラの頭を取り出し、頭の上に掲げて見せた。

「シャアアア……プシッ……」

 ヒドラの頭を見た門番たちは何か呟き、呆然とその頭を見つめた。
 そんな門番たちにラデメヒが問いかける。

「シャアア、プシプシ、プシャアアッ?」
「……プシッ……シャアア。プシュッ、シャアア、プシュ、プシッ」
「シャアアッ!! 入れてくれるそうですッ!! ぜひ族長様に会ってくれとも言われました!!」
「そうかい。んじゃミシマ、頭は鞄に……」
「あっ、待って下さい。その頭はそのままミシマさんに運んでもらいましょう」

 ラデメヒの言葉にミラルダと健太郎は何でと首を傾げる。

「集落の人達に皆さんがヒドラを倒した事をアピール出来ますし、あとヒドラの脅威が一匹だけど減った事が分かるかなって……」
「なるほど。確かに住民を味方に付ければ、族長も我々が龍穴に足を踏み入れる事を認めるかもな」
「その前にもう一匹退治しろって言われそうだがなぁ」
「だねだね。でもギャガンは言われなくてもやるつもりだよね?」
「まあな」

 パムの言葉にギャガンは牙を見せ笑った。
 
 そんなやり取りの後、健太郎達は門番が開けた門をくぐり集落へと足を踏み入れた。
 塀の中には森を切り開いた丸い平地に五十程の家が放射状に並んでおり、その中央には広場が設けられていた。
 家の構造は漁村と同じく高床式で、門から正面、広場の先には他より大きな家が建っているのが見えた。

「プシュッ、プシプシッ」
「シャアア。族長は正面の大きな建物にいるそうです」
「……ロガエストの王宮もたいして変わんねぇが、塀を超えたらすぐに大将首が取れそうだな」
「ギャガンさん、物騒な事は言わないで」
「そうだよ。あんたはもう軍人じゃないんだから」

 イレーネはピシャリと、ミラルダは苦笑を浮かべながらギャガンをたしなめる。

「二人してなんだよ……なぁグリゼルダ、お前もちょっとは思ったよな?」
「そうだな、確かに見通しが良くて使いやすいが防衛は難しそうだ」
「はぁ……職業病みたいなもんかねぇ……」

 そんな事を話しながら先導するオミノミとラデメヒの後を歩いていると、頭の上にヒドラの首を乗せた健太郎を住民の蜥蜴人達が目を丸くして見つめていた。

 ラデメヒの思惑通り、少しは不安の払しょくに繋がればいいのだが。

「フフッ、みんなヒドラの首を見て、あなた達の事を噂してますよ」
「どんな噂なの、ラデメヒさん?」
「信じられないとか、もう一匹もなんとかして欲しいとか、英雄トラスの名前を出している人もいますね。とにかくみんな、期待してるみたいです」

「そう、なら族長さんとも交渉しやすそうね」
「イレーネさん、その交渉だけど報酬云々の話は……」

 漁村でのイレーネの様子を思い出したミラルダは眉を寄せながら言葉を紡いだ。
 そんなミラルダにイレーネは微笑みを浮かべ頷く。

「分かっている。あなた達の流儀に合わせるわ。とにかく今は問題を先に解決して、それからゆっくりギルドの事を説明するつもりよ」

 そう言って微笑んだイレーネにミラルダは一体どうなってんのかねぇと肩を竦めた。
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