学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

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14 目覚まし時計

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白い花が咲く草原を、たった一人私は歩いていた。澄んだ水は地脈を伝って流れいき、風もなく穏やかで、静かな洞窟だった。人々はこの景色を見て秘境というのだろうか。
もう何も考えず歩き続けていたかったけど、最後に待っていたのは灰色の毛を持った兎。
灰色の兎はこちらに振り向いて、そしてーーー。
 
ジリリッと、朝が来たと知らせる目覚まし時計が鳴った。そう、鳴ってしまった。いつものように嫌々布団から手を出して、音を止めるのだが、その前に鳴り鈴が止まる。

「うん? 止まった」
 
部屋には一人しかいないはずなのに、鳴り鈴が止まった事に驚いて布団を蹴飛ばし、勢い良く体を起こす。
そして、目覚まし時計を止めた犯人は、黒い塊。メガネをかければ、黒兎が小さな足で鳴り鈴を止めていた。

「止めたの、お前かぁ。止めたら目覚ましの意味ないだろ……」

背筋を伸ばし、黒兎の頭を一撫でしてからベッドから起き上がる。

変な夢を見た。嫌な気分だけが残る夢。まさか、夢の中まで兎が出てくるとは、根を詰めているようだ。
気分転換に顔でも洗おうと、扉の方にのそのそと歩いていて行こうとしたが、黒兎にズボンの裾を噛まれ後ろに引っ張られた。


「ちょっ」

進むことを頑なに阻む黒兎。悪戯かと思ったが、後ろを振り向く前に扉が爆発した。
その一瞬の出来事は思考を停止し、悲鳴すら上げることが出来なかった。
破裂音と共に白い煙は舞い、破壊された扉は廊下側に倒れて木の藻屑となる。謎の爆発には巻き込まれなかったが、爆風が部屋に吹き込み荒らす。

「どういうこと……」

理解出来ないと力が抜けて、その場に座り込むイーナ。
「一体、なんの音だ」と寮にいる生徒も様子を見に来て、朝から騒動となったが、登校する時には場は落ち着いた。

すぐ落ち着いた理由としては、この学園ではよくあることであり。
皆、優秀な生徒であるのを踏まえて、嫉妬や劣等感が無いわけが無く。そんな生徒達が揉め事を起こせば、扉の一枚、ニ枚、簡単に吹き飛ぶ訳で。
今回、イーナの自室の扉が吹き飛んだのも、その類だと皆気づき、関わらない方がいいと判断し騒動はすぐに収束した。
そして、本当にその類のようで、破片となった扉には触れれば爆発する術式の絵が描かれていた。

まさか、誰かに恨まれるとは……言いたいところだが。黒兎の件があるから、逆恨みされても仕方ないと言える。
あの時いた誰かだと思われるが顔も覚えてないし、学年も名前も知らない。
日常の中で気をつけるしか無いと、塵が積もる部屋を箒で掃除する。

扉がなくなった部屋。
修理する所が他にもあるらしく、優先的に扉の修理はすぐには対応出来ないと寮の人に言われた。
その間は友人に部屋を貸してもらいなさいと助言をもらったが、部屋を気兼ねなく貸してくれるような人はいない。思い浮かぶ人が何人かいるが物凄く気を使われそうで、逆に言いづらい。
色々踏まえて、直るまでは風の通りが良い部屋で寝て過ごすことにした。
 
部屋はどうにか、集まってきた黒兎達のおかげで登校前に粗方片付き。酷い目にあったと、学校に行く前からもう疲れていた。
そう疲労困憊の中、狙われていると分かっていたのに、ーーー空から剣が降って来た事を知らなかった。

「アハッ!」

緩んだ心を引き締めるような、息を吐く笑い声が後ろから聞こえ。目が追いつかないまま、横を何かが勢いよく通りすぎいく。
ーーー何が起きたのか。
思考する前に、真っ直ぐと落ちてきていた剣は金属がぶつかり合う音と共に、再び空に弾かれて全く別の方向に吹き飛んだ。
横を通り過ぎた『何か』は後ろに戻って行く。

「あっ、ぶねぇ」

ダラダラと歩いていた気の緩みが一気に吹き飛び、心臓が嫌な音をたて鳴る。 2回続けて命の危機、思わず声に出る。
剣がどこに吹き飛んだのか分からないが、校内の方からガラスが割れる音と悲鳴が聞こえ察する。
被害は抑える事は出来なかったが、誰が何かを投げたおかげで一つも怪我をせずに助かった。

「先程は、ありがとうございます」
 
イーナは礼を言うために恩人の方に向くと、草切り鎌に長い鎖がついた武器、鎖鎌を持った男子生徒が立っていた。この鎖鎌で、先ほどの剣を弾き飛ばしてくれたのだと。
そして、手に持つ武器も充分目立っているのだが、何よりも燃えるような赤髪が最初に目に入った。

「別に、助けたつもりないけど」

赤髪の生徒はイーナの方に近づいて来ては、上から下まで姿をじっくりと見てきた。目線はほぼ同じもあって、余計に威圧を感じ目線を逸らすイーナ。

「あの、なんですか」
「なんで、得意な方を生かさないんだ」
「へ? 一体なんの話をして」
「腰に隠している物の事だけど? なぁ、お前強いよな」

鎖同士が擦れる合う音が鮮明に聞こえてきて、緊張のあまり唾をゴクリと飲む。

「ギゃっ、イテェー!」

曲線を描いて笑っていた目の前の男は、予兆もなく飛び跳ねた。顔を歪めて片足をバタバタと動かす。
何故ならその足、脹ら脛に黒兎がしっかりと噛み付いていたから。

「黒兎! 人に噛みついちゃダメだ」

慌ててイーナは黒兎を掴み、赤髪の男から引き離す。結構な力で噛みついたようで、脹ら脛には小さな歯形がついてズボンに穴が空いていた。

「ごめんなさい、黒兎を見てなかった俺の責任です。教師には、俺から説明しますから」
「いらねぇ。わざと煽ったのは俺だし。ーーー、先に兎の方が噛み付いてきたか」
 
「こらァー! アルカナ、またお前は」と校内の方から鬼の顔した教師が吹き飛ばした剣を持って向かってくる。

「やべっ。またな、イーナって人」

手を振る赤髪の生徒は教師と反対方向に走る。

「今回こそは、責任持って片付けてもらうからな」
「今日は俺じゃないですって」

赤髪の生徒は、学園の塀に乗り逃げていく。慌ただしい光景を見届けていると、前から慌てて向かってくる男子生徒が一人。

「あの、この辺りで鎖鎌もった赤髪バッ、赤髪の男を見てないですか」

今この人、馬鹿って言おうとした。
鎖鎌を持つ赤髪と言えば、先ほどの男子生徒しかいない。イーナは逃げていく方を指した。
 
「ありがとう!」

その男子生徒も、赤髪と教師が向かった方に走っていった。
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