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恋人らしく
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その日は夕飯を食べたあと一緒にお風呂に入って、斗希くんが帰るまでずっとくっついてテレビを見てた。本当は泊まりたかったみたいなんだけど、次の日は友達と誕生日パーティをするから帰るしかなくて凄く渋ってた。
パーティはしないとまで言ってたのはちょっと焦ったけど。
それに泊まれる準備なんてもちろんしてないし、どう頑張っても僕は斗希くんに服を貸す事が出来ないから、泊まりたい時はぜひ着替え持参でお願いしたいかな。
1人暮らしだから、置いて行っても全然いいんだし。
月曜日、いつも通りの時間にホームに入った僕は、友達と一緒にいる斗希くんを見つけて顔がにやけそうになり慌てて頬を押さえた。解すように動かしてたら友達が斗希くんの名前を呼ぶ声がして、顔を上げたらムスクの香りがして肩が抱かれる。
「はよ、陽依」
「お、おはよう。斗希くん」
「昨日寝れた?」
「う、うん」
顔が覗き込まれ、朝から直視するには眩し過ぎるご尊顔に内心あわあわしてたら、斗希くんの友達がぞろぞろと来て怪訝そうに僕を見る。
さやかさんの視線が凄く痛い。
「斗希、何やってんの?」
「その人誰?」
「あれって、1個先にある高校の制服じゃね?」
1人が僕の方へと近付いて顔を見ようとしてきたけど、それを阻むように斗希くんが間に入ってきた。見上げると眉根を寄せてて、空いてる手を友達に向けて払う。
「ちけぇよ」
「いや、だってお前がそんな距離近いの珍しいし」
「しかも他校生」
「で、誰だよ」
確かに、この子たちとだってここまで近くないもんね。
高校まで別で、今まで話したところも見た事ないからよけいに不思議なんだろうな。
僕だって、あの時助けて貰わなければたぶん知り合う事さえなかったと思うし。
肩に置かれてた斗希くんの手が頭を撫で、胸元へと抱き寄せられた。
「彼氏」
そう端的に言った瞬間、さやかさんが息を飲んだ気がした。
少しの沈黙のあと、友達が顔を見合わせ「マジか」って零す。
男同士、気持ち悪いって思われるかな。それとも僕は斗希くんに相応しくないって言われる?
「お前、そういう相手いたのかよ」
「だからどれだけ告られても〝無理〟って断ってたのか」
「え、でもいつから? 絡んでるとこ初めて見るけど」
「1年前」
「は? そんな前なん?」
身構えていたのに普通に会話が続いて拍子抜けする。あっさり受け入れられた。
斗希くんは聞かれた事を淡々と答えてるけど、僕を背中に隠したままだから会話にも入れない。恋人だって言ってくれるならせめて挨拶だけでもしたいんだけどな。
聞いてみようかと斗希くんの袖を引こうとしたら、電車が到着するメロディが流れみんなが列に並び始めた。
「あ」
「斗希! 電車来るから行こ!」
続いて聞こえてアナウンスに反応し手を下ろしたら、それまで黙って見ていたさやかさんが斗希くんの腕を掴んで引っ張ってきた。
斗希くんはすぐに振り払ったけど、さやかさんは負けじとさらに手を伸ばす。
「俺はこっちでいい」
「だったら私もこっちから乗る!」
「何でだよ。お前らは後ろ行け」
「嫌!」
斗希くん相手にも動じずに言い返すさやかさんに感心しながらも、このままだと他の人にも迷惑がかかると思った僕は斗希くんの手をつついて振り向かせる。
せっかく一緒に来たんだから、みんなこっちでもいいと思うんだ。
「みんな斗希くんと行きたいんだよ。みんなで乗ろう?」
「俺は陽依だけといてぇの」
「う、うん、ありがとう。でもほら、もう電車来ちゃうし」
「⋯⋯⋯」
真っ直ぐな言葉に目を瞬きつつも電車を指差したら、斗希くんは不満そうに眉間に皺を寄せた。でも怒ってる訳じゃないんだっていうのは昨日知れたから、そういう顔を見ても不安になったりはしない。
電車がホームに入ってきて、ブレーキ音と共にゆっくりと停止し始める。
斗希くんは溜め息をついたあと僕の肩を抱き寄せ頷いた。
「今日バイトだろ。迎えに行く」
「え? い、いいよ。大丈夫」
「で、晩飯食わせて」
「あ、そういう事なら甘えようかな」
「ん。じゃ、あとでな」
「うん」
斗希くんが降りる駅に着く間際、周りの人に押されないよう盾になってくれてた斗希くんが不意にそう言ってきた。少し驚きつつ首を振ったら理由が付け加えられなるほどと納得する。
電車が止まり、ポンポンと頭を撫でて降りて行く斗希くんに手を振るとふっと笑ってひと振り返してくれた。
僕がずっとしたかった〝恋人らしい〟やり取りだけど⋯これはこれで照れ臭いかも。
ちなみに、さやかさんはずっと怖い顔で僕を見てた⋯気がする。
その日の夜、約束通り迎えに来てくれた斗希くんは何故か学生カバンとボストンバッグを下げてて、僕の家に着くなりそこから制服や部屋着、充電器を出してセットし始めた。さらに洗面具を出したところでようやくそれがお泊まりセットだと分かった僕は、チラリとベッドを見て1人赤面する。
今日もするのかな。嫌じゃないけど、最初は恥ずかしくてどうしたらいいか分からないんだよね。手の位置とか目線とか⋯斗希くんカッコいいから特に悩む。
「陽依、風呂沸いた」
「あ、じゃあ入ってきて。その間にご飯作っておくから」
「⋯⋯分かった」
今の間はなんだろう。
部屋着を手にした斗希くんが、キッチンに立つ僕の頬に口付けてから洗面所に行ったあと、少ししてからシャワーの音が聞こえてきた。
一人暮らしの部屋で、自分以外の人が生活音を立ててる事に不思議な気持ちになる。
たぶんこれからもちょくちょく泊まりには来るんだろうし、いつかはこれが当たり前になったりするのかな。
一緒に暮らすまではいかなくても、僕の日常に斗希くんがいてくれるのは嬉しい。
そんな夢のような願いをこっそりしつつ、僕は遅めの夕飯作りに取り掛かった。
今度時間がある時は、斗希くんの好きな物をたくさん作ってあげたいな。
パーティはしないとまで言ってたのはちょっと焦ったけど。
それに泊まれる準備なんてもちろんしてないし、どう頑張っても僕は斗希くんに服を貸す事が出来ないから、泊まりたい時はぜひ着替え持参でお願いしたいかな。
1人暮らしだから、置いて行っても全然いいんだし。
月曜日、いつも通りの時間にホームに入った僕は、友達と一緒にいる斗希くんを見つけて顔がにやけそうになり慌てて頬を押さえた。解すように動かしてたら友達が斗希くんの名前を呼ぶ声がして、顔を上げたらムスクの香りがして肩が抱かれる。
「はよ、陽依」
「お、おはよう。斗希くん」
「昨日寝れた?」
「う、うん」
顔が覗き込まれ、朝から直視するには眩し過ぎるご尊顔に内心あわあわしてたら、斗希くんの友達がぞろぞろと来て怪訝そうに僕を見る。
さやかさんの視線が凄く痛い。
「斗希、何やってんの?」
「その人誰?」
「あれって、1個先にある高校の制服じゃね?」
1人が僕の方へと近付いて顔を見ようとしてきたけど、それを阻むように斗希くんが間に入ってきた。見上げると眉根を寄せてて、空いてる手を友達に向けて払う。
「ちけぇよ」
「いや、だってお前がそんな距離近いの珍しいし」
「しかも他校生」
「で、誰だよ」
確かに、この子たちとだってここまで近くないもんね。
高校まで別で、今まで話したところも見た事ないからよけいに不思議なんだろうな。
僕だって、あの時助けて貰わなければたぶん知り合う事さえなかったと思うし。
肩に置かれてた斗希くんの手が頭を撫で、胸元へと抱き寄せられた。
「彼氏」
そう端的に言った瞬間、さやかさんが息を飲んだ気がした。
少しの沈黙のあと、友達が顔を見合わせ「マジか」って零す。
男同士、気持ち悪いって思われるかな。それとも僕は斗希くんに相応しくないって言われる?
「お前、そういう相手いたのかよ」
「だからどれだけ告られても〝無理〟って断ってたのか」
「え、でもいつから? 絡んでるとこ初めて見るけど」
「1年前」
「は? そんな前なん?」
身構えていたのに普通に会話が続いて拍子抜けする。あっさり受け入れられた。
斗希くんは聞かれた事を淡々と答えてるけど、僕を背中に隠したままだから会話にも入れない。恋人だって言ってくれるならせめて挨拶だけでもしたいんだけどな。
聞いてみようかと斗希くんの袖を引こうとしたら、電車が到着するメロディが流れみんなが列に並び始めた。
「あ」
「斗希! 電車来るから行こ!」
続いて聞こえてアナウンスに反応し手を下ろしたら、それまで黙って見ていたさやかさんが斗希くんの腕を掴んで引っ張ってきた。
斗希くんはすぐに振り払ったけど、さやかさんは負けじとさらに手を伸ばす。
「俺はこっちでいい」
「だったら私もこっちから乗る!」
「何でだよ。お前らは後ろ行け」
「嫌!」
斗希くん相手にも動じずに言い返すさやかさんに感心しながらも、このままだと他の人にも迷惑がかかると思った僕は斗希くんの手をつついて振り向かせる。
せっかく一緒に来たんだから、みんなこっちでもいいと思うんだ。
「みんな斗希くんと行きたいんだよ。みんなで乗ろう?」
「俺は陽依だけといてぇの」
「う、うん、ありがとう。でもほら、もう電車来ちゃうし」
「⋯⋯⋯」
真っ直ぐな言葉に目を瞬きつつも電車を指差したら、斗希くんは不満そうに眉間に皺を寄せた。でも怒ってる訳じゃないんだっていうのは昨日知れたから、そういう顔を見ても不安になったりはしない。
電車がホームに入ってきて、ブレーキ音と共にゆっくりと停止し始める。
斗希くんは溜め息をついたあと僕の肩を抱き寄せ頷いた。
「今日バイトだろ。迎えに行く」
「え? い、いいよ。大丈夫」
「で、晩飯食わせて」
「あ、そういう事なら甘えようかな」
「ん。じゃ、あとでな」
「うん」
斗希くんが降りる駅に着く間際、周りの人に押されないよう盾になってくれてた斗希くんが不意にそう言ってきた。少し驚きつつ首を振ったら理由が付け加えられなるほどと納得する。
電車が止まり、ポンポンと頭を撫でて降りて行く斗希くんに手を振るとふっと笑ってひと振り返してくれた。
僕がずっとしたかった〝恋人らしい〟やり取りだけど⋯これはこれで照れ臭いかも。
ちなみに、さやかさんはずっと怖い顔で僕を見てた⋯気がする。
その日の夜、約束通り迎えに来てくれた斗希くんは何故か学生カバンとボストンバッグを下げてて、僕の家に着くなりそこから制服や部屋着、充電器を出してセットし始めた。さらに洗面具を出したところでようやくそれがお泊まりセットだと分かった僕は、チラリとベッドを見て1人赤面する。
今日もするのかな。嫌じゃないけど、最初は恥ずかしくてどうしたらいいか分からないんだよね。手の位置とか目線とか⋯斗希くんカッコいいから特に悩む。
「陽依、風呂沸いた」
「あ、じゃあ入ってきて。その間にご飯作っておくから」
「⋯⋯分かった」
今の間はなんだろう。
部屋着を手にした斗希くんが、キッチンに立つ僕の頬に口付けてから洗面所に行ったあと、少ししてからシャワーの音が聞こえてきた。
一人暮らしの部屋で、自分以外の人が生活音を立ててる事に不思議な気持ちになる。
たぶんこれからもちょくちょく泊まりには来るんだろうし、いつかはこれが当たり前になったりするのかな。
一緒に暮らすまではいかなくても、僕の日常に斗希くんがいてくれるのは嬉しい。
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