前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ

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6 連絡先

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連絡を交換した女の子、綾とはあれから地味に連絡を取り合っている。
どこの組とか、趣味とか、当たり障りない話題を交わす日々が続き。やっと言うべきか、お誘いのメッセージが来た。
流石にデートのお誘いではないが、前のようにカラオケ店で集まらないという提案。
書き方が人数合わせのように感じるが、俺にとっては欠かせない一本の糸。
運命を変えられる人に出会えるかもしれないのだから、もちろん返事は行くと。
予定の当日、みんなで一緒にカラオケ店に行こうとなり校門前に集まることになった。

なんだろうか。
こういう騒がしいのは嫌いだったはずが、心が躍るようにワクワクしている自分がいる。
こういうことを体験した事がないだけで、食わず嫌いだったのかもしれない。
もしかして、騒がしい方が好きなのでは。
 
ーーーそもそも、なぜ落ち着いた方が好きだと思っていたのか。
 
ふと、浮かんでくるのは縁側に座り、庭園を眺めながらお茶を啜る記憶。そして、隣では目を瞑りゆっくりと息をするあの人がいた。癖毛のない艶やかな髪の毛がふわりと風で揺られる。

ーーーそうか、俺が好きだったのは

校門前に差し掛かり、みんなはどこだと見渡す前に体は突然片方に傾き、そして一気に傾く方に引っ張られる。
なに、なに、と混乱している間にも、歩かされ学校の外に連れ出されていく。

人の往来で拉致された。
やっと、揺れる視線が定まり、人の腕を掴み引っ張る相手が見えてきた途端に、体が凍るように固まった。

真っ直ぐとしていて、それでしっかりと芯がある後ろ姿は、変わらない。

誰であるかを知れば、知るほど足がただ前に動くコンパスと化し、目の前を歩く人物を理解する事を拒絶する。

「で、どういうことだ」

こちらが訊きたい。
 
学校から離れて、人がいなくなったくらいに俺を拉致した人物、雪久は腕を離し、歩みを止めた。
人を無理矢理連れてきたというのに、こちらに体を向け途端に腕を組み仁王立ち、不満を募らせていく。
何もしていないのに、詰められているのか。
 
「……っどういうこと、がどういう事ですか。話が突然過ぎて、意味が分からないんですけど」
「この前、知らない人間と連絡先を交換してたから……」

どうやら、女の子と連絡先を交換していたところを見られていたらしい。だが、今のこの人にとって何も関係ないはずなのに、何故怒っているのか。
雪久もその事実に気づき始めたのか、向けていた目は逸れていき、語尾が小さくなっていく。

「何が駄目なんですか……。誰と何をしようと、貴方に関係ないですよね」
「関係なく……いや、ないな。お前の……自由だな」

じゃあ、ここに何をしに来たんだ。お互いに顔を見合わせて首を傾ける。
よく分からないけど、前世の記憶がフラッシュバックでもしたのだろうと決めつけて、俺は学校の方に戻ることにした。

「あの、この後予定あるんで、話がないならもういいですか」
「どこに」
「えっ、友人達とカラオケに行くだけですけど」
「……俺も行く」
「はぁ!?」

驚きのあまり声が高くなる。何を言っているんだ、この男は。
平凡の中に美形の男を連れて行ったら、カラオケどころの話ではなくなる。

「いや、駄目、駄目ですから。連れて行きませんから」
「なんで」
「なんで、って知らない人を連れて行けるわけないでしょ……それに俺たち会ってまだ数回ですよ」
「……じゃあ、連絡先を交換しろ」

ぶっきらぼうにそう言って、スマホを取り出す雪久に目を疑う。

「いや、いや。無理です」
「もう、数回会ったんだ。連絡くらい交換してもいいだろ。女とは一回で交換してただろ」
「いや、それは……、俺は女の子としか交換しないんで。男はちょっと興味ないかな」
「……」
「何っ」

適当に嘘をついて拒否すれば、真顔のまま雪久は一歩距離を詰めてきた。
一定の距離を保ちたいこちらとしては、近づいてきたなら一歩後ろに下がる。
しかし、再び雪久は一歩前に進み、また俺は一歩後ろに下がったが雪久は一歩、一歩近づいてくる。
また、また、俺は一歩後ろに下がり、そんなことをお互いに繰り返していたら自身の背中がコンクリートの塀にぶつかった。
雪久は俺の顔近くの壁に手をつけて、逃げ道を塞ぐ。
 
「お前、見てるとイライラする」

追い詰められた先で投げかけられた言葉は冷たく、心臓がキュと締まる。
嫌われているのは知っている。
言われなくとも分かっていたけど、色んな感情が押し寄せてきて胸がザワザワとし始める。平常心が保てなくなっていく。
目元が熱くなって、鼻がツーンと痛くなる。

「じゃッぁ、れんらくっ交換しなくてもいいじゃないですかっ……」

やばい、声も震え始めた。逃げたい、逃げたい、泣きたくない。どんどんと目線は下がり、いつの間にか地面を見つめていた。

「駄目だ。ここで逃したら、二度とない気がする」
「いみっわかんないし、俺、もう行く」
「……教えないなら、一緒に行く」

話が振り出しに戻った。

「なっ、まじで何を言って」
「行く、決めた。ついて行く」
「ダメっだって、本当に嫌だ。ついてくるな」

顔を上げれば、雪久は本気だと言うように黒い瞳は一切ぶれなかった。
どういう脅しだよ。手を仰ぎ全力で拒絶するが、雪久にその手を取られては、雪久の心臓近くに手は持って行かれて強く握られた。

「行ってもいいんだな」
「いや、その、連絡がえっと……」
「いいんだな?」
「えっーーーと」

近づいてくる淡麗な顔ーーー、あまりの圧に負けた。

俺は半べそをかきながら鞄からスマホを取り出し、雪久と連絡を交換した。
雪久は連絡交換が出来て満足したのか、ほくほくとした表情でスマホの画面を見ながら離れて行き、やっと解放されたと自然と背筋が緩む。

「もう、行っていい?」
「いいぞ」
「変な連絡してこないでくださいよ」
「うん」

視線はスマホのまま。うん、じゃないよと思いながら後退りし雪久から少しずつ距離を取る。
別に会う約束をしたわけではないし、連絡先交換したくらいだし良いかと、振り返って学校に戻ろうとした時に

「楽しんで来いよ」
「えっ?」
「友人と遊ぶんだろ。楽しまないと損だろ」
「えっ、はい」
「じゃあな、また」

雪久は軽く手を振って、俺とは違う反対の道に背中を向けて颯爽と去って行く。

拍子抜けするというか。何を考えているのか、分からない。

前世の時もあったけど、一回り今日は分からない日であった。
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