ガラス玉のように

イケのタコ

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7話

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何日分の服といぐらい、籠いっぱいの服とタオルを汗をかきながら目的地に運び下ろす。

「持ってきたよ」

顔を上げれば三船はそこにいなかった。此処を開けて数分ほど、どこに行ったのだろうか。
飽きて何処かに行ってしまった、と思ったが静かな屋敷に響く車のエンジン音と話し声がそれは間違っていると教えてくれる。
騒つく音を辿れば、玄関口の門の方からだった。門の小さな扉が無警戒に全開している。
恐る恐る覗いてみれば、三船と知らない青年、その後ろに高級そうな黒い車が止まっていた。
三船と話す青年は、三船と争えるほどの美形。男らしさもありつつ幼さがまだ残っている青年は中学生ぐらいだろうか、白色の凛々とした学生服がよく似合っていた。

「何度も言わせないで、数ヶ月だけって約束だったでしょ」

足にリズムを刻み少々息を荒げる青年は、時計を見て焦っているようだった。

「帰らない」

堂々と腕を組む三船は青年の焦りに興味が無く冷たく突き放す。

「帰る理由ないが……俺が帰ったところで何もないだろ」
「父さんも帰ってきて良いって言ってるし」
「じゃあ、それを言ってる父親はどこにいる。あれから一度も顔なんて見てない」
「兄さん、子供みたいな事言わないでよ」

あの二人が兄弟って、顔が全然似てないから分からなかった。驚愕の事実が発覚する中、弟に子供と揶揄された三船は鼻で笑う。

「戻れって、追い出したのはアイツだろ」
「兄さんの言い分も分かるけど、我儘聞いてるほど俺は暇じゃない訳。文句があるなら父さんに言ってよ」
「いない奴に言ったところで。お前はもう帰れ」
「ちょっと待って」

弟の呼び掛けを無視して踵を返した三船。まずい、とここから離れようと体を起こした時には遅く門の中に入ろうとした三船と目が合ってしまった。
俺がいた事に目を丸々とさせる三船は、聞かれていた事に気がついたのか徐々に瞼を重くさせ、こちらを睨んでくる。

「なにやってる」
「えーと散歩」
「籠を持ってか」
「すみません、タイミング見失って聞いてました」
「そうか」

見苦しい言い訳に痛まれなくなった俺は目線を外す。

「誰、それ」

三船を止めようと後ろに付いて来ていた弟が顔ひょっこりと顔を出す。そして俺を見て苦虫をすり潰したような顔していた。

「何?あの人流石にお手伝い雇ったの」

弟の目線の先には俺が持っている洗濯籠をだった。確かに、この広い屋敷で籠を持って歩いていたらそう見えてくるの仕方ない。
どうしようか。やましい事はないが、この揉めている中で赤の他人が一緒に住んでますと言って良いのか。
このまま、お手伝いのふりしておいた方が『ふーん、そう』って流してくれるのでは、考えていたのに三船は同じ考えではなかった。
俺を隠すように三船を腕を伸ばし、

「違う、スズはそんなのじゃない。どう、どう……同棲人だ」
『はっ?』

弟と俺は同時に声を上げる。

「えっ、はぁ?同棲。男同士でえっ」

シドロモドロする弟。俺もコイツなにを言っての状態で、三船に目をやれば腕組んで平然と佇んでいる。

「にっ兄さん、言ってること分かってますか」
「ただ一緒に住んでるだけで、なにも可笑しいこと言ってないだろ。言っておくが、この家でこのスズは大事な人だ」
「どうしよう、父さんになんて説明をしたらいいんだ」

頭を抱え出した弟、一言も間違っていないと言いたげな三船は不思議そうに顔を傾ける。
この男、分かっていない大きな間違いをしている事に。

「ちっ違うんです。俺はただの同居人なんです!えっと義宗さんとは親が仲良くしてまして、えーと、色々あって此処に住まわせてもらってるだけです!」

俺は飛び出すように三船の前に出た。早く弁解したくて早口になってしまったが、このまま彼が喋る方が状況が悪化すると思い遮った。

「そういった意味では無いですから」

前に出たことで俺を鬱陶しそうに睨むが今はそれどころじゃない。
弁解してみたももの俺の焦りが良くなかったのか、疑いは晴れず弟の眉は顰めたまま。

「ほんとですか」
「もっもちろん、本当です。普通の、ただの同居人です。疑うなら、義宗さんに訊いてみてください」
「……分かりました、今日はこれで帰ります。お互い何も聴いてない、何も起こっていない、それでいいですか」
「もっもちろんですよ。俺はただの通りすがりの一般人です」

眉間を指先で押さえ弟は溜息をつくと、黒い車に戻り後部座席の扉を開ける。

「いいですか、兄さん。約束は約束です。いつかは、絶対に戻ってきてください」

最後まで欠かさず忠告すると車の中へと入っていく。そして、車を発車させ弟は帰って行った。
疑いが晴れたかは怪しいが、俺は空気で張り詰めていた胸を撫で下ろす。
三船といえば素知らぬ顔で玄関の方に戻っていく。必死になって弁解した俺が馬鹿みたいに。

「あの!」
「なに」
「さっきのことを弟さんにちゃんと言っておいてください」
「何を」
「何をって、同居を同棲って言い間違えたこと」
「別に間違ってないだろ。ご飯食って寝て、一緒に住んでいるのは事実だし」

一文字間違えた故に弟が愕然としてい事を気づいていないのか。それとも、同居と同棲を同じ意味だと捉えているのか。

「一緒に住んでるのは合ってるけど、同棲だと恋人同士といか結婚前提の人達が住むみたいな感じで。こうもっとイチャイチャというか、ただいまのキスをやるような事……です」

当たり前の事を説明しなくてはいけないと、自分で言って耳の当たりがじんわりと熱くなっていく。

「分かった」

やっと理解してくれたのか、腕組みを解いて三船は頷いた。

「それは良かった……」

弟の良からぬ誤解は解けるだろうと安心した、その時、三船の影が被さるほど距離を詰めてきた。
どうしたのだろうかと思う時には彼の顔は目の前まで来ていて……。

「あまっ」
 
嫌そうな顔して三船は舌を出す。

「朝に……大福食べたから……」
「だろうな。あっ、洗濯干すの忘れてた」

俺が落としてしまった洗濯籠を持ち上げた。

「ほら、行くぞ」

また庭に戻っていく三船、待てと言える余裕もなくその場に立ち尽くす俺。
何故、そんなに平然なのか理解出来ないし、というか俺は今なにされた。
いやいや、待て待て、普通ならしないって、普通というかあの人は異次元で宇宙人だ。
離れたはずの口の中でまだ生暖かい感触が残る。

何故、俺はキスをされた。

置いていかれる俺は、来て3日目の災難だった。
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