学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

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この広い学園で最恐の人に、俺は会ってしまった。
 
先輩を足蹴りして置いてきしまった事や、この後どう向き合えば良いのか分からずイーナは頭を抱えるしかない。
食堂に来たというのに飲み物すら喉が通らず机にダラダラと脱力していると、トレー持った誰かが目の前の席に座る。

「午後で体力尽きたって感じですね」

落ち着いていて透き通るような声、顔を上げればヨモギであった。

「や……だと思って……」
「何か言いましたか」

ヨモギは沈んでいく声に耳を傾けた。

「優しい先輩だと思っていたのに……、こんなことって」
「なるほど、黄色い悪魔と何かあったみたいですね。何があったかは訊きませんが、優しい人だと思っていたのが、驚きなのですが」
「だって、落としたメガネを拾ってもらったし、魔術も教えてくれたから。良い人だと思って、別に悪い人でもないけど……」

キスをされただけで、特に危害はなかった。蹴った後もやり返される事もなければ、逃げても追いかけられる事はない。
だから、良い人でも無いが、悪い人ではないと思う。
 
「そんなことをまだ言っているのは貴方くらいですよ。黄色い悪魔と言われる理由を改めて考えてみてはどうですか」
「……うぅ」

本当に大丈夫かと薄く目を細めるヨモギ。すると、もう1人が同じようにトレーを持ってきてはヨモギの横に置く。

「……俺も泣きたい」

情け無い声と共にヨモギの隣に座ったのは、アルカナだった。
座った途端に、水分を無くした果物ように萎れては、脱力し机の上で腕を伸ばす。
頭上に雨が降りそうなほどの落ち込みに、アルカナを見るたびに噛んでいた黒兎も威嚇する事もなければ見ているだけで何もしない。

「おれの鎖鎌がぁ」

「アルカナさん。あの、どうされたんですか」とイーナがヨモギに訊くと鼻で笑う。

「罰として、鎖鎌を一週間没収されたのですよ」
「もしかして、剣を吹き飛ばした時に窓ガラス割った件ですか」
「そうです。ですから、自業自得やつです。これで一週間は安心して過ごせます」

話終えるとヨモギはトレーにあった茶を手に取り、楽しむようにゆっくりと啜る。アルカナの方は、あったかいご飯に手をつける事なく「鎖鎌ぁ」と悲しみにごろごろとする。
数分、悶えた末にピタリと止まり、横目でヨモギの方を見る。

「お前さぁ。お前がもっと抗議してくれたら、こんな事にならないのに」
「抗議したでしょ。それでも取られた、それだけです」
「抗議というか演技だった。それを取られたら困りますぅ、っていう」
「何度も言いますが、それで済むなら良いでしょう。謹慎処分一歩手前だったんですよ」
「そっちの方が良かった」
「よくねぇよ。これ以上、内心書を下げてたまるか」

ギリギリと歯軋りをして睨み合う2人。そういうコミュニティーケーションの取り方などでは、とイーナは頬杖をついて二人を見守る。

「で? イーナさんは大丈夫なのか。あれから槍とか降ってきてないのか」

アルカナはこちらに顔を向けて訊く。登校中に降ってきた剣を弾いてくれたのはアルカナであり、自身が狙われていることを当然知っている。秘密にしておくことでもないので、アルカナに事情を話すことにした。

「へー、大変だな。俺も術よくわかんねぇから、そりゃ困惑するな」
「犯人さえ分かれば、注意できるんですが分からなくて」
「まっ、気配を消されていたら検討つかないだろ。ーーーなら疑いのある奴、片端から殴れば」
「そんな無茶を」
「俺はそうした」
「……」

返せる言葉がなかった。「この男の話は参考にしないでください。そのあとしっかりと重い処分受けていますから」とヨモギにすかさず言われた。

「イーナさん、安心してください。今日でその手の届かない煩わしいのは終わりますから」

ヨモギは懐中から折り畳まれた紙を取り出し、その紙を机に広げる。

「犯人だと思われる者をリストアップしたものです。どれか、思い当たる名前ないですか」

イーナとアルカナはその紙を覗き込む。紙に書かれているのは、数人の生徒の名前が書かれていた。
知っている名前は数少ないのに、指せる人物はいるのだろうかと心配になるイーナは、一つだけある名前が目に入る。

「スズラン……」
「そうきましたか」

名前を出されヨモギは納得するように頷いた。

「でっ、でもスズランという人が隠れてそんなことはしない」
「それは分かっています。あの人がそのような事し始めたら天変地異ですから」
「そうかな?」
「どっちなんですか。スズランさんに会ったことあるなら、当然だと思いますけど?」

どんな時でもスズランは口が悪いので、嫌がらせをしてきてもあまり違和感はないが、ヨモギとはどうやら齟齬が生じているようだ。
そう思い始めると、もうスズランが嫌がらせしてきているのではと勘繰る。
 
「それは一旦置いておいて。嫌がらせをするのはスズランの周りです。スズランに話しかけただけで、嫌がらせ受けたという事例が何個もありますから可能性は高いかと」
「……スズランに衝突したし、それなりに会話した」
「なるほど、軽くラインを越えていますね。そうなると確実に彼らですね」
「そんな事で嫌がらせ受けたってことですか」
「彼らにはそんな事じゃないのでしょう、気持ちは理解できませんが。彼らにとってスズランは神様ですから、触っていけないものに触れたと思ってください」
「はぁ、そんな」

そんな理由で何度も命に危機に晒されたと聞かされると、自然と力が抜けていく。
馬鹿みたいだ。ーーースズランは話せる友人はいるのだろうか、ふと考えた。そんな事で毎回追い払われていては、学園で話せる相手すらできないのではと。

「イーナさん、安全にことを進めたいなら。これからすることはその集団に嫌がらせを止めて欲しいと言いに行くことです」
「話を聞いてくれるかな」
「あれは聞きませんよ。最初に申し上げたように会話での解決を出来ない相手です。そうですね、証拠集めて学園に突き出すのもいいですけど、生徒同士の揉め事にここの教師は期待しない方がよろしいかと」
「スズランに直接言ってもらうとか」
「それは一番いい手ですね。ですが、学園の有名人に会う事がまず困難ですから」

口には出さなかったが、暴力で解決するのが手っ取り早いとヨモギは言う。
他の手となれば、スズランに直接会うか、確実な証拠集めになってくるが、イーナは近い内に祖国に帰る事が決まっている。証拠が集まったと同時に学園を出る可能性が高い。
その時、学園に訴えても何も意味がない。このままずっと耐えられるが、本音を言えば嫌だ。

「会話で解決……」
「やってみますか? 意味ないと思いますが」
「大事にしたくない……暴力とかは最終手段でお願いします」
「そうですね。穏便に済ませる事が貴方にとっても、あの人達にとっても、何よりもいいですから」

とりあえず、方向性は決まった。

「お二人はスズランと会った事あるんですか」

イーナは2人に問いかけると、どちらも話した事はないが見た事はあると返ってきた。

「見た目は綺麗な人ですよね。それに、生徒から聞く話では怪我をして治療してもらったとか、落ち込んでいると慰めてもらったなど、聖人君主な話しか聞きませんね」
「聖人って、あの人やばい匂いがプンプンするけど。1人くらい丸呑みしそうな感じだろ」
「話した事はないのに失礼ことを」
「お前もな」

会話を聞いていると、やはりヨモギと周りの評価が自身とは全く違う。実際会って感じるのは、アルカナの評価の方である。
ヨモギの話とアルカナの話を踏まえて出てくる答えは、スズランはものすごーく猫を被っているとしか出てこなかった。
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