冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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ブレスレット

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「それ、大事にしてくれてんだな」

 寒さを感じるようになったある日の日曜日。
 斗希くんの誕生日をお祝いするデートに行く為の準備をして、仕上げにブレスレットを着けようとしてる僕に斗希くんが不意にそう言ってきた。
 フックを嵌め、ブレスレットを軽く揺すって大きく頷く。

「もちろん。斗希くんが僕にって選んでくれたプレゼントだもん。何よりも大事」

 手首ごとぎゅっと握り、これを貰った時の気持ちを思い出して微笑んでたら斗希くんが傍まできて、ブレスレットが着いてる方の手を握ってきた。
 何だろうって思いつつ見上げたら目が合って、手首の内側を親指で擽られる。

「来年はもっといいもんやる」
「覚えててくれるだけで嬉しいよ」
「恋人の誕生日を覚えてるだけで何もしねぇ奴いるか?    年に一度だぞ?」
「じゃあその日は一緒にいて欲しい」
「あのなぁ⋯」

 絶対物じゃなく斗希くんが傍にいてくれる方が嬉しいのに、斗希くんは呆れたように溜め息をつくと自分の服とネックレスを指差す。それは僕からの誕生日プレゼントで、デートだからって着てくれた服だ。
 斗希くんの好きな服を知ってる店長さんが選んだだけあって凄く似合ってる。

「お前はこうやって用意してくれんだろ?」
「もちろん。斗希くんの誕生日だから」
「で、お前は何もねだんねぇの?」
「斗希くんといたいってねだってるよ?」
「そういうのはねだるもんじゃねぇんだよ。恋人なら当たり前の事だろ」

 誕生日だからって斗希くんを独り占めするの凄く贅沢だと思うんだけど、納得出来ないのか眉根を寄せた斗希くんは僕の頬を軽く抓ると驚くような事を言ってきた。
 今までだったら、絶対に聞けなかった言葉。

「そっか⋯当たり前なんだ⋯」
「なんだよ」
「嬉しいなって。でも、本当に僕は斗希くんが傍にいてくれるだけでいいんだよ。大好きな人に祝って貰えるのって、それだけで幸せな事なんだから」
「⋯⋯欲がなさ過ぎんだよ、お前」

 そんな事ない。恋人って肩書きだけの時よりは絶対我儘になってると思う。
 腕を伸ばして斗希くんに抱き着き、胸元に頬を寄せると少しして斗希くんの手が背中に回ってきた。
 ほら、こんな風に応えてくれるようになったんだからそれで充分なんだよ。
 ムスクの香りを息いっぱいに吸い込んでから身体を離し、斗希くんを見上げて微笑む。

「ありがとう、斗希くん」
「何もしてねぇっつの」

 僕の事を考えてくれただで嬉しいのに。だけどそう返せばまた眉を顰められそうだから、僕はそれ以上は言わずに斗希くんの手を握ると、「行こう」って促して玄関へと向かった。
 今日のデートは、斗希くんに楽しんで貰えるよう僕が頑張る日なんだから。



 朝ゆっくりめに出たから繁華街に着く頃にはお昼前で、お腹空いたって言う斗希くんが選んだ飲食店に入り、昼食を終えて色んなお店が建ち並ぶメインストリートへと足を進める。
 斗希くんの想いを知ってから何度かデートをしてるけど、基本的には行くところは変わってない。でもお店を覗いてあれこれと話せるようになったから、遠出しなくたって楽しいし斗希くんの好みも知れていい事づくめだ。
 手だって繋いで、まさにデートらしいデート。

「陽依はピアス開けねぇの?」
「痛いの苦手で⋯」
「注射とかも?」
「うん。どうしても打たなきゃいけない時は、目を瞑って見ないようにしてる」
「ガキかよ」

 子供の頃からそうだったから素直に頷けば、斗希くんはふっと笑って僕の手を引きアクセサリショップへと足を踏み入れる。
 最近の斗希くんはこんな風に笑ってくれるようになった。
 まだ眉を顰められたりはするけど顔を逸らす事はなくなって、僕が不安にならないようにか苦手なのに言葉にもしてくれる。

「ピアス駄目ならネックレスにするか」
「? 何の話?」
「揃いのもん。結局、節目は祝えてねぇだろ」

 節目って、付き合って1年経った日の事? 確かに過ぎてはいるけど⋯そういうの煩わしいだろうなって思って僕も気にしてなかったのに。
 いつから考えてくれてたんだろう。
 呆然とする僕に気付いてバツが悪そうな顔をした斗希くんは、手を離すと入口の方を指差した。

「俺が選ぶから、お前は外で待ってろ」
「え、でも、それなら半分は⋯」
「うるせぇ。声かけられても無視しろよ」
「⋯⋯はい」

 記念日のお祝いとして選ぶなら折半するべきだと思ったのに、斗希くんの一声に押されて首を竦めた僕は仕方なくお店から出た。
 斗希くんがネックレスを買ってくれるなら、僕は別のにしようかな。
 それとなく何がいいか聞けたらいいんだけど。

「あれ、あんた⋯」
「?」

 お店の柱に寄りかかり斗希くんが出てくるのを待ってたらどこかで聞いた事のある声が聞こえて、顔を上げると斗希くんの友達と驚いた顔をしたさやかさんがいた。
 休みにまで一緒って、この子たち本当に仲良いんだね。

「あ、斗希の彼氏さん。何やってんの?」
「えっと、斗希くんを待ってて⋯」
「そこいんの?」
「うん」
「斗希がこういうとこ入んの珍しー⋯」

 斗希くんが身に着けてるアクセサリーは全部ゴツめなのに、このお店は女の子が喜ぶようなデザインの物がほとんどだからか友達は不思議そうな顔してる。
 たぶん、僕に似合うようにってここを選んでくれたんだと思うけど。

「ってかさ、ちょっと気になってたんだけど、彼氏さんが着けてるブレスレットってあそこのだよな?」
「ああ、斗希の好きなブランドんとこだっけ?」
「あ、やっぱりそうなんだ。もしかしてとは思ってたけど」
「斗希からのプレゼント?」
「うん、誕生日の」
「へぇ、アイツそういうの祝うんだ」

 何となく照れ臭くてブレスレットを弄りながら答えると、2人は意外そうな顔をお互いに見合わせた。
 確かに、普段の斗希くんを見てたら驚くよね。僕もまさか貰えると思ってなかったし。
 もうそろそろ出てくるかなってお店の方を向いたら、突然背中を押されて前に倒れ込んだ。

「!」
「あ!」

 思わぬ衝撃に咄嗟に手をついた僕だけど、何が起こったか分からなくて呆然としてしまう。でも勢いのままに地面にぶつけた膝も手の平もじんじんと痛くて、とりあえず起き上がろうとしたら今度は腕を掴まれた。
 反射的に顔を向けると凄く怒った顔をしたさやかさんがいて強く腕を引かれる。

「ちょ、何やってんだよ、さやか!」
「何で⋯っ⋯何でコイツなの!? 男のくせに!」
「さやか⋯!」
「こんな物まで貰うなんて!」
「⋯っ、待って⋯!」

 細い指が2本、手首とブレスレットの間に差し込まれぐっと引かれる。
 その先に起こる事が予想出来て慌てて止めようとしたけど、それよりも早くさやかさんの手に力が込められてブレスレットが引きちぎられた。
 バラバラになったチェーンが陽の光に反射してキラキラしてる。
 斗希くんが初めてくれたプレゼントは、僕の前で無惨にも飛び散った。
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