冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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独占欲

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 黒髪の女の子が斗希くんの追っ掛けになったと知ってから1週間、学生は冬休みに入った。僕にとっては卒業に向けての最後の準備期間でもある。
 用意していたリクルートスーツはたぶもう必要ないし、鞄や小物と一緒にクローゼットにでもしまっておこうかな。馬子にも衣装感が拭えなかったけど、これを買った事ももはや思い出だ。
 斗希くんなら、ビシッと着こなすんだろうけど。



 朝、洗濯物を干したあと買い物に行こうとしたら、斗希くんも一緒に行くって言うから2人で少し遠めのスーパーへと向かった。
 斗希くんがいるから、多少重いもの買っても大丈夫なのが嬉しい。
 辿り着いたスーパーでカートにカゴを乗せて野菜コーナーを回っていく。

「斗希くん、何食べたいとかある?」
「餃子」
「いいね。一緒に作る?」
「ん」

 キャベツを手に取りながら聞くと、こくりと頷く斗希くんが可愛い。
 最近は斗希くんもキッチンに立ってくれて、僕が起きれなかった日とかにご飯を作ってくれる事もある。
 それが意外と上手で、本当に何でもソツなくこなすなぁって感心したほどだ。
 必要な材料とちょっとしたおやつ、飲み物をカゴに入れ指差しで忘れ物はないか確認してからレジへと行き支払いを済ませてスーパーをあとにする。少なくなった調味料とかも買ったから、斗希くんの左手に下がってる袋はズッシリしてた。
 斗希くん、重いものばかり入れてたから。

「斗希くん、やっぱりちょっとこっち入れる?」
「いい」
「重くない?」
「重くねぇって」

 ビニール袋とエコバッグ、2重にしてるから大丈夫だと思うけど破れたりしないかはちょっと心配。
 っていうか、重くないか聞いたけど、よくよく考えたら僕を軽々抱き上げたりするもんね。僕よりは軽いだろうし、あながち嘘でもないのかも。
 でも、右手にも下げてるせいで手が繋げないのは寂しいな。買う量減らせばよかった。

「陽依」
「?」
「あれ」

 チラチラと斗希くんの手を見てたら名前を呼ばれ、顔を上げると斗希くんは僕を通り越して向こうを見てた。
 不思議に思いつつ後ろを向けば、〝クリスマスマーケット〟と開催期間が書かれたポスターが貼ってあって、どうしてこれを見せたんだろうって目を瞬く。

「行くか」
「え?」
「好きだろ、そういうの」

 サラリと言われ僕は驚いて斗希くんを振り向く。
 確かに好きな物を話した事は何度かあるけど、デートコースになりそうな場所は1度も言ってないのにどうして知ってるの?
 ポカンとする僕にふっと笑った斗希くんが先に歩き出し、僕もあとを追う。

「お前の好み、分かりやすいからな」
「そう?」
「部屋ん中、色とか系統とか揃えてるだろ?」
「色が違ったりすると合わせられなくて⋯」
「陽依らしい、柔らかい色合いで落ち着く」

 夏生くんが着てるようなビビットカラーなんかはその最たるもので、1部だけだとしてもそれだけで他との組み合わせが分からなくなる。
 だから敢えて単色の淡い色をメインにしてるんだけど、斗希くんは気に入ってくれてるらしい。センスがないからとはいえ、それはそれで嬉しいな。


 クリスマスマーケットは、開催期間中は会場内のイルミネーションが煌びやかに点灯するそうだ。クリスマスイブとクリスマスには点々と置かれたツリーにも明かりが灯り、サンタさんがやって来て子供たちにプレゼントをあげるらしい。
 行くならやっぱりそのどっちかの日がいいな。

「⋯悪ぃ、電話」
「うん」

 買い物から帰ったあと、2人でタブレットを使いクリスマスマーケットの事を調べていたら、不意に斗希くんのスマホが震えて僕は口を噤んだ。
 斗希くん、どんな電話でも平然と僕の前で出るから、音を出して邪魔しないよう気を付けるようにしてる。だいたいかかってくるのは友達が多くて、内容は遊びの誘いとか課題手伝ってーとかご飯行こうとかそういうのなんだけど、斗希くんはほぼ「めんどくせぇ」の一言で終わらせたりしてた。
 僕が友達との付き合いも大事だよって言ってからはそれなりに行ってるみたいだけど、それでも断る率の方が断然高い。

「⋯⋯レンタルスペース?」

 出店する飲食店のメニューを見てたら、淡々と話してた斗希くんが怪訝そうな声を上げた。
 レンタルスペースって、パーティとか撮影とかの色んな用途に使える場所を時間で貸してくれるサービスだよね。何かするのかな。

「だから、去年と違うっつったろ? ⋯⋯そんな約束した覚えはねぇ」

 何か⋯揉めてる? 電話の向こうの声は漏れてるくらいだけど、斗希くんの反応的に自分と相手とで何かが食い違ってるのかな。
 首を傾げて見てたら、気付いた斗希くんが「あとで折り返す」って通話を終えた。
 そのまま僕を後ろから抱き込むように座り直し、肩越しにタブレットを覗き込む。

「電話、大丈夫だった?」
「ん」

 斗希くんが大丈夫っていうならきっとそうなんだろう。
 タブレットを操作しつつ、美味しそうなメニューに空腹感を覚えてたら、お腹に回されてた斗希くんの腕の力が強くなった。

「陽依」
「うん?」
「あいつらが、クリスマスパーティ一緒にしてぇっつってる」
「え?」
「俺とお前に、参加して欲しいんだと」

 今斗希くんが言った事、何1つ頭に入って来なかったけど⋯ちょっと時間をかけて噛み砕いた結果「へ?」って情けない声が出た。

「斗希くんだけじゃなくて僕も? 何で?」
「俺が関わらせねぇようにしてるからじゃね?」
「⋯もしかして、あれってわざとだったの?」

 挨拶しようとしてもすぐに斗希くんが間に入ったり、友達が話しかけようとしてくれてるところを遮ったり。そのタイミングは前から不思議に思ってたんだよね。
 首を傾げると斗希くんはニヤリと笑い、耳元に唇を寄せてきた。

「当たり前だろ。俺は、お前が他の奴の視界に入るのも嫌だし、お前の視界に他の奴が入るのも嫌なんだよ」
「え⋯」
「お前を見ていいのは俺だけだで、お前が見ていいのも俺だけだからな」

 男らしく骨張った大きな手に頬が包まれ、端正な顔が近付いてくる。
 自分の知らないところで斗希くんがそんな風に思ってたなんて⋯これって、いわゆる独占欲ってやつだよね。
 目を閉じて唇が重なるのを感じながら、あまり見せない斗希くんの表情に僕の胸は嬉しさでいっぱいになってた。
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