紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した

族長と温泉

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 蜥蜴人リザードマン、ンネグラ族の族長テダハはヒドラの頭を抱えた健太郎と、ヒドラを倒したというミラルダ達に値踏みする様な視線を送った。

「シャアアア、プシュー、シャア、プシ、シャアアア、プシャアア」
「ヒドラを倒した事には感謝する。それで、一体何が目的かね? 大陸の人間が求める様な富はこの島には無いと思うが? ですッ」

 集落の中央、広場に面した何処か神社めいた建物の中。集落の戦士たちが見守る板の間で対面した灰色の鱗の蜥蜴人テダハの言葉をラデメヒが通訳する。

「あたし達の目的は蜥蜴人達の聖地、龍穴へ向かう事だよ」
「龍穴? 我らが聖地に向かって何とする? ですッ」

 ミラルダの言葉をラデメヒが伝え、その答えを通訳して返す。
 建物の入り口近く、ンネグラ族の村長達が話合いを行う対話の間と呼ばれる部屋で健太郎達と族長の話合いは続く。

「あたし等、あんた達のいう巨獣様、ベヒモスから龍穴の事を頼まれたのさ」
「巨獣様から? あの方が何を頼んだというのだ?」
「龍穴に溜まったエネルギーの解放だ。本来であればベヒモスが出向き力を吸い取る様なのだが、我々の願いを叶えた事で動く力を失ったらしくてな」
「……本来、巨獣様がなされる事をお前達がなせると言うのか?」
「ベヒモスはミシマなら大丈夫って太鼓判を押してたぜ」
「コホーッ」

 何が出来るか龍穴ってのを見てみないと分かんないけど、とにかく頑張るよッ。

 プシ―と鼻を鳴らし腕を組んだテダハは、ヒドラの首を傍らに置き両腕で丸を作った健太郎をその黄色い瞳で凝視した。

「コッ、コホー……?」

 なっ、なにかな……?

「プシ、プシャー、シャアア。シャアアアア、プシ、シャア、プシャアア」
「聖地に部族以外の者を入れるとなると、儂の一存では決められん。ですッ」
「あんた等に龍穴を守る様に言ったベヒモスの頼みでもかい?」
「そうだよう、ベヒモスは恩人なんだよね? その恩人の頼みでも駄目?」

 ミラルダとパムの言葉をラデメヒから聞いたテダハはゆっくりと首を振った。

「言葉だけでは安易に信じる訳にはいかん。それにその言葉が真実だったとしても実際、そのゴーレム、ミシマがどんな事を聖地で行うのか見定めないでは、他の族長を説き伏せる事も難しいだろう。です」
「……具体的には何をすりゃあいい?」
「……我らの暮らす地にいるもう一体のヒドラを倒し、小龍穴にて溜まった力を巨獣様の様に治められるか試して欲しい。それを儂自身の目で確認出来たなら、各地の族長に話を通そう。ですッ」

「なんだか思ってた通りの展開になって来たね……でもミシマ、本当に龍穴の力をどうにか出来るの?」

 テダハの言葉を聞いたパムが口に手を当て囁くように健太郎に尋ねる。

「コホー……コホーッ」

 正直、どうすればいいのか皆目……でもまぁ、多分何とかなるよ。

 小首を傾げた後、親指を立てた健太郎を見て、パムは何となく意味を察したのか、相変わらず楽天的だねぇと苦笑を浮かべた。

「よし、やる事は決まったね。それじゃあみんな、取り合えず小龍穴のヒドラを倒すでいいね」
「ああ。それでテダハ、自分の目で確認すると言ったが我々について来るのか?」
「うむ。余所者を我が一族の聖地に入れるのだ。族長の儂が出張らんと一族の者達も納得しまい。ですッ」
「ふむ……では通訳としてラデメヒにも同行を頼まんとな……正直、ヒドラと戦うならイレーネやラデメヒは残して行きたかったが……」

 グリゼルダの呟きにラデメヒは「私は大丈夫です」と即座に答え、その横に座る青い鱗の蜥蜴人オミノミに視線を向けプシプシと何やら話し頷き合う。
 もう一人名前の上がったイレーネも身を乗り出し口を開く。

「グリゼルダさん、私は調査員としてこの島で起きている事を出来るだけ多く見る必要があるわ。足手まといなのは承知してるけど……」
「……イレーネ、お前、本当にどうしたんだ? 昨日までと雰囲気が違うぞ……」

 ギルドの要望を主張せず、何だか素直になったイレーネにグリゼルダはおかしなモノを見る様な視線を向けた。

「別に……ただ、色んなしがらみを捨てて、少し素直に生きてみようかって思っただけよ」

 そう言うとイレーネはチラリと並んで座る健太郎に視線を向ける。

「そうか……」
「ともかくだ。俺達とイレーネ、ラデメヒとオミノミ、あと族長のテダハ、それにあんたの護衛で小龍穴に向かう。それでいいんだな?」

 ギャガンの問い掛けをラデメヒから聞いたテダハは頷きを返す。

「うむ。今日はここに泊って旅の疲れを癒すといい。一族の聖地には明日の朝、向かうとしよう。ですッ」
「了解だよ」

 ミラルダの返答で族長テダハとの話し合いは終わり、その後は料理が運ばれ宴となった。
 ラデメヒの村とは違い宴の料理には昆虫も並んでいた。
 イレーネやミラルダが失礼にならない様に顔を引きつらせながら、それを口に運んでいたのが健太郎の印象に残った。
 ちなみにだが、ミラルダが言うには味は海老に似ていて悪く無かったそうだ。

「コホー……」

 ふぅ……今回ばかりは食べる必要のない体で助かったぜ。

 虫が苦手な健太郎の呟きと共に宴は続き、食事を終えたミラルダ達女性陣はラデメヒに集落の中に作られた石造りの池に案内された。
 池の周囲は木の柵で覆われ池からは湯気が立ち昇っている。

「ラデメヒちゃん、もしかしてこれは……」
「湯浴み場です。鱗に付いた汚れをここで落し、冷えた体を温めるんです。立派だって皆からずっと話は聞いていて、ここに来たら絶対入ろうと思っていたんです。皆さんも移動での疲れもあるでしょうから、湯に入ればきっとよく眠れますよ」

 そう言うとラデメヒは池の横の小さな水場から湧く透明な水を被ると、スルリと温泉らしい池にその身を沈ませた。

「そうか、ラデメヒちゃんは裸だからそのまま入れるんだ」

 パムの言葉でミラルダ達もそういえばと手を打つ。

「……それでどうするね?」
「正直、汗を流してサッパリしたいってのはあるわね」
「だねだねッ!」
「温泉か……入るのはベルドルグ以来だな」


■◇■◇■◇■




「ふぃー。こりゃあ温まるねぇ」
「ほんとだねぇ。まさかこんな鬱蒼した森の真ん中でお風呂に入れるとは思わなかったよ」
「フフッ、村の中には無かったですけど、フェンデアでは島全体にお湯の湧く場所が点在してるんです。私達は体が冷えると動きが鈍るのでそのお湯を利用して体を温める習慣があるんです」
「なるほどな。種族的な体質を補う意味もあるのか」
「はい、島の気候は年間を通してほぼ変わりませんが、それでも天候によっては動きが鈍るほど冷える時もありますし」
「そうなのね……ふぅ、それにしても木の柵があって良かったわ。これが無いと流石に入る気にはなれないもの」

 イレーネはそう言って肩を竦めた。

「やっぱりそうなんですね。お願いして柵を作ってもらって良かったです」
「えっ、この柵って私達の為に?」
「はい、大陸の方はむやみに肌を晒さないと聞いていましたので……聞いた時は身分の確認はどうしているのだろうと思いました」
「じゃあ普段は柵なんて無いんだ?」
「ええ、私達に肌を隠す習慣は無いですから、逆に隠していると罪人じゃないかって疑われちゃいます」
「その刺青にはそんな意味もあったんだな」

 ミラルダから刺青は身分を表すと聞かされていたグリゼルダは、なるほどと少し感心した。
 名誉も罪もその身に刻まれるなら、その者の素性は隠しようがないだろう。

 グリゼルダがそんな事を考えていると、パムがイレーネの胸を指差しながら尋ねる。

「ねぇねぇ、やっぱりそれだけ立派だと注目を浴びるの?」
「まあね。男は大体、顔を見て胸を見て、慌てて顔に視線を戻すわね」
「分かる分かる。まぁ、最近、耳を隠さなくなってから、あたしゃ大体、顔の次に胸じゃなくて頭の耳を見られる事が増えたけどねぇ……」
「私もラーグに来てからは、胸よりも角を見られる気がするな……人は自分と似て非なるモノに注目するものなんだろうな」
「ぶー、みんな胸を見られてるんだ。私は胸なんか見られた事無いよッ!」

 ペッタンコのパムがプクッと膨れるとラデメヒが不思議そうにミラルダ達に尋ねる。

「あの、よく分からないのですが、胸の大きさは鱗を持たない人々にとってそれ程重要なのでしょうか?」
「わたし達の種族はこれで成人だからよく分からないけど、人族やエルフ、魔人族みたいな種族はそうみたいだよッ。ディランも女戦士のルシアの胸の事、思い出してニヤけてたし」
「……たぶん、種族として子供を作れるぐらい成熟したってサインなんだと思うわ」
「そういう説もあるな」
「なるほど、我々にとっての婚姻色の様な物なのですね」
「婚姻色?」

 首を傾げたパムにラデメヒは頷き説明を始める。

「年齢が一定に達した者はある時期が来ると、鱗が鮮やかに彩られます。その色によってお互い番う相手を見つけるのです」
「へぇ……そうなんだ……やっぱり異文化だねぇ」

 そんな話をしながら密林の島での三日目の夜は過ぎていった。
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