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6話 朝日に照らされて
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昨日貰った大福を頬張りつつ、大きな窓から差し込む柔らかな光に目を瞑る。
今日も天気が良い、欠伸をしながら腕を伸ばしゆっくりと廊下を歩いてると、窓が一箇所だけ開いているのに気がついた。
そっと覗いてみれば、義宗さんが洗濯物を干していた。
腰を曲げて洗濯籠から服を取り出し、服をハンガーにつけて、ハンガーを洗濯竿にかけるのを繰り返し。感情がない冷たい横顔、そういう人形のように見えてきた俺は、いても経っていられなくて玄関に駆け出した。
「あの!手伝います」
外履きに履き替えた俺は義宗さんの元に駆け寄ると、目を丸くして驚いた。
「じゃ、お願いしようかな」
『ふふ』と息の漏れた笑いが聞こえると、洗濯籠を持ち上げこちらに近づけた。
ハンガーと服を両手に持つ俺。
「で、どうすればいいですか」
「なるほど……じゃあ、こうして」
何故か、義宗さんは目を閉じてうんうんと頷けば、優しく手取り足取り洗濯物の干し方を教えてくれた。
初めてやってみたが、四人分の服を干すとなると中々面倒だった。至って単純作業なのだが、一気にハンガーをかけたり出来ないのが苦痛だ。
「これ、いつも一人でやってるんですか」
「うーん、そうだね。たまにアオというか、もう一人が手伝ってくれるのだけど。スズ君みたいに手伝ってくれる人はいないかな」
「三船とかは、やってくれそうですけど」
「言いたけど……なんだろう。僕の言葉は三船とって強い言葉なのかな。
だから必ずしてくれる。けれどそれは、お願いじゃなくて三船の意思を必要としない命令になっちゃうから、嫌なんだ。昨日もそうだけど」
『ごめんね』と顔を顰める義宗さん。
昨日を思えば、確かにたった一言の『よろしく』が彼を縛っていた。
兵士のように真っ直ぐと突き進んでいた事は、義宗さんの言う『言葉』はお願いではなく命令であると理解する。
「ここのいる限りは三船は家族だから、僕に言われるんじゃなくて、自分の言葉を持ってほしいと思ってね」
だから命令はしたくないと、義宗さんは固く意志を決めるように両手を見つめる。
「変な話してごめんね。まぁ、三船のために色々と試行錯誤してると思って聞き流してよ」
「いえ、なんだか。いい話聞いたというか。義宗さんは意思のない三船が恐い訳ですね」
「そうだね……」
語尾が落ちていく義宗さん、体が一瞬だけ強張る。気が引けるような反応に、まずい事でも言ったのだろうか。心配になって顔を伺えば、先ほどこ変わらぬ優しい表情を浮かべていた。
「やっぱり、君にはドキッとさせられる」
「えっそんな事言いましたか。失礼でしたか、すっすみません」
横に首を振る義宗さん。
「こう、目の前で事実を突きつけられると戸惑ってしまんだね。いうなら、まるでこじ開けられてる気分。それはそれで君のいいところかな」
「はいっ?あの話が見えないというか。やっぱり、俺何かを言って」
「スズ君は困難が目の前にあるとするなら、進む?」
「もちろんですけど……」
「前に進める、進もうとする君の良いところだから無くさず持っているといいよ」
語りかけられても、頭の上に沢山のクエスチョンマークが湧いてくる。訳が分からないが褒められているようなので頷いておいた。
「二人、何してるの」
目を擦り、寝そうな顔して窓辺に立っていたのは三船だった。
不機嫌そうな物言い、それほど二人でいる事が気に食わなかったのだろか。義宗さんが好きなのは分かるが、頻繁に話してる訳でないから、二人きりで話したっていいじゃないかと。心の狭いやつと俺は口を尖らせた。
「二人で洗濯干してるだけ、なにもしてないよ」
義宗さんは先ほどと同じ様にタオル広げて、洗濯バサミでタオルを挟む。
「……俺もやる」
嘘だろ。
二人でいた事がそれほど触発されたのか三船は、部屋履きスリッパのまま外に出てきた。義宗さんも予想が出来なかったのか、距離が縮まるまで何も言わず、固まっていた。
「……三船がやるの」
「うん、やるから貸して」
頷くと俺が持っていた服を奪い手間取らず軽々と服を干していく。
「ありがたいけど、まず靴を履き替えなさい」
「あっ」
視線を落としてやっと気がつくのだった。
「じゃあ、よろしくね。次もあるからそれもお願い」
そう言ってやる事まだある義宗さんは屋敷に戻っていく。二人で出来ると気遣われながら、俺と靴に履き替えた三船で洗濯物を干すことになった。
お互い黙々と無言で作業をしていく、その重い空気に身を縮ませながら、一人の方がまだ良かったと服の隙間から綺麗な顔した無愛想に眼をやる。
「何か用」
「なんでも無いです」
見ていた事がバレたので直ぐに物陰に隠れた。全く仲良く出来そうな気配がないのですが。
「俺、次を取ってくる」
「おい、まだ」
このまま続けるのも息苦しく、まだ数枚入っている洗濯籠を持ってその場から逃げるように家の中に入る。
廊下が軋む音。窓際で一先ず息を整えてから、洗濯機の方にぼちぼちと向かう。
あからさまに避けてしまった。
今のは不味いよなと、自分の行動に反省しつつ、弁解はどうしようと考えながら、洗濯機を開け濡れた服を籠に入れる。
どうしても、あの空気が耐えられない。彼が何となく口下手なの事はこの二日間で感じ取った。
理解しているが、人を睨みつけるような重たい目が苦手だ。元はといえば、自分から地雷を踏みに行ったせいでもあるが。
完全に初動を間違えたなと後悔するばかりで……考えることを一旦やめた。
考えたって仕方がない、俺はこの籠をとりあえず持って行くことに決めた。
今日も天気が良い、欠伸をしながら腕を伸ばしゆっくりと廊下を歩いてると、窓が一箇所だけ開いているのに気がついた。
そっと覗いてみれば、義宗さんが洗濯物を干していた。
腰を曲げて洗濯籠から服を取り出し、服をハンガーにつけて、ハンガーを洗濯竿にかけるのを繰り返し。感情がない冷たい横顔、そういう人形のように見えてきた俺は、いても経っていられなくて玄関に駆け出した。
「あの!手伝います」
外履きに履き替えた俺は義宗さんの元に駆け寄ると、目を丸くして驚いた。
「じゃ、お願いしようかな」
『ふふ』と息の漏れた笑いが聞こえると、洗濯籠を持ち上げこちらに近づけた。
ハンガーと服を両手に持つ俺。
「で、どうすればいいですか」
「なるほど……じゃあ、こうして」
何故か、義宗さんは目を閉じてうんうんと頷けば、優しく手取り足取り洗濯物の干し方を教えてくれた。
初めてやってみたが、四人分の服を干すとなると中々面倒だった。至って単純作業なのだが、一気にハンガーをかけたり出来ないのが苦痛だ。
「これ、いつも一人でやってるんですか」
「うーん、そうだね。たまにアオというか、もう一人が手伝ってくれるのだけど。スズ君みたいに手伝ってくれる人はいないかな」
「三船とかは、やってくれそうですけど」
「言いたけど……なんだろう。僕の言葉は三船とって強い言葉なのかな。
だから必ずしてくれる。けれどそれは、お願いじゃなくて三船の意思を必要としない命令になっちゃうから、嫌なんだ。昨日もそうだけど」
『ごめんね』と顔を顰める義宗さん。
昨日を思えば、確かにたった一言の『よろしく』が彼を縛っていた。
兵士のように真っ直ぐと突き進んでいた事は、義宗さんの言う『言葉』はお願いではなく命令であると理解する。
「ここのいる限りは三船は家族だから、僕に言われるんじゃなくて、自分の言葉を持ってほしいと思ってね」
だから命令はしたくないと、義宗さんは固く意志を決めるように両手を見つめる。
「変な話してごめんね。まぁ、三船のために色々と試行錯誤してると思って聞き流してよ」
「いえ、なんだか。いい話聞いたというか。義宗さんは意思のない三船が恐い訳ですね」
「そうだね……」
語尾が落ちていく義宗さん、体が一瞬だけ強張る。気が引けるような反応に、まずい事でも言ったのだろうか。心配になって顔を伺えば、先ほどこ変わらぬ優しい表情を浮かべていた。
「やっぱり、君にはドキッとさせられる」
「えっそんな事言いましたか。失礼でしたか、すっすみません」
横に首を振る義宗さん。
「こう、目の前で事実を突きつけられると戸惑ってしまんだね。いうなら、まるでこじ開けられてる気分。それはそれで君のいいところかな」
「はいっ?あの話が見えないというか。やっぱり、俺何かを言って」
「スズ君は困難が目の前にあるとするなら、進む?」
「もちろんですけど……」
「前に進める、進もうとする君の良いところだから無くさず持っているといいよ」
語りかけられても、頭の上に沢山のクエスチョンマークが湧いてくる。訳が分からないが褒められているようなので頷いておいた。
「二人、何してるの」
目を擦り、寝そうな顔して窓辺に立っていたのは三船だった。
不機嫌そうな物言い、それほど二人でいる事が気に食わなかったのだろか。義宗さんが好きなのは分かるが、頻繁に話してる訳でないから、二人きりで話したっていいじゃないかと。心の狭いやつと俺は口を尖らせた。
「二人で洗濯干してるだけ、なにもしてないよ」
義宗さんは先ほどと同じ様にタオル広げて、洗濯バサミでタオルを挟む。
「……俺もやる」
嘘だろ。
二人でいた事がそれほど触発されたのか三船は、部屋履きスリッパのまま外に出てきた。義宗さんも予想が出来なかったのか、距離が縮まるまで何も言わず、固まっていた。
「……三船がやるの」
「うん、やるから貸して」
頷くと俺が持っていた服を奪い手間取らず軽々と服を干していく。
「ありがたいけど、まず靴を履き替えなさい」
「あっ」
視線を落としてやっと気がつくのだった。
「じゃあ、よろしくね。次もあるからそれもお願い」
そう言ってやる事まだある義宗さんは屋敷に戻っていく。二人で出来ると気遣われながら、俺と靴に履き替えた三船で洗濯物を干すことになった。
お互い黙々と無言で作業をしていく、その重い空気に身を縮ませながら、一人の方がまだ良かったと服の隙間から綺麗な顔した無愛想に眼をやる。
「何か用」
「なんでも無いです」
見ていた事がバレたので直ぐに物陰に隠れた。全く仲良く出来そうな気配がないのですが。
「俺、次を取ってくる」
「おい、まだ」
このまま続けるのも息苦しく、まだ数枚入っている洗濯籠を持ってその場から逃げるように家の中に入る。
廊下が軋む音。窓際で一先ず息を整えてから、洗濯機の方にぼちぼちと向かう。
あからさまに避けてしまった。
今のは不味いよなと、自分の行動に反省しつつ、弁解はどうしようと考えながら、洗濯機を開け濡れた服を籠に入れる。
どうしても、あの空気が耐えられない。彼が何となく口下手なの事はこの二日間で感じ取った。
理解しているが、人を睨みつけるような重たい目が苦手だ。元はといえば、自分から地雷を踏みに行ったせいでもあるが。
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