21 / 29
2
19 会話
しおりを挟む信者、親衛隊など言い方は色々あるが、毎回昼休憩になると集まる場所があるらしいのでヨモギと一緒に行く事にした。もちろん、アルカナも暇だと言ってついてきた。
どんなふうに集まっているのか。学園にあるバラ園に来てみたところ、机と椅子を並べられては執事のような人がケーキと茶が一人一人に配膳していく。
「呑気にアフタヌーンティー決めてやがる」
アルカナが薔薇の向こう側を見て言う。そう、三人は丁度見えない角度から、集団を眺めいていた。
「というか、なんで言いに行くのに隠れてるわけ? このままケーキ食ってる集団を眺めることになるけど」
「ケーキ美味しそう……」
「イーナさん?」
「えっあっ、そうなんですけど……いざ、集団を目の前にすると緊張が」
「あの、すいません一言いいですか!」
アルカナはその場に立ち上がり、集団に呼びかけた。
お茶やケーキに向けられていた視線は、一斉に三人に向けられた。「お前っ」とヨモギはアルカナの首根っこを捕まえて後ろに引っ張る。
「穏便に済ませるって話だったろ」
「いや、どのみち話すからいいかなって」
ヨモギは片方だけ握り拳を作っては震えさせていた。
「貴方は誰ですか。ここは親睦を深める神聖な場。部外者は出て行きなさい」
集団の1人が立ち上がってこちらに詰めてきた。
「はぁ? お前らから喧嘩ふっかけて、ぶっ」
また煽るような事を言いそうだったので、イーナとヨモギは集団に向かおうとするアルカナを連れ戻す。
「お取り込み中のところ申し訳ないですが、お話いいですか」
ヨモギが何一つとして怖気づくこともなく、近づいてくる1人に言う。
「貴方達と会話する暇は私達にありません。今回は見逃してあげますから、何も言わずに出て行きなさい」
「イーナさんに対して嫌がらせやめて貰えませんか」
「……はぁ……仕方なかったのです」
集団の一人は少しだけ間を置いてから、しんみりと言葉を吐き出した。
「仕方なかったのです。無礼なものからスズラン様をお守りするには、そうするしかなかったのです。いいですか、私たちはルールを作ってスズラン様を見守り、お守りしている。なのに、その者は無知に踏み荒らした。それがどれだけ失礼なことか、貴方達は分かっていない」
集団の一人に指されるイーナ。周りも賛同するようにテンポ良く拍手する。
「私はイーナさんに対して嫌がらせをやめて欲しいと言っているのです。理由なんか訊いていません。貴方達が答えるのは、はいか、いいえだ」
「いいえと答えたらどうする気ですか。暴力ですか? だから野蛮な人達は話を聞かない」
こう言えば、ああ言う。ヨモギとその人はそんな会話を繰り広げているとアルカナがイーナに向かって小声で話す。
「なぁなぁ、イライラしてきた。もう殴った方が早くないか」
「わかりますけど、今殴ればこっちが圧倒的に悪くなります。ヨモギさんに任せましょう」
話し合いとは言い難いが、決着がついたのか「分かりました」とヨモギは一歩身を引く。
「一旦、ここは帰ります。言っておきますが、イーナさんが話し合いで解決したいとおっしゃるから貴方達と会話したまで。次はそうですね……、無いと思った方がいいと思います」
「私達は暴力の脅しには決して屈しない」
「そうですね、話し合いで済まなくて残念です」
「恐ろしい、恐ろしい。話し合いなどと言って結局は脅す。そういう輩は相手をしない、さっさと出て行きなさい」
「では行きますか、お二人さん」
ヨモギがため息吐いて戻ってくる。会話にならないと知っていた。1回目はこのような形に終わるだろうとイーナは予測していたので、素直に校内に方に戻った。
「早く切り上げて珍しい。あれでいいのか」
アルカナはヨモギの背について行く。
「もう、いいです。粗方決着はつきました」
「そうには、見えなかったけどな」
「せっかくこちらが出向いたのに話は聞き入れないと言った時点で、結末は見えましたから。それに、あの人達は、無知は無礼だと散々ほざいていましたが、自分達も無知のために踏み荒らしたことを分かっていない。全く、お互い様って奴ですよ」
ヨモギの話はどんどんと進むが、イーナとアルカナは意味が分からないと顎に手を当て渋い顔する。
「今は分からなくとも、近いうちに分かります。イーナさん、犬は貴方の事が大好きですから」
「あの犬、飼ったことないです。黒兎はいますけど」
「そうでしたか。では、今から手懐けることをお勧めします」
やはりヨモギの言っていることは分からない。あえて本題を避けた言い方にもやもやとするが、いずれ分かるならいいかと思えた。
「キモい言い方」
アルカナは吐き捨てた。
一番の問題の解決はしなかったが、一歩進んだ。二人は最後まで付き合うと言ってくれているので、粘って問題を一個ずつ払っていくしかない。
「……今日はどこで寝るんですか」
三人で廊下を歩いているとヨモギが立ち止まって訊いてきた。
「もちろん、自室です」
「そうですか……」
他に部屋を持っているはずもなく。扉が無くなってしまったけれど、帰るところは変わらない。何故、自室の状況を知っているヨモギは、当たり前のことを訊ねたのだろう。
アルカナが、ヨモギを横目で見てからこちらに視線を戻す。
「部屋を荒らされて可哀想だから、俺の部屋に来ないかっだって」
「あっ、そういうこと。あの、いいんですか? お邪魔して」
部屋を貸してもらえるなら、こちらとしては嬉しい。ヨモギに再び話を戻すと、視線は逸らされアルカナを指す。
「この男と同じ部屋で寝る事になりますけど、いいですか」
「どう意味だ、あぁ?」
「そのままの意味ですよ」
「言っておくけどな、躊躇して言わない方が恥ずかしいからな」
「っうるさい!」
また口喧嘩を始めそうな二人を眺めつつ、イーナの答えは笑顔で泊まらせてくださいだった。
*
「はぁ、ああ言う輩を相手にしていると疲れますね」
大きくため息を吐いて男子生徒は廊下を歩いていた。せっかくの親睦会を、突然入ってきた無礼な三人のせいで台無しにされたからである。
「空気の読めない無知はどうしようもないですね。自分たちに非があること分かっていない」
男子生徒は一人で歩いていることもあり、どんどんと愚痴が溢れていく。
「特にあの、イーナという人間は品性が感じられない。スズラン様はお優しいから言わないだけで、ああいう類は嫌いなはずだ」
「なんて、言った?」
「ですから、イーナという人間はーーー」
独り言を呟いていた男子生徒とは違和感に気がついた。一人だというのに会話している事に。
そしてーーー、男子生徒の目の前は一瞬にして白くなったと思えば、白い壁に頭を打ちつけていた。
「うぐっ!」
壁に打ちつけた衝撃に、目をくらませ、痛みに足が軸を無くして崩れていく。
地面に手をついた時には、ポタポタと血の水滴が落ちる。
「ちっ血がぁ」
血が流れるこめかみを触る男子生徒だったが、手に血がつくだけでこめかみどころか、痛みもなく、顔に一つも傷がなかった。
訳が分からない。では、この手や地面に滴る鉄臭く赤い液体はなんなのか。
幻術でもかかっているのかと、自分の目を疑う。
「一体何が起きて……」
「僕さぁ、今日失敗したんだ。でもね、あまりにも可愛いから仕方ないよね」
「なんの話を……」
四つ這いのまま男子生徒は顔を上げ、目の前に立つ人物を見て絶句した。
見たものを拒絶するかのように手は震え始めて、全身が血という血が引いていくのを感じた。
「昔にね、助けてくれたんだ。本人はなんとも思ってないようだけど、僕はね、あの時に救われたんだ」
「ひぃ」
吸った息は鳴り笛のように、恐怖に足は立たず。獣が怯えたように後ろに下がっていく男子生徒。それを追いかけるように、靴を鳴らして一歩ずつ、一歩ずつ、ゆっくりと近づく。
「こんなさぁ、腐った世界にも光があるんだって」
「さっきから何を言っているんだぁ! わっ、私は何も関係ない、関係ないからなっ」
「関係ない、意味が分からない、腐るほど聞き飽きた。いつになったら分かるんだよ。なぁ、お前もだろ。お前も、自分が何をしたのか分からないんだろ」
「本当に、しっ知らない」
「僕ね。取られるのも、邪魔されるのも、傷をつけられる事も、大嫌いなんだーーー、だから知っておいてよ」
「やめろっ」
「大丈夫、殺しはしないから」
金色の髪を持った男は、無慈悲にも指を鳴らした。
85
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は未定
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
・本格的に嫌われ始めるのは2章から
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。
宵のうさぎ
BL
異世界に転生したと思ったら、オメガバースの世界でした。
しかも、どうやらここは前世の姉ちゃんが読んでいたBL漫画の世界らしい。
漫画の主人公であるハイスぺアルファ・レオンの友人モブアルファ・カイルとして過ごしていたはずなのに、なぜか俺が迫られている。
「カイル、君の為なら僕は全てを捨てられる」
え、後天的Ω?ビッチング!?
「カイル、僕を君のオメガにしてくれ」
この小説は主人公攻め、受けのビッチング(後天的Ω)の要素が含まれていますのでご注意を!
騎士団長子息モブアルファ×原作主人公アルファ(後天的Ωになる)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる