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20 椿
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いつの間にか連絡を交換していた雪久と薮内に、少し嫉妬のような不満を抱きながら、雪久と会うことになった。
「良かった、まだいた」
雪久が息を切らして、ファミレスの前まで来ていた。そう、会う予定は明日ではなく今である。
俺は薮内によってファミレスを追い出され、緊張で体は吊るされたように固くなり、扉の前で足が動かなくなっていた。
「……とりあえず、そこら辺歩くか」
街を指す雪久の提案に全力でうなずいた。
お互いに例の事を追究することなく無言のまま歩き出し、街をぶらぶらとする。
おにぎりのような三角のようなビルとか、草生えてるおしゃれなカフェとか、景色は変化しているというのに何一つとして情報として入ってこない。
唇が重い、鳴き声すら発せない。あのお見合いで初めて顔を合わせた時のようだ。
この後どうすればいい。何を言えば許してもらえる。そんなことを考えて下を向いていると、雪久が話しかけてきた。
「なんで、海北が知っている」
思わず、ムッとした。雪久も溜め込んだように不満そうだし、何故今その話をしなくてはならないのかと。
「あれは、超越的に察しが良いだけで」
「俺は……なにも知らなかった。なんで、俺に言わなかった、そんなに嫌いなのか」
「それは……」
嫌いな訳あるか。
嫌いだったら、悩まないし、躊躇なんかしない。こちらから言えないのが何故わからない。
迷惑かけて、馬鹿みたいに死んで、言えるわけないだろと、腹が立って先に進もうとしたが後ろを引っ張られた。
首根っこを掴んだ物に抗議しようとしたが、目の前で車が通り過ぎていく。
いい加減、死ぬ。
血の気が引いていくとの同時に、背中に暖かさを感じた。そして、背後から伸びてきた手によってギュッと抱きしめられ、強くありながら優しい手は、震えていた。
「よかったっ……」
今にも泣きそうな掠れた声。安堵の息が聞こえてきては、肩に雪みたいな白い頭がのる。
「もう、勘弁してくれ」
「すっ、すいません。前、見てなかったです」
車も無事過ぎたし、そろそろお互いに離れても良いだろうと体を動かせば、腰に巻き付いた腕によって引き戻された。
往来で二人が抱き合っていると思うと、どんどん恥ずかしくなって、顔から火を吹きそうになる。
「ちょ、人がいるから離せ」
「大丈夫だ。人はいない」
雪久に言われて辺りを確認すると、河川敷までいつのまにか歩いていた。周りに人はいなかった。
問題ないかと言われれば、そういう話ではないが。
「事故らなくて、良かったよ」
「助けていただいて、ありがとうございます……」
やっと、雪久の囲いから離された。
話す前から疲れた気がする。原因は変ことはしてないと涼しい顔をしているし、焦っている俺がおかしいのか。
「薮内とは、友人として連絡交換した」
一悶着ありつつ再び歩き出し。空気が和らいだところで、雪久はポツリと会話を始めた。
「だから、決して赤橋の行動を見張ろうとか詮索しようとかで、お互いに連絡交換していない」
「分かってます。俺が薮内に話したのがいけなかっただけですから、気にしてないでください」
こういう揉め事にはドライな筈の薮内が珍しくお節介をしたということだ。
「そうか……」
「……」
「……海の時、俺も混乱していたんだ。走馬灯のような、一気に知らない映像が脳内に流れてきて、頭がパンクした。どこにいるのか、自分が発した言葉すら、理解出来ていなかった」
前世の記憶を思い出す際の、一気に流れ込んでくる感情の気持ち悪さと、脳内を圧迫するほどの知らない体験に思考が停止するのは、いつになっても慣れない。
「今は大丈夫なんですか」
「大丈夫と言いたいところだが、まだ混乱している」
「……俺といたら余計に、混乱すると思い……ますけど……」
「いや、会って話した方が、だいぶ落ち着いてきた。話したいことが出てきた」
そう言って雪久は前を向く。俺の方は、後ろに引っ張られるように自然と歩く速さが落ちていく。嫌われるのが恐い、聞きたくないという感情が足を重くする。
「また話せて良かったよ。嫌われると思っていたから」
「えっ」
「えっ、何だよ」
と苦笑する雪久。だって、嫌われているのは俺の方で、顔を合わせるのも辛いのも雪久で。
「そうだろ。あのあと……の事を考えたら、歩きながら普通に話せることがあり得ないことだろ。そんな奴と話したい人間がどこにいる」
「だって、それは私の方が」
「赤橋新」
俺の名前を呼ぶと、少し前を歩いて雪久は立ち止まる。
「赤橋新、そう呼んでいいか」
変わらない黒い瞳。雪久の銀色の髪が風に流され。その光景がいつかの真っ白な雪のようで、輝いて見えて溶けてしまいそうでーーー彼に手を伸ばしていた。
「うっ」
重くて詰まる息が聞こえても、腰や腹に手を回して、全く違う体温を手繰り寄せた。
ーーー何故、信じる事ができなかったのだろうか。落ち込んでも、取り返しつかない事をしても、ずっと、ずーと、向き合ってきてくれていたのに。
傍に居てくれていたのに。なんで、信じる事ができなかった。なんで……
汗か、涙か、湿っていく背中を気にせず、慰めるように俺の手を優しく触れる。
外はまだ暑苦しいというのに、背中から抱きついて馬鹿みたいだ。でも、雪久の体温は心地よいから離したくなくなる。
「ごめん……今更言ったところで、もう遅いッ」
息が詰まるくらい抱きしめて言葉を遮る。
「苦しい」と小さな嘆き声が聞こえるが、喋らせることは絶対させない。
沢山の言葉はまた聞くから、話したいことが沢山あるけど、今はたった一つだけで良い、一つだけを覚えて、また私と会ってほしい。
「新って呼んでください」
もう一度、同じことを繰り返すことになってもーーー、貴方の側にいたい。
おわり
「良かった、まだいた」
雪久が息を切らして、ファミレスの前まで来ていた。そう、会う予定は明日ではなく今である。
俺は薮内によってファミレスを追い出され、緊張で体は吊るされたように固くなり、扉の前で足が動かなくなっていた。
「……とりあえず、そこら辺歩くか」
街を指す雪久の提案に全力でうなずいた。
お互いに例の事を追究することなく無言のまま歩き出し、街をぶらぶらとする。
おにぎりのような三角のようなビルとか、草生えてるおしゃれなカフェとか、景色は変化しているというのに何一つとして情報として入ってこない。
唇が重い、鳴き声すら発せない。あのお見合いで初めて顔を合わせた時のようだ。
この後どうすればいい。何を言えば許してもらえる。そんなことを考えて下を向いていると、雪久が話しかけてきた。
「なんで、海北が知っている」
思わず、ムッとした。雪久も溜め込んだように不満そうだし、何故今その話をしなくてはならないのかと。
「あれは、超越的に察しが良いだけで」
「俺は……なにも知らなかった。なんで、俺に言わなかった、そんなに嫌いなのか」
「それは……」
嫌いな訳あるか。
嫌いだったら、悩まないし、躊躇なんかしない。こちらから言えないのが何故わからない。
迷惑かけて、馬鹿みたいに死んで、言えるわけないだろと、腹が立って先に進もうとしたが後ろを引っ張られた。
首根っこを掴んだ物に抗議しようとしたが、目の前で車が通り過ぎていく。
いい加減、死ぬ。
血の気が引いていくとの同時に、背中に暖かさを感じた。そして、背後から伸びてきた手によってギュッと抱きしめられ、強くありながら優しい手は、震えていた。
「よかったっ……」
今にも泣きそうな掠れた声。安堵の息が聞こえてきては、肩に雪みたいな白い頭がのる。
「もう、勘弁してくれ」
「すっ、すいません。前、見てなかったです」
車も無事過ぎたし、そろそろお互いに離れても良いだろうと体を動かせば、腰に巻き付いた腕によって引き戻された。
往来で二人が抱き合っていると思うと、どんどん恥ずかしくなって、顔から火を吹きそうになる。
「ちょ、人がいるから離せ」
「大丈夫だ。人はいない」
雪久に言われて辺りを確認すると、河川敷までいつのまにか歩いていた。周りに人はいなかった。
問題ないかと言われれば、そういう話ではないが。
「事故らなくて、良かったよ」
「助けていただいて、ありがとうございます……」
やっと、雪久の囲いから離された。
話す前から疲れた気がする。原因は変ことはしてないと涼しい顔をしているし、焦っている俺がおかしいのか。
「薮内とは、友人として連絡交換した」
一悶着ありつつ再び歩き出し。空気が和らいだところで、雪久はポツリと会話を始めた。
「だから、決して赤橋の行動を見張ろうとか詮索しようとかで、お互いに連絡交換していない」
「分かってます。俺が薮内に話したのがいけなかっただけですから、気にしてないでください」
こういう揉め事にはドライな筈の薮内が珍しくお節介をしたということだ。
「そうか……」
「……」
「……海の時、俺も混乱していたんだ。走馬灯のような、一気に知らない映像が脳内に流れてきて、頭がパンクした。どこにいるのか、自分が発した言葉すら、理解出来ていなかった」
前世の記憶を思い出す際の、一気に流れ込んでくる感情の気持ち悪さと、脳内を圧迫するほどの知らない体験に思考が停止するのは、いつになっても慣れない。
「今は大丈夫なんですか」
「大丈夫と言いたいところだが、まだ混乱している」
「……俺といたら余計に、混乱すると思い……ますけど……」
「いや、会って話した方が、だいぶ落ち着いてきた。話したいことが出てきた」
そう言って雪久は前を向く。俺の方は、後ろに引っ張られるように自然と歩く速さが落ちていく。嫌われるのが恐い、聞きたくないという感情が足を重くする。
「また話せて良かったよ。嫌われると思っていたから」
「えっ」
「えっ、何だよ」
と苦笑する雪久。だって、嫌われているのは俺の方で、顔を合わせるのも辛いのも雪久で。
「そうだろ。あのあと……の事を考えたら、歩きながら普通に話せることがあり得ないことだろ。そんな奴と話したい人間がどこにいる」
「だって、それは私の方が」
「赤橋新」
俺の名前を呼ぶと、少し前を歩いて雪久は立ち止まる。
「赤橋新、そう呼んでいいか」
変わらない黒い瞳。雪久の銀色の髪が風に流され。その光景がいつかの真っ白な雪のようで、輝いて見えて溶けてしまいそうでーーー彼に手を伸ばしていた。
「うっ」
重くて詰まる息が聞こえても、腰や腹に手を回して、全く違う体温を手繰り寄せた。
ーーー何故、信じる事ができなかったのだろうか。落ち込んでも、取り返しつかない事をしても、ずっと、ずーと、向き合ってきてくれていたのに。
傍に居てくれていたのに。なんで、信じる事ができなかった。なんで……
汗か、涙か、湿っていく背中を気にせず、慰めるように俺の手を優しく触れる。
外はまだ暑苦しいというのに、背中から抱きついて馬鹿みたいだ。でも、雪久の体温は心地よいから離したくなくなる。
「ごめん……今更言ったところで、もう遅いッ」
息が詰まるくらい抱きしめて言葉を遮る。
「苦しい」と小さな嘆き声が聞こえるが、喋らせることは絶対させない。
沢山の言葉はまた聞くから、話したいことが沢山あるけど、今はたった一つだけで良い、一つだけを覚えて、また私と会ってほしい。
「新って呼んでください」
もう一度、同じことを繰り返すことになってもーーー、貴方の側にいたい。
おわり
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